第463話~海底王国を楽しむ その2 交渉成立 観光開始~

 俺たちが出した『グレートライジングフィッシュ』は、職員さん曰く、大物だったらしい。


「これほどの物の買取りとなると私の一存ではできません。上の者を呼んでまいりますので、少しお待ちください」


 そう言うと職員さんは一旦この場を離れ、すぐに別の人を連れて戻って来た。

 そして、その人が俺に声をかけて来る。


「初めまして、ホルスト様。私、商業組合の責任者を務めておりますレオナルドと申します」


 その人はレオナルドさんと言い、とても感じが良さそうな人だった。


「それで、ホルスト様。今回はこの『グレートライジングフィッシュ』をお売りくださるということでよろしいのですか?」

「ええ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。それでは早速鑑定させてもらいます。おい、それでは鑑定を始めてくれ」

「はい」


 レオナルドさんが数人の部下に命令して『グレートライジングフィッシュ』の鑑定が始まる。

 鑑定が終わるまでの間、レオナルドさんと色々と雑談をする。


「へえ、俺たちが捕まえたような大きな『グレートライジングフィッシュ』って珍しいのですか?」

「はい。グレートライジングフィッシュはとても強い魔物なので討伐がとても難しいのです。だから入って来るグレートライジングフィッシュは、子供か成体でもそこまで大きくなっていない個体が多いですね」

「それで、グレートライジングフィッシュは高い個体の方が売れるんですね?」

「はい。大きい個体の方が皮膚や骨、歯の強度が高いですからね。グレートフィッシュの皮膚は雷属性防御の素材に、骨や歯は雷属性攻撃の武器や屋の素材にと需要が大きいのです。そして、特に大きいものが効果が大きいので好まれるのです」

「それで、俺たちが持ってきたグレートライジングフィッシュはどんな感じですか?」

「最上級品ですね。このような巨大なグレートライジングフィッシュは私も見たことがありません」

「そうですか。それは良い値段で買い取っていただけそうで、俺たちとしても嬉しいですね」


 レオナルドさんの話によるとグレートライジングフィッシュが高値でさばけそうな感じなので、これでしばらくは金に困らなさそうだと、俺としては嬉しかった。


 そうやって、俺がレオナルドさんと話している一方で、他のメンバーはグレートライジングフィッシュの鑑定作業を見学していた。

 レオナルドさんが連れてきた作業員さんたちは、グレートライジングフィッシュの解体作業をしつつ、丁寧に査定をしてくれている。

 その様子を見て嫁たちが感嘆の声をあげている。


「うわー、こんなに見ごとにお魚さんをさばくとはすごいですね!」


 どうやら職員さんたちのグレートライジングフィッシュの解体作業が見事で、それに見入っているみたいだ。

 まあ、嫁さんたちあまり魚料理を作らないからな。

 ここで魚の解体方法でも見学して、自分たちの料理にでも活かすつもりなのかもしれなかった。


「ふむ。この者たちの巨大魚の解体技術。下界の人間にしては見事なものだな」

「銀姉ちゃん。お魚さんがきれいにバラバラにされて行くよ。すごいね」

「うん。すごいね。銀も将来はホルスターちゃんのためにああいう風に長中さんをさばいて食べさせてあげるね」


 嫁さんたち以外も職員さんたちの手際の良さを見て感心しているようで、興味深そうに見物している。

 特にセイレーンの食いつきがよく。


「これが昔小説で読んだ魔物の素材売却!まさか実物をこの目で見られるなんて思っていなかった」


 と、妙に俺たちが魔物の素材を売るのを見て興奮している。

 後で聞いた話によると。


「前に小説の中にこうやって魔物の素材を売却するシーンがあってね、一度見てみたいと思っていたの」


 ということらしかった。

 どうやら以前読んだ小説にそう言った場面があって、そういうシーンを一度見てみたいと思っていたようだ。


 しかも、セイレーンの望みはそれだけでなく。


「ねえ、ホルスト君。次に素材や商品の売却をするときは私にやらせて」


 そうやってお願いしてくる始末だった。

 セイレーンのお願いを俺が断われるわけがなく。


「いいですね。次に商品を売却する時にはお任せします」

「本当?ありがとう」


 俺にオッケーの返事をもらったセイレーンはそうやって喜んでいたが、この時の俺は知らなかった。

 この俺の発言のせいで、のちに面倒なことになることを。


★★★


 結局、グレートライジングフィッシュは金貨八十枚で売れた。


「それではこちらが代金の金貨八十枚になります。また何かお売りになりたいものがありましたら、またお越しください」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


 お金を受け取った俺たちはレオナルドさんにお礼を言うと、商業組合を出た。


★★★


 商業組合でお金をゲットすることに成功した俺たちは町へと出かけた。

 最初に出掛けたのはレオナルドさんに教えてもらったトリトンの町で月一で開催されているという音楽祭だった。


 音楽祭と言っても俺たちの歓迎式典の時のように海底王国舞踏団のような公共の楽団が主催するものではなく、一般人が集まった小規模な楽団が一組一曲ずつ演奏するといった形式のものらしかった。


 色々な人たちが集まって来るので演奏の腕はピンキリだそうだが、多種多様な種類の曲を聞くことができるらしいので市民には好評なようだ。

 それに中には元海底王国舞踏団の人が主催する楽団もあったりするようで、時には素晴らしい演奏を格安で、当該音楽祭の入場料はとても安いらしい、聞くことができるということだ。


 商業組合で聞いてきた通りに会場へ行くと、すでに会場は人で賑わっていた。


「すごい数の人ですね。あ、ホルストさん、屋台も出ていますよ」


 食い物に関してはとても目ざといヴィクトリアが会場に屋台が並んでいるのを見つける。

 屋台ではクレープやアイスなどのお菓子やジュース。大人向けにエールや果実酒などのお酒におつまみのソーセージなどが売られていた。


 観客はそれらの屋台で食べ物や飲み物を買い、それらを食べながら椅子に座ったり花壇の側に座り込んだり、あるいは立ったままで音楽を楽しんでいた。

 結構緩い感じの音楽祭のようで、みんな自分たちのスタイルで思い思いに音楽を楽しんでいるようだ。

 それを確認すると、皆に倣ならって行動することにする。


 まずはヴィクトリアが会場の空いている所に長椅子を出し、座る場所を確保することにする。

 ここにはそもそも観客のための椅子というものはなく、椅子に座っている人は全員持ち込みみたいなので俺たちもそうさせてもらう。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアに指示して椅子を出して全員がそこに座る。

 そして、その後、屋台に買い出しに行く。


「ソーセージを十五人前とエールを七人前下さい」

「イチゴとチョコのクレープをそれぞれ十人分。後、アップルジュースを二人前ください」


 そうやって大量に屋台で買い込んだ後、席に持って帰る。

 人数に比して量が多い気がするが、うちにはたくさん食べるのがいるからな。

 むしろこの量で足りるのかが心配なくらいなので、これでよいと思う。


 さて、そんな感じで音楽を聞く準備が整ったのでじっくりと音楽を聞くことにする。

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