第462話~海底王国を楽しむ その1 軍資金稼ぎ~

 歓迎式典の翌日。


 俺たちは迎賓館でのんびりとしていた。

 朝ゆっくりと起きてきて、迎賓館のテラス席から海中に太陽の光が差し込んで来る様子を楽しみながらのんびりと食事をした。


 食事はパンと魚介類のスープに海藻サラダだった。

 どれもおいしかったが、特に魚介類のスープが絶品だった。

 魚の出汁が出ていることに加えて、香辛料の具合がちょうどよく、具も魚に野菜にとたくさん入っていて、何杯飲んでも飽きない味だった。


 特にヴィクトリアと銀が気に入ったらしく。


「すみません。スープのおかわりください!」

「銀もスープのおかわり、欲しいです」


 と、二人で先ほどから何杯もおかわりを頼んでは飲んでいた。


 二人ともちょっと飲み過ぎではないかと思うが、まあ別にいいか。

 何せここは海底世界。

 俺たちのとっては未知の世界だ。

 その未知の世界に対して備えるためにも、お腹を満たしておくのは悪いことではないのだから。


★★★


 朝食を食べた後は少しゆっくりと過ごした。

 嫁たちは四人仲良く庭に置かれたソファーに横たわって日光浴を楽しんでいた。


「海底の国の太陽の光は、地上のと違って夏でもそんなにまぶしくないからいいですね」

「本当、この位の光なら日焼けとかも気にせずにすんでちょうどいいですね」


 そんなことを言いながらのんびりと横になっている。

 いつの間に頼んでおいたのか、迎賓館の人に手配してもらったマッサージ師に体をほぐしてももらったりもしている。

 それがとても気持ち良いのか、全員がトローンとした顔でとても幸せそうだった。


 嫁たちが幸せなら俺も幸せなので、一安心といった感じだ。


 その一方で、俺はホルスターや銀と一緒にパトリックに乗って庭をグルグルしていた。


「パパ、久しぶりにパトリックに乗りたいな」

「銀も乗りたいです」


 今回パトリックは連れて来ていなかったのだが、二人がそうせがんで来るものだから魔法で連れて来たのだった。

 ちゃんと馬装を整えた上で、順番に二人を乗せ、俺が口取り役になって庭を散歩させている。

 久しぶりに馬に乗れて嬉しいのか、二人ともとてもニコニコ顔で楽しそうに乗っている。


 庭をパトリックに乗って歩いていると、太陽が差し込んできた。

 嫁さんたちが言うようにそんなにまぶしい光ではなく、良い感じに暖かくて、のんびりと過ごせたのでとても良かったと思う。


★★★


 そんな感じでみんなで楽しんでいたのだが、昼飯を食べた後、この状況に不満を漏らす者が現れた。


「う~ん。豪華な家の中でのんびりと過ごすのも悪くないけど、私としては外へ出て観光や買い物でもしたいわね」


 それは誰あろうセイレーンだった。

 セイレーンも嫁たちと一緒に日光浴をしていたはずなのだが、どうやらずっとそうしているのに飽きたらしく、外へ出かけようと言い出したのだった。


「ねえ、皆でどこかへ行きましょう。ソルセルリお姉ちゃんもルーナ叔母様もホルスト君たちに買い物に連れて行ってもらったって自慢していたし」

「え?セイレーン様、外へ出かけるのですか?」


 そして、この提案に嫁たちも乗って来て。


「是非、町へ出かけましょう」


 と、嫁たちまで言い出したのだった。

 こうなっては俺に拒否権はない。


「よし!それじゃあトリトンの町へ買い物に行くとしようか」


 こうして俺たちは迎賓館を出て町へ出かけたのであった。


★★★


 さて、町へ出かけた俺たちだが買い物をするためにまず資金稼ぎに出掛けることにする。

 一応海底王からいくばくかのお金はもらっているのだが、それだけでは心もとないからな。

 ここは何か商品売却でもしておいて軍資金を確保しておこうと思う。


 そう考えた俺たちは、迎賓館の人に聞いた商業組合に行くことにした。

 商業組合は地上世界の商業ギルドと似たような組織だが、地上世界のそれとはまったくの別物である。


 まあ、当たり前だ。


 地上世界と海底王国にはほとんど交流が無いのだから、地上と全く同じ組織が海底にあるわけがない。

 その代わり海底世界にも地上の冒険者ギルドや商業ギルドに該当する組織があり、商業組合は地上の商業ギルドに該当する組織という訳だった。


 そんなわけで商業組合で商品を買い取ってもらってお金を稼ぐことにする。

 商業組合の受付に良き、職員のお姉さんに買取を依頼する。


「こんにちは。僕はホルストと申します。今日は商品を買い取ってもらいたくて来たのですが」

「いらっしゃいませ。……あら、あなた様は先日闘技場でご活躍なされた『セイレーン様の戦士』様、御一行様ですか?」

「そうだけど、あなたは俺たちのことをご存じなのですか?」

「はい、存じ上げております。私も試合を見に行きましたので。とてもすごい試合で、見ていて興奮してしまいました」

「そうですか。そう言ってもらえると、とてもうれしいです。……ところで、買取りはどうすればよろしいですか」

「ああ、そうでしたね。それで何をお売りいただけるのでしょうか?」

「魔物の素材なんですけど、ちょっと大きいのでここで出すのは無理そうなので、どこか適当な場所は無いですかね」

「それでしたら、倉庫にご案内しますね」


 相談の結果、場所を移動して交渉することになったので倉庫に行く。

 倉庫に行くなり俺はヴィクトリアに指示を出して商品を取り出す。


「ヴィクトリア。例のブツを出してくれ」

「ラジャーです」


 俺がそうやってヴィクトリアに出させたのは。


「もしかしてこれは『グレートライジングフィッシュ』では?しかも、こんな大物私初めて見ました」


 ヴィクトリアが出した商品を見て、職員さんが非常に驚いた顔をする。

 そう。俺たちが出した商品。

 それは俺たちがここへ来る途中に狩った『グレートライジングフィッシュ』だった。

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