第461話~俺たちの歓迎式 人魚の舞のお返しに~

 エキシビジョンマッチが終わった翌日、俺たちの歓迎式典が開かれることになった。

 場所は王宮の大広間で海底王を始め、王都トリトンに住んでいる貴族や役人たちが集合して歓迎してくれるらしかった。


 ということで、嫁たちが張り切っている。

 朝っぱらから長風呂に入って、体をきれいにして準備を怠らない。


「皆さん、今日は私たちの歓迎会が王宮で開かれるそうです。王国の偉い人も集まってくるみたいですし、恥ずかしい格好で行ったら旦那様に恥をかかせることになります。ということで、頑張って体を磨きますよ」

「「「「は~い」」」」


 エリカが音頭を取って、嫁たちが銀まで迎賓館の大浴場に連れ込んで一生懸命自分磨きをしている。

 まあ、嫁たちはこういう公式なイベントがあると、途端に張り切りだすからな。

 いつものことだ。

 俺も嫁たちがキレイになるのは嬉しいので、文句はない。


 嫁たちが出てくるまではホルスターの相手でもして遊んでおくことにする。


「ほーら、ホルスター。パパと鬼ごっこでもするか?」

「うん」


 と、こんな感じで時間まで暇をつぶすことにする。

 ちなみにセイレーンとヴィクトリアのおじいさんは何をしているかと言うと。


「私は少し馬に乗って町の中を散策してくる」


 ヴィクトリアのおじいさんは乗馬が趣味らしく、自分の愛馬を召喚すると町へ散歩に出かけてしまった。


「ヴィクトリアたち、面白いことをしているわね。私も混ぜてもらおう、っと」


 セイレーンはヴィクトリアたちがお風呂で自分磨きをしているのが気になったらしく、自分も混ぜてもらうべく風呂に突撃して行ったのだった。


 こうやって俺たちは式典が始まるまで、思い思いの時間を過ごしたのであった。


★★★


 さて、時間になったので歓迎式典へと出かける。

 歓迎式典は先述の通り王宮の大広間で行われるので、係の役人に案内されてそこへと向かう。


 会場にはすでに海底王国の貴族たちを始め招待客たちが集まっており、それらの人々が賑やかに話していた。


 俺たちが会場へ入ると、それらの人々が声をかけて来る。


「初めまして。セイレーン様の戦士様。私はプサマテ伯爵と申します。よろしくお願いします」

「セイレーン様の戦士様。お見事な試合でした」


 そんな話を次々にされた。

 俺たちはこういう状況には割と慣れているので。


「初めまして。伯爵。ホルストと申します。よろしくお願いします」

「お褒めいただきありがとうございます」


 そうやって無難に返事を返しておいた。


 そうこうしているうちに海底王が会場に現れ、挨拶を始める。

 会場にいる者すべてが海底王に注目し、その話を聞き始める。


「セイレーンの戦士たちよ。よくぞ参られた。今宵はそなたたちのためにささやかながら歓迎の宴を開かせてもらった。是非とも楽しんで行って欲しい」


 海底王の挨拶はそんな風にとても短いものだったので、終わるなりすぐに宴が始まる。


 宴はビュッフェ形式で、招待客たちは自由に飲み食いしている。

 王国中から偉い人たちが集まっているだけあって、会場に海の幸をふんだんに使った豪華な料理が並んでいた。


 それらに早速ヴィクトリアが目をつけている。


「うわー、サザエのつぼ焼きに、ホタテのバター焼きなんかもありますね。こういうのって、お酒と一緒に食べたらとてもおいしいんですよね。ということで、エリカさん、これらをおつまみにして一緒にお酒を飲みながら食べましょうよ」

「いいですね。食べましょう」


 と、エリカを誘って一緒に飲み始めたのであった。

 二人を見て羨ましかったのか、リネットとネイア、さらにはセイレーンまでが二人に合流して一緒に飲み始めたのだった。


 というか、セイレーンは今日の朝嫁たちと一緒に風呂で遊んだことで、すっかり嫁たちとなじんでしまったようだ。

 迎賓館を出る時も、


「あんたたち、中々かわいい服やアクセサリーを持っているわね」


と、嫁たちから服やアクセサリーを借りて着飾っていたし、今も。


「あら、エリカちゃんは聞いていた通りとてもお酒が強いのね。すごいわあ」


 そう言いながら、エリカに負けない酒豪ぶりとヴィクトリアに劣らない大食漢ぶりを発揮して盛大に飲み食いしているしね。

 嫁たちの側では銀がホルスターの世話を焼いている。


「ホルスターちゃん、銀姉ちゃんがエビグラタンを食べさせてあげるね」

「うん、ありがとう。今度は僕が食べさせてあげるよ」

「ありがとう」


 と、中々のラブラブっぷりだ。この分だと、俺とエリカに初孫の顔を見せてくれそうなのはこの二人になると思うので、俺は二人のことを応援している。


 招待客たちは初めの内こそ俺たちに話しかけてきていたが、それが終わると偉い人同士、仲の良い人同士で適当に話し始めている。こういう式典は仲の良い人同士で絆を深めるのにちょうどよい場所なので、そうしているのだと思う。

 前にホルスターの誕生会の時には俺たちに話しかける人が絶えず苦労したものだが、今回は場所が海底王国ということで俺と利害関係が少なく、そういう事にならなかったので助かったと思った。


 ということで、余った俺はヴィクトリアのおじいさんと二人で飲むことになってしまった。

 ワインを開けながら二人で飲む。


 最初の内は話すことが見つからなくて、何も話さずに飲み食いを続けていたのだがそのうちにおじいさんの方か俺に聞いてきた。


「お前、ヴィクトリアのことをちゃんと大切にしているのか?」

「もちろんです。他の嫁たちと同様、自分ではこれ以上ないくらいに大切にしていますよ。ヴィクトリアも他の嫁たちも、俺のことを大切に思ってくれていて仲良くやれています」

「ちょっと質問の趣旨からずれているようだが、まあ一応は大事にしてくれてはいるようだな。その点は感謝しよう。だが、だからと言ってお前たちの仲を認めるわけではないからな。私に認めてほしかったら、きちんと試練は突破しろよ」


 こんな感じで主にヴィクトリアのことについて話したのだった。

 俺的には話しにくく感じたが、一生懸命話しておいたので、それをきっかけに少しでもおじいさんに認めてもらえるようになればいいなと思っている。


★★★


 そうやってのんびりと過ごしているうちに、本日のメインイベントが始まった。


「ただ今より、海底王国舞踏団によります『マーメイドカーニバル』を始めます」


 そう司会の人が案内すると、会場中の注目が会場の端にある水槽に集まる。

 この水槽には海水が引き込まれていて、今からここで海底王国の舞踏団による『マーメイドカーニバル』という名の伝統芸が始まるようだった。


 武道団の人たちは水槽の上に立ち、会場の人たちに手を振って挨拶すると、次々に水槽に飛び込んでいく。


 水槽の中に入るなり舞踏団の人たちの姿が変化する。

 男性の劇団員は魚人の姿に、女性の劇団員は人魚の姿になる。


 そして、皆に踊りと音楽を披露してくれる。

 もうちょっと具体的に言うと、魚人たちが後ろの方で海中でも音が伝わるという特殊な楽器を奏で、それをバックに人魚たちが踊るという格好だった。


 それで、肝心の人魚たちの舞なのだが、それはそれは見事なものだった。

 人魚たちが手を繋いで泳いできて、正面に来たらいきなり手を離して、グルグルッと回転したかと思えばまた手を繋いで今度は一緒に回転したりと、水の中であることを利用した激しいながらも優雅な踊りはとても素晴らしいものだった。


「噂に聞く人魚の舞を見るのは初めてですが、これは素晴らしいですね」

「うん、最高だね」

「本で何度も読みましたが、本当にきれいですね。銀ちゃんとホルスター君もそう思うでしょ」

「はい、ヴィクトリア様。絵本通りの人魚さんの踊りが見られてとてもうれしいです」

「うん、僕もすごいと思うよ」


 そんな風に家族全員大満足だった。

 特に自分も踊り子であるネイアなど。


「ここはこの踊りのお礼に私も踊らなければならないですね」


 そう言い出す始末だった。

 そして、それは本当に実行された。


 人魚たちの舞が終了した後。


「え~、皆様。セイレーン様の戦士様御一行のお一人であるネイア様が、エルフに伝わるという女神ルーナ様とソルセルリ様に捧げるという『月の踊り』を踊っていただけるということになりましたので、お楽しみください」


 司会のそんな紹介とともにネイアの踊りが始まる。

 伴奏はエリカで、得意のバイオリンで音楽を奏でるらしい。

 久しぶりに見るネイアの踊りはとても良かった。

 ゆっくりな動作だが優雅な月の踊りは見ていてとても華やかだった。

 海底王国の人たちもネイアの踊りを気に入ってくれたようで。


「ほほう。これは素晴らしい」

「地上にもこんな素敵な踊りがあるのか」


 と、目を輝かせながら感動してくれたようだった。

 特に海底王は非常に褒めてくれて。


「ホルストよ。そなたの仲間の踊り見事であったぞ。ささやかながら褒美を取らそう」


 と、踊りをしたネイアと伴奏をしたエリカ、その他うちの女性陣にサンゴの髪飾りをご褒美にくれたのだった。


「ありがとうございます」


 うちの女性陣は海底王のご褒美に非常に満足したようで、口々に海底王にお礼を言うのだった。


 こんな感じで、俺たちの歓迎式典はとても良い雰囲気のうちに終わるのだった。

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