第458話~エキシビジョンマッチ第三試合 ホルスト対海底王国近衛師団長~

 シャチとホエールがあっさりとエリカたちに負けたのを見て、ヒッポカンプ公爵が慌てふためいている。


「一体どうなっているのだ!シャチとホエールがああもあっさりと負けるなんて!奴らは一体何者なのだ!」


 一人そんなことを呟きながら、全身から汗を垂れ流し、顔を真っ赤にして動揺していた。

 そんな公爵に海底王が声をかける。


「公爵。彼らはとても強いではないか。我が国の精鋭たちがまるで歯が立つ様子がない。やはり彼らは海の主様に認められてここへやって来たので、間違いないのではないか?」

「いや、王よ。何をおっしゃるのですか。まだ奴らは二人に勝っただけです。我らにはまだ王国最強の戦士、近衛師団長シャークが残っております。シャークなら奴らの化けの皮を剥いでくれるはずです」


 ただ、海底王に下問されても、公爵は強がりを言うだけで決して自らの非を認めようとはしなかった。


 ということで、戦いは第三試合へと続くのであった。


★★★


 さて、リネットとエリカの試合が終わったので次は俺の番だ。


「それじゃあ、二人とも行ってくるよ」

「旦那様、お気をつけて」

「ホルスト君、頑張って」


 エリカとリネットの二人に見送られて、俺は控え室から出る。

 すると、すでに試合会場には俺の対戦相手が待ち構えていた。


★★★


 例のごとく、試合はお互いの名乗り合いから始まった。


「俺の名はホルスト。Sランク冒険者チーム『竜を超える者』のリーダーだ。よろしく頼む」

「我が名は海底王国近衛師団長シャーク。善き勝負をできる事を願う」


 そうやって名乗りが終わるなり試合開始だ。


「始め!」


 審判のその言葉とともに、俺とシャーク、両者が同時に動き始める。


★★★


 こいつ、近衛師団長と言うだけあって中々の腕だな。

 それが俺が最初にシャークと剣を交えた感想だった。


 シャークは海底王国最強と称するだけあって、かなり手ごわい相手だった。

 動きは素早いし、剣の動きも教科書に載っているように正確無比だった。

 俺の動きにもしっかりとついて来ているし、俺が少しでも隙を見せると容赦なくそこを突いてくる。


 多分、以前戦った剣聖よりは強いと思う。


 そう考えると俺はワクワクしてきた。

 人間でここまで強いのに出会ったのは久しぶりだからだ。

 この戦いをしばらく続けていたい。


 そう思った俺は、必殺技など使わず、純粋に武芸の腕だけで戦おうと思うのだった。


★★★


 そうやって俺とシャークが剣戟による攻防を続けていると、会場から観衆たちの歓声が聞こえてくる。


「あの地上人すげえ!まさかあのシャーク師団長と互角だなんて!」

「いいぞー!もっとやれ!」


 そんな風に俺とシャークの戦いを見てとても楽しんでくれいるようだった。


 その感想を聞いた俺は妙にうれしくなり、一瞬だけ隙ができてしまった。

 ジャスティス辺りが聞いたら、「油断大敵である!」とか激怒しそうだが、俺だって人間だ。

 感情の起伏でついやらかしてしまうこともあるのだ。


 そして、その隙をシャークが突いてきた。


★★★


「隙あり!『海爆斬』」


 そうやって俺の顔目掛けて斬撃を繰り出してきた。

 かなり鋭い攻撃だったが、俺は何とか剣を前に出し、攻撃を防ぐことに成功する。


 だが、成功はしたもののその攻撃は普通の斬撃ではなく、何と生命エネルギーがこもった攻撃だった。

 おかげで通常攻撃よりも威力が高く、俺は思わず後ろへ飛ばされてしまった。


 まさかシャークが生命エネルギのコントロールまでできるとは予想外だったので、完全に不意を突かれた格好だった。


 シャークはそこにさらに追撃を加えて来る。


「しゃあああああ」


 生命エネルギーを乗せた強力な剣戟の連続攻撃を放ってくる。

 不利な体勢からの敵の攻撃への対処に俺は苦慮する。


「ぐっ」


 俺も急遽生命エネルギーを剣に込めて防御を開始するが、攻撃を受けるだけで中々反撃できない。

 徐々に徐々にと後方へ追い詰められていく。


 あと一歩でリングの外へというところまで追いつめられた時、シャークが必殺技でとどめを刺しに来た。


「『海神流 一刀両断』」


 大上段からの強力な一撃を放ってきたのだ。


 このままではやられる!


 そう思った俺は逆転の一手を放つことにする。


 というか、追い詰められる中、俺は相手がとどめを刺しに来る瞬間を狙っていた。

 相手がとどめを刺しに来る時こそ逆に勝負を決めに行くチャンスだからだ。


「ふん!」


 俺は思い切って前に向かって転んでいく。

 既に大上段からの攻撃を介していたシャークは俺のその動きに対応できない。


「何!」


 そうやって一周驚き、足の動きが泊まる。

 俺はそこを突いて行く。


「いやああ」


 俺は前へ倒れながらシャークの足に一撃を加える。

 一瞬棒立ち状態になっていたシャークは足を痛打されて、完全に体勢を崩してしまい思い切りひっくり返りそうになる。


 そこで、俺はシャークの腕をつかんで思い切り投げ飛ばしてやる。


「うおー」


 俺に投げられたシャークは思い切り吹き飛ぶ。


 しかし、そこは海底王国随一の武芸者。

 空中で体勢を立て直すと、上手い具合に着地する。


 ただ、着地はできたがシャークは隙だらけだった。

 俺はそこを狙っていく。


「はああああ」


 力いっぱい踏み込んでいき、思い切りシャークの剣を強打する。


「うぐ」


 俺の強烈な攻撃を受けたシャークはこの一撃を耐えきることができず、シャークが持っていた剣を手放す。

 カラーンと乾いた音を立てて、シャークの剣は地面を転がって行き、リングの外まで行ってしまった。


 完全に無防備になってしまったシャークに剣を突き立て、俺は言う。


「どうする?まだやるかい?」

「いや、剣を失ってはもはやお前には勝てまい。降参する」


 俺に剣を吹き飛ばされたシャークはあっさりと降参した。

 見た目武人らしい人物だけに、ここまで目に見える形で負けてしまってから見苦しい言い訳をしないようだった。


 俺の勝利を受けて会場が一斉に盛り上がる。


「うわあああーーー。あの地上人、シャーク師団長に勝ちやがったぞ!」

「すげええええ」


 そんな感じで会場中の称賛が俺に向いてくる。


 それに俺は手を振って応えてやる。

 すると観衆はますます熱狂し、しばらくの間称賛の嵐が止まなかったのだった。


 それを聞いていると俺はこの試合に勝てたのだなと実感するのだった。


★★★


 しかし、本当に手ごわい相手だった。

 油断してしまったとはいえ、この俺を追い込んで来るとは中々の相手だった。


 やはり戦いの最中に感情を乱して隙を見せるのは良くないことだ。

 他の者には散々そう言っているのに、自分でやらかしてしまうとは恥ずかしい。


 まあ、いい。今日のことを反省して、次から感情のコントロールをきちんとすればいいだけの話だからな。


 そう思い、俺は今日のことを反省し、また一段高みを目指そうと誓うのだった。


★★★


 さて、シャークに勝った後、俺は再び海底王と謁見した。


 海底王の前まで進み出ると、そこで膝をつく。

 膝をついた俺を見て、海底王が声をかけて来る。


「ホルストよ。我が海底王国の精鋭を撃破するとは見事であった。さすがは海の主様、いや、海の主様が認めたということはセイレーン様も認めているということなのだろう。さすがはセイレーン様が認めた戦士たちである。約束通り、そなたたちの我が国への滞在を認めよう」

「ありがとうございます」


 海底王はそうやって俺たちの滞在を認めてくれたのだった。


 ようやくか。


 俺がホッとしたのも束の間。この状況に水を差してきた奴がいた。


「こんな試合インチキだ!海底王、この地上人たちの我が国への滞在など、決して認めてはいけませんぞ」


 もちろん、文句をつけてきたのはヒッポカンプ公爵だった。


 当然俺はこの発言にムッとした。

 今戦ったシャークは潔く負けを認めて漢らしい所を見せたのに、こいつはまだ俺たちにいちゃもんをつけて来る。

 本当性根の腐った奴だと思う。


 こいつどうしてくれようか。


 俺はそう思いながら、こいつをどう懲らしめてやろうかと考えるのであった。

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