第457話~エキシビジョンマッチ第二試合 エリカ対海底王国筆頭宮廷魔導士~

「わー、わー」


 エキシビジョン第一試合が終わった後、会場は沸きに沸いた。

 まあ、会場の人々の予想とは裏腹にリネットが勝ってしまったし、戦い自体も激しくて熱いものだったから、会場は興奮しっぱなしだった。


「リネット、最高!」

「リネット、カッコいい!」


 会場中からリネットに対してそんなエールが送られている。


「みんな、応援ありがとう」


 リネットもそんな観衆に手を振って応えている。

 小さい体のリネットが一生懸命手を振っている様子はとてもかわいらしく、旦那の俺が見てもとてもドキドキするのだった。


 さて、そんな第一試合の興奮が冷めやらぬ会場だが、そろそろ第二試合が始まる時間になった。

 審判が第二試合の始まりを予告する。


「それではそろそろ第二試合を始めたいと思います。出場選手は準備をしてください」


★★★


 第二試合が始まりそうになったのでリネットが控室に帰って来た。

 俺とエリカは帰ってきたリネットを温かく出迎えてやる。


「リネット、やったな。素晴らしい試合だったぞ」

「リネットさん、頑張りましたね。良かったですよ」


 俺たちに褒められたリネットは、照れくさそうに笑いながらこう返事するのだった。


「いやあ、そんなことはないよ。それよりも次はエリカちゃんの番だね。頑張ってね」

「ええ、もちろんです。それでは二人とも行ってきますね」


 俺とリネットに応援のメッセージを送られたエリカは、そう言うと席を立ち、試合会場に向かうのだった。


★★★


 第二試合も両者の名乗り合いから始まった。


「我が名はエリカ。地上世界ではSランクの冒険者で魔法使いをやっております。お手柔らかにどうぞ」

「私の名はホエール。海底王国筆頭宮廷魔導士である。よろしく頼む」


 どうやらエリカの対戦相手はホエールという名で、筆頭宮廷魔導士であるらしかった。

 ということは、一応この国で一番の魔法使いだということなのだろう。


 実際、ホエールは黒のローブに魔道具らしいペンダントや指輪などの装飾品をたくさん身に着けていてできる魔法使いらしい雰囲気を醸し出している。


 さて、ホエールの説明はこの位にして、いざ試合である。


 今回の魔法使い同士の試合では、試合の前にデモンストレーションが行われるらしかった。

 会場に的を設置して、そこに対して魔法を発射して、いかに速く的を撃破できるかというパフォーマンスだ。


 まず最初にパフォーマンスを行ったのはホエールだった。


「『火矢』」


 会場に設置された十の的に対して次々に魔法を放って行く。


「これで、最後だ!」


 そう言いながら、ホエールが最後の的を破壊するまでにかかった時間はおよそ一分。

 中々の速さだと思う。


「筆頭宮廷魔導士。すげ~!」


 少なくとも観衆からそんな歓声が上がるくらいの早業ではあった。


 そんな興奮冷めやらぬ雰囲気の中次はエリカの番である。

 エリカは、ホエール同様に、的の前に立つ。


 それを見て、エリカもすぐにでも魔法を使うのかなと思っていると、エリカは突然こんなことを言い始めた。


「ふむ。的が少なすぎてつまらないですね。それに前の人と同じことをするのも面白みに欠けますから、こうしましょうか。『石槍』」


 エリカは言い終わると同時に『石槍』の魔法を発動する。

 すると天から百ほどの石の槍が降り注ぎ、元々の的の周囲に突き刺さり、新たに百の的が追加されることになった。


 その的全てに対して、エリカは魔法を放つ。


「『風刃』」


 その一言で、無数の真空の刃が出現し、一斉に的を攻撃する。

 バヒュッと、百を超える魔法が同時に命中する音が会場中に響き渡り、すべての的が破壊される。


 その間およそ三十秒。

 あっという間の出来事に一瞬会場が静まり返るが、それも束の間、すぐに会場中が大歓声に包まれる。


「すげええ」

「あんなにたくさんの魔法を同時に放てるなんて、信じられない!」


 そうやって人々が盛んにエリカの偉業を褒めたたえている。

 まあ、それはそうだろう。誰がどう見てもホエールよりすごいことをやってのけているからな。

 観客のこの反応は当然だと思う。


 さて、こんな感じで盛況のうちにデモンストレーションは終わり、いよいよエリカとホエールの決戦である。


★★★


「ふふふ。あれだけの数の魔法を一度に放つとは、かなりやるようだな。だが、魔法は数を放てば一発一発の威力が落ちるはず。あのような一斉攻撃は私には通じないぞ」

「そうですね。肝に銘じておきます。それではそろそろ始めましょうか。審判さんお願いします」

「うむ。それでは試合開始!」


 試合開始前、最後にエリカとホエールが言葉を交わしてから試合開始だ。


 試合のルールは簡単だ。

 エリカとホエール。それぞれの右肩には海竜の紋章が刻まれた徽章きしょうが取り付けられている。

 それを先に破壊した方の勝ちだった。


 その破壊を目指して早速魔法合戦が始まる。


「行きますよ。『火矢』」

「何の『水刃』」

「これでも食らえ!『風刃』」

「そんなのは私には通じませんよ!『石槍』」


 エリカとホエール、それぞれが魔法を放ち、それらがぶつかり合い激しい衝撃波が会場中に響き渡る。


 これらの戦いは一見互角のように見えるが、徐々にエリカの方が押していた。

 まあ、エリカの方が明らかにレベルが上だからな、これは当然の帰結だった。


「お、おのれ」


 エリカに打ち負かされつつある状況の中、ホエールの顔に焦りの色が見えてくる。

 しかし、焦ったところで状況は変わらず、ホエールの方は徐々にエリカに対応できなくなって行っている。


 と、ここでホエールが一気に方針を転換する。


「『魔法障壁』」


 攻撃するのを止めると、そうやって魔法のバリアの殻に閉じこもってしまったのだ。

 ホエールの『魔法障壁』はそれなりで、エリカの魔法をパンパンと軽く弾いてしまった。


 多分、こうしておけばエリカの攻撃を防げて、最悪制限時間まで粘れば引き分けにでも持ち込めるのだとでも思っているのだと思う。


 筆頭宮廷魔導士という割には情けない作戦だ。

 男なら正々堂々と戦って負けろよと思うが、まあ筆頭宮廷魔導士ともなると、一般人の魔法使いに負けるというのはプライドが許さないのだろう。


 とはいえ、こんなちゃちな作戦がエリカに通じるわけがなく。


「せこい作戦ですね。でも私にはその程度の『魔法障壁』などないも同然です。『極大化 風刃』」


 そうやってエリカが極大化された『風刃』の魔法を放つと。


「な、何?」


 パリンと、エリカの魔法がホエールの魔法障壁をあっさりと貫通し、ザシュッとホエールの肩の徽章を切り刻んだのだった。


 これにて勝負あり!


「バ、バカな!この私があのような小娘にあっさりと負けるなんて……」


 勝負に敗れたホエールは肩を落とし、その場に座り込んで呆然としている。

 一方で勝った方のエリカは。


「エリカ、最高!」

「エリカ、素敵!結婚してくれ!」


 そんな歓声を観客から受けている。

 それに対してエリカも笑顔で手を振って愛想よく応えている。


「みんな、ありがとうね」


 そうやってエリカが一言をお礼を言っただけでワーと大歓声が巻き上がるような騒ぎだった。


 俺も自分の嫁がここまで褒められているのを見るのは見ていてとてもうれしかった。


 ただ、エリカはあくまで俺のだからな。

 誰が「結婚してくれ」何て言ったのかは知らないが、絶対に渡さないからな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る