第456話~エキシビジョンマッチ第一試合 リネット対近衛副師団長~

 いよいよエキシビジョンマッチ当日となった。

 試合は午前中に開始なので早めに起きて準備する。


「ラララー。今日のワタクシの担当はスクランブルエッグとソーセージ。パパッと焼いておいしく食べましょう」

「銀ちゃんはそっちのニンジンとお肉を切ってね。私はジャガイモを切りながらお湯を沸かすから。材料が切れたら、お湯に入れてスープにしましょうね」

「はい、ネイア様」


 朝食は試合のないうちの女性陣が作ってくれている。

 皆慣れたもので、手際よくパパッと作っている。


 え?セイレーンは手伝わないのかって?

 シー!それは禁句だ。

 実はセイレーンって料理や家事が壊滅的らしかった。


 というのも、お父さんつまりはヴィクトリアのおじいさんに超甘やかされて育ったため、超箱入り娘でその辺のことを全然してこなかったのだ。


「こんなことで将来どうなるのかしら」


 ヴィクトリアのおばあさんは料理とかが一切できない娘に対してそう愚痴っていたみたいだが、今となっては手遅れだ。

 そんな訳で、セイレーンはご飯ができるまでお茶を飲みながらのんびりしているのであった。


 さて、三十分ぐらいで朝食ができたので食べることにする。


「いただきます」


 そうやって普通に食べ始めたのだが、なぜかヴィクトリアのおじいさんが妙に感動している。


「ヴィクトリアがこの私のためにご飯を作ってくれたのだ。今までの人生でこんなにうれしいことはない」


 そんな大げさなことを言いながら、満面の笑みでヴィクトリアの作った料理を頬張っていた。

 それを見るに、この人もヴィクトリアのお父さん同様ヴィクトリアのことを愛しているのだなと思った。


★★★


 さて、朝食が終わった後は早速会場へ向かう。

 会場へ着くと、すでに大勢の人たちが集まっていて、観客席は満席状態だった。


「それじゃあ、俺たちは行くからな」

「お気をつけて」


 俺とエリカとリネットの三人は他のメンバーに見送られて控室に向かう。

 他のメンバーは俺たち用に用意された観客席で試合を観戦することになる。


 控室に入ってしばらく待つと呼び出しがかかる。


「そろそろ第一試合が始まりますので、選手は出て来てください」

「よし!それじゃあ行くよ!」


 ということで、第一試合の出場選手リネットが出て行くのだった。


★★★


 いよいよエキシビジョンマッチの第一試合が始まる。


 対戦相手は海底王国の近衛副師団長のシャチという男らしかった。

 俺たちのいる控室からでも試合の様子は良く見えるのでゆっくり見物させてもらうことにする。


「両者、こちらへ」


 審判の指示でリネットとシャチ、両名がリングの中央へと進み出る。


 ここで俺は対戦相手のシャチという男を観察してみる。

 シャチはリネットと同じ斧使いの戦士だった。

 体も大分大きく身長は二メートル三十センチくらいある。正直俺よりも高いくらいだ。


 だからハーフドワーフで身長が一メートル三十センチくらいのリネットと比べると大人と子供以上の差がある。

 例えるならウミガメに挑むスッポン。体感的にはそのくらいの大きさの違いがあると思う。

 それに見た目もシャチの方が筋力隆々に見えて勇ましく感じる。


 だからだろうか。観客たちもこんなことを言っている。


「あはは。何だ、この試合は?あんなちっこいのと近衛副師団長じゃあ勝負にならないぜ」

「おい!近衛副師団長。相手は小さいんだから手加減してやれよ」


 そして、シャチもそんな観客たちに手を振って応えている。

 どうやらシャチの方もこんな小さいのに負けはしないと思っている節があるような感じだった。


 それを見て俺は思ったね。

 こいつら、勝負は体の大きさで決まると思っているバカ共何だと。


 試合はまずお互いの名乗り合いから始まった。


「アタシはリネット。地上世界ではSランクの冒険者をさせてもらっている。よろしく頼む」

「我が名はシャチ。近衛副師団長である。良い試合を望む」


 そうやって名乗りが終わった後、審判が開始の合図を告げる。


「試合開始!」


 試合開始と同時にシャチが斧を上段に構えてリネットに仕掛けて行く。


「うりゃあああ」


 と、大声を発しながら一気にリネットとの距離を詰めて来る。


 そして、十分にリネットに接近すると一気にリネットに斧を振り下ろしてくる。

 近衛副師団長と言うだけあってかなり鋭い攻撃だった。


 普通の相手ならこの攻撃で瞬殺なのだろうが、ジャスティスの厳しい修行に耐え、数々の魔物との戦いに打ち勝ってきたリネットに通じるわけがない。


「うん、まあまあの攻撃だね」


 そうやって余裕の言葉を吐くリネットに軽く避けられてしまった。

 それのみならず。


「うりゃ」


 と、攻撃をした後で隙だらけになっていたシャチの体にリネットが蹴りを一撃入れる。


「ぐはあああ」


 それだけで、すさまじいダメージを受けたのか、シャチの巨体が揺らぎ、地面に膝をつく。

 それを見て、このまま終わらすのはつまらないと思ったのだろう、リネットは一歩後ろに下がってシャチの回復を待つ。


 リネットが三分ほど待つとようやくシャチも回復したようで、立ち上がり、斧を構え直すとリネットに向かって咆えて来る。


「中々やるではないか。この私が油断していたとはいえ、一撃を入れて来るとは。結構痛かったぞ。しかし、ここから先はこうは行かん。本気でやらせてもらうぞ!」


 俺的には完全に負け犬の遠吠えにしか聞こえないセリフを吐くと、シャチのやつ、先程よりも鋭い攻撃をリネットに仕掛けてきた。


「うおおおおお」


 斧を小刻みに振り回し、リネットに対して連続攻撃を仕掛けてくる。

 シャチが本気と言うだけあって、かなりの攻撃能力だ。

 まあ、これだけの腕があれば一人で地竜くらいは相手にできると思う。


 だが、それでもリネットには通用しない。


「ほい、ほい」


 と、盾をうまく使って、リネットはシャチの攻撃を軽く受け流し続けている。

 その様子はまるで木の板に水を流しているかのようで、とても見事な攻撃だった。


 自分の攻撃がことごとく通じないので焦ったシャチは自分の必殺技を放ってきた。


「『海王戦斧術奥義 斬海撃』」


 その名の通り海をも真っ二つに切り裂きそうな重く鋭い一撃がリネットにおそかかって行く。

 だが。


「うん。いい攻撃だ。でもあたしには通じないよ。『一撃両断』」


 ここで、リネットが防御を止め一気に攻勢に転じ、必殺技を放つ。

 ドゴーン。

 技と技がぶつかり合いすさまじい音が周囲に響く。


 そして、その音が消えた時、その場に立っていたのは。


「勝者、リネット!」


 当然リネットだった。

 シャチの方はリネットに斧ごと鎧を真っ二つにされてその場で気絶していた。

 誰が見ても明らかにリネットの勝利だった。


 こうして、第一試合はリネットの勝利は終わった。

 次は第二試合。エリカの試合である。

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