閑話休題68~その頃のオヤジ 娘の婿選びで胃に穴が空く~

 オットー・エレクトロンだ。


 最近、私はとても忙しい。

 何が忙しいのかと言うと、娘のレイラの婿選びにだ。


 最近、娘のレイラは投資詐欺の被害に遭って莫大な借金を抱えたらしく、それを兄であるホルストに肩代わりしてもらったのだ。

 ホルストの話によると、もう少しで怪しげな仕事をして返済しなければならないような状況まで追い込まれたらしかった。


 自分の妹がそんな仕事をしたら周囲に迷惑がかかる。

 そう思ったホルストが妹の借金を返済してやったわけだが、その件でホルストは激怒した。


 ホルストの怒りは当然だろう。

 私がホルストでもレイラには腹を立てると思う。


 ということで、政略結婚という形で結婚させて、旦那に監視させてこれ以上余計なことをさせないようにしようという腹積もりなのだと思う。


 ヒッグス家の当主であるトーマスも。


「うん、それでいいんじゃないかな。エリカの報告によると、レイラちゃんも結婚には前向きなようだし、これでみんな幸せになれて言うことなしだね」


 と、面倒ごとが一つ消えそうなことに喜んでいるみたいだし。


 私も娘が結婚した後、一緒に家に住んでくれるという話なので、その点では安心している。


 何せ私はホルストとは仲が悪いので、将来的にホルストが私の面倒を見てくれる可能性は低いと思っていた。

 最悪、使用人が一人か二人ついた状態で放置で、孫たちともあまり会わせてもらえず寂しい老後を送るのではないかと思っていたのだが、娘と婿が同居するのなら少なくとも寂しくはなさそうだった。


 そういった意味で娘の結婚は非常にうれしいのだが、その分婿選びは慎重に行わなければならない。

 何せその婿は私や妻と同居するのだ。

 慎重に選んで選び抜かなければ、将来私たちにも害が及ぶことになる。


 ということで、今日も私は婿を選びに出かけるのだった。


★★★


 結論から言うと、今日の面談は失敗だった。


 何と言うか、今日の面談相手は見た目は良いが内面の粗雑さが表面に滲み出ていて娘の婿としては失格だと思った。

 というか、ああいう男と同居するのは私も妻もご免だ。


 なので今日の男はお断りさせてもらうことにする。


 意外に思うかもしれないが、今日の男のようにうちの娘に縁談を申し込んで来る次男坊、三男坊(あるいはそれより下も)は結構多い。

 しかもそれなりの騎士家からの申し込みもかなりある。


 あの無軌道な娘の婿希望がそんなにいるのかと思うかもしれないが事実だ。


 何せ騎士家では嫡男以外は部屋住みで厄介者扱いされる場合が多いからな。

 だから家を出て軍に志願する者も多いのだが、その場合、下士官、下手をすれば兵士からのスタートになるのであまり出世は望めないのだ。


 その点うちの娘の婿になれば、騎士になれるしおまけに家禄までもらえるので、次代以降も騎士の地位が保証されるので、願ってもない世に出るチャンスなのだった。

 その上、娘を通してホルストや本家とも縁ができるので出世も期待できる。

 婿希望者が殺到するのも無理はないのだった。


 とはいえ、そんな考えで婿入りを望む者など私はいらない。

 いや、正確に言うと、別にそういう考え自体は持ってもらっても構わないのだが、それだけのやつはいらないということだ。


 何せあの突拍子もない娘のことを一生見てもらわなければならないのだから、人柄第一で選ぶ必要がある。


 ホルストのやつにも、


「オヤジ。レイラのやつの婿を選ぶときは人柄優先で選べよ。レイラのやつの暴走を止めることができそうなちゃんとしたのを選んでくれよ」


そう釘を刺されているので、下手なやつを選べなかった。


 しかもうちの娘ってかなり面食いだから、容姿もそこそこでないと結婚を承知しないかもしれない。

 まあ、あまりわがままなことを言っていると、ホルストのやつが強制的に決めてしまうかもしれないのでそれなりの男なら妥協するとは思うが、あれでも私の娘だ。

 なるべく良い婿を探してやりたかった。


 そんなわけで、ここ最近婿の選定で忙しい日々を送っているわけだが、そのせいか体調がよくなかった。

 もうちょっと具体的に言うと、胃の調子が滅茶苦茶悪くて、あまり食欲がわかない状態なのだ。


 あまりにも調子が悪いので医者に診てもらうと。


「うーん、これはストレスで胃に潰瘍ができていますね」


 そう診断されてしまった。

 どうやら今回の婿選びは私の精神に相当の負荷をかけているようだった。


 この年になって、娘のことで胃に穴が空くほど苦労する羽目になるとは正直思っていなかった。

 それと同時に早くこの状況から解放されたいと、切に思う。

 だって早くこの問題を解決しないと、本当に死んじゃいそうだからな。


 だから、私は神に向かってこう祈るのだった。


 ああ、どうか。娘のことでこれ以上悩まなくてもよい日が早く来ますように、と。

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