第450話~いよいよ海底世界へ~

『ノーチラス号』に乗り込むと同時にセイレーンが『海の主』を呼び出す。

 別に俺が『神獣召喚』の魔法で呼び出しても良かったのだが。


「私が呼んだほうが余計な魔力を使わないで済むから」


 と、セイレーンが呼んでくれたのだった。


「ピーちゃん、おいで」


 セイレーンがそうやって呼び掛けて五分後。

 ドバーンと水面が裂ける音と同時に海の主が現れる。

 海の主は現れると同時に。


「ピーピー」


 と、甘えるような声を出しながらご主人様であるセイレーンに頬ずりしている。

 どうやらセイレーンに挨拶をしているらしかった。


 セイレーンもその海の主に応えて、「よしよし」と、海の主を撫でてやったりしている。

 大きくて立派な海の主だが、こうしてみると可愛いものである。


 さて、そうやって海の主をしばらくの間可愛がった後。


「それじゃあ、ピーちゃん、お願いね」

「ピピー」


 海の主に『海竜の加護』を使ってもらい、海の中へと潜って行くのであった。


★★★


 海の中の様子を一言で表すと、極彩色の世界、と言ったものだった。

 海上から半透明の太陽の光が差し込み、それが海底のサンゴ、海の中を泳ぐ色とりどりの魚たちに反射してとてもきれいだった。


「カイザー湖の中もそれなりにきれいでしたけど、ここの景色の良さとは比べ物になりませんね」

「あそこも悪くなかったですけど、ここと比べたら見劣りしますね」


 ノーチラス号の操縦をしていないネイアとヴィクトリアたちが、のぞき窓に集まって、そうやってキラキラした顔で海の中の景色を嬉しそうに見ている。

 その表情は年端の行かない無垢な少女のそれで、俺的には海よりも嫁たちの方がきれいだな、と思ったくらいだ。


 そうやって仕事のない二人が一通り見た後は、残りの二人と交代する。

 無論、その交代してもらった嫁たちも。


「エリカちゃん、とてもきれいな魚が泳いでいてとても素晴らしい光景だね」

「本当ですね、リネットさん。見ていてとても気持ちがいいです」


 と、大満足な様子だった。

 銀とホルスターも。


「わーい、お魚さんがいっぱいだ!」

「とっても素敵ですね。いつの日かホルスターちゃんと一緒にこんな海を泳いでみたいですね」


 二人で抱き合いながら、別ののぞき窓から海の景色を眺めて満足そうだった。


 ちなみにセイレーンとヴィクトリアのおじいさんは海の中の景色には大して興味がないらしい。

 セイレーンは海神だから見慣れた光景なので今更だったみたいだし、おじいさんも。


「海か。昔はアリスタと二人で天界の海でよく泳いだものよ。この年になってはしゃぐほどのことでもない」


 と、あまり興味がなさそうな感じだった。


 それはともかく、海の中の景色が気に入ったらしい嫁たちが、


「この景色を見ながらお弁当でも食べましょうか」

「いいですね。食べましょう」


と、お弁当を食べ始めた。


 今日のお弁当はサンドイッチみたいで、ヴィクトリアが収納リングに入っていたバスケットを取り出し、それをテーブルに広げている。


「旦那様、お茶とサンドイッチですよ。お召し上がりください」

「ああ、ありがとう」


 俺はエリカからお弁当を渡されると、操縦桿を片手で持ちながら、もう片方の手でサンドイッチを頬張る。


「うん、おいしいな」


 やはり嫁たちが一生懸命作ってくれたサンドイッチはおいしかった。

 腹も減っていたので続けて二、三個食べると、結構満足できた。


 見ると、他のみんなも楽しそうに食べている。


「あら、このサンドイッチのハム、おいしいわね」

「セイレーン様、それエリカさんのご実家の料理長の手作りのハムですよ」

「そうなの。こんなおいしいものが食べられて羨ましいわ」


 セイレーンはサンドイッチに入っているハムが気に入ったようでやたら褒めている。

 ヴィクトリアのおじいさんに至っては。


「おじい様。このサンドイッチの卵焼き。ワタクシが焼いたものなんですよ。ちょっと甘いかもしれませんがいかがですか?」

「うん。甘すぎることなど全然ないぞ。マールスに聞いていた通りだ。ヴィクトリアがすごく料理上手になっているとあいつは言っていたが、本当にその通りだった。おじい様は、ヴィクトリアの料理が食べられて非常に満足だ」


 と、孫娘の料理を食べられて妙に感激していた。

 それを見て俺は思ったね。


 あ、おじいさんもお父さんやお兄さんと同タイプの人か。この分だとしばらくしたら、ヴィクトリアのいいように操縦されるようになるな。

 まあ、そっちの方が面倒が無くていいけどね。


 そんなことを期待しながら、お弁当を食べ終わった俺は、ノーチラス号の操艦に集中するのだった。


★★★


 さて、そんな感じでのんびりと水中を進んでいた俺たちだったが、水中でのトラブルがゼロということなどありえない。

 俺の後ろで音波装置を監視していたエリカから警告が入る。


「高速で本艦に接近する物体あり。旦那様、どうやら魔物のようです!」


 どうやら魔物が現れたらしかった。


「よし!行くぞ」


 魔物が現れたと聞いた俺は、武器を取り出すと戦闘に備えるのだった。

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