第447話~ラスボス、現る~

 潜水艇を受け取ってから数日。


 俺たちは海底へ向かうための準備をした。

 町の市場を巡って食料を買ったり、道具類を買ったりした。


「ねえねえ。エリカさん。今日はここのケーキを買うべきです。休憩の時に食べたら幸せな気分になるはずです」


 そんな中、ヴィクトリアがいつものように力説しながらおやつのお菓子を爆買いしようとしていた。


 本当、ヴィクトリアのやつは冒険へ行く時の買い出しの時にはいつもお菓子ばかり買う。

 そして、冒険中にたらふく食うのだった。


 お前、いい加減にしろとは思うが、お菓子を食べないヴィクトリアなどヴィクトリアではない気もする。

 それはエリカも同じ思いなようで。


「本当、仕方のない子ですね。好きに買いなさい」


 と、ヴィクトリアの好きにさせている。


「やったあ~。ありがとうございます。それじゃあ、銀ちゃん。二人でみんなの分までたくさん買いましょうね」

「はい、ヴィクトリア様」


 エリカの許可をもらったヴィクトリアは水を得た魚のように活発に動き出し、銀と二人でおやつを買い漁るのだった。


 それはとても活き活きとして楽しそうな光景で、見ている俺としてもほっこりできるものだった。

 こんな光景がずっと見られたらいいなあ。


 満面の笑顔のヴィクトリアを見ながら、俺はそんなことを考えるのだった。


★★★


 さて、準備も整ったので海底の人魚の国へ出発することにする。


「『空間操作』」


 まずは魔法でガイアスの町まで移動する。


 ここから沖合に船を出し、ヴィクトリアの水の精霊に海底の探索をさせ人魚の国を見つけ出し、そこから潜水艇を使って海に潜る。

 そういう計画だった。

 もちろんその際には『神獣召喚』の魔法で海の主を呼び出し、助力を仰ぐ計画である。


 ということで、早速その計画を実行しようとしたのだが、その矢先にヴィクトリアがこんなことを言い始めた。


「ガイアスの町に久しぶりに来たのですから、少し観光して行きませんか?」


 俺は何のんきなことを言っているんだと思い、却下しようとしたが。


「「「賛成です」」」


 と、ここで残り三人の嫁たちがヴィクトリアの味方に回った。

 ヴィクトリアの提案からのあまりの反応の速さに、多分事前に示し合わせていたものと思われる。


 こうなっては俺に拒否権はない。


「しょうがないなあ。少しだけだぞ」


 と、急遽町を観光して行くことになった。


★★★


 まずは、ガイアスの町でも一番の眺望を誇るという港が見えるという丘へ行った。


「ねえ、パパ。ここからだと、たくさんの船が見えるねえ」

「本当、ホルスターちゃん。たくさんのお船だね」


 ここからは港に浮かぶたくさんの船が見え、それを見てホルスターと銀が大はしゃぎしている。

 俺はそんな二人を抱き上げると、肩車してやる。


「ほら、ホルスターと銀。パパの肩の上からだと、もっと船が見えていいだろう?」

「うん、そうだね。ありがとう、パパ」

「ホルスト様、ありがとうございます」


 俺に肩車された二人は大喜びで、引き続き一生懸命に船を見ている。

 その一方で嫁たちはと言うと。


「どこにあるんですかね」

「もうちょっと展望台の方へ行ってみましょうか」


 と、何やら丘の周辺をうろうろしていた。

 しばらくそうやってうろうろした後。


「あ、あそこではないですか?」


 お目当てのものを見つけたらしいヴィクトリアが喜んでいる。


 四人の嫁たちのお目当てのもの。それはジェラートの屋台だった。

 どうやら観光ガイドブックにも載っているような有名なお店らしかった。


 早速嫁たちが屋台でジェラートを注文している。


「私はオレンジがいいですね」

「ワタクシはストロベリーですね」

「アタシはマスカットがいいな」

「私はレアチーズがいいです」


 そんな風に各々が好きなものを頼んで、おいしそうに食べていた。

 それを見て、俺も屋台に近づき、店主に注文する。


「ジェラートを三つくれ。ホルスターは何が食べたい?」

「僕はメロンがいいなあ」

「銀は?」

「銀はヴィクトリア様と同じストロベリーがいいです」

「俺もメロンがいいな。その三つで頼むよ」


 そうやって注文すると、店主はすぐにジェラートを作ってくれ。


「どうぞ」


 と、渡してくれるのだった。

 そして、嫁たちと合流すると船を見物しながら仲良くジェラートを食べ、家族で仲良く過ごすのだった。


★★★


 ジェラートを堪能した後は昼飯を食べるべく場所を移動した。


「アタシは海鮮料理が食べたいな」

「「「賛成です」」」


 との、嫁たちの希望により、以前一回行ったことがある海鮮料理の店へ行くことにする。

 その途中。


「うん、あれは何だ?」


 町の広場に人だかりができているのを発見した。


 何だろうと思って注視してみると、広場の中心に何かが置いてあって、それを中心に人が集まっているようだった。

 その何かに周囲に集まっている人の数は物凄く、広場を通行できるのか怪しい状況だった。


「『神強化』 『神眼』発動」


 俺は神眼を使って広場に何があるか確認する。すると。


「あれはセイレーン様の神像じゃないか」


 黄金に輝く海神セイレーンの神像だった。

 しかも、あの神像には見覚えがあった。


「あれって、前に『海の主』を救出した時に、セイレーン様から船会社に贈られた神像では?」


 そう前に、海の主を救った時にセイレーンから船会社に贈られた神像で間違いなかった。


 しかし、あの神像って船会社が持って帰った気がするのだが……。

 不思議に思った俺は周囲の人を捕まえて事情を聞いてみた。その結果。


「どうやらあの神像。船会社の社長が自分たちだけであれだけの物を独占するのは恐れ多いと、町のセイレーン様の神殿に寄進したらしい。それで、今日はその年に一回の一般公開日で、それで人が見物に集まっているらしい」


 という訳らしかった。


 なるほど、事情はよく分かった。

 この町には海にかかわる仕事をしている人が多いからセイレーンを崇拝している人が多い。

 だからありがたいセイレーンの神像を一目拝もうとこうして人が集まっているのだろう。


 それ自体は信仰心が篤くて結構なことだと思うが、困ったことになった。

 これでは通行できない。


 それに、これだけの人の中、俺たちだけがセイレーンの像を無視して進んでいたら、何だか不信心者めと、袋叩きにされそうな雰囲気だった。


 とうことで、俺たちも仕方なく列に並び、神像を拝んだ後、流れにうまく乗って広場を横断することに成功したのだった。


★★★


「あら、私の像を拝んで行くなんていい心掛けじゃない」


 何とか広場の人混みを突破してホッと一息ついている俺たちにそうやって声をかけてきた者がいた。

 物凄く聞き覚えのある声だった。


 この声を聞いた以上、サッサと返事をしないとまずい!


 そう思った俺は、声の方を向き挨拶をしようとしたが、その前に俺よりも爆速で動いた奴がいた。


「セイレーンおば……お姉ちゃん。お久しぶりです」

「あら、ヴィクトリア、元気にしてた?」


 もちろん、俺より先に動いたのはヴィクトリアで、俺に声をかけてきたのはセイレーンだった。


★★★


「それで、セイレーンお姉ちゃんは何をしに下界に降りてきたのですか?」

「あんたたち、今から人魚の国へ行くんでしょ。それでマールスお兄様に頼まれてあんたたちのサポートに来たわけ」


 なるほどそういう事か。


 確かに海の中へ行くのならセイレーンのサポートはありがたかった。

 ヴィクトリアのお父さん、俺と色々あったのに、こういう事まで配慮してくれるとか、とても優しい人だな。そう思った。


 セイレーンがついてくると聞いて、ヴィクトリアは嫌そうな顔をしているが、俺的にはついて来てくれた方が嬉しいので是非お願いすることにする。


「セイレーン様がサポートしてくれるとは有り難い話です。是非お願いします」


 そうやって頭を下げながらお礼を述べると、ここでセイレーンが奇異なことを言い始める。


「今、『セイレーン様がサポート』って言った?まあ、確かに今回は私がメインでサポートするつもりだけど、もう一人ヴィクトリアを手助けしたいという人がいたので連れて来たの」


 そう言うと、いつの間にそこにいたのだろうか、セイレーンは自分の背後にいたフードを被った人物を手招きで呼び寄せると、俺たちに紹介してくる。


「紹介するわ。私の父のクリントよ」


 クリント?クリントって主神で、ヴィクトリアのおじいさんのクリント?

 いきなりの大物の登場に俺が驚き戸惑っていると、クリントはフードを取り、俺たちに挨拶してくる。


「私が神々の王クリントだ。よろしく頼む」


 海底の遺跡の地脈の封印に行くのに、セイレーンどころか、最高神であるクリントまで出てきてしまった。


 ヴィクトリアのおじいさんまで来てしまって、この先一体どうなるのだろうか。


 そう考えると、俺は頭を抱えてしまうのであった。

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