第446話~潜水実験~

 潜水実験のために場所を移動した。

 場所はこの前一角獣と戦ったカイザー湖だ。

 ここなら広いし、潜水実験をするにはぴったりの場所だった。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアが収納リングに入れてきた潜水艇を湖に浮かべる。


「おおー、ちゃんと浮かんだな」


 持ってきた潜水艇は湖に入れるとちゃんと浮かんでくれた。

 それだけで大げさだと思うかもしれないが、もし水に浮かばなければ最初から建造し直しということになるので、とりあえず浮かんでくれてよかったと思う。


 さて、それでは早速潜水実験と行こう。


★★★


 潜水実験を始める前にレンブラントさんが潜水艇のチェックと水上航行の実験を始める。


「うむ、漏水もないようだし、舵もちゃんときくみたいだ。とりあえず水上航行は問題ないようですね」


 レンブラントさんの調査によると今の所問題はないようだ。

 実際、試しに潜水艇を動かしてみると、水の上限定だが、ちゃんとスイスイと動いたしね。


 こうして水上航行は成功したので、次は潜水しての航行実験だ。


★★★


 さて、潜水実験に際してまずは俺とレンブラントさん、それにヴィクトリアの三人が乗り込んで実験を開始することにする。


 俺とレンブラントさんはともかくヴィクトリアまで一緒に乗り込んだのは。


「ワタクシならいざという時、風の精霊を呼び出して空気を作り出せますので安心ですよ」


 という事らしいので、一緒に連れて行くことにしたのだった。

 潜水艇に乗り込んだ俺たちは、まず水上航行で潜水艇を湖の沖まで移動させ、そこで潜水実験を開始する。


「タンク注水!潜水開始!」


 レンブラントさんに教えられたとおりに機械を操作し、タンクに水を入れると潜水艇が徐々に潜航し始める。


「おおおお、沈み始めましたね」


 その様子を見て、早速ヴィクトリアがはしゃぎ始める。

 船体が大体水の中に入ったところで、潜水艇の側面の窓から水中を覗いたり、潜望鏡を操作し、水上の様子を眺めたりしている。


「ほら、ほら。ホルストさん、見てください。魚さんが泳いでいる様子が見えますよ。それに潜望鏡では、こっちの方を見ているエリカさんたちの様子も見えます」


 と、見えたことを一々報告してくる。

 正直な話、今俺はレンブラントさんに操縦方法を習っている最中で忙しいのでそれどころじゃないのだが……。


 まあ、ここで無視すると後でヴィクトリアがすねるといけないので、適当に返事だけはしておく。


「そうか、それは良かったな。今、俺は操縦方法の習得中だから、もう少し楽しんでいてくれ」

「ラジャーです」


 こんな感じでうまくごまかしながら、俺は頑張って操縦方法を習得して行くのだった。


★★★


 そうやって何とか操縦方法を会得した後は全員で潜水艇に乗り込んで、潜水艇を動かしてみる。


「見てー、ホルスターちゃん。水の中でお魚さんが泳いでいてきれいですよ」

「本当だね、銀姉ちゃん。きれいだね」


 潜水艇が湖に潜るなり、先ほどのヴィクトリアと同様、湖の中を覗き込んではしゃいでいる。

 子供らしく何にでも興味を持って良いと思う。


 その一方で、大人たちは潜水艇の操縦訓練をしている。


「リネット、操縦桿はもうちょっとゆっくり回すんだ。さもないと舵に負荷がかかり過ぎる」

「うん、わかった」

「ネイア。潜水艇を潜航させるときには、そっちのレバーでタンクの水の量を調整するんだ」

「了解です」


 俺はさっきレンブラントさんに教わったことをリネットとネイアに教えている。

 とは言っても、俺もまだ完全に習得できているわけではないので、レンブラントさんからもらった操縦マニュアルを見ながら教えているけどね。

 それでも二人の呑み込みは早く、一時間もしないうちに一通りの操作をできるようになった。


「エリカお嬢様、そこのボタンを押すと音波が発射されますので、そちらの収音機で音の反射がないか確認して、障害物がないか確認するのです」

「わかりました。ヴィクトリアさんもいいですね。私の次はあなたの番ですよ」

「ラジャーです」


 俺がリネットたちに潜水艇の操縦を教えている傍らでは、エリカとヴィクトリアが新型の音波装置の使い方をレンブラントさんに教わっていた。


 二人は耳と音感が良いので、操縦よりはこっちの装置の操作を習ってもらった方が良い。

 俺が判断してそうしてもらった。


 ヴィクトリアは。


「ワタクシも潜水艇を動かしてみたいです」


 と、言っていたが。


「また後でやらせてやるから」


 そう説得して、とりあえず音波装置の使い方の習得に専念してもらうことになった。

 二人の習得状況は順調のようで、一時間ほどで。


「「大体わかりました」」


 と、実用的に使えるレベルにはなってくれたようだった。


 こんな感じで、俺たちは潜水艇の操作をマスターして行ったのであった。


★★★


 そうやって、操作方法をマスターしたところで、カイザー湖の中を本格的に動き回ってみることにする。


 一旦岸辺に戻り、そこからも一度湖の真ん中へと進み、潜水を開始する。


「タンク注水。潜航開始!」

「了解です」


 俺の指示でネイアがタンクに注水し、潜水艇が潜水し始める。


「深度百メートルまで潜航しました」

「エリカ、前方に障害物はあるか?」

「ありません」

「ヴィクトリア、水上の様子は?」

「ボート一艘いません」


 エリカが音波装置で水中の様子を、ヴィクトリアが潜望鏡で水上の様子を確認して異常が無い事を確かめると、航行開始だ!


「リネット。エンジン出力六十パーセントで湖の反対側へ向けて航行せよ!」

「了解だ!」


 そして、リネットの操縦で潜水艇がいよいよ本格的に動き出す。

 潜水艇は予定通りに湖の中をスムーズに進んで行く。


 水中を進む時に激しい音がするのでは?

 乗る前はそんなことを考えていたりもしていたが、そういう事もなく、すべてが順調だった。


 進んでいるうちに少し余裕が出てきたのか、嫁たちは持ち場を交代して、ホルスターたちと一緒に窓から湖の中の様子を見たり、潜望鏡で水上の様子を覗いてみたりしている。


「水中を魚が泳いでいる様子を見るのも、潜望鏡で水上の様子を見るのも楽しいですね」

「「「楽しいですね」」」


 嫁たちはそれらの作業がとても楽しいらしく、全員がご満悦といった感じだった。

 嫁や子供たちが満足してくれたようで、俺としてもとてもうれしかった。


★★★


 湖の中を一通り回ったので、浮上して今回の実験を終了することにする。


「エリカ、ヴィクトリア。状況はどうだ?」

「水中異常なしです」

「水上も問題ありません」

「よし、それでは浮上開始!ネイアはタンク排水。リネットは艦首を上へ向けろ!」

「「了解!!」」


 周囲の状況を確認し、安全を確保した上で浮上を開始する。

 船体が斜め上方向に傾き、潜水艇が浮上して行く。


 数分後。


「ホルストさん。潜水艇、浮上完了です」


 外の様子を観察していたヴィクトリアの言葉とともに潜水艇の浮上が完了した。

 これで、今回の実験は終了だ。


 ということで、元居た岸辺に帰還する。


★★★


「レンブラントさん、お世話になりました」

「いえ、こちらこそ重要な仕事を任せていただきありがとうございます。是非仕事の方でも成果をあげてください」


 岸に戻って、ヴィクトリアの収納リングに潜水艇を収納した後はレンブラントさんをヒッグスタウンの魔道具工房に送り届けた。


 そして、最後に別れの挨拶をかわすと、俺たちは家へと帰った。


「旦那様、これでようやく海底の人魚の国へ向かえますね」

「ああ、いよいよだな」

「人魚の国ってどんな所なんでしょうかね。ワタクシ、楽しみです」

「僕も楽しみだよ」

「銀もです」

「ああ、楽しみだな」


 家へ帰ると、そうやって家族でこれからについて楽しい想像をして楽しく一夜を過ごすのだった。


 さて、人魚の国。どんな場所なのであろうか?

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