第436話~月へと続く遺跡 その5 三階・洞窟編 前編~

 三階への階段を登り切った先にある小窓から外の景色を眺めると、そこはもう宇宙空間だった。


「パパ、ここって不思議な場所だね。僕たちのいた大地と月の真ん中にあるんだね」


 ホルスターが外の景色を見ながらそんなことを言っている。


 まあ、確かにそれは俺も思う所だ。

 月はずっと空に浮かんでいると俺は思っていたのだが、それは間違いで、月は大地と離れた場所にあって、それが空に浮かんで見えるだけだと知って驚いたものだった。

 そして月と大地の間の空間を宇宙空間と呼ぶことも知り、世の中そういう仕組みになっていたんだと感心したものだった。


 そんな思いを抱きながら、俺は扉を開け、三階へと入って行く。


★★★


 三階は洞窟エリアだった。

 そして、洞窟エリアの最初の部分は鉱床地帯になっていて、むき出しの鉱石がそこら中の壁から木のように生えていた。


 鉱石はダンジョンに潜る冒険者にとって貴重な収入源だ。

 鉱石の収入の多寡次第でダンジョン冒険者の収入は大きく変わる。

 それがここには大量に眠っている、


 ヴィクトリアのおばあさん、この遺跡に大量のお宝を置いていてくれているそうだが、一、二階には大したものはなかった。

 だが、ここへ来て初めておばあさんの贈り物らしい贈り物が現れたという感じだった。


 それはともかく、大量の鉱石を見て、妹のやつが大喜びしている。


「キャー、鉱石よ、鉱石!お金の塊よ。これは是非持って帰らねば!」


 そうやって大はしゃぎですぐさま壁から鉱石を掘りだそうとしている。

 そんな妹のやつを俺は慌てて止める。


「バカ!そうやって何でも掘ろうとするやつがあるか!」

「何でよお」

「お前、本当にバカだな。鉱石を掘るのにも労力がかかるだろ。ちゃんと確認して割のいい鉱石だけを持って帰らないと、労力に見合った報酬が得られないじゃないか」

「言われてみればそれもそうね」

「それに全部を持って帰るわけにもいかないだろう?この先にもまだお宝があるかもしれないんだからスペースには余裕を持たせるのが常識だろうが!」


 これは半分嘘だ。ヴィクトリアの収納リングなら鉱石くらいいくらでも持ち運べるし、ね。

 ただ全部掘るのが面倒なのは事実だし、ヴィクトリアの収納リングのことはなるべく秘密にしたいし、妹たちの教育のためにもそう言ったのだった。


 実際、妹のやつも。


「確かに後のことも考えれば、ここでマジックバックを一杯にするわけにはいかないよね」


 と、納得してくれたみたいだった。

 こうして一悶着あったが、俺たちは鉱石の回収を開始する。


★★★


 さて、鉱石の採掘を開始する前にどんな鉱石があるかチェックだ。


「鉄や銅、錫すずといった安い金属からミスリルやアダマンタイトといった高価な物まで種類が豊富だな。それにダイヤモンドやルビーなどの宝石などもあるな」


 ここにある鉱石は種類も豊富だった。

 どこのダンジョンでもそうだが、ダンジョンという場所は鉱石の種類が豊富だからな。


 ただ種類は多いが量はそんなに採れない。

 逆に普通の鉱山だと単一の鉱石が大量にとれるのだが、ダンジョンだと多品種少量採掘ということになり、全く真逆なのだ。。


 そして、ここのダンジョンの鉱石の種類の多さは群を抜いている。

 普通のダンジョンなら同じ階層にある鉱石の種類は多くてもせいぜい四、五種類と言ったところだが、ここでは二十種類くらいはあった。

 いうなれば、鉱石の博物館といった感じだった。


 この中から持ち帰るものを選ぶとすれば。


「アダマンタイトとミスリル。それに金がいいな。後、宝石類も高く売れるからいただくとしよう」


 俺はアダマンタイトとミスリル、金。それに宝石類を採掘対象としてチョイスする。

 この辺の鉱石なら商業ギルドへ持って行けば希少鉱石として高く買ってくれるからな。

 効率重視ならまずこれらの鉱石を持って帰るべきだった。


 ただ、どこのダンジョンでもこういう希少鉱石って量が少ないんだよね。

 ここもご多分に漏れず、ぱっと見た感じでは、今俺が言ったような鉱石はそんなに量が無いように見えた。

 ということで、サクッと回収してしまおうと思う。


「おい、お前らはあっちのミスリルの回収だ。俺たちはこっちのアダマンタイトを回収する。で、それが終わったら向こうの金を回収だ」

「わかったわ、お兄ちゃん」


 そんな風に手順を確認したところで作業開始だ。


「ヴィクトリア、つるはしとスコップを出せ」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアに言ってつるはしとスコップを出させて、それを妹たちも含めて全員に配り、採掘を始める。


「ラララ~。鉱物採掘は楽しいで~す」


 目の前の見えるところに眠っているお宝を取るのが楽しいのか、ヴィクトリアのやつが鼻歌を歌っている。

 物凄くご機嫌だ。

 もちろんヴィクトリア以外の俺たちも全員ご機嫌だ。


「鉱石を掘るのってとても楽しいですね」


 鉱石を掘るのが初めてらしいネイアも楽しそうに掘っているし。


「鉱石掘るのって楽しいね、銀姉ちゃん」

「そうだね、ホルスターちゃん」


 と、ホルスターと銀も、砂遊びでもしているように思っているのだと思うが、楽しそうに掘っていた。


 そして、楽しいことをしていると時間というものはあっという間に経つものである。

 気がついたら、三十分も経たないうちに予定の鉱石の採掘は終わっていた。


★★★


 鉱石の採掘が終わったので次は宝石の番だ。

 ここにある宝石類はダイヤにルビー、サファイヤにアメジストと高価な物ばかりだ。

 しかもどれも粒が大きくて、価値が高そうな品ものだった。


 これをこのまま売るのはもったいないな。

 そう思った俺は皆に提案する。


「なあ、折角だからこの宝石で宝飾品を作ってみんなで持たないか?エリカたちはパーティーとかに身に着けて行くのにちょうどいいし、レイラたちも嫁入り道具として持って行けば、いい感じなんじゃないかと思う。もちろん加工費用は俺が出してやる」


 俺のその発言を聞いたみんなの目が輝き出す。


「「「「本当によろしいのですか」」」」


 嫁たちは目をキラキラさせながら俺にそう聞き返してくるし、妹たちも。


「「「「え?嫁入り道具にそんな素敵なものを作ってくれるのですか?」」」」


 と、若干興奮気味に言っている。

 そんな皆にこう答える。


「当然だ。帰ったらヒッグス家の魔道具工房に持ち込んで、加工してもらおう。もちろんエリカやレイラたちだけじゃなく、銀やホルスターの分も作るぞ」

「え?銀も作っていただけるのですか」


 今度は銀が驚いていた。多分、自分も作ってもらえるとは思っていなかったようだ。

 なおホルスターは宝飾品に興味がないのか、ふーんという顔だ。

 まあ、小さい男の子だからそんなものだったと思う。


「当たり前だろ。銀もホルスターの嫁になるんなら将来必要になるだろうからな。遠慮なく受け取りなさい」

「はい、ありがとうございます」


 大喜びの銀はそうやってお礼を言ってくるのだった。

 さて、宝石の活用法も決まったことだし、採掘開始だ。


「宝石は少しでも傷つくと価値が下がるかっらな。慎重に掘るんだぞ」


 そうやってさっきよりも慎重に掘る。

 慎重に掘るから殺気よりも時間がかかるはずなのだが、みんな気合が入っているのか、先程よりも短時間で終わってしまった。


 こうして、俺たちの楽しい鉱石採掘タイムは終了したのだった。


★★★


 鉱床地帯での鉱石の採掘が終わった後はどんどん奥へと進んで行く。


「う~ん。ここって分岐が思ったり多くて迷いそうな感じだな」


 ここの洞窟エリアは、結構分岐が多く、何も知らずに歩けば迷って自分の位置が分からなくなる感じだった。

 こういうダンジョンを進む場合は、普通マーキングとマッピングをしっかりしながら歩く者なのだが、俺にはあれがある。


「『世界の知識』」


 魔法を使って、一気にダンジョンマップを作成する。

 ただここの洞窟は思ったよりも広大らしく、三十分かかかってもまだ9割しかマップが完成していないけどね。。

 それでもこの広いマップの洞窟を下手したらさまよい歩く羽目になっていたかもと思うと、大分マシであるが。


 それはそれとして、マップの作成中に妹にツッコまれてしまった。


「お兄ちゃん、何してるの?」

「ここのマップを作っている」

「マップって……まだ全然探検していないのに何でそんな物を作れるのよ」

「俺の魔法にそう言うのがあるんだ。どこのダンジョンでも作れるわけではないけど、ここは大丈夫みたいだな」

「へえ、便利な魔法を知っているのね。私にもその魔法、教えてよ」

「それは無理だな。これは俺がとあるダンジョンで手に入れた特殊な魔法でな。俺以外には使えない。だからお前に教えることはできないんだ」

「チェッ。そうなんだ」


 そうやって舌打ちをしつつも妹のやつは納得してくれたみたいだった。

 俺の魔法についてはなるべく秘密にしておきたいからな。口の軽い妹に余計な詮索をされなくてよかったと思った。


 それはともかく、もう少しでマップができそうなので、出来上がったら移動を再開しようと思う。

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