第213話~ホルストの虎退治 後編~
「ありがとうございます」
倒したビッグヘルキャットの遺骸を鹿たちの前へ持って行き、見せてやるとボス鹿がそうお礼を述べてきた。
ちなみにこのビッグヘルキャットはオスで、巣にしていた洞窟を調べると、鹿やタヌキなど、ビッグヘルキャットが食した動物たちの残骸が残っていた。
「「「「気持ち悪いですね」」」」
それを見て、俺の嫁たちと銀が口を揃えてそう言った。
確かに、ビッグヘルキャットの巣の光景は死体を見慣れた俺たちにとっても気分のいいものでなく、調査の結果めぼしい物もないみたいだったので、さっさと引き上げたというわけだ。
「それでは私どもはこれで失礼します」
「ああ、もう人間の畑を荒らすんじゃないぞ」
ビッグヘルキャットの遺骸を見たボス鹿は、そう言いながら子分の鹿たちを連れて去って行った。
去り際に。
「このお礼は、いつか必ずお返しします」
そう言っていたが、鹿にお礼してもらうとか言われても困ってしまうので、
「気にしなくていいぞ」
とは、言っておいた。
さて、事件も解決したことだし、町へ帰るとするか。
★★★
ウィンドウの町に帰り着いた。
とりあえず事件の解決を報告しなければならないので、冒険者ギルドへ向かう。
すると、前の時と同じエルフの女性職員さんが受付にいたので声をかける。
「どうも、こんにちは」
「あ、ホルスト様。お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「ホルスト様がお帰りになられたということは、事件は解決されたのですね」
「ああ、その件でコンドルさんに話があるんだ。取り次いでくれないか?」
「畏まりました。少々お待ちください」
そう言うと、女性職員さんはコンドルさんの所へ走って行くのだった。
★★★
「それで、ホルスト殿。首尾の方はいかがですかな」
「そうですね。詳しい報告をする前に、まずはこれをご覧ください。おい、ヴィクトリア」
「ラジャーです」
俺の指示でヴィクトリアが例のブツを出す。
それを見て、コンドルさんが驚く。
「ホルスト殿、これは?」
「例の森に最近棲みついたビッグヘルキャットの遺骸ですね。立派な物でしょう?」
「ビッグヘルキャットがあの森に?そんな。あれはエルフの森の中でももっと奥。エルフでさえ寄り付かない禁足地にいるような魔物では?」
「事実です。そして、こいつが棲みついたせいで、住処を追われた鹿たちが、人里に出てきたというわけです」
「まさか、そんなことが……」
コンドルさんが信じられないという顔をするが、俺は構わず話を続ける。
「あったのです。畑を荒らしていた鹿たちのボスに話を聞いたら、そう言っていたのです」
「鹿のボスが?失礼ですが、人間に動物の言葉がわかったりするのですか?」
「俺のパーティーにはそういう能力を持ったメンバーがいるので可能ですよ。それで、鹿のボスにビッグヘルキャットの遺骸を見せたら、『ありがとうございます』と言って、元の住処へ帰って行ったので、もう畑を荒らしに来ないと思いますよ」
俺の話を聞いて、コンドルさんが大きく頷く。
「にわかには信じがたい話ですが、あなたの目はこんな噓をつく人の目ではない。それに証拠のビッグヘルキャットの死骸もある。わかりました。ホルスト殿の言うことを信じましょう」
「ありがとうございます」
ということで、依頼完了だ。
俺はコンドルさんと固い握手を交わし、依頼の成就を喜び合う。
そして、それが終わると、早速交渉に入る。
「それで、コンドルさん。このビッグヘルキャット、いくらで買ってくれます?これだけでかくて立派な模様の毛皮を持つビッグヘルキャット。中々手に入るものではありませんよ。どうですか。いい買い物だと思いますよ」
こうして俺とコンドルさんの価格交渉ラウンドが始まるのであった。
★★★
「金貨10枚か。結構いい値段で売れたな」
コンドルさんとの交渉を終えた俺たちは冒険者ギルドをホクホク顔で出た。
ほんの2、3日の仕事でこれだけ稼げれば十分だった。
それに別にギルドもこの取引で損はしていない。
あれだけの大きさのビッグヘルキャットだ。
毛皮をうまく加工して売れば、最低でも金貨20枚くらいで売れるだろう。
うまく好事家の目に留まることができれば、金貨30枚で売れるかもしれない。
要は、後はギルドの扱い方次第ということだ。
折角コンドルさんとも親交を深められたことだし、後は彼らの健闘を祈ることにしよう。
さて。
仕事も片付いたことだし、次の町へ行く前に、この町を少し観光していくとするか。
「『空間操作』」
とりあえず、魔法でホルスターを迎えに行く。
折角のエルフの町なのでホルスターにも見せてやりたい。
エリカがそう言うので、一緒にエリカの実家に行く。
「あ、パパ、ママ」
すると、俺たちの姿を見たホルスターが早速寄ってくる。
そんなホルスターの頭を撫でながら、俺は言う。
「いい子にしていたか?」
「うん」
「そうか、偉いぞ」
そうやって、エリカと二人でひとしきりかわいがってやると、エリカのお母さんたちの所へ行く。
「今、エルフの町にいるので、折角なのでホルスターにも見せたいので連れて行きます。また、明日連れてきますので、その時はお願いします」
そうお母さんたちに説明した後、再びエルフの町に飛ぶ。
「あ、銀姉ちゃん」
「ホルスターちゃん」
久しぶりに銀に会えてうれしいのか、ホルスターが銀に近寄って行く。
銀も大きく手を広げてホルスターのことを抱きしめてやる。
こうして見ると、本当の姉弟のようでほほえましく思える。
「さて、こうして全員揃ったことだし、目的地へ行くぞ」
ということで、観光開始だ。
★★★
「ホルストさん、ここですよ」
ヴィクトリアがニコニコ顔である建物を指さす。
その建物の入り口の看板には、『森の幸レストラン 森の恵み』と書かれていた。
ここはコンドルさんに聞いてきた今この町で一番の人気レストランだ。
このレストランは森の恵みと山バトを使った料理がおいしいらしく、人気なのだそうだ。
ということで早速店に入る。
「いらっしゃいませ」
店に入ると店員さんがすぐさま席に案内してくれたので、席に着く。
「ご注文はいかがいたしますか?」
「えーと。この『シェフのおすすめ山バト料理のフルコース』を大人4人に。子供2人には『子供向け山バト料理のコース』を。飲み物は、大人は料理に合うワインをお勧めで。子供たちはぶどうジュースをください」
「畏まりました」
そうやって注文すると、しばらくして料理が次々と運ばれてきた。
山バトの肉の燻製が入ったサラダや、山バトの肉の入ったスープ、山バトのステーキなど、とにかく山バト尽くしの料理だった。
「「「おいしいです」」」
まあ、うちの嫁たちは大喜びのようなので、俺は満足だが。
「ホルスターちゃん。お姉ちゃんがお肉切ってあげるから、食べなさい」
「うん、ありがとう。銀お姉ちゃん」
一方、銀はいつも通りホルスターの世話をしていた。
本当に銀はホルスターをかいがいしく世話をする。
母性本能とでもいうのだろうか。
多分、ホルスターのことを本物の弟のように思っていて、かわいいのだと思う。
こうして俺たちは楽しく食事をするのだった。
★★★
「うわー、これが昔エルフたちが暮らしていた住宅なんですね」
ヴィクトリアが木の上に建てられた家を見てうれしそうにしている。
ここはウィンドウの町の歴史資料館だ。
ここには、エルフの歴史に関する資料が展示されている。
で、このエルフの昔の住居を再現した展示スペースはここの目玉だ。
「エルフは大昔はこんな風に木の上に住居を構えていたのですよ」
展示スペースにいる職員さんがそう説明してくれる。
「どうしてエルフたちは昔はこんな風に木の上に住んでいたのですか」
「主に、魔物や獣の襲撃から身を守るためだと言われていますね」
「へえ、そうなんですね。それで、今もエルフでこんな家に住んでる人っているんですか」
「いえ、今はほとんどいませんね。今はこの町にあるような普通の木造住宅に住んでいますね。ただ」
「ただ?」
「エルフの森の奥に住むというダークエルフなんかは今でもこういった家に住んでいると、聞き及びます」
「ダークエルフですか!」
ダークエルフと聞いてヴィクトリアが首を突っ込んできた。
妙にニコニコ顔なので、興味津々で聞いているのだと思う。
「ダークエルフって、今でもこんな家に住んでいるんですか?」
「ええ、そういう話ですね。ただ、実際の所はよくわかっていないのです」
「そうなんですか」
「はい。実はエルフとダークエルフってあまり交流がないんですよね。というのも、彼らは伝統的な生活を重んじるので、私たちエルフと話が合わないんですよね」
「そんなものなんですね」
ヴィクトリアと職員さんの会話を聞いて、俺はいい話が聞けたなと思った。
俺たちの今回の旅の目的地である地脈の封印はエルフの森の奥にあると推定される。
となると、そこに住むというダークエルフの話を聞けて幸いだったと思う。
その後も職員さんはエルフの住居について色々説明してくれたり、住居の中を見せてくれたりした。
「旦那様、こういう家に住んで外の景色を見ながら暮らせたら素敵ですね」
「ワタクシもこういう家に住んでみたいです」
「アタシは、こういう高い場所にある家はちょっと……かな」
嫁たちも意見は様々だが、楽しんでくれているようだ。
こうやって、俺たちはエルフの町での観光を楽しんだのであった。
その後は皆でホテルに泊まり、翌日ホルスターをエリカの実家に送り届けた後、旅を再開するのであった。
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