第211話~畑を荒らしているのは? 畑を荒らしている真犯人を探し出せ!~

「うわー、これはひどいですね」


 荒らされた畑を見て、ヴィクトリアがそんな感想を漏らす。


 今、俺たちは『ウィンドウの町』の郊外にある畑に来ていた。

 なぜ、畑なんかに来ているのかって?

 それはもちろんコンドルさんに頼まれたからだ。


「実はね。最近、町の畑が荒らされて困っているんだ。だから、それを何とかしてほしいんだ」


 昨日、ウィンドウの町の冒険者ギルドでそう相談を受けたのだ。


「畑が荒らされる?どういうことですか?」

「実はね。この町の郊外には、野菜とかを栽培している畑があるんだよ。まあ、そんなのどこの町にでもあるけど、ここの畑の一部は冒険者ギルドが所有していてね。運営資金の足しにしているんだ。それが最近荒らされて困っているんだよ」

「荒らされているって、誰に?」

「それが、鹿の群れらしいんだ」

「鹿ですか」


 鹿などの動物が畑を荒らしに来る。よくある話だ。

 ただ、そういうのが出た場合、普通は冒険者などを雇って駆除することが多い。

 そういうのはそこまで難しい話ではなく、低ランクの冒険者がやるような仕事だ。


 それなのに、俺たちに話してくるのはどういう風の吹き回しだろう。

 俺はそう思って、詳しい話を聞くことにした。


「そういうのは、そう難しい話ではないはずです。どうして俺たちに?」

「実はね。今までも何組か冒険者のグループを送って駆除を試みたんだけれどね。ことごとく失敗しているんだよ」

「ほう。そうなのですか」

「ああ、どうもその鹿の群れを率いているやつがとても頭がいいらしくてね。罠を張っても、ことごとく罠は破られるし、戦いを挑んだら挑んだで、逆に反撃されてけがをさせられるしで、散々なんだよ」

「それは……やっかいですね」


 そんな鹿がいるのなら、確かに冒険者たちがいいようにされるのも仕方がないのかもしれなかった。


 こうなると、引き受けないわけにもいかなかった。

 というのも、この件の場合、冒険者ギルド自体も被害を受けているわけで、それを見捨てたとなると、俺たちに薄情なやつらという評判が立ってしまう可能性もあるからだ。


 ただ、ここでコンドルさんが気になることを言った。


「こんな風に鹿の群れに町の畑が荒らされるのは初めてのことなんだよ」

「へえ、そうなんですか」

「このあたりの森はね。実りが豊富なんだ。だから、普通なら鹿たちも人間の畑を荒らすという危険なことをしなくても暮らしていけるはずなんだ」

「そうなんですか?急にどうしたんですかね。今年は森の中が不作とか?」

「そんな話は聞かないね。森の中へ薬草の採集へ行った冒険者の話によると、今年も実りは豊からしいよ」


 森の実りは豊かなはずなのに、急に鹿たちが人間の畑を荒らし出した?

 どういうことだろうか。


 俺の中にちょっとした興味と疑問が沸いたが、それはそれ。

 冒険者ギルド直々の頼みなので、引き受けることにした。


「わかりました。畑がこれ以上荒らされないように、何とかしてみましょう」

「本当ですか!では、是非お願いします」


 ということで、俺たちはコンドルさんの依頼でここに来たのだった。


★★★


「それにしても変ですね」


 荒らされた畑を見ながらエリカがそんなことを呟く。


「何がだ?」

「急にそれまで畑に近づいてもこなかった鹿たちが畑を荒らすようになったことです」


 確かにそれは俺もコンドルさんの話を聞いて思ったことだ。

 ただ、だからと言って駆除を止めるわけにはいかない。

 これはギルドからの依頼なのだ。


 俺がそう言うと、


「それはちょっと乱暴じゃないかな」


今度は、リネットが口を挟んできた。


「そもそも、コンドルさんの話では、畑を荒らされるのを何とかしてほしいという話だったでしょう。それに、もし何か原因があって鹿が畑を襲っているのだったら、それを解決しない限り、同じことの繰り返しになると思うんだ」


 リネットの考えを聞いて、俺はそれもそうだなと思った。

 ここに来る鹿たちを多少駆除したところで、原因が他にあるのなら鹿たちは畑を荒らすのを止めないだろう。


「うん、さすがリネットだな。その通りだ。偉いぞ、リネット」


 俺がそう褒めると、リネットが褒められたのがうれしいのか照れくさそうな顔になる。

 普段仕事中は真面目な態度なリネットが、こういう顔をするのは珍しいので、ちょっとかわいいなと思った。


 まあ、それはともかく。


「となると、どうやって事情を探るか、だな」


 俺はどうしようかと悩んだ。

 すると。


「ここは銀にお任せください」


 何とここで名乗り出てきたのは銀だった。

 どうするつもりだと思って聞いてみると。


「それはですね。……」


 銀の話を聞いた俺たちは、その考えに乗ることにした。


★★★


 その日の夜。


「そろそろ、来るころかな」


 俺たちは例の畑の近くの建物の中に潜んで、鹿たちを待っていた。

 すると。


「ホルストさん、どうやら来たみたいですよ」


 俺の隣にいたヴィクトリアがそう報告してくる。

 というのも、俺がヴィクトリアに指示して木の精霊を呼び出させて、畑を見張らせていて、その木の精霊から連絡が来たのだった。

 報告が来たので早速行動を開始する。


「エリカ」

「はい、旦那様」


 俺の指示でエリカが俺たちに魔法をかけ、姿を隠す。

 そして、建物を出る。

 風下から鹿たちの群れに接近していく。


 近づきながら、俺は生命エネルギー探知の能力を使い、鹿の群れのボスが誰かを探る。

 多分、動物の群れなので一番強い奴がボスであろうと当たりをつけ、生命エネルギーが一番強い奴を探る。


「あいつかな?『神強化』」


 ボスの候補を見つけ出すと、魔法を発動させ、『神眼』を使用する。


「うん、間違いないな」


 俺が目を付けた鹿は、群れの中で一番の立派な角と巨体を持った牡鹿であった。


「よし!あいつを捕らえるぞ!」

「「「「はい」」」」


 ボスが分かったので早速行動を開始する。


「『小爆破』」


 エリカが上空に向かって魔法を放つ。

 ボン。

 上空で魔法が爆発し、大きな音が周囲に響き、空気が揺れる。


 たちまち、鹿の群れが音に驚いて逃げ始める。

 ただ、例のボス鹿だけは最後まで仲間を守るつもりなのか、その場にとどまって周囲を探っていた。


「中々立派なやつだ」


 それを見て、俺は鹿ながら立派なやつだと思った。

 だが、俺たちにも事情がある。


「悪いが捕えさせてもらうぞ!ヴィクトリア」

「ラジャーです。『精霊召喚 土の精霊』」


 俺の指示でヴィクトリアが土の精霊を呼び出し、ボス鹿の周囲に土の壁を造り、ボス鹿の逃げ道を塞ぐ。


「リネット」

「おう」


 そこへ俺とリネットが突撃していく。

 当然ながらボス鹿も俺たちに気が付いて攻撃してくる。


「ブルルル」


 角を前面に押し出し、俺たちに向かってくる。

 結構鋭そうな攻撃だった。

 コンドルさんに聞いた通り、低ランクの冒険者たちならやられる可能性が高い攻撃だった。


 だが、俺たちの敵ではない。


「おりゃあ」


 リネットが愛用のオリハルコンの盾を構えて鹿の前に立ちふさがる。

 ドン。

 鹿が盾にぶつかってものすごい音がした。


 しかし、リネットは鹿とぶつかっても微動だにしない。


「はああああ」


 逆に鹿を押し返している。


「うおおおおお」


 そこへ俺が突っ込んで来る。

 そして、右手の拳へ生命エネルギーを込め、思い切り鹿の腹を殴る。


「ピー」


 俺に殴られると、ボス鹿は小さな鳴き声を残して、その場に倒れ伏す。


「やったな」


 こうして、俺たちはボス鹿の捕縛に成功したのだった。

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