第177話~迷探偵ヴィクトリア~
「さて、それでは、張り切っていきましょうか」
スラム街に着くと同時にヴィクトリアが張り切り始めた。
今回の被害者は血を体から抜かれている。
ヴァンパイアの被害に遭った人間はそういう死に方をするか、少し血を抜かれて眷属にされることもある。
だから、今回の黒幕もヴァンパイアである可能性が高いのだが。
「ふふふ、この前の幽霊屋敷と言い、最近、ワタクシの活躍の場が多いですね。これはいよいよワタクシの出番が来たということでしょうか?」
アンデッドであるヴァンパイア相手なら自分の出番だと思っているヴィクトリアの増長っぷりが止まらない。
言動もなんか大げさだしな。
まあ、ヴィクトリアはいつものことだからこれでいい。
問題なのは。
「おお、妹よ。さすがだな。アンデッドと言えば、神に与えられた命を弄ぶ者たち。妹よ。お前が中心になって退治するのだ」
何か知らんがついてきたジャスティスが、なぜか煽ってきたからだ。
ヴィクトリアは調子に乗ると失敗する奴だから、余計なことをするなと言ってやりたい。
ただ、兄に対して関心のないヴィクトリアは華麗にスルーしていた。
正直、助かったと俺は思った。
さて、スラム街の調査はヴィクトリア中心で行われた。
「今回はこれを使いましょうか」
そう言ってヴィクトリアが取り出したのは。
「ジャジャーン。『魔力追跡の魔法薬』ですう」
『魔力追跡の魔法薬』だった。
犯人がヴァンパイアなら被害者を誘い出す時に、『魅了』などの魔法を使っている可能性が高い。
『魅了』はヴァンパイアの得意魔法として有名だからな。
そういう魔法を使用した場合、何らかの魔力の痕跡が残る場合が多い。
ただ、魔力の痕跡は時間とともに薄くなっていく。
そこで『魔力追跡の魔法薬』の出番というわけだ。
「これなら、薄い魔力の痕跡しか残っていなくても追跡できます」
ということで、ヴィクトリアが魔法薬を使用する。
警備隊の人に聞いた殺人現場に行き、そこに魔法薬を1滴たらしてみる。
ムクムクと赤い煙が沸き起こり、それが一直線に一定の方向に直進していった。
ちなみに、今使っている魔法薬は特別なものだ。
何せ、希望の遺跡で以前手に入れた物だからな。
市販の薬よりも小さな魔力の痕跡でも感知でき、かつ追跡能力も高かった。
「では、行きましょう」
俺たちはヴィクトリアについて行き、調査を開始するのだった。
★★★
「あれ?おかしいですね。また変な所で、魔力が途切れていますね」
魔力を追跡していたヴィクトリアがまた首をかしげる。
ヴィクトリアの顔に?マークが浮かぶ。
これで今日3度目だった。
「これで、今日遺体のあった場所を3か所も調べたのに、全部途中で魔力の痕跡が途切れてしまいましたね」
そう、ヴィクトリアの言う通り、今日俺たちは3か所遺体のあった場所で魔法薬を使用し、魔力の痕跡を調べた。
しかし。
「旦那様、これで今日失敗したのは3度目です。この手はあまり意味がないのでは」
3度とも魔力の追跡がうまく行かず、エリカがそう提案してきた。
「でも、エリカさん。手を変えるのはいいですが、その前に途中で魔力が途切れる理由を探した方が良くないですか。今後、似たようなことがあったときのためにも」
しかし、ここでヴィクトリアが妙にまともなことを言ってきた。
そう言えば、家を出る前、「ワタクシは今日名探偵になります」とか目標を述べていたから、頭のよさそうなことを言ってみたかったのではないかと推測できる。
ただ、ヴィクトリアだけあって、すぐにボロを出す。
「そうですね。それも大事かもしれませんね。それで、ヴィクトリアさんのご意見は?」
「……そうですね。……そうだ。『空間転移』とかありそうじゃないですか。別の場所で犯行に及んで、『空間転移』でここへ一気に飛んできて、遺体の場所まで運んでいく。そういう手段を取ったんだと思います」
それを聞いて、俺はやっぱりヴィクトリアはヴィクトリアだと思った。
『転移魔法』なんて簡単にできる魔法ではない。
普通は長時間をかけて『転移魔法陣』を作ってやる魔法だ。
しかし、ここには『転移魔法陣』があったというだけの魔力の痕跡が残っていない。
もし、『転移魔法陣』なしでやるというのなら、伝説級の魔法になってしまう。
多分、この世界でひょいひょいと転移できるのは、『空間操作』の魔法を使える俺くらいだと思う。
うん、やはりこいつにふさわしい称号は『名探偵』ではなく、『迷探偵』だと思う。
これはエリカも同じ思いだったようで、ヴィクトリアの回答に苦笑いしながらこう言う。
「『空間転移』の可能性もあると思いますが、ここにはそれだけの魔力の痕跡がありません。ただ、ヴィクトリアさんの他の場所で犯行が行われたという意見には賛成ですね。問題なのはここへどうやって運んできたのかという点だけです」
「そうだね。魔力の痕跡が一旦立たれている以上、他の場所が犯行現場だとアタシも思うよそれで、エリカちゃんはどうやってここまで遺体を運んできたと思う?」
そのリネットの問いにエリカはこう答えた。
「ズバリ言いますね。私は空を飛んで運んだのだと思います」
★★★
「空を飛ぶ?それはそれで難しいんじゃ」
リネットの反論に対して、エリカはこう言った。
「私はそうは思いません。私は今回の黒幕はヴァンパイアであると思っています。ヴァンパイアには飛行能力があると聞き及びます。ならば、この位は朝飯前なのではないかと思います」
「あ」
そう言えば……。と、エリカの説明に、みんなが納得した。
「言われてみればそうです」
「さすがはエリカちゃんだ」
皆がエリカのことをほめたたえる。
俺も嫁の頭が良くて単純にうれしかった。
ただ、喜んでばかりもいられない。
「それで、犯人が空を飛んで移動するとして、どうやって犯人を捜すんだ?」
「それは……私としては不本意なのですが、旦那様に頑張ってもらおうと思います」
え?俺?
突然のエリカの指名に、俺はどうなるのだろうと、困惑するのだった。
★★★
その日の夜。
何かよくわからんが、俺はスラム街の盛り場をさまよい歩いていた。
「お兄さん、私たちと遊んでいかない?」
一人で盛り場を歩いていると、よく女性たちにそう声を掛けられる。
「いえ、今日はいいです」
「あら、残念」
俺はそれらを必死に断りながら、ひたすら盛り場を巡っていく。
俺がここに来たのには理由がある。
「旦那様にはおとり捜査をやってもらいます」
昼間、エリカにそう言われたからだ。
おとり捜査。
つまり、盛り場を歩いて怪しい奴を見つけ、誘いに乗ったふりをして黒幕を見つけてこい。
そういうわけだ。
ただし、このおとり捜査においては一点気を付けなければいけない点がある。
「「「関係ない女について行かないでくださいね。そんなことになったら、私たち泣きますからね」」」
嫁ズにそう厳命されていた。
盛り場に数多いる女たちの中から犯人を間違えずに見つけるとか、無理じゃね?俺は思った。
だが。
「そんなことはない。私がお前に教えた技を使って探れば、ヴァンパイアの手下などすぐに見つけられるはずだ。だから、妹を泣かせたらこの私が許さないぞ!」
そうジャスティスにも言われてしまい、俺にミスは許されない状況になってしまった。
だから、俺は『神眼』、『生命エネルギー感知』、『魔力感知』と、持てる能力をフルに使用して
盛り場周辺を探っていた。
そして、ある一軒の酒場の前で足を止める。
「うん、何かここから怪しい雰囲気を感じるな」
そう思った俺はその酒場へと入っていった。
★★★
店に入った俺はすぐに店の中を見回す。
すると、一人の金髪縦ロールの髪形の女の子が目に取った。
持てるすべての手段を使ってその女の子のことを探ってみる。
うん、間違いない。
俺は確信した。この子が関係者だと。
生命エネルギーの流れ、魔力の流れ、それらが常人とは異なっていたからだ。
俺はその子に声をかける。
「ねえ、君。案内を頼めるかな」
「あら、お客様。いらっしゃいませ。すぐにご案内しますね」
少女に案内されて俺は席に着く。
「注文はエールと……」
すぐにいろいろと注文をして、それらを食べ始める。
飲み物や食べ物は普通だった。毒とかそういうのも入っていないようだ。
店内には俺以外にお何組も客がいて普通に飲み食いしていた。
俺が怪しいと感じたのはさっきの少女だけだった。
俺は少女に声をかける。
「ねえ、君、今晩暇?」
「あら、お客さん。私のことを気に入ってくれたの?」
「ああ。それで、返事は?」
「私の方はいつでも遊べる準備ができていますよ」
「そうか。それでは、早速行くか。と、その前に渡すものを渡さないとな」
そう言うと、俺は少女にお金を握らす。
「毎度あり~」
少女は俺にもらったお金を懐に入れた。
そして、俺は少女に手を取られて席を立ち、支払いを済ませて店の外に出た。
「ところで、君って何て名前?君って言いにくいから、名前教えてよ」
「私はフレデリカって言います。ごひいきに」
フレデリカに名前を聞いた俺は、フレデリカに案内されるまま、近くの宿屋に入るのだった。
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