第175話~王都のヴァンパイア~
剣聖たちとの試合が終わってしばらくした頃。
「やあ、よく来てくれたね」
俺たちのパーティーはワイトさんに頼まれてワイトさんの屋敷に赴いた。
「お飲み物に紅茶をお持ちしました」
ワイトさんの屋敷に行くと、すぐに執事さんが俺たちをワイトさんお部屋に案内してくれ、そう言って、お茶まで出してくれた後、退室した。
俺たちは出されたお茶を飲みながらワイトさんとお話をする。
まず、俺から話を切り出す。
「それで、ワイトさん。本日はどういったご用件ですか」
「それ何だけどね……」
ワイトさんは言いにくい話なのだろう、最初口をもごもごさせて中々話してくれなかったが、やがて意を決したのか、思い切って話してくれた。
「実は、前にも話したことがあると思うんだけど、王都での怪死事件の話を覚えているかな?」
「ええ、あの全身の血が抜かれているというやつですね」
「その通りだ」
ワイトさんが大きく頷いた。
ここまで聞いたところで、俺は大体ワイトさんの要件が分かってしまった。
「ということは、今回の用件はその怪死事件を解決してほしいということですか」
「そういうことだ。さすがはホルスト君だ。話が早くて助かる。それでは、事件について話させてもらうね」
ということで、ワイトさんが事件のあらましについて話し始めた。
★★★
「実は、この2か月ほど怪死事件はなかったんだ」
「そうなのですか?」
「ああ、そうなんだ」
「それで、最近また急に事件が起き始めた。そういうことですね?」
俺の問いかけにワイトさんがコクリと頷く。
そして、事件について語り始める。
ワイトさんの話によると、最初に事件が起こったのは半年ほど前のことだった。
「最初はスラム街で起きたよくある殺人事件のはずだったんだ」
「よくある?まあ、スラム街とか治安はあまりよくないですからね」
よくある殺人事件とか、変な言葉だがスラム街とはそのくらい治安が悪い場所だった。
強盗事件で人が死ぬのは、毎日までとは言わないが、数日に1回くらいはある話で、ただの酒飲みのケンカで死ぬこともある。
他にも表に出ないような裏の集団同士の争いによる死者も含めると、どれだけの人間が犠牲になっているか、想像もできなかった。
「人が死んでいるとの報告を受け、僕の配下の警備隊の兵士が遺体を回収して調べてみると……」
「体に血がなかったと」
「そういうことだ」
俺の話をワイトさんが肯定する。
そして、最初の事件が起こってから数か月の間、数日おきに同じような死体が発見され続けたのだそうだ。
「古に王都に封印されたと伝わるヴァンパイアの仕業では?そんな噂まで流れてね」
王都に封印されたヴァンパイア?
そんなのがいるのかと、俺は思ったが、ワイトさんによると、それは本当にただの都市伝説らしく記録とかには残っていないらしかった。
ただ、そんな噂まで広まってしまっては人々の心が平穏であるはずがない。
次は自分の番かも。
そんな疑心暗鬼がスラム街に広がる。
おかげでスラム街は大混乱。
いつ暴動とか起きても不思議ではない雰囲気だったそうだ。
「それが2か月ほど前に遺体が発見されるのがピタリと無くなったんだよ。そのおかげでスラム街は平穏を取り戻してね。しばらくは落ち着いていたんだけれど」
「それが、また血のない死体が出現して、パニックになりかけていると……」
「うん、そうなんだ」
ワイトさんが非常に困ったような顔で頷く。
それを見て、俺は力強く言う。
「わかりました。その事件の解決に俺たちも協力しましょう」
その言葉を聞いて、ワイトさんの顔がパッと明るくなる。
「本当かい?」
「はい」
「それはありがたい。でもこう言っては何だけど、報酬とかそんなに多くは出せないよ。警備隊って、そんなに予算多くないんだ」
「別に構いませんよ。それよりも、この依頼を通してワイトさんともっとお付き合いを深められたらな。なんて思っています」
つまり、俺は金よりもワイトさんとの仲を深めたいと思っているわけだ。
実際、公爵家の次期当主であるワイトさんとより仲良くなれた方が、ここで多少の金を稼ぐよりも有益だからな。
俺の提案にワイトさんも異存はないらしく、
「ありがとう。これからも末永くお付き合いをさせていただく」
と、手を取って賛成してくれた。
ということで、俺たちはこの事件に積極的にかかわることになった。
★★★
「ここが王都警備隊の事務所か」
ワイトさんと面会した翌日。
王都の冒険者ギルドに立ち寄った後、俺たちは王都の警備隊の事務所へやって来た。
冒険者ギルドに寄ったのは、ギルドの依頼として怪死事件を引き受けてきたからだ。
というのも。
「一応、俺たち冒険者なので、指名依頼として王都の冒険者ギルドを通して依頼してくれませんか」
そう昨日ワイトさんに頼んでおいたからだ。
だから冒険者ギルドへ行き、依頼を受けてから警備隊事務所へ来たというわけである。
「こんにちは。防衛軍司令官様の依頼でこちらへお伺いしたのですが」
「司令官よりお話は伺っております。どうぞこちらへ」
受付で名乗ると、受付の人がすぐに担当部署へ取り次いでくれた。
受付の人の案内で俺たちはそこへ向かう。
「お待たせしました」
部署へ行くと、ワイトさんに厳命されていたのだろう、すぐに担当の人が対応してくれた。
「これが今わかっている被害の状況です」
担当者はそう言うと、被害者に関する資料を俺たちに見せてくれた。
うん、よくわからないな。
資料には被害者の年齢性別、職業、死亡日時、死亡場所などが書かれていた。
そして、資料はそれらをアルファベット順に機械的に整理したものであった。
これだけ見せられても、有益な情報が得られる感じが沸かなかった。
「旦那様、ちょっと資料を貸してくれませんか?」
と、ここでパーティーの頭脳こと、エリカが話に入ってきた。
まあ、エリカはお父さんに似て頭がいいからな。
きっとこの玉石混交の資料の中からでも、何か見つけてくれるかもしれない。
「ああ、頼むよ」
そう言って、俺は資料をエリカに渡す。
「それでは……」
俺に資料を渡されたエリカは、パラパラと資料をめくり、何やら資料を並べ直している。
しばらくその作業を続けた後、何かに気が付いたのか、顔を上げ、俺たちに気づいたことを話し始めた。
「被害者について思ったことがあるのですが、聞いてもらえますか?」
「何だい?」
「被害に遭った人の傾向何ですが、2か月前と、現在進行形で起こっている事件とでは、明らかに被害者の傾向が変わっていますね」
「と、いうと?」
「2か月前に起こった事件では、女性やお年寄り、大きめの子供といったどちらかと言えば体力、力で劣る人たちが狙われています。しかし、現在狙われているのは冒険者とか傭兵とか、体力的にも優れた男の人たちばかりですね」
「つまりはどういうことだ」
「これはつまり、2か月前と現在では犯行を行っている者が異なっている。もしくは、全開と今回で犯罪を行う目的が異なっている。そういう可能性があると思います」
「なるほど」
さすがエリカだ。鋭い指摘だと思った。
「後、犯行場所にも変化が見られますね」
「そうなのか」
「はい」
そう言うと、エリカは町の地図に印を書き込み、それを俺たちに見せながら説明してくれる。
「この赤い印が前回の犯行位置です。御覧のようにスラム街全体で万遍なく行われているのが確認できます。対して、この青い印が今回の犯行現場です。見ての通り、スラム街でも賑やかな場所。飲み屋街や娼館が集まっているこのあたりに集中しています」
確かにエリカの言う通りだった。
地図にこうやって書けば一目瞭然だからな。
しかし、なぜ前回とこうも犯行場所が違うのか。
それはエリカの最初の指摘通りターゲットが変わったからだろう。
冒険者とか傭兵とかそういった連中を狙うんだったら、繁華街の方が都合がいいからな。
そういった奴らは、酒や女やばくちが好きで、こういう所に勝手に集まってくるからな。
となると、やることは一つだ。
「警備隊の方。繁華街を中心に警備の強化を。俺たちもそのあたりを中心に調査を進めます」
「わかりました。そのように手配しましょう」
これで調査の方針は定まった。
本格的な調査は、準備もあるから、明日からということにして、その後は警備隊の人たちと色々打ち合わせをして、その日は帰宅するのだった。
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