閑話休題24~その頃の妹 逃亡成功?編~

「『火矢』」


 迫ってくる野生のクマに対して私は魔法を放った。


「ぐほ」


 私の魔法は見事にクマに命中し、クマをあっという間に火だるまにする。

 さらに。


「『風刃』」


 真空の刃でクマの頭と体を離れ離れにしてやる。

 スパン。

 私の魔法でクマが真っ二つになる。


 それを見て、悪友のフレデリカが寄ってくる。


「やるじゃん。レイラが魔法使いって、本当だったんだ」

「ふふふ、このくらい当然ですわ。何せ、故郷が魔物の大軍に襲われた時、私も従軍して、オークを焼き殺したこともありますし」


 私、レイラ・エレクトロンはフレデリカにそう自慢してみせた。

 実際、私はオークを焼き殺しましたし。

 もっとも、その後あまりの数の魔物の群れに絶望しかけて、戦意喪失しそうになったのは内緒ですが。


「やっぱりレイラを連れてきて正解だったな。私一人だったら、とっくに追っ手に追いつかれているか、魔物か動物に殺されていただろうし」


 まあ、そんな裏事情まで知らないフレデリカは私のことをべた褒めだ。

 あれやこれや、逃亡してからずっと私の事を褒めてくれる。


 これ、これ。私が求めていたのはこれなのだ!

 皆が私の実力を認め、尊敬し崇め奉ってくれる。

 これこそが私の求めていたものだ。


 上級学校でもずっとそうだったのに、くそ兄貴のせいでぐちゃぐちゃになってしまった。

 皆の目が痛い子を見る目になり、私の立場はなくなった。

 あげくに、仕返しにちょっといたずらをしただけなのに、修道院送りにされるし、最悪だ。


 しかも、私がこんなひどい目に遭っているというのに、くそ兄貴は嫁さん以外にも周りに美女を侍らせ、幸せいっぱいに生きていやがる。

 くそ兄貴め!無事脱出できたら絶対家族まとめて復讐してやるんだから。


 私はあらためて復讐を誓うのだった。


★★★


「肉、焼けたみたいだよ」


 フレデリカが棒で肉をひっくり返して焼け具合を確認し、私にそう告げてくる。


 え?逃亡中のくせに肉なんか持ち歩いているのかって?

 そんなもの、さっき狩ったクマを焼いているに決まっているじゃない。


 野生の動物なんか気味が悪いのであまり食べたくなかったけど、背に腹は代えられないしね。

 だから、我慢して食べる。


 ……うん、おいしい。

 クマの肉は意外においしかった。

 大体肉なんかまともに食べるのは久しぶりだ。

 私は夢中になって食べた。


「お腹いっぱい」

「私も」


 二人で満足した。

 その後はしばらく休んだ。


 今は昼だ。昨晩逃げてから今まで逃げることに夢中で碌に休んでいない。

 それに昼間逃げるのはリスクが高い。

 修道院の追手や近くの村人に見つかる可能性が高い。


 だから夜まで休むことにする。


★★★


 夜になった。


「さあ、行くよ」


 私たちは再び逃走を開始する。

 暗い山道を、星明りを頼りにひたすら歩いて行く。


「ちょっと怖いね」


 フレデリカが私の手をぎゅっと握ってくる。

 多分、心細いのだと思う。


「フレデリカ」


 私もフレデリカの手をぎゅっと握り返す。

 互いの手と手が絡み合って心強さを感じる。


「あ、ようやく出口みたいだね」


 ようやく山の出口が見えてきた。

 私たちは急いでそちらの方へ駆け寄る。


「「やったー」」


 やっと薄暗い山を出ることができた。

 私たちは手を取り合って喜び合った。


「さて、でもこれからが問題だね。とりあえず、近くの町へ行って、手ごろな仕事を探して」


 これからのことを二人で相談した。

 その時だった。


「おや、かわいらしい子たちだね」


 そんな声が聞こえた。


「誰?」


 驚いた私とフレデリカが周囲を見回すが、誰もいない。

 気のせいかと思い、再び私たちは正面を向いた。


「「ひっ」」


 今度こそ私たちは恐怖した。

 私たちの目の前には、ピンク髪、赤い目に白い肌の不気味な女が立っていた。


「あんた、なにもの」


 勇気を振り絞って私がそう尋ねるも、女は答えず、私たちの全身をなめるように見渡すのだった。

 そして、しばらく見ると、合点が言ったのか、こんなことを言い始めた。


「あんたたち、山の上の修道院の子かい?」

「え?違いますよ」


 私はとっさに嘘をついたが、女には通じない。


「嘘はよくないよ。そのかつらの下、坊主頭じゃないか。あそこの子は坊主頭だからね。すぐにわかっちゃうよ」


 バレてる。全部バレてる。

 修道院に連れ戻されると思った私は、女に聞いた。


「私たちを修道院に連れ戻す気?」


 その私の問いに女は首を横に振る。


「そんなもったいないことはしないよ。修道院の子は規則正しい生活をしていて、血がおいしいからね。私のものにするに決まっているさね」


 血がおいしい?私のものにする?こいつ……まさか!


「ヴァンパイア……」


 相手の正体を看破した私は、恐怖にあふれた声でそう呟く。

 女はそれについて何も言わず、ただ、ふふふと、不気味に笑うだけであった。


★★★


 その日、修道院から二人の修道女が逃亡した。

 当然、修道院からは二人を探すべく捜索隊が出たが、二人を見つけることはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る