第174話~ジャスティスとの対決! 持てるすべての力を出し切れ!~

 ガキン。

 剣聖の剣が振り下ろされ、俺の剣がそれを受け止め、すさまじい音が周囲にこだまする。

 剣聖の本気の一撃で俺の剣がしなり、折れそうになるが、生命エネルギーの集中と『人の行』の修業で会得した絶妙な受けの技術で、かろうじて防いでいた。


「グッ」


 剣聖がさらに力を込めてくるが、結果は変わらない。

 というか、剣聖もゾンネ同様『人の行』ができていないため、折角力を込めてもすべてが攻撃に回らず、関係ない方へ分散してしまっている。

 もったいない話だ。


 そのうちに、エネルギーが切れてきたのだろう、剣聖の攻撃が緩んできた。

 今だ!

 俺は剣聖の攻撃を完全に受け流すと、パッと剣聖と距離を取り、溜めに溜めた力を使って必殺技を放つ。


「『十字斬』」

「グホ」


 エネルギーが尽きて無防備になった剣聖が俺の攻撃をもろに受け、地面に倒れ伏す。

 倒れた剣聖に俺が近づいて確認すると、どうやら意識を失っているようだった。

 それを見て審判が宣言する。


「勝者、ホルスト!」


 これで、2戦目が終わった。

 残りはジャスティスだけだ。


 だが、ジャスティスは剣聖たちよりも格段に強い。

 さて、どうなることか。


 俺は気が気ではないのだった。


★★★


「さあ、弟子一号よ。持てるすべての力を出し切って、全力でかかってくるがよい」

「はい」


 剣聖との試合が終わった俺はジャスティスと向かい合った。

 今までの二者と異なり、圧倒的な雰囲気を醸し出していた。

 とても、勝てる気がしなかった。


 だから、俺はこう考えた。

 一撃だ!こいつに一撃だけ当てる。それだけにすべてを集中する。


 (『神強化』)


 俺は『神強化』の魔法で自分を強化する。

 前の二人には使わなかったが、ジャスティスには使う。


 何せ自分も神気を使うとか言っていたしな。『天の行』の成果も見てやるとか言っていたし。

 だが、それでもジャスティスの前に立つと、4魔獣と戦った時以上の威圧感を感じる。


 まあ、こいつ、4魔獣の主人であるプラトゥーンのひ孫だからな。

 本気を出せば、4魔獣より弱いということはないだろうしな。


 というか、ヴィクトリアがダメなだけで、ヴィクトリアの一族は強力な力を持った神々だからな。

 正直、一撃でもジャスティスに当てられるか、自信はない。


 それでも俺は心を奮い立たせ、剣を構え、ジャスティスの前に立つ。

 そして、攻撃を開始する。


「タタタタア!」


 まず、連続攻撃を放つ。

 『神強化』を使用した圧倒的な速度の攻撃だ。その辺の魔物程度なら一撃でお陀仏になるだろう。


 しかし。


「ふむ、期待外れだな」


 ジャスティスは俺の攻撃を難なく受け流していく。

 うん、予想通りの展開だ。

 この攻撃は陽動だ。避けてもらわなくては困る。


 ジャスティスに攻撃を仕掛けているうちに俺は準備をする。

 体中に生命エネルギーと神の力を巡らし、それらを少しずつ蓄えていく。


「うむ、そろそろお前の攻撃にも飽きてきたな。それでは、こちらから行くぞ。『天刃』」


 ジャスティスが自分の必殺剣を使おうとゆっくりと剣を構える。

 その動きは、優雅で芸術的で見ていてほれぼれするほどのものだった。

 だが、それは俺が同時に待ち望んでいたものだった。


「『一点突破』」


 俺は全身に蓄えていた力を一転に集め、一気に解放する。

 そして、ジャスティスの胸めがけて一気に突き通す。

 と同時に、ジャスティスも剣を振り下ろしてくる。


 交わる剣と剣。


 一瞬の攻防の後、残された光景は……。


「ふむ、相打ちであるか」


 俺の剣はジャスティスの胸の一寸手前で止まり、ジャスティスの剣も俺の首の手前で止まっているという光景だった。


 それを見て、一旦お互いに剣を引く。

 そして、ジャスティスが俺にこう聞いてくる。


「弟子一号よ、見事である。この私に一撃を加えるところまで成長できるとは……よく頑張ったな」

「いえ、作戦がたまたまうまく行っただけです。俺はあなたに遠く及びませんよ」

「そうか……。それで、まだ続けるか?」


 俺は首を横に振る。


「いえ、今のが俺の全力です。今のが全力である以上、これ以上の成果を出すことはできません。ですから、終わりにしましょう」

「うむ。素晴らしい!」


 ジャスティスがパチパチと手をたたく。


「自分の実力もわからず、無謀にも向かってくるようなやつだったら、絶対に妹のことを任せられないと思っていたが、この分なら妹を任せても大丈夫だろう。それに今の一撃も素晴らしいものであった。これで合格を与えないのなら、私の威厳が落ちるというものだ。ヴィクトリア、こっちへ来なさい」

「何ですか?お兄様」


 ジャスティスはヴィクトリアを手招きすると、手を引き俺の前に差し出してくる。


「妹のことは自由にすればいい」

「まあ、お兄様、ワタクシたちのことを認めていただけるのですか?」

「一応、そう約束していたからな。ただし……」


 そこまで言うと、ジャスティスは俺のことをじろっとにらみつけてくる。


「妹を泣かせたりしたら、その時は私がお前のことを成敗するからな。そのことは忘れるなよ」

「……は、はい」


 ジャスティスに脅かすように言われて、俺はヴィクトリアを一生大事にしようと誓うのだった。


★★★


 ジャスティスとの戦いの後は昼食会となった。

 会場は向こうが用意してくれたので、食事くらいはうちで用意しようということで用意してきたのだが。


「うん、たくさん用意してきて正解だったな」


 剣聖はゾンネの他にもたくさんの弟子を引き連れていたので、その可能性も勘案して、あらかじめたくさん作ってきておいて正解だった。

 まあ、足らなければ足らないで、材料や調理器具もヴィクトリアの収納リングに大量に入っているので、それでどうにでもなったが。


 なお、今日の昼食はおにぎりだ。

 手軽に大量に作れてお腹も膨れるので、うちのパーティーが野外で食べる時の定番メニューの一つとなっていた。


「これは、おいしいですね」


 剣聖の弟子たちにもおおむね好評のようで、結構なことだと思う。


 それで、その剣聖は、後ゾンネも、何やらジャスティスと話していた。


「ディケオスィニ殿。貴殿の剣術は素晴らしいですな。見ていてほれぼれしました」

「全くです。拙者もあなたほどの剣の腕を持った者を見たことがありません」


 口々に褒めていた。

 それで、しばらく褒めた後、こんなことを言い出した。


「「我々にあなたの剣術を伝授していただけないでしょうか」」

「うむ、弟子になりたいということか?だが、それは無理だな。こう見えても私は忙しい身。もうすぐ自分の居場所に帰らねばならぬ。残念だが、お前たちに稽古をつけてやる時間はないな」

「さようですか」


 剣聖と存柄ががっかりした表情になるが、ここでジャスティスが一つ提案を出す。


「代わりと言っては何だが、お前たちと手合わせをしてやろう。お前たちならそこからでも何かを学べるだろう。それでよいか?」

「「本当ですか?ありがとうございます」」


 ということで、急遽剣聖たちVSジャスティスの試合が開催されることになった。


★★★


「本当にこれで構わないのですか」

「うむ、問題ない。さあ、かかってくるがよい」


 昼食後、ジャスティス対剣聖たちの試合が始まった。


 だが、その組み合わせが変わっていた。

 何と、ジャスティス一人で剣聖及びその弟子(全部で20人くらい)と一度に戦うというものだった。


 しかもジャスティスが持っているのは訓練用の木剣のみ。

 対して剣聖たちはフル武装。

 普通では勝負にならない装備の格差だった。


 だが、それでも、ジャスティスと対峙した剣聖たちにはどことなく気後れしているように見える。

 さすがに剣聖やその高弟ともなると、立ち合っただけでジャスティスの凄さを肌で感じられるのだと思う。皆、確実に緊張していた。


 それはともかく。


「始め!」


 俺の合図で対決が開始される。


「うおおおお」


 まず、剣聖の弟子数人が突撃する。


「うむ、良い動きであるな」


 弟子たちの動きが意外に良いのを見て、ジャスティスがにっこりとほほ笑む。

 そして、次の瞬間。


「え?」


 突撃した弟子たち全員の鎧が真っ二つに両断されていた。

 それはまさに目にもとまらぬという速さで、俺も『地の行』を会得していなかったら見切れていなかったはずだ。


 その後も何人もの弟子がジャスティスに向かって行ったが、全員が同じ目に遭わされていた。

 ジャスティスはそれらの弟子たちにこうアドバイスしてやっていた。


「お前たち、いい動きを会得しているが、感覚だけで動き過ぎである。もうちょっと相手の微細な動き、視線の先、そういうものに気を配って動くことを身につけないと、それ以上上には行けないぞ。何せ試合とは、相手がいるものだからな。動かぬ的を相手にするのとはそこが違う。だから、相手の動きにもっと注意を払うように訓練せよ。それができれば、上に行くことができるぞ」

「はい」


 ジャスティスに敗れた弟子たちはうなだれながらも、真剣に話を聞き、実力の向上を誓うのだった。

 うん、さすがは剣聖の弟子ともなると、向上心があるな。

 俺は彼らを見てそう思うのだった。


「では、残りはお前たちだな。二人まとめてかかってくるとよい」

「「では」」


 最後に残った剣聖とゾンネがジャスティスに向かって行く。

 師匠と弟子、二人でジャスティスに絶え間なく攻撃していく。

 その連携はすさまじく、並の相手ならあっという間に撃破されてしまうほどのものであった。


 だが、それもジャスティス相手では子供の遊戯に過ぎない。


「うむ、中々いい攻撃であるが……」


 すべてジャスティスに受けられ、逆に隙を突かれて反撃されていく始末だった。

 そして、とうとう。


「「参りました」」


 二人は負けを認めた。その時には、二人は全身あざだらけになっていた。

 そんな二人にジャスティスはこうアドバイスしてやる。


「お前たち二人は、動きに無駄が多いな。私の弟子一号にもそこを突かれて敗北していた。まずはそこから見直すことだな。自分たちの動きを一つ一つ検証し、無駄な動きを排除せよ。そうすれば、お前たちはもっと上に行けるだろう」

「「ご指導ありがとうございます」」


 二人はジャスティスにそうお礼を述べた。

 その二人の表情に負けて腹が立つとかそういう感情はなく、素直に負けを認め、少しでも強くなろうという気概が見えた。

 さすが剣聖。心構えが違うと思った。


 さて、これで今日の予定は終わりだ。


「ホルスト殿に、ディケオスィニ様、またどこかでお会いしましょう」

「ああ、またな」


 最後にそう挨拶すると、剣聖たちは去って行った。


★★★


 今日はすごい一日だった。

 家に帰った後、俺はベッドの中でそう思った。


 それにしても、ジャスティスの奴、神気使っていなかったのに剣聖たちに圧勝するとか。

 さすが武神だな。


 ということは、神気を使っていたジャスティスに一撃当てれた俺って、結構すごくね?


 ……っと、こんなことで調子に乗っていてはダメだな。

 もっと上を目指して、嫁さんたちをしっかり守れるようにならなくてはな。


 今日という貴重な一日を経て、俺はあらためてそう誓うのだった。

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