第170話~ジャスティスとの修行 地の行その2~

「厳しい修行の中にも休息は必要だ」


 とか、ジャスティスが言い始めたので、今日は休養日だ。


 というか、こいつが突然そんなことを言い始めたのは。


「たまには兄妹で町の中を歩かないか」


 そうやってヴィクトリアと遊びに行きたかったからだ。


「それでは、みなさん出かけましょうか」


 それで、家族全員で遊びに出たわけだ。

 そして、今俺はジャスティスに睨まれている。


 なぜかというと。


「ホッルスットさ~ん。腕組みましょう」

「ヴィクトリアちゃん、ズルい。アタシもホルスト君と腕組みたい」

「それじゃあ、10分交代でいいですか」

「それなら」


 そうやって、俺の左腕をヴィクトリアとリネットが取り合っているからだ。


 ちなみに、俺の右腕はエリカのものらしくエリカが独占している。


 後、ホルスターは銀と手を繋いで歩いている。

 大好きなお姉ちゃんに手を繋いでもらってうれしそうだ。


 まあ、そうやって俺の左腕を二人で取り合っているわけだが、おかげでジャスティスの視線がきつい。


「おのれ。この恨み、はらさでおくべきか!」


 なんか呪詛の言葉まで聞こえてくる。

 後が怖そうなので、俺的には勘弁してほしいと思う。


 なお、ヴィクトリアはジャスティスを完全無視だ。


「なあ、ヴィクトリア」


 ジャスティスが何か誘おうとしても。


「何ですか。ワタクシは今忙しいので、後にしてください」


 そんな風に、ヴィクトリアにけんもほろろに扱われるのであった。

 そうやって歩いているうちに目的地に着いた。


★★★


 やって来たのは陶器展だった。

 古今東西、様々な時代、様々な場所で制作された陶器が並べられている展覧会である。


「旦那様、色とりどりの作品が並んでいますね」


 エリカが並べられている陶器を見て、顔をうっとりさせる。

 エリカは食器類を集めるのが好きだ。

 以前も希望の遺跡で珍しい食器類を見つけた時に、売り払ったりせず自分で使ったりしているくらいだ。


「うん、アタシも作った料理をこういうのに盛って、ホルスト君に食べてもらいたいな」


 リネットも最近料理の腕が上がってきたせいか、使う皿にもこだわりを見せるようになってきており、エリカと二人、真剣に陶器類を眺めて、あれやこれやと語り合っていた。


 一方のヴィクトリアは、


「きれいなお皿に盛った方が料理はおいしく見えるかもしれませんが、お皿までは食べられませんしね」


と、料理を盛る皿には大して興味がなさそうだった。


「それはともかく、いい匂いがします」


  それよりも美術館に併設してあるレストランから流れてくる食い物の匂いに興味があるようだった。

 その点はジャスティスも同じようで、


「食い物を乗せるだけの皿何て、どれも同じではないか」


と、その点は妹と同意見のようであった。


 さて、この展覧会では併設して陶器の即売会をやっている。


「これがいいですね。これ買いましょう」

「アタシはこれにする」


 一通り展示物を見たエリカとリネットは、気に入った工房の陶器を即売会で買い求めていた。

 それを見ていてヴィクトリアも欲しいと思ったのか、


「これ、いいですね」


と、俺の顔を見ながら言ってきた。これは、つまりおねだりしているというわけだ。


 ヴィクトリアもそうだが、エリカとリネットも一緒にいる時は、よく俺にこういう視線を向けてくる。

 彼女たちには十分お金を渡しているはずなのだが、そうやっておねだりしてくるのは、どうやら俺に甘えたい気持ちから来るようだった。

 本当、そういう所はいつまでもかわいらしい嫁ズだ。


「仕方ないな」


 俺は財布を取り出し、エリカたちの分とまとめて支払おうとした。


「ちょっと、待った!」


 と、ここでジャスティスが割り込んできた。


「ヴィクトリア、そのお皿、お兄ちゃんが買ってやろう」


 多分、妹にいい所を見せたいと思って言ったのだと思う。

 それに対して、ヴィクトリアが首をかしげる。


「お皿を買うって……お兄様、無一文ではないですか。無一文なのにどうやってお金払うんですか?とうとう頭の中の筋肉が腐ってしまったんですか?」


 ヴィクトリアが相当ひどいことを言っているが、実際、ジャスティスが無一文なのは事実だ。

 最近、飯食いに行ったり、買い物したりするときにもジャスティスがよくついてくるのだが、奴は無一文なので、俺が全部払っているからな。


 しかし、ヴィクトリアに腐れ脳筋呼ばわりされてもジャスティスは動じない。


「問題ない。はあああ」


 そうやってジャスティスが気合を入れると、ジャスティスの体が光り、何とその手に金貨が出現した。

 さすがシスコンでも優秀な神!こんなことができるとは思っていなかったので、俺は驚いた。


 だが、ヴィクトリアはそれを見て、怒りでぶるぶる震えながらこう言った。


「このバカ兄貴!何ニセ金作っているんですか!神ともあろうものがそんなことをしていいと思っているのですか!」

「いや、偽物ではないぞ。本物と全く同じに作ったし……」

「言い訳無用!というか、本物と同じって、余計悪質です!人におごりたいんなら、働いて稼いで来い!です!」


 哀れ。結局、ジャスティスはヴィクトリアにビンタをもらうのであった。


 さて、そんなトラブルもあったものの、俺たちは展覧会を楽しみ、その後食事をしてから家に帰るのであった。


★★★


「ふむ、大分できるようになったな」


 珍しくジャスティスが俺とリネットのことを褒めてきた。


 何がかって?

 もちろん、『地の行』で学んだことである。


 『地の行』では生命エネルギーについて学んだ。

 『地の行』の修業は目隠しをして座禅を組むことから始まった。


「私の生命エネルギーを感じるのだ」


 ジャスティスは俺たちの背後に立ち、そう言いつつ、自分の生命エネルギーを操ってみせる。

 五感を断つという目隠しをしている俺とリネットは、周囲で何が起きようが最初何も感じる事ができなかった。


 しかし、座禅をして精神を集中させていると、それは見えてきた。

 何だろうか。ジャスティス、いや、ジャスティスだけではない。

 ある時を境に周囲が急にうるさくなった。


 ジャスティスの体内の生命エネルギーの動き、エリカやヴィクトリアがご飯を作っている様子、鳥がさえずる時の喉の動き、木が成長する時の生命エネルギーの動き、それらがすべて感じられるようになった。


「ふ~ん。これが生命エネルギーか」


 音が聞こえていないはずなのに、リネットがそんなことを話したような気もした。

 どうやらリネットも俺と同じようなことができるようになったらしかった。


 ちなみにここまで1週間かかった。

 その間、食事と就寝時以外はずっと座っていたから尻が痛いと思った。


「どうやら、二人とも生命エネルギーを感知することができたようだな」

「「はい」」

「これで五感を戻し、生命エネルギー感知と融合させれば、敵の動きを先読みし、攻めるにしろ、受けるにせよ、より有利に立てるだろう」


 ジャスティスがそう太鼓判を押してくれる。

 武神に褒められて、俺たちは思わずにっこりとした。


「さて、二人とも生命エネルギーを感知できるようになったみたいだし、次はその使用方法を学んでもらおうか」

「使用方法ですか?」

「そうだ。実は生命エネルギーを持つ者は、攻撃や防御の時、無意識に生命エネルギーを使っているのだ」

「そうなのですか」

「ああ、だからそれを意識的にできるようにする。それが『地の行』の修業の終着点だ」


 そこまで言うと、ジャスティスは地面に落ちている石を拾う。

 それを親指と人差し指で握ると、大して力が入っているふうには見えなかったのに、簡単に粉々に粉砕してしまった。


「この通り、生命エネルギーの操作をマスターすればこの程度の芸当はできるようになる。お前たちには、とりあえずこのくらいできるようになってもらう。いいな?」

「「はい」」


 ということで、『地の行』は次のステップに修行の段階が進んだのであった

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