今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第169話~ジャスティスとの修行 地の行~
第169話~ジャスティスとの修行 地の行~
ある日の夜。
「今日も訓練きつかったな」
その日も朝からジャスティスの訓練を受けた俺は疲弊していた。
なので、ヒッグス家の庭に置かれている椅子に座ってのんびりとすることにする。
「ホッルスットさ~ん」
俺がのんびりしていると、ヴィクトリアがやって来た。
俺の隣に座り、椅子越しに抱き着いてくる。
「お前、何だよ」
「えへへ、最近ホルストさんあまり構ってくれないから、来ちゃいました」
「そうか、そういうことなら」
俺はヴィクトリアの頭を撫でてやる。
ヴィクトリアも俺の思いに応えてすり寄って甘えてくる。
顔を俺の腕にくっつけ、頬ずりしてくる。
しばらく頬ずりして満足したのか、ポツリと呟く。
「ところで、ホルストさん。ワタクシのバカ兄貴の訓練は辛くないですか?」
「辛いけど、ためにはなっているかな」
「そうですか。ならいいです」
「なあ、一つ聞きたいんだが、お前の兄ちゃんて昔からあんな感じなのか?」
俺の質問を聞いてヴィクトリアが困った顔になる。
あまり言いたげではない感じでもぞもぞしていたが、やがて意を決したのか口を開く。
「まあ、昔はもうちょっとまともだと思っていたのですが、最近は過保護というか、ちょっとアレですけどね」
「ふーん、そうなんだ。それで、今のお兄さんに対してどう思っている」
「正直言うと、うざいです」
「そうか」
まあ、当然だよな。
俺だって禄でもない妹がいるから気持ちはわかる。
「ホルストさんは迷惑ではないですか?兄が何かしてきたら遠慮なくワタクシに言ってくださいね。すぐにとっちめてやりますので」
「ああ、わかった。そうするよ」
ヴィクトリアにはそう言ったものの、俺はジャスティスが何かしようが告げ口する気はなかった。
男同士のケンカ?のしりぬぐいを自分の女にさせるなど男の恥だからだ。
何かされたら俺は自分で解決するつもりだ。
ただ、それを正直に言うと、ヴィクトリアを心配させてしまう。
だから、一応「わかった」とは言っておいた。
しかし、最近妙に鋭いヴィクトリアにはこれでも気が付かれるかもしれない。
「ヴィクトリア、もうちょっと寄って来いよ」
「はい」
ということで、ヴィクトリアを抱き寄せ、頭をもっと撫でてやることにした。
「気持ちいいです~」
俺に撫でられて気持ちいいのか、ヴィクトリアがうっとりして目を閉じる。
そして、俺の体の上に乗っかってきて、力いっぱいに抱きしめてくるのだ。
そんなヴィクトリアを見て、俺は心底かわいいと思うのだった。
★★★
「ふむ、これなら合格だな」
3日間の『人の行』の訓練を終えた俺とリネットは、ジャスティスと模擬試合をし、ようやく『人の行』について合格をもらえたのだった。
『人の行』の訓練では無駄な動きを徹底的に排除された。
何度も型の稽古と対戦型の模擬練習を繰り返し、無駄な動きがあれば徹底的に矯正された。
それを3日ほど続けた結果。
「うん。2時間もやりあったのに全然疲れてないな」
「本当だね。つい3日前はあおむけになって動けなかったのに」
二人とも初日と同じように2時間ほどみっちりとジャスティスと試合をしたのに、あまり疲れていなかった。
多分、訓練の成果が出て、無駄な動きがそがれたからだと思う。
そんな俺たちを見て、ジャスティスが満足げに頷く。
「弟子一号に、弟子二号。よくやった。ここまでできるなら人の見でお前たちに対抗できる者はそうはいないだろう。だが、これはまだほんの入り口だ。次は応用である『地の行』を受けてもらう。覚悟はいいか?」
「「はい」」
こうして、俺たちは次の修業へと進んだのであった。
★★★
『地の行』の修業が始まった。
「これを身につけろ」
修行の前に俺とリネットはジャスティスからあるものを手渡される。
「これは?」
「見ての通り、目隠しだ」
渡された物は細長い布だった。
確かにジャスティスの言う通り目隠しなのだろうと思う。
「ただし」
「何ですか?」
「ただし、それは単なる目隠しではない。それを身に着けた者は五感を断たれる」
「五感を?」
五感とは視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚の各感覚のことだ。
人間はこれらの感覚器官から得られた情報をもとに行動している。
つまり、これらの情報なしで動け!ジャスティスはそう言っているのだった。
「その通りだ。お前たちには五感を断った状態で戦えるようになってもらう」
「しかし、五感を断った状態では何を頼りに戦えばよいのですか?」
「それはエネルギーだな」
「エネルギー?それは魔力のことですか」
「うむ、いい質問だ」
ジャスティスの顔が真剣になり、厳かに話し始める。
「魔力も感知し、戦いに利用すべき力だが、今回私が教えるものは違う。生命エネルギーだ。他の世界では”気功”とかいう言い方をする者もおる」
「生命エネルギーですか?」
「そうだ。この世のすべてのものは生命エネルギーで動いている。指一本、瞼を開閉するのにも生命エネルギが使われておる。だから、生命エネルギーを理解すれば五感を経ずして相手の動きを知ることができる」
「そんなことが……」
「ふむ、にわかには信じがたいという顔をしているな。ではちょっと実験してみるか」
そう言うと、ジャスティスは自分で目隠しをつける。
「弟子二号。私の背後に立ち、指を立てて見よ。その数を当てて見せよう」
「はい」
ジャスティスに言われて、リネットがジャスティスの背後に立ち、左右の手の指を1本ずつ立ててみる。
「踏む。左右1本ずつで2本だな」
「あ、当たっている、それでは、これは?」
「右手の薬指、中指、人差し指の3本だな」
「当たりだ。では……」
その後もリネットは何度も指を立てて見せるが、ジャスティスはすべて当てて見せた。
「参りました」
それを見た俺とリネットは素直に脱帽するしかなかった。
「わかったか?これが生命エネルギーを感じるということだ。素晴らしい能力だろ?お目たちも身に着けたいと思うだろ?」
「「はいい」」
「うん。いい返事だ。生命エネルギーを感じられるというのはいいぞ。何せこの世のすべてには生命エネルギーが流れているからな。それこそ石のような無機物から、アンデッドまで流れている」
「アンデッド?死んでいるのにですか?」
「そうだ。奴らは生者から生命エネルギーを吸収して動いている場合が多いな。だからアンデッドは生者を襲う。というわけだ」
そこまで言うと、ジャスティスは説明は終わりだという顔になる。
「まあ、話はこの位だな。後は実践あるのみだ。覚悟はいいか?」
こうして俺とリネットの『地の行』の修業はスタートした。
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