第168話~ジャスティスとの修行 人の行 ジャスティスの武術の腕はピカ一だが中身は……~

 何か知らんがヴィクトリアの兄貴のジャスティスに修行をしてもらえることになった。


 ジャスティスは、脳筋な上にシスコンだが、一応武神、武の神だ。

 その腕は確かで、人間ではとても勝てないほどだ。


 武を志す者なら、武の神に修行をしてもらえるとか涙が出るほどうれしいのだろうが、俺はちょっと微妙な気がしている。


 だってヴィクトリアの兄貴だぜ。


 それを聞けば、俺でなくとも嫌な予感がするというものだ。

 とはいえ、折角の機会なので受けてみることにする。


「パトリック、頼むぞ」

「ブヒヒヒン」


 パトリックに乗り、王都の郊外へと移動する。


 馬車にはパーティー全員が乗っている。

 修行対象となるのは、ジャスティスが武の神ということなので、俺とついでにリネットが対象なのだが、


「私も武の神様の修業がどんなものか見てみたいですね」

「もちろん、ワタクシもついて行きます」

「銀も行きます」


 ということで意見が一致したので、全員で行くことにした。


「ホルスター、おばあ様とおとなしく遊んでいてね」

「うん、わかった」


 ホルスターは家でお留守番だ。

 そんなに危険な修行はしないとは思うが、万が一の時に巻き込まないためである。


「さて、行くぞ」


 こうして、俺たちは王都の郊外へと移動した。


★★★


 王都の郊外へ到着した。


 ここは王都から少し離れたところにある小高い丘の上だ。

 結構広い土地で、人里からも離れており、修行をするにはもってこいの場所だった。


「さあ、弟子一号に弟子二号。私の前に並ぶのだ」

「「はい」」


 ジャスティスに言われて、俺とリネットがジャスティスの前に並ぶ。

 ちなみに、弟子一号とは俺、弟子二号とはリネットのことだ。


「それでは今から早速修行を開始するが、言っておくが私の修業は厳しいぞ」

「「覚悟しています」」

「それでは、まずお前たちの実力を見せてもらうぞ。順番にかかってきなさい」

「「はい」」


 まず俺からかかっていく。


「たあ」


 訓練用の刃引きの剣を構えて、ジャスティスに突っ込んでいく。

 ビュッ。

 鋭い斬撃がジャスティスに襲い掛かっていく。


「ふん」


 だが、ジャスティスはほとんど剣が触れるか触れないかくらいの動きで俺の剣を受け流すと、パンと俺の手首を打ち、俺の剣を弾き飛ばした。


 俺は信じられなかった。

 今までだったら、今の一撃を避けられる敵などいなかったのに。


 地団太を踏んで悔しがった。


「さあ、次」

「はい」


 俺の次はリネットの番だった。

 だが、リネットも俺同様あっさりと剣を弾き飛ばされてしまった。


「ふむ」


 俺たち二人の無様な姿を見て、ジャスティスが頷く。


「お前たち、思っていたよりもなかなかいいぞ。だが、お前たち、自分の身体能力に頼り過ぎているぞ。人間にしては上出来な身体能力を持っているがそれだけでは駄目だ。もっと力をうまく使えるようにならなければな」


 そして、手を振り俺たちに立ち上がるように促す。


「よし、訓練を始めるぞ」

「「はい」」


 そして、本格的な訓練が始まる。


★★★


「はあ、はあ」


 数時間後、俺とリネットは地面の上に転がっていた。

 二人とも息を切らして、天を仰いでいた。


「今、回復してあげますね。『体力回復』」


 ヴィクトリアが寄ってきて、俺たちに魔法をかけ、体力を回復してくれる。


「ふう、生き返った」

「助かったよ」


 回復魔法をかけてもらって、俺たちはようやく気力を取り戻し、立ち上がった。


「やれ、やれ、ようやくか」


 それを見てジャスティスがため息をつく。


 というか、こいつ何なの?

 俺たち二人を相手にして一緒に立ち合いの訓練をしてたのに、一人だけピンピンしているとか。

 体力の化け物かよ。


 絶対神の力とか使ってインチキしているだろう。


 俺がそう思っていると、まるで俺の言いたいことを見透かすかのようにこんなことを言った。


「弟子一号。お前、もしかして私が神の力をもってして、インチキしているとか思っているんじゃないか?それは違うぞ。私は今自分の力に制限をかけている。今の私の身体能力はお前たちよりも下だ」


 え?まじで?

 疑わしげに自分のことを見る俺にジャスティスが続ける。


「その目は信じていないな。なら、試してみようか。ヴィクトリア、ちょっと腕相撲してみないか」

「え?腕相撲ですか?まあ、いいですよ」


 ということで、ジャスティスとヴィクトリアが腕相撲をすることになった。


「行きますよ、えい!あら?」


 何とあっさりヴィクトリアが勝ってしまった。

 演技ではないかとも疑ったが、勝負している時のジャスティスの顔は必死そのものだったので、演技しているようには見えなかった。


「ということで、今の私の能力はこんなものだ。だが、この程度の力でも無駄を削ぎ落とせば、お前たち二人でも十分に相手できるのだ」


 ポカンとして腕相撲を見ていた俺たちの前に立ち、ジャスティスがそう言い放つ。


「いいか。よく聞くのだ」

「「はい」」


 自信あり気に俺たちに言うジャスティスの声は神々しく、俺たちはつい気合を入れて返事してしまった。


「武道の真髄は自分の持つ力を最大限に発揮することにある。その気になれば、赤子程度の力でも屈強な戦士を殺すことは可能だ」

「そんなことができるのですか」

「無論可能だ。方法はいくらでもある。その方法を今からお前たちに伝授してやる。覚悟はいいか!」

「「はい」」


 俺たちの返事を聞いて、ジャスティスが大きく頷く。


「よし、いい覚悟だ。3日ほどで仕上げてやろう。辛い修行になるだろうが、耐えて見ろ!」


 それを聞いて、俺たちは驚く。

 え?3日?そんな短期間でそんなことができるのか。


「3日?そんな短期間でそんなことができるのですか?」


 俺が当然の疑問を口にすると、ジャスティスは鼻で笑うように言う。


「当然ではないか。今から私が教えるのは『人じんの行ぎょう』。私の修業は、『人の行』、『地ちの行』、『天てんの行』の三段階になっている。まだ最初だから、この位、3日程度でこなしてもらわなければ困るぞ。それに、3日というのはお前たちの能力を勘案した結果、そのくらいあれば達成できると、私が判断したものだ。お前たちならできるはずだ。頑張れ!」

「「はい」」


 ジャスティスの訓示を受けた俺たちは改めて気合を入れ直すのだった。


★★★


 さて、それでは早速訓練を再開と行きたいところだが。


「みなさん、食事の準備ができましたよ」


 どうやら昼食の準備ができたらしく、エリカが声をかけてきた。


「『腹が減っては戦はできぬ』と言いますし、ご飯にしましょう」


 ヴィクトリアもそう主張するので、一旦訓練は休止し、ご飯の時間になった。


「いただきます」


 今日の昼食はスープパスタだった。

 スープはクリームスープで、魚介類がたっぷりと入っていた。


「うん、うまいな」


 エリカたちの作った料理はおいしかった。

 というか、調理施設の充実していない屋外でよくこれだけ作れると思う。


 そう思って聞くと、


「まあ、屋敷の方で下ごしらえは済ませてきましたので」


エリカは笑いながらそう答えるのだった。


 なるほど、そういう手もあるのか。さすが俺の嫁。

 俺は自分の嫁の手際の良さを心から尊敬するのだった。


「デザートはワタクシが焼いたアップルパイですよ」


 パスタを食べ終わると、デザートが出てきた。

 アップルパイだった。

 リンゴの甘い香りが周囲に漂い、食欲を誘う。


「さて、食べるか」


 そう思いアップルパイに手を伸ばした時、なぜかジャスティスの奴が震えているのに気が付いた。

 何だろうと思ってみていると。


「ヴィクトリア~」


 急に大声で叫び出しやがった。


「お兄様?急に何ですか?そんな大声を出して。身内の恥をさらさないでください」


 そうヴィクトリアに注意されても、どこ吹く風で。


「ヴィクトリア、今日はお兄ちゃんのことを思って、アップルパイを焼いてくれたんだね。ほら、お兄ちゃんがアップルパイを大好きなことを知っていて。本当、かわいい妹だな」


 それを聞いて、ヴィクトリアが困惑した顔になる。


「はぁ~。このバカ兄貴は何を言っているんですかね。おいしそうなリンゴが手に入ったから作っただけの話です。決してお兄様のためではないですよ」

「また、また~。ヴィクトリアはツンデレだな」

「いい加減にしてください!気色悪いです」


 と、兄に絡まれたヴィクトリアは本当に気色悪がるのであった。

 ただ、妹に嫌がられてもジャスティスの奴はニヤニヤと嬉しそうにするのをやめなかった。


 それを見て俺は思った。


 こいつ、能力は妹と違って一流だが、中身はポンコツだな。

 兄妹揃ってどうなんだ。本当。


「ホルストさん、何か今変なこと考えていませんか?」


 そんなことを考えていると、ヴィクトリアにツッコまれてしまった。

 長く付き合ってきたせいか、ヴィクトリアの奴も勘が鋭くなった気がする。


 もちろん、こんなことで尻尾をつかませるわけにいかない。


「別に考えてないよ」


 と、ごまかしておいた。


 こんな感じでジャスティスの訓練は順調に進んでいくのであった。

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