第165話~聖都ヴィラ・セレント~

 俺たちの社交界デビューも終わり、暇になった。


「アリスタ様の神命を果たしに行くのもいいけど、少しくらいはのんびりしようか」


 ということで、王都で少しのんびりすることにした。

 で、今日はエリカ、ヴィクトリア、リネット、銀、ホルスターたちとお出かけすることにした。


 目的地は王都のすぐ隣ヴィラ・セレントという町だ。

 ここは別名聖都とも呼ばれていて、大神殿があり、巨大な主神クリントの像があることで有名だった。


「まあ、おじい様の像とかどうでもいいですが、大神殿は立派な建物らしいので、一度行ってみたいですね」


 とは、ヴィクトリアの言である。

 孫にどうでもいいと言われるクリントこそ哀れである。


 ということで、朝からパトリックを連れ出してきて出発だ。


「おばあちゃんも行きたかったのに」


 エリカのお母さんが行きたそうにしていたが、今日ははずせない用事があるらしく、一緒には行けなかった。


「行ってらっしゃい」


 お母さんに見送られて家を出た。


「ほーら、ホルスター。今日はパパが高い、高いしてやるからな」

「パパ、大好き」


 馬車の中では俺がホルスターと遊んだ。

 たまには相手にしてやらないと、顔を忘れられそうだからな。

 遊べるときは精いっぱい遊んでおくことにする。


 一方、女性陣はブラックジャックに夢中だ。


「私は20ですね」

「ワタクシは19です」

「げ、23だ。やってしまった」

「銀は21です。銀の勝ちです。このクッキーは銀の物です」


 お菓子をかけて4人で楽しそうにしていた。


 知っていると思うが、ブラックジャックはカードを複数枚引いて合計の数字が21に近いものが勝者となるゲームだ。なお、21を超えた場合は即ゲームオーバーとなる。

 カジノなんかでも大人気のゲームだ。


 カジノの場合だと、複数のトランプを混ぜて1セットとして使用している場合が多い。

 そして、一度出たカードはトランプのセットを交換するまで二度とつかわれない。

 だから、これを利用して、出たカードを覚えておいて、勝率が高くなった時に掛け金を上げて大きく儲けるというカウンティングという手法もあったりする。

 ただ、カウンティングは禁止されているカジノもあるので、やる時は注意が必要だ。


 もちろん、うちは家族で楽しむためにやっているので、トランプは1セットしか使用していないし、毎回シャッフルしている。


 さて、今回無事お菓子を勝ち取った銀だが、


「ホルスターちゃん、銀お姉ちゃんのクッキー半分食べる?」

「うん、食べる」


何と、自分のクッキーをホルスターに分けてやっていた。


 まあ、銀の主人のヴィクトリアも最近はよく皆にお菓子を分けたりしているから、それを真似たのであろうか?

 まあ、なんにせよ良い傾向だと思う。


「ホルスターちゃん、おいしい?」

「うん、おいしい」


 そうやって仲良くしている二人を見ているとほほえましくなる。


「着きましたよ」


 そうやって、馬車の中の様子を楽しそうに見ているうちに外から声がかかった。

 どうやら、聖都に到着したようだ。


★★★


 聖都はいたって普通の町だった。


 大神殿以外は。


 聖都の町並みは門前町といった感じで、巡礼者や一般参拝者用の宿屋やお食事処、土産物屋といった店が多く並んでいた。


「後、神官さんが多い感じですね」


 それと、ヴィクトリアの言う通り神殿の神官が多いようだ。

 まあ、考えれば当たり前だ。

 ここは聖職者の修業の中心地でもあるのだから。


 ただ、そんな表面的には普通の町でも一際目立つのが大神殿だ。


「うん、噂通りだね」


 リネットの言葉通り、大神殿は素晴らしい出来だった。

 王宮と同じように白亜の大理石で飾られており、それに施された彫刻は王宮のそれよりも細かく美しかった。

 窓もすべてが色とりどりのステンドグラスで覆われており、光が反射してとてもきれいに輝いて見えた。


「じゃあ、中へ入ってみるか」


 早速中へ入ってみることにする。


 まず、入り口の寄進所へ行く。

 ここは大神殿への寄付を受けつけている場所だ。

 大神殿の中の大聖堂へは入場希望者が多く、入場は抽選制だという話だが、ここで多額の寄付を行うと、優先的に入れてくれるという話だ。


 聖職者を名乗る割には金に汚いという気もするが、これだけの大神殿を維持するには金がかかるのも事実だ。

 だから大口の寄付をしてくれる人たちを優先するのも仕方がないのかもしれない。


「こちらが寄付の受付ですか?」

「左様でございます」

「実は寄付をしたいのですが」

「それでは、こちらに記帳してください」

「わかりました」


 俺は代表として自分の名前を記入し、お布施として金貨10枚を渡す。

 受付の人が目を丸くして驚いた顔になる。


「金貨10枚?こんなに寄付していただけるので?」

「何、自分の分だけではなく家族の分込みですので。ところで、大聖堂へ入るにはどちらへ行けばよろしいですか?」

「それなら、そちらの入り口からどうぞ」

「抽選とかあると聞きましたが」

「そんなもの私の職権でどうにでもなりますので、どうぞお入りください」


 やはり、噂は本当だった。


「それでは入らせてもらいます」


 こうして俺たちは大聖堂へと入っていった。


★★★


「旦那様、この神々の像は素晴らしいですね」


 大聖堂に入った俺たちは居並ぶ神々の像に圧倒された。

 大聖堂の一番奥には主神クリントの像が設置されており、その左右を主だった神々の像が立ち並んでいた。

 どれも大きく彫刻も細かく、立派なものばかりだ。


「いいね。こんなに立派な神像は初めて見たよ」

「きれいな像ですね。銀も見れて満足です」


 他のみんなも像を見られて満足げだ。


 ただ、一人を除いては。


「まあまあ、似てますね」


 もちろん、満足していないのはヴィクトリアだ。

 満足していないというか、興味がないという感じだ。


 まあ、それもそうだろう。

 ヴィクトリアはここにある神々のほとんどに実際に会ったことがあるだろうから。


 まあ、実際の神々を見知っているヴィクトリアが神像を見ても、知り合いの写真を見せられている感じで大して感慨がわかないのだと思う。


「あ、そうだ。いいことを思いつきました」


 と、ここでヴィクトリアが何か思いついたようだ。

 俺たちの方へ近づいてきた。


「折角ですから、ワタクシの家族紹介をしておきますね」

「家族紹介って……お前、あの石像でか?」

「だって、本人居ないですし」

「それに人に聞かれたらどうするんだ」

「大丈夫です。エリカさんに『陰話』の魔法をかけてもらえば、他に聞こえたりしませんよ」


 こいつは……。


 そう俺は思ったが、よく考えたら俺の嫁3人のうちこいつだけ両親に挨拶していない。

 こいつの両親だけ会いたくても簡単に会えない場所にいるから仕方がないのだが、俺的には気になってはいた。


 ということなら、ここでヴィクトリアの話を聞いてこいつの家族構成を聞いておくのも悪くないと思った。


「わかった。そういうことなら聞かせてくれ」

「ラジャーです」


 ということで、大神殿に飾られている神像を使ってヴィクトリアの家族について聞くことになった。

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