第163話~国王謁見~

 エリカのお父さんが国王陛下に謁見する日がやって来た。

 その日は朝から王都のヒッグス家屋敷は大忙しだった。


「忙しい。とにかく忙しい。猫の手も借りたいくらいだ」


 そう言いながら、屋敷のメイドや執事が朝から駆けずり回っていた。

 もっとも、駆けずりまわっているのは、何も彼らだけではない。


「旦那様、国王陛下に正式に謁見するのですから、ビシッと決めてくださいね」

「ホルストさん、ワタクシたちにカッコいいところ見せて下さい」

「アタシもホルスト君のカッコいいところ見たい」


 俺も朝からエリカたち3人に服装やら髪形やらをいじくりまわされている。


「もう、こんなものでいいんじゃないか」


 鏡を見ながら俺がそう言っても、


「服のここに小さなしわがありますね。ワタクシがアイロンをかけてあげます」

「旦那様、御髪はもうちょっと整髪料を使った方が決まると思いますよ」

「ホルスト君、持っていく杖に汚れがちょっとついているから、アタシが磨いてあげるよ」


と、事細かなところまで指摘してきて、中々支度が終わらないのだ。


 『船頭多くして、船山へ登る』とか言うが、奥さんが3人もいると、出かける時の恰好一つでっこんなにも苦労するんだなと思った。


 ちなみに、エリカたち3人も気合の入った格好をしている。

 俺よりも大分早く起きて、朝から風呂に入ったり、服や髪形を整えたりと、メイドたちを動員して大忙しだ。


 確か、今日の謁見では彼女たちの出番はなかったはずだ。

 一応、控室まで同道の予定だったが、そこまで行くだけでこの気合の入れようだ。


 今度ワイトさんの招待で、公爵家主催の舞踏会へ出席する予定だが、今の段階でこの騒ぎなら、舞踏会の時にはどれだけの大騒動になるか、今から心配である。


「うん、これなら国王陛下の前へ出ても問題ないですね」


 小一時間ほどいじくりまわされて、ようやく女性陣の許可が出た。

 さて、準備もできたことだし、王宮へ行くとしようか。


★★★


「王宮の中まで真っ白だな」


 王宮の中へ入った俺は感心した。

 というのも、王宮の外観のみならず、中まで大理石できっちりと飾り付けられていたからだ。

 しかもきっちりと毎日磨かれているのだろう。

 窓から差し込んでくる太陽の光を浴びて、光り輝いていた。


 それら素晴らしい建築物を見ながら王宮の廊下を歩いて行くと、


「こちらで、ございます」


王宮の侍従の案内で控室に通された。

 そこで最後の身支度を整えると、


「旦那様、頑張って来てくださいね」


最後にエリカたちから励ましの言葉をもらい、


「それじゃあ、行ってくるよ」


と、いざ謁見の間へと出発するのであった。


★★★


 謁見の儀式自体はそんなに長いものではなかった。


「我が剣は王家と王国に尽くすためにあり。末代までの忠誠を誓います」


 膝をつきながらお父さんが国王陛下にそう忠誠を誓い、


「トーマス・ヒッグスよ、大儀であった。そなたに家督の相続を認める。これからも王家と王国のために尽くすがよい」


国王陛下にそう声をかけてもらい大体終わりである。


「うむ、それでは参内への褒美として、褒美を授けよう」


 そして、最後に参内のへの褒美として褒美の品がもらえるのだ。

 儀典官が前へ進み出て、お父さんに褒美を渡す。


 聞くところによると、儀式用お特別に作られた金貨を数枚もらえるらしかった。


「ありがたき幸せ」


 お父さんが恭しく褒美の品を受け取る。


「お供の方たちにも」


 お父さんに褒美を渡した後は別の儀典官が俺たちお供にも褒美を渡してくる。

 実は相続の儀式の挨拶ではお供の者にも褒美をもらえるのだ。


 後で確認したら金貨一枚だった。

 これを細かな装飾が施された木箱に入れた状態でもらえた。


「ありがたき幸せ」


 もちろん、俺をはじめお供の連中も恭しく褒美を押し頂く。

 これで、儀式は終了だ。


「それでは失礼いたします」


 最後にお父さんが挨拶して謁見の間を退室する。

 これにて、相続の儀式、終了である。


★★★


「ホルストよ。久しいのう」


 お父さんの謁見が終わってから1時間後。


 俺たちのパーティーはなぜか応接の間で、国王陛下と面会していた。

 というのも、国王陛下が俺たちにどうしても会いたいとおっしゃられたそうで、急遽面談となったわけだ。


 もちろん正式な謁見というわけではないので、部屋にいる兵士や役人の数も少なく、アットホームというか、のんびりとした雰囲気であった。


「こちらこそお久しぶりでございます」


 国王陛下に挨拶されたので、俺たちも挨拶し返す。


「うむ、そうか。あの時は世話になったな」


 あの時。

 ノースフォートレスの町で悪魔から国王陛下を守ったときのことだろう。


「いえ、もったいないお言葉。自分は王国民として当然ことをしたまででございます」

「いや、あの時そなたらがいなかったら、今頃余はここにいることはできなかったであろう。感謝する」


 そう言うと、国王陛下が感謝の意を込めて頭を下げてくる。

 前も頭を下げてもらったからもういいのにと思ったが、こうなったら仕方ない。


「いえ、どういたしまして」


 俺たちもそうやって頭を下げた。


「ところで、そなたたちをここに呼び寄せたのは他でもない。以前、そなたらに与えようとした『輝きの宝珠』を強奪して遁走した騎士がいただろう?」


 『輝きの宝珠』

 確か王国武術大会の優勝景品として俺たちがもらえるはずだった宝石だ。

 俺の記憶では『輝きの宝珠』は聖石だったはずだ。


 聖石は俺たちもいくつか持っていて、魔力を貯蔵して置けることから、俺たちは魔力タンク代わりに使っていた。


「ああ、そういうこともありましたね。何か進展でもありましたか?」

「うむ、実はな」


 そこまで言うと、国王陛下が周囲に目配せする。

 すると、潮が引いたように、周囲の家臣たちが退室し、部屋には俺たちと国王陛下だけになった。


「実は、件の騎士を裏で操っていた組織が判明したのだ」

「そうなのですか。何という組織ですか?」

「うむ。『神聖同盟』という組織じゃ」

「え?」


 まさかここで奴らの名前が出てくると思っていなかった俺は、驚きを隠せなかった。


★★★


「神聖同盟ですか」

「うむ、そうだ。王国で調べたところによると、悪の秘密結社だという話だが、詳しい情報はわかっておらぬ。のう、ホルストよ。そなたほどの者なら何か情報を持っておらぬか?」


 俺はどうしようかと迷った。

 何をかって?

 もちろん、神聖同盟について知っていることを国王陛下に話すかどうかだ。


 しばらく熟考する。

 そして、決断する。


 ここは話しておくべきだと。

 これは世界が滅びるかどうかの問題なのだ。

 ならばなるべく信頼できる人には教え、助力を仰ぐべきだ。


 で、俺は国王陛下は信頼に足る人物だと思った。

 目を見ればなんとなくわかる。この人の目は世界の危機について話せば協力してくれる人の目だ。俺はそう判断した。


「ええ、存じております。というか、奴らとは何度か戦いました」

「なに?それは、まことか?」

「はい。奴らの目的はこの世界に封じられた邪悪な存在を復活させることです」

「邪悪な存在?」

「はい、古の邪神です。多分復活すればこの世界が滅ぶんじゃないかと、自分は思っています」

「古の邪神?なぜそのようなことをそなたらが知っておる?」

「実は女神アリスタ様に依頼されました。邪神の復活を阻止してほしいと。神聖同盟の話もアリスタ様から聞きました」

「女神アリスタ様?」


 俺の発言を聞いて国王陛下が黙り込む。


 当然だろう。

 女神だの古の邪神だと急に言われても、話が飛躍しすぎていて簡単に信じられるものではない。

 だから、俺は証拠を出すことにする。


「ヴィクトリア、魔力タンクを出せ」

「はい」


 俺はヴィクトリアに言って魔力タンクこと聖石を出させた。


「これをご覧ください」

「これは……聖石か?」

「はい。奴らはこれを邪悪な意思で染めて、古代の邪神の封印を守っている神獣たちを狂わせて封印を解こうとしています。自分たちは封印を解こうとしていた神聖同盟の連中と戦い、2度ほど撃退しております。この聖石は、その時に手に入れたものです」

「何とそのようなことが……となると、『輝きの宝珠』も」

「盗んで行ったのが神聖同盟の連中なら、同じ目的のために使うつもりだと思われます」

「なるほど、にわかには信じられぬことだが、そなたの話を聞いて合点がいった。辻褄が合い過ぎている。わかった。余もそなたらに全面的に協力するとしよう」

「ありがとうございます」

「うむ。何か困ったことがあれば何でも言うがよい」


 これで、国王陛下との話し合いは終わった。


 話の分かる王様で正直助かった。

 これで、俺たちは神命遂行に一歩近づいたというわけだ。


 その後は、どういう協力をしてもらえるかの打ち合わせをしてから帰った。

 今日は本当に有意義な一日だったと思う。

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