第159話~王都への旅1 大名行列?~

 俺たちがデートをしたり幽霊退治をしている間にもヒッグス家では着々と王都へ行く準備を進めていた。

 王都へ行くにあたっては千人規模の随行員を同行させるつもりのだった。


「普段、王都に行く時はここまでの人数を連れて行かないんだが、今回は当主就任の返礼という特別な行事のためだからね。こういう時はどこの家でも、家の威信を示すためにもできるだけ多くの人数を引き連れて挨拶に行くんだよ」


 エリカのお父さんは笑いながら俺に大人数で行く理由を教えてくれた。


「まるで、大名行列ですね」


 ヴィクトリアがまた変なことを言っていた。

 というか、大名って何よ。


「大名というのは異世界の領主のことですね。毎年、派手な行列を仕立てて将軍様の所に行くのが仕事ですね」


 領主の仕事が将軍様?とやらの所に行くこと?

 領地の経営とかどうなってんだ。

 というか、将軍って軍の指揮官だよな。何で領主が将軍に会いに行くんだ?

 戦争の打ち合わせでもするのか?


 正直意味が分からなかった。


 こいつ、絶対何か勘違いしていると思ったが、口には出さないでおくことにする。

 ここで変なことを言って冷たい態度を取られるのも嫌だからな。


 まあ、いいや。

 とにかく、ヒッグス家ではこのように万全の態勢を整えているので、俺たちは出発までの間待つだけであった。


★★★


 ということで、王都へ向けt出発する日が来た。


「リネットさん、今日はステキなお召し物ですね」

「ヴィクトリアちゃんも今日はとてもきれいじゃないか」


 今日はヴィクトリアもリネットもめかしこんでいる。

 というか、二人だけでなくエリカも銀も俺もいい服を着ている。

 なぜ今日皆がこんな格好をしているのか。


「ホルスト君、今日はできるだけ目立つ格好をしてくれないか」


 エリカのお父さんにそう頼まれたからだ。


「ほら、今回はヒッグス家の威信を示すためにも、できるだけ目立たなければならないからね。うちの騎士とか馬車とか、全員着飾っているのはそのためなんだ」


 という理屈らしかった。

 だから、うちの馬車も今回派手に飾りをつけられているし、俺たちも目立つ格好をして領民たちへ手を振るなりしてアピールしてくれということらしい。


「それじゃあ、行くぞ」

「「「はい」」」


 時間が来たので馬車に乗り込む。

 うちの馬車に乗るのは俺、エリカ、ヴィクトリア、リネットだ。

 御者はエリカのお父さんが騎士団の子を手配してくれたので、俺たちはのんびりと乗っていればいいというわけだ。


 ちなみにホルスターと銀はエリカのお父さんとお母さんの乗る馬車に乗っている。


「ホルスターは僕たちの馬車に乗せてもいいかな?」


 そうお父さんが頼んできたからだ。

 よほどホルスターのことがかわいくて、一緒に居たいのだろうとうかがえる。

 もちろん、俺とエリカに異存はない。


「お願いします」


 と、お父さんたち預けることにした。

 なお、銀まであっちの馬車へ行ったのは、


「銀姉ちゃんと一緒がいい」


と、ホルスターが言ったからだ。


 という事情で、俺たちだけで一台馬車を使っているわけだ。

 さて、俺たちが馬車に乗り込んですぐに行列は出発する。


 行列の先頭に立つのは、派手に着飾ったヒッグス家の誇る魔法騎士団の騎士だ。

 ヒッグス家の旗を両手で抱え、堂々と行進している。


 その後には騎乗の騎士が幾人か続き、その後に歩兵、弓兵の部隊が続いている。

 その後ろには前衛の部隊を統率する魔法騎士団長、要は俺のくそオヤジの乗った馬車が続き、さらに黒虎、白薔薇の魔法使いの部隊が続いている。


 その後に、ようやくエリカのお父さんやお兄さん、俺たちの馬車だ。


「領主様、万歳!」


 この行列を見物するために、ヒッグスタウンはもちろん、周囲の町や村からもたくさんの見物人が集まって来ている。

 それらの人々で街道沿いはあふれていた。

 そういう人たちに対してお父さんたちのみならず、俺たちも手を振って応えている。


「こうやって、手を振るだけなのに、結構大変ですね」


 手を振るのに疲れてきたヴィクトリアが愚痴るが、エリカがそれをたしなめる。


「ダメですよ、ヴィクトリアさん。あなた、旦那様の奥さんの一人になるんでしょ?だったら、これから先もこういう機会はごまんと訪れますよ。だから、このくらいで音を上げている暇はないですよ。頑張りなさい」

「は~い。頑張ります」


 エリカに言われたヴィクトリアはそれからも民衆の列が絶えるまで、手を振るのであった。


★★★


 それから2時間ほど後。


「よし、一旦小休止だ」


 休憩のために行列が止まった。


「さあ、飯の時間だ」


 全員が出発前に支給された弁当を取り出し、仲間同士で寄り添いながら弁当を食べ始める。

 俺たちも馬車を出て、エリカのお父さんたちと合流し、天幕を張って、そこで食事をとる。


 俺たちの食事は屋敷からついてきた料理人たちが一から作っていく。

 トントン。

 ジュー。

 材料を切ったり、肉を焼いたりする音が天幕中に響き、肉の焼けるいい匂いが天幕中に広がる。


「うわー、早く食べたいです」


 お腹が空いて待ちきれないヴィクトリアなど、子供のように、貧乏ゆすりをしながら、食事ができるのを今か今かと待ちわびているくらいだ。


 ところで、なぜ俺たちの食事が弁当ではなく、いちいちこうやって作っているのかと疑問に思う事だろうと思う。


 ただ、これにはれっきとした理由がある。

 それも2つだ。


 一つはお父さんの権威を家臣たちに示すためだ。

 行列に参加している家臣たちよりも良いものを食うことで、家臣たちに自分の権威を示しているというわけだ。


 もう一つは、家臣たちの休憩時間を確保するためだ。

 この行列においては、結構な人数の者が徒歩で移動している。

 特に騎士などは重い鎧を着ているし、魔法使いの部隊も正装で移動しているので結構体力を使う。

 だから、お父さんや俺たちが長い時間を食事にかけることによって、それらの人たちが少しでも休めるように配慮しているのだ。


 実際。


「ぐうぐう」

「すやすや」


 弁当を食べ終わった行列の連中の中には木陰でそうやって午睡している連中の姿も確認できた。

 もちろん、それを誰も咎めたりしない。

 むしろ、休むのを奨励、いや命令しているくらいだ。


「休めという命令が出ている時に休まないのは、突撃という命令が出ている時に突撃しないのと同じことだぞ」


 俺は上級学校で軍事訓練を受けている時にそう習った。

 その言葉通り、今の所歩哨以外は休憩ムードだ。

 さすが当主の旅に同行するような精鋭だけあって、訓令が行き届いていると思った。


 さて、それはともかく食事だ。


「今日のお昼ご飯はお肉ですか。いただきます」


 出てきた食事にヴィクトリアが早速がっつく。

 一人バクバク食い、あげくに、


「おかわりください」


遠慮くなくおかわりまで要求しやがった。


「お前、少しは遠慮しろよ。エリカのお父さんの目の前だぞ」


 呆れた俺がたしなめるが、


「だって、お腹空いたんですもの」


と、ヴィクトリアはどこ吹く風だった。

 ただ、エリカのお父さんはそれを見て笑っている。


「いいじゃないか、ホルスト君。彼女は君の側室になるんだろ?だったら、よく食べる女の子の方が元気な子を産んでくれそうでいいじゃないか」

「はあ」

「さすが、エリカさんのお父さん。よくわかっていらっしゃいます」


 あ、こいつ、お父さんの許しを得たと思って調子に乗りやがった。


 まあ、いい。

 これがヴィクトリアだ。こんなのに惚れてしまった俺が悪い。

 受け入れるとしよう。

 それに飯食っていた方がヴィクトリアはかわいいしな。


 ということで、それ以上は文句を言わず、俺は黙って飯を食ったのだった。


★★★


 食事が終わった。

 行列が移動を再開する。


 最初の宿泊予定地の町まではあと数時間くらいらしい。

 それまではのんびり旅を楽しむことにしよう。


 この時の俺は知らなかった。

 エリカたちが最初の宿泊地で、俺のために一大イベントを用意していることを。

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