第158話~新品の杖と幽霊屋敷 後編~
「ふふふ。今回はワタクシの活躍の場のようですね」
幽霊屋敷に入って早々、ヴィクトリアが張り切っている。
まあ、幽霊といえばヴィクトリアの得意分野だからな。
希望の遺跡の幽霊の多かった階層でも活躍してたし、新品の杖も手に入ったことだし、ここはいいところを見せたいという気持ちはわかる。
ただ、活躍したいからと言って拙速な行動は禁物だ。
俺はヴィクトリアの肩をポンとたたいてやる。
「ひゃ!ホルストさん、いきなり何をするんですか!」
急に肩をたたかれて驚いたヴィクトリアが、顔を真っ赤にしながら噛みついてくる。
うん、最近積極的だったくせに、このくらいの体の接触で恥ずかしそうにするとは……。
こいつ、初々しくてかわいいな。
ますます惚れてしまいそうだ。
……と、今はヴィクトリアを愛でている場合ではない。
「この位で、何を慌てているんだ。今から敵地に乗り込むんだから、気合入れろよ」
「うー」
ヴィクトリアは何か言いたそうに俺のことを見てきたが、俺の正論に言い返せず、うーと低くうなるだけだった。
「それよりも、旦那様。さっさと行きますよ」
「ああ、そうだな」
ということで、俺たちは建物の入り口の扉を開け、中へ入っていくのだった。
★★★
「結構中は広いんだね」
リネットの言う通り、建物の中は広かった。
ギルドに聞いてきた話によると、ここはどこかの貴族の別荘だったらしい。
それで、その主だった貴族は傍若無人なやつだったらしく、気に入らないと言っては、よく家臣たちを手討ちにしていたらしい。
「それで、最期は家臣に殺されたらしいですね。怖い話です」
「本当だな。世の中にはとんでもない奴がいるものだな」
本当にそうだ。自業自得とはいえ、最期は家臣に謀反を起こされて殺されるとか。本当ろくでもないやつだ。
「で、死後、その貴族は悪霊になってこの屋敷に君臨していると」
「そういうことです」
本当に死んでからも碌なことをしない。
俺はその貴族に呆れるしかなかった。
「まあ、いいや。それよりも中を探索するぞ」
「はい、旦那様」
いつまでも愚痴っていても仕方ないので、行動を開始する。
「銀ちゃんも探索に協力してね」
「はい、エリカ様」
エリカの指示でエリカと銀が魔法と妖術を使って屋敷内の探索を開始する。
「さすがベヒモスの杖ですね。魔法の精度が段違いですね」
「銀も、新しい杖のおかげで普段より妖術がさえているような気がします」
どうやら新しい杖の調子はいいようで、二人とも順調に探索を進められているようだ。
「ヴィクトリア様、あそこの扉の裏側……」
早速銀が何か発見したようだ。
「『神強化』」
俺も魔法を起動して、『神眼』で銀の言う方を見る。
「確かに何かいるな」
銀の言う通り扉の裏側から邪悪な気配を感じる。
俺はヴィクトリアに命令する。
「やれ!」
「ラジャーです。『聖光』」
俺の指示でヴィクトリアが『聖光』の魔法を唱える。
聖なる光が扉を照らす。
「ぎゃあああ」
たちまち断末魔の悲鳴が聞こえてきて、悪霊が一匹昇天していくさまが確認される。
「ふふふ、さすがベヒモスの杖ですね。この程度の悪霊など一発でしたね」
悪霊を吹き飛ばしたヴィクトリアが喜んでいるが、俺は首をかしげる。
「ふむ、ヴィクトリアの魔法一発で簡単に消滅するとは……ここの主にしては弱いな」
「多分斥候じゃないかな」
「こちらの様子を探りに来たというわけか」
俺もリネットの言う通りだと思う。
目の前に現れた悪霊はここのボスの先兵に過ぎないだろうと思う。
「さあ、気合を引き締めていくぞ」
「「「「はい」」」」
俺たちはさらに屋敷の奥へと向かうのだった。
★★★
屋敷の奥へ向かうと、リビングにたどり着いた。
「ここまで大した敵は現れなかったな」
入り口で一体悪霊を叩き潰した後も、何匹か悪霊を倒してきたが、いずれも大した相手ではなかった。
「どれも悪霊としては雑魚ですね。多分、この屋敷のボスが屋敷の周囲を徘徊していた霊をその力で取り込んで子分にしたのだと思います」
今まで倒した悪霊について、ヴィクトリアがそう分析した。
強い悪霊がいた場合、周囲をさまよう霊たちを呼びよせて自分の配下にして霊団を結成する。
割とよくある話らしかった。
「しかし、ここは埃っぽいね」
リネットが愚痴る。
このリビングのことだ。
「まあ、悪霊が棲みつくようになって、10年くらい経っているらしいからな。その間、誰も掃除とかしていないんだったら、埃くらい溜まるさ」
「ところで、ホルストさん。あれなんですかね」
ここで、ヴィクトリアがあるものを発見する。
それは、壁にかけられた絵?だった。
ただ、埃をかぶっていて何が描かれているかはわからなかった。
「『天風』」
魔法で絵を覆っている埃を吹き飛ばしてみる。
「貴族の絵?ここの屋敷の主人ですかね」
すると、絵を覆っていた埃が取れ、描かれていた貴族の絵が現れた。
ただ、この時俺たちはこの絵に対して特に感慨を持たなかった。
というのも、貴族の屋敷にその主人の絵が飾ってあることなど珍しくもなんともないからだ。
だから、この絵を無視して先へ進もうとした。
「ここには他に何もないようだし、次行くか」
俺たちはそうやってリビングから出ようとした。
その時だった。
★★★
ピカン。
肖像画に描かれている人物の目が怪しく光った。
それと同時に。
「何だ?」
部屋中のいすや机、その他家具が一斉に動き出し俺たちに襲いかかってきた。
「ポルターガイストですね」
ポルターガイスト。
悪霊が物体を操って生者を攻撃してくる現象だ。
「ホルスト君」
「ええ、わかってます」
俺とリネットが素早く動き、迫ってくる家具や調度品を次々に叩き落していく。
だが。
「なに?」
しかし、叩き落したはずの調度品や家具が、今度はばらばらになって壊れたままの状態で再び襲い掛かってくる。
「ダメです。旦那様。襲ってくる物体をいくらたたいても無駄です。操っている本体の方をたたかないと」
「本体って、どれだよ」
「……多分、あの絵です。この部屋の物体の中であれだけなぜか魔力の波動を感じません。多分、『魔力隠蔽』の魔法がかかっています。ヴィクトリアさん」
「ラジャーです。『聖光』」
ヴィクトリアが絵に向かって聖属性の魔法を使用する。
「ぎゃあああ」
絵から断末魔の絶叫が響き渡り、絵に取りついた魂だろうか、何かが蒸発するのが確認できた。
それと同時に、活発に動き回っていた家具や調度品がポトンと地面に落ち、ピタリと動かなくなった。
「これで、終わりかな」
「いや、まだだと思います。まだこの屋敷を覆う瘴気は完全には消えていません」
「それじゃあ、次行くか」
ポルターガイストを引き起こしていた悪霊を滅ぼした俺たちはさらに奥へと進むのだった。
★★★
「ここが屋敷の一番奥ですね」
ようやく屋敷の一番奥へと到着した。
屋敷の一番奥は屋敷の主人の書斎だったみたいだ。
本棚や机が部屋の中に並べられている。
「さて、どうすべきかと、普通なら思うんだけど、あれ、怪しいよな」
そう言いつつ、俺が指さしたのは、部屋の隅に飾られている銅像だった。
さっきの絵の肖像と似ているから、多分、この屋敷の主人だったバカ貴族の銅像だと思われる。
「エリカ、調べろ!」
「はい、旦那様」
俺の指示でエリカが銅像を調べようとした。
だが。
「ホルストさん。どうやら調べる必要もないみたいですね」
エリカが調べようとした銅像の目が怪しく光ったと思ったら、突然動き始めたのだった。
それに反応して、俺たちはすぐに武器を構える。
「『聖光』」
とりあえずヴィクトリアが聖属性魔法で攻撃する。しかし。
「あれ?効いてないです」
『聖光』の魔法では銅像にダメージを与えられなかった。
「どういうことだ?」
訳が分からなかったが、それはそれ。
銅像が襲い掛かってきたので、迎撃する。
カン、カン。
剣と剣のぶつかり合う音が部屋の中に響き渡る。
肝心の銅像の実力はというと……正直大したことはない。
腕を斬り飛ばそうと思えば簡単にできた。
「ち、こいつも再生タイプか」
しかし、この銅像もいつか戦った石造の怪物のように腕を切り落としてもすぐに再生してしまうタイプであった。
ただ、こういうタイプは弱点も同じだと思う。
「エリカ!」
「はい、旦那様。こいつのコアは心臓の位置にあります」
それを聞いた俺は銅像の心臓を一突きにする。
銅像の表面が削れ、コアが露わになるが、なぜかコアは砕けなかった。
それを見て、エリカがこう分析する。
「旦那様。この石像のコアから邪悪な意思を感じます。多分、あのコアに悪霊の本体が取り付いています。ヴィクトリアさん」
「はい。『聖光』」
ヴィクトリアが石像のコアめがけて『聖光』の魔法を放つ。
「ぎゃあああああ」
コアに命中した魔法がコアに取りついた悪霊に命中し、悪霊が断末魔の絶叫をあげる。
「この屋敷を支配していた悪霊の最期だな」
悪霊はそのまま昇天し、跡形もなく消えてなくなる。
それと同時に銅像はぴたりと動かなくなり、屋敷を覆っていた邪悪な雰囲気も雲散霧消した。
「さて、悪霊も退治したことだし、帰るか」
「「「「はい」」」」」
悪霊を退治した俺たちは屋敷を出るのだった。
★★★
屋敷を出た後はギルドに報告に行き、その後飲み会となった。
というか、俺たち敵には報告したら帰る気だったのだが、
「よお、ドラゴンのお。久しぶりだな」
と、冒険者仲間のフォックスたちに捕まり、そのまま飲み会となったのだ。
「かんぱ~い」
その時ギルドにいた知り合い連中も誘い、ギルドの酒場で飲み会となった。
「マスター、ジャンジャン酒や料理を持って来てくれ」
「畏まりました」
こうなればやけくそなので、俺のおごりで朝まで飲むことにした。
「へえ、今度王都へ行くのか」
「ええ、嫁さんのお父さんのお供で」
「そうなのか。じゃあ、あの噂を聞いたか」
「噂?」
「王都で起きている連続怪死事件の話だ」
「怪死事件?」
「ああ。最近王都では殺人事件が多発しているらしい」
「ふーん。そうなんですか」
「しかも、その死に方が普通ではないらしい」
ここでフォックスの声が少し小さくなる。
どうやら、この先はあまり大っぴらにできるような話ではないらしかった。
「どう普通ではないんですか?」
「それが、血がないらしい」
「血?」
「全身から血を抜かれて死んでいるらしい」
「それって、どういう……」
「わからんが、王都へ行くのなら気を付けとけよ」
この話を聞いて、俺は今日飲み会をして正解だったと思った。
まあ、その殺人事件の犯人が俺たちにどうにかできるとも思えないが、心にとどめて、気を付けておこうと思う。
その後も飲み会はつつがなく進み、結局朝まで飲み明かし、朝になってからエリカの実家に帰ったのだった。
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