第157話~新品の杖と幽霊屋敷 前編~

 以前注文していたエリカの杖とローブ、ヴィクトリアの杖が完成したとの連絡が来たので取りに行くことになった。

 行先はヒッグス家の所有する魔道具工房だ。


「わー、すごく楽しみです」


 すでに行く前からヴィクトリアはうきうきであった。


 その気持ちはよくわかる。

 俺は自分の腰の愛剣クリーガを見る。

 俺もクリーガを受け取ったときはメチャクチャうれしかったからな。

 きっと、今のエリカとヴィクトリアも同じ気持ちなのだと、容易に想像できた。


 さて、魔道具工房へ行くために準備をしないとな。


「パトリック、頼むぞ」

「ブヒヒヒヒン」


 まず、馬車の用意をする。


「エリカさん、どうですかね。この服」

「ええ、いいと思いますよ」


 服もよそ行きのに着替える。


「旦那様、準備が整いました」

「よし、行くぞ」


 ということで、俺たちは魔道具工房に向かったのだった。


★★★


「うん、これはいいですね」


 ベヒモスの杖とローブを受け取ったエリカは、早速ローブを着て、満面の笑みを浮かべながらベヒモスの杖を頬ずりしていた。


「ああ、この黒い光の光沢、最高です」


 ヴィクトリアも頬ずりこそしないが、先ほどから何度も杖を触ってうれしそうな顔をしている。


 というか、お前らって杖とかにそんなに執着する奴らだっけ?

 まあ、俺もリネットも暇があれば自分の武器や防具の手入れを欠かさないから、人のことをどうこう言えた身ではないけどな。


「ほほほ、気に入っていただけましたかな」


 俺たちがはしゃいでいると、杖とローブを作ってくれた魔道具職人のレンブラントさんがやって来た。


 レンブラントさんはこの世界でも最高峰の魔道具職人として有名で、注文もひっきりなしだという。

 ただ、今回は俺たち、というか、エリカのお父さんを通しての依頼だったので優先的に引き受けてくれたのだった。


「はい、とっても気に入りました。ありがとうございます」

「最高の出来だと思います。作っていただきありがとうございます」


 エリカたちがレンブラントさんにお礼を述べる。


「いやいや、お礼など不要ですよ。私も短期間でベヒモスの杖も3本も作る機会に恵まれて光栄に思っておりますので」


 それに対して、レンブラントさんはむしろベヒモスの杖を作れたことを喜んでいるようであった。

 ふーん。そんなものなのかな。

 と、俺は思った。


 そういえば、リネットのお父さんのフィーゴさんにオリハルコンの武器の作成を頼んだ時も物凄く喜んでいたしな。


 俺はレンブラントさんに聞いてみた。


「やはり職人さんにとって、珍しくて貴重な素材を扱えることはうれしいことなんですかね」

「ええ、うれしいですね。珍しい素材が目の前にあると、創作意欲がわきますね」


 やはり、そうなんだ。

 俺はそのれを聞いてレンブラントさんに好感を持てた。

 フィーゴさんもそうだが、こういう仕事に真摯に向き合える人というのは俺の好みだからだ。


 もし、将来ホルスターとかの杖やローブを作る時にも、この人に頼もうと思った。


「ところで、皆様のお乗りになっている馬車はとてもご立派ですな」


 レンブラントさんが話題を変えてきた。

 なんか俺たちの馬車を褒めてくれた。

 何だろうと思ったが、褒めてもらえるのは単純にうれしかったので、お礼を言った。


「お褒めいただきありがとうございます」

「いや、良いものを褒めるのは当然です。それよりも、あの馬車はライオネル作ではないですかな」


 ライオネル。俺たちの馬車を改造してくれた魔道具職人さんだ。


「ええ、そうですが。ライオネルさんをご存じですか?」

「ええ、私の弟子ですね」

「お弟子さん?」


 なるほど、そうだったのか。

 だから、俺たちの馬車を気にかけたのか。


「ええ、そうなのです。最近、良い依頼者に会えて思う存分仕事をさせてもらったからとても良かったと言っておりましたよ」

「ええ、俺たちの方も要望通りに馬車を改造してもらえてよかったですよ。お互い満足できてよかったです。ははは」

「ははは」


 お互いに笑いあい、しばらく雑談した後、俺たちは魔道具工房を離れた。


「あ、そうそう忘れるところだった」


 魔道具工房の入り口出であることを思い出した俺は、自分のマジックバックから杖を取り出すと、銀に渡してやる。


「ホルスター様?これは?」

「銀はまだ自分の杖を持っていなかっただろ?だから、魔道具工房に子供用の杖を頼んでおいたんだ」

「これは立派な杖ですね」


 俺から杖を受け取った銀は、杖をもらった実感がわかないのか、目をぱちくりさせていた。


「こんな立派な物をいただいてもよろしいのですか」

「ああ、皆からのプレゼントだ。遠慮なく使いなさい」

「わーい、ありがとうございます」


 ようやく状況を呑み込めたのだろう、銀は杖を振ったり触ったりしながら、うれしそうな顔をしていた。


 それを見て、俺たちも微笑む。

 銀にも杖を買ってやってよかったと思えたのだった。


★★★


 さて、いい道具を手に入れると人間使ってみたくなるものである。


「こんにちは」


 ということで、杖の使い心地を試してみるために冒険者ギルドの依頼を受けることにした。

 向かったのは懐かしのノースフォートレスのギルドである。

 ヒッグスタウンから大分離れているが、俺の魔法を使えば一瞬で移動できた。


「おや、みなさん、お久しぶりですね」


 受付に顔を見せると、顔見知りの女性職員さんが声をかけてくれた。


「ヒッグスタウンへ行っているとお聞きしていましたが、こちらに帰ってきたのですか」

「いや、今度は王都に行かなければならないんだ。だから、ここへはちょっと寄っただけだよ」

「そうなんですね」

「ああ」

「それと聞きましたよ。ホルストさん、副ギルドマスターとヴィクトリアさんを正式に奥さんにすることになったそうですね。おめでとうございます」


 へえ、もうそのことを知っているのか。

 さすがギルド。耳が早いな。

 まあ、どうせフィーゴさんあたりから聞いたのだろうが。


「ええ、そうなんですよ。祝っていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 俺とヴィクトリア、リネットの3人が頭を下げた。


「それはそうと、何か手ごろな依頼はないかな」

「ありますよ」


 そう言うと、職員さんは依頼を紹介してくれた。


★★★


 1時間後。


「ここが依頼の物件か」


 俺たちはノースフォートレス郊外にあるとある屋敷に来ていた。


「しかし、幽霊退治とかそういう依頼もギルドに来るんですね」


 屋敷を見ながらエリカがそんなことを呟く。

 そう。今回の依頼はこの屋敷の幽霊退治だ。


「そういう依頼は、普通神聖魔法の得意な者の多い教会に行くと聞いたことがあるが」

「まあ、最近この手の依頼が増えているらしいから教会も忙しくてさばききれないらしいよ。だから、一か八かでギルドにも依頼が来たんだろうね」


 俺の疑問に対して、裏の事情を聞いてきたリネットがそんなことを言う。

 最近では魔物のみならず、幽霊事件とかも多発しているのか。

 嫌な世の中になったものだ。


 まあ、受けた以上依頼はこなさなければならない。


「行くぞ!」


 こうして俺たちは幽霊屋敷へと乗り込んでいくのであった。

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