第9章 王都のヴァンパイアとシスコン兄貴

第156話~ホルスト、王都へ行くことになる~

「ホルスト君、今度王都に行くのだけれど、君たちもついてこないかい」

「王都ですか」

「ああ、そうだよ。この前僕の当主就任式に王家から使者の方が見えられただろう?その返礼のために王宮に行かなければならないんだ」

「それで、それに付いてこないかと」

「ああ、その通りだ。ホルスト君って、王都に行ったことがないんだろう。一度くらい行ってみるのも悪くないと思うよ」


 ドワーフ地下王国から帰還後、ヒッグスタウンでの予定も特になかったので、そろそろノースフォートレスへ帰ろうかと思い、エリカのお父さんに俺とエリカが挨拶に行ったら、王都に行かないかと誘われた。


 正直どうしようかと思った。


 ノースフォートレスの家はお父さんが管理してくれているとはいえ、しばらく空けたままにしているのでたまには帰らないと心配ではある。

 だが、一方で折角なので王都に行ってみたいという気持ちもある。


 さて、どうしようか。

 俺が思案していると、


「いいではないですか、旦那様。皆で王都に行ってみましょう」


そうエリカが口をはさんできた。


「ヴィクトリアさんもリネットさんも王都に一度行ってみたいって言っておりましたし、私も久しぶりに行ってみたいです」


 そうか、皆、王都に行きたかったのか。

 そういうことなら、別に行ってみてもいいか。


「わかりました。お義父さん、俺たちも同行します」

「そうか、一緒に行ってくれるか」


 俺たちが一緒に行くことになって、お父さんの顔がほころんだ。

 こうして、俺たちは王都へと旅をすることになった。


★★★


「旦那様、たまにこうして買い物するのもいいですね」

「ホルストさん、ワタクシ、あの屋台のスイーツ食べたいです」

「うん、いいね。そこの公園のベンチでみんなで食べようよ」


 ということで、王都に行くことになった俺たちだが、出発まで少し時間があるのでそれまでぶらぶらすることになった。


 それで、今日はエリカ、ヴィクトリア、リネットの3人を引き連れてデートである。

 ホルスターはエリカのお母さんと銀が面倒を見てくれるというのでお留守番だ。

 ホルスターも銀もいい子にお留守番しているだろうから、何かお土産を買って帰らなければなと思った。


 ちなみに3人でデートをしているわけだが、俺の右側はエリカの指定席らしく、がっちりと腕を組んで離さなかった。

 左側はヴィクトリアとリネットの共有物のようで、時々二人で入れ替わりながら、俺と腕を組んでいる。


「何だ、あの男。3人も美女を引き連れて歩きやがって」

「リア充、爆発しろ!」


 4人で歩いていると、そうやってたまに男たちの嫉妬の視線が俺に向かって飛んでくるが、今の俺には大して気にならない。


 むしろ、心地よいくらいだ。

 昔、魔法の使えなかった俺は、この町では侮蔑の対象だった。

 それが今ではこうして幸せオーラ全開で歩けているのだ。


 どうだ。羨ましいだろう。


 昔、俺のことをいじめていた連中にそう言ってやりたいくらいだ。

 さて、ヴィクトリアが屋台のお菓子をねだってきたので買ってやることにする。


「ワタクシはこのイチゴミルクパフェが食べたいです」

「私はこのバナナチョコパフェがいいです」

「アタシは、この紫芋のアイスがいいな」

「俺は甘いお菓子はいいかな。このアップルジュースをくれ」

「毎度あり~」


 お金を払って商品を受け取ると、俺たちは近くの公園に移動する。

 そのまま公園の中心にある噴水の所まで行き、近くのベンチに腰掛ける。


「よいしょ」


 俺がベンチに腰掛けると、すかさずエリカが俺の右隣に陣取る。

 一方のヴィクトリアとリネットは。


「じゃんけん、ぽん」

「あいこで、しょ」


 残された俺の左側の席を巡ってじゃんけんをしていた。


「やった!アタシの勝ちだ!」

「あん。負けちゃいました」


 どうやら今回の勝者はリネットのようだ。

 勝ったりネットは俺の横にぴょこんと座る。

 そして、そのまま俺に体を引っ付けてくる。


 はたから見れば、ラブラブカップルそのままである。


 それを見てヴィクトリアが羨ましそうに言う。


「いいなあ。ワタクシもそうしたいなあ」

「ちょっとだけ我慢しなよ。20分経ったらかわってあげるから」

「本当ですか?やったあ」


 リネットにもうちょっとしたらかわってやると言われて、ヴィクトリアは大喜びした。

 というか、20分て……。お前ら、いつまでここで休んでいるつもりだよ。

 俺はそう思ったが、それを口にしてしまうとやばいことになるのはわかっているので、口には出さなかったが。


★★★


 公園で休憩した後はオペラを見に行った。

 これはエリカの希望だ。


「たまには、私もいい音楽を聞きたいと思うのです」


 そう言って、俺たちを誘ってきたのだ。

 エリカはお嬢様なので、実は過去にバイオリンの演奏を習っていたことがあり、それなりに弾けるのだ。

 俺と駆け落ちしてからは全然やっていなかったが、まあ狭い貸家で楽器演奏なんかしたら近所迷惑だからな、ここ最近広い実家で生活していたので、急に血が騒ぎ始めたらしかった。


 オペラは歌中心の演劇にオーケストラの演奏が付いたものである。

 劇も音楽も楽しめて一石二鳥というわけだが、その分大きい施設が必要なので、どこでもやっているというわけではなかった。


「ワタクシ、オペラとか初めてなので楽しみです」


 ヴィクトリアも楽しみにしているようだ。そういえば、こいつ、本を読んだり、劇とか見るのが好きだからな。


「うう、オペラとか敷居が高すぎて緊張するんだけれど」


 一方のリネットはオペラに対して緊張感を抱いているようだ。


 俺も気持ち的にはリネット寄りだ。

 オペラとかオーケストラって、聞くだけで初心者お断りみたいな感じがして、近寄りがたいもんなあ。

 と、この時の俺は思っていた。


 しかし、それが間違っていた認識だと悟ったのは実際に見た後だった。


★★★


「感動しました」

「うん、最高だったね」


 オペラの幕間の休憩時間、ヴィクトリアとリネットが口々に今日のオペラをほめたたえていた。


 今日のオペラの演目は「エルフ王の物語」である。

 要は、エルフ王が勇者様と悪い魔獣を退治するというお話だ。


 最近、似たような話を聞いたような気もするが、まあ、この手の話はどこにでもあるのでとりあえずは、そんなのもあったなとくらいに覚えておこうと思う。


 それはそれとして、オペラは確かに良かった。


「オーケストラの演奏付きで、歌いながらの演技が見られるって、迫力があるよな」


 俺も結構気に入った。

 また、機会があれば見に行きたい気になった。


「それはまだ、ちょっと気が早いか。後半残っているし」


 今はもうちょっとだけオペラを楽しもうと思う。


★★★


 オペラが終わった後は4人で居酒屋に行った。

 居酒屋と言っても冒険者ギルドがやっているやつで、ヒッグスタウンの冒険者たちとの交流を図る目的で来たのだ。


「あんたらが噂のSランク冒険者パーティー『竜を超えるもの』かい?」

「ええ、そうですよ」

「こりゃあ、すげえ人たちに会えたな。おーい、皆、こいつらが噂の『竜を超えるもの』だぞ」


 隣の席の冒険者に話しかけたら、速攻で周囲の冒険者にも伝わってしまったので、俺たちの周囲にたちまち人だかりができた。


「ドラゴンを一撃で、切り殺せるって本当ですか」

「本当だ」

「絶世の美女を3人も奥さんにしているって本当ですか」

「そうだよ」

「強大な魔法を使えるのに、武術も王国の武術大会で優勝できるくらいだなんて。反則過ぎです」

「褒めてくれてありがとう」


 集まってきた連中から色々質問されたり、羨ましがられたりする。

 意外とみんな俺たちのやって来たことを知っており、褒めてくれたりもする。

 それらを聞いていると、俺たちも冒険者として一流になったんだなあと思えてくる。

 気分の良くなった俺はみんなにこう言ってやる。


「よし、今日は気分がいいから、皆におごってやる。好きなだけ飲め」


 それを聞いて酒場内が騒然となる。


「ホルストさん、ありがとう」

「ホルストさん、最高だぜ」

「ホルストさん、ステキ」


 口々に俺のことをほめたたえてくる。

 そして、遠慮なく飲み始める。

 それこそ、酒場の酒を空にしそうな勢いで。


 でも、俺はそれでいいと思っている。

 ちょっとがめついくらいが冒険者としてちょうどいいのだ。

 なぜなら、がめつくないやつに向上心は生まれないから。

 向上心を持って自分を磨き続けないと、冒険者なんてあっという間に魔物に殺されてしまうだろう。

 だから、今日ここで飲む奴の方が冒険者としての資質があると思う。


 それに。


「旦那様、もっとお酒注文してもよいですか」


 飲み放題にしておけば、エリカやヴィクトリアも遠慮なく注文できる。

 最近、有名になり過ぎたせいで、特に知っている人や同業者のいる食い物屋だと、目立たないように飲むのを遠慮してたりしたからな。

 たまには大好きな酒を腹いっぱい飲ませてやりたいと思う。


「さあ、ジャンジャン行け!」


 こうして、酒盛りは続き、気が付けば夜になり、最後は渋々帰宅したのであった。

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