第154話~リネットへの告白~

 ヴィクトリアに告白した次の日。


「なあ、リネット、ちょっといいかな」

「なんだい?」

「明日、暇だったら二人だけで遊びに行かないか?」


 リネットをデートに誘った。


「もしかして、デートのお誘い?」

「そうですよ」

「うん、もちろん行くよ」


 当然のようにリネットもオーケーの返事を出した。


「じゃあ、明日楽しみにしているからね」


 それだけ言い残すと、リネットは俺の前から立ち去りどこかへ行った。


「よし。それじゃあ、頑張るか」


 残された俺は、何とか彼女の期待に応えようと気合を入れるのだった。


★★★


 その日、アタシは朝から気合が入りまくりだった。


「さあ、今日こそは決めないと」


 アタシは起きて早々そう誓うと、ベッドから離れてリビングに向かう。


「おはようございます。リネットさん。今日はいよいよ旦那様とのデートの日ですね。緊張していることと思いますが、安心してください。私とヴィクトリアさんでちゃんとサポートしてあげますから」

「その通りです。ワタクシたちに任せてください」

「二人ともありがとう」


 二人が協力してくれるというので、アタシはぺこりと頭を下げた。


「では、朝食を食べたら、お風呂を用意してあるので早速湯あみをしてきてくださいね」

「ああ、そうする」


 ということでアタシは行動を開始するのだった。


★★★


「それじゃあ、リネット、行こうか」

「うん。今日はよろしくお願いするね」


 その日、俺はリネットと一緒にデートに出掛けた。

 普段控えめな感じのするリネットだが、今日はいきなり積極的に行動してきた。


「ねえ、ホルスト君。腕を組んでもいいかな?」


 そう言うと、有無を言わさず俺と腕を組んできた。

 いきなり大胆だなと思ったが、結構無理をしているようにも感じられる。


 というのも、俺と組んでいるリネットの腕が小刻みに震えているからだ。

 多分、こうやって人前で俺と腕を組むのが恥ずかしいからだと思う。


 まあ、いい。これがリネットで、俺はリネットのことが好きなのだから、それを受け入れようと思う。

 俺は俺の腕と組んでいるリネットの腕をやさしくなでてあげた。


「ほ、ホルスト君?」

「大丈夫だ、リネット。そんなに恥ずかしがることはない。何せ俺が付いているのだから」

「……あ、ありがとう」


 リネットは笑いながら、俺の行為を受け入れてくれた。


★★★


 アタシたちはデートの目的地に行く前に、ここネオ・アンダーグラウンドでもかなりの高級レストランに食事に寄った。

 ホルスト君とヴィクトリアちゃんが行った場所とは違うところではあるが、ここも貴族御用達のお店で一見さんはお断りの高級店だ。


 ちなみに紹介してくれたのはセリーナ叔母様らしい。エリカちゃんが頼んだら、快く引き受けてくれたらしい。


「予約していたホルストだが」

「これはホルスト様。お待ちしておりました」


 受付をすますと、すぐに席に案内してくれる。


「うん、いい席だね」


 アタシたちの席はレストランの中庭の花が良く見えるいい席だった。


「飲み物はどういたしましょうか」

「今日の料理に合うワインを見繕ってくれ」

「畏まりました」


 ウェイターさんは注文を聞くと一旦下がる。

 そして、すぐに酒やら料理やらが次々に運ばれてくる。


「「かんぱ~い」」


 乾杯した後、俺たちは食事を始める。


「うまいな」

「うん、おいしいね」


 一流のレストランだけあって出てくる料理はとてもおいしかった。

 ただ、二人の会話はあまり進まない。


「庭、きれいだね」

「今日の試合、楽しみだな」


 そういう単発の会話が出てくるだけだった。

 アタシもホルスト君もあまり上饒舌な方ではないのでこんなものだとは思う。


 ただ、お互いに相手のことを気にしているので、よく視線が絡み合う。

 その時のホルスト君の視線はとても優しくてアタシへの愛で満ちていた。


 アタシにはそれだけで十分だった。

 それだけで、ここに一緒に食事に来られて満足だと思った。


★★★


 食事が終わった後は、デートのメインの目的地に着いた。


「到着したな」


 目的地は先ほどのレストランからさほど離れていなかった。


「ワーワーワー」


 目的地の建物の中からは大きな歓声が聞こえてくる。


「すごい熱狂だね。これなら、剣闘士たちの熱い試合が見られるね」


 俺たちの向かった先。そこはネオ・アンダーグラウンドの闘技場だった。

 デートに剣闘士の試合見物というのは場違い感もあるが、意外に男女のカップルに人気なのだそうだ。


「こちらでございます」


 闘技場の入り口でエリカに言われたとおりにクラフトマン宰相家の家紋入りのペンダントを見せると、職員さんがわざわざ席まで案内してくれた。


「ここは、貴賓席か」


 案内してくれたのは貴賓席だった。


「すごく見晴らしのいい席だし、ゆったりと座れるね」


 リネットが当たり前のことを言う。

 当然だ。何せ貴賓席だからな。

 一般の席よりもはるかに見物に適した場所に位置している上、観客がくつろぎながら見物できるように席も広々としていた。


「それじゃあ、見物しようか」

「うん」


 俺たちは席に着いた。


★★★


「わー、すごい!」


 剣闘士たちの試合は、血沸き、肉躍る素晴らしいものだった。


「俺たちよりだいぶ実力が劣るとはいえ、戦士たちが全力で戦うのを見るのは興奮するな」


 ホルスト君も剣闘士の試合に大満足のようだ。

 この世界、剣闘士は人気職業の一つだ。

 昔は奴隷を使った残酷な見世物だったそうだが、今は賞金を求めて腕に覚えのあるつわものたちが集まってくる一大興行となっていた。

 だから、興行主も観客を楽しまそうといろいろ趣向を凝らしてくる。


「皆様、次の試合までの合間に手品師による手品をお楽しみください」


 そうやって、試合の合間にちょっとした芸の興行をしたり、


「それでは、これからくじ引きをいたします。皆様、入場の時にお渡ししました抽選券をご覧ください」


くじ引き大会をしたりする。


「楽しかったね」

「ああ」


 しかし、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。

 今日の興行が終わったので、アタシたちは闘技場を後にして、次の場所へ向かった。


★★★


 剣闘士の試合が終わった後は、リネットと公園を散歩した。


「結構きれいな花が咲いているね」

「ああ、そうだな」


 公園には多種多様な花が植えられており、結構きれいだった。


「少し休まないか?」


 そろそろ頃合いかなと思った俺は、リネットにそう声をかける。


「いいよ」


 リネットが応じたので、二人でベンチに腰かける。

 腰かけた後、俺は周囲に人がいないことを確認すると、意を決して、リネットに話しかける。


「リネット、話があるんだ。聞いてくれないか」


 リネットも俺がこれから何を言おうとしているか感づいているのだろう。

 薄っすらと顔を紅色に染めながら、小さな声で言う。


「はい」


 ふう。俺は一呼吸を置いてから一気に話す。


「リネット好きだ。結婚してくれ」

「はい、喜んで」


 当然リネットから帰ってきたのは了承の返事だった。


「リネット」


 俺はそのままリネットを抱きしめ、唇に優しくキスをする。


「ホルスト君、大好き」


 リネットも俺の思いに応えてくれ、逆に俺のことを抱き返してくる。


「リネット。俺は今幸せだよ」

「アタシもだ」


 俺たちはそれからしばらくの間、がっつり抱き合うのだった。


★★★


「『空間操作』」


 告白タイムの後はホルスト君の魔法で、ノースフォートレスの町へ移動した。

 そのままある店へ向かう。


「いらっしゃいませ。おや、これはホルスト様。お久しぶりでございます」


 その店へ着くと、初老の老紳士がアタシたちを出迎えてくれた。


 アタシたちが向かったお店。

 そこは、かつてエリカちゃんとヴィクトリアちゃんが指輪を買ってもらったという宝飾店だった。


「今日はどういったご用件でしょうか」

「実は、この子に指輪を買いに来たんだ。前に俺が買ったのと同じ指輪って、まだあるかな」

「もちろん、ございます。すぐにご用意できますよ」

「じゃあ、頼む」


 ホルスト君が店主さんに頼むとすぐに指輪が用意された。


「こちらでよろしいですか」

「ああ」

「では、すぐにサイズを合わせますね」


 すると店主さんはすぐにアタシの指のサイズを測ってくれ、指輪のサイズを調整してくれた。


「ありがとうございました」

「ああ、また来るよ」


 代金を支払い、指輪を受け取り、店を出たアタシたちは次の目的地に向かった。


★★★


「お父さん、お母さん。娘さんを僕にください」


 開口一番。俺は頭を下げながら、リネットの両親にそう頼みこんだ。

 宝飾店を出た後、俺たちはリネットの実家に向かった。

 もちろん、リネットのご両親にリネットをもらうことについて了解を取るためだ。


 俺の話を聞いたお父さんは、


「うーん」


と、唸る。どうしようかと、俺のことをじろじろと見てくる。

 そして、こう言う。


「いいぜ。お前さんなら娘のことを大事にしてくれそうだしな」

「ありがとうございます」

「お父さん、ありがとう」


 俺とリネット、二人して頭を下げる。


「さあ、それじゃあ、お祝いに今日はおいしいものをたくさん作らなきゃね。二人とも、もちろん食べていくでしょ?」

「はい、お願いします」


 当然、断ることなどできないので、食べていくことにする。


「アタシもお母さんを手伝ってくるから、ホルスト君はお父さんとお酒でも飲んでいてね」


 リネットがお母さんの手伝いに行ったので、俺はお父さんと二人で飲むことになった。

 酒を飲みながら、お父さんは俺に色々聞いてきた。


「お前、リネットとは何人くらい子供を作るつもりだ」

「まだ、具体的には決めていませんが、俺的には3人は欲しいかなと思っています」

「それで、子供はいつくらいに作るつもりだ」

「それは、リネットとも話したのですが、前にも言ったように俺たちはアリスタ様の依頼を遂行中ですから、それが終わった後ですね」

「そうか。で、リネットとはもう寝たのか」

「いや、これからです」

「そうか」


 と、子供の数から性生活についてまで細かく質問された。

 正直辟易したが、何とか無難にこなしていった。


「ご飯できたよ」


 そのうちに、料理ができたのでようやくお父さんから解放された。

 かと、思ったら。


「ホルストさんは、何人くらい子供を作るつもりなのかしら」


 今度はお母さんから、同じような質問を投げかけられるようになるのだった。


★★★


「それでは、また来ます」


 食事が終わると、アタシたちは家を出た。


「それじゃあ、帰ろうか」

「うん」


 こうして今日の日程をこなしたアタシたちは、ネオ・アンダーグラウンドのエリカちゃんちの別荘に帰ったのだった。

 ああ、本当に最高の一日だった。

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