第149話~魔獣復活~
「ヴィクトリア、俺におとなしく抱かれろ」
「ほへ?」
ワタクシ、女神ヴィクトリアは突然ホルストさんにそんなことを言われてしまいました。
とうとう、ホルストさんが告白してくれた。
ワタクシはそう思いました。
「喜んで!」
ワタクシは力いっぱいホルストさんに抱き着きました。
しばらくの間、そのまま抱き着いていましたが、やがて。
「あれ?『神意召喚』が発動しないな?」
そんなことをホルストさんが言い出しました。
「神意召喚?」
「神意召喚を発動するためには俺に抱かればならないんだろ?あ、もしかして昨日も使ったから今日は無理だとか?……それは困ったな。これから必要になるはずだったのに」
……どうやら、愛の告白だというのはワタクシの勘違いだったようです。
よく考えたら当然ですよね。
今は戦いの前。そんなことをしている余裕はないのですから。
それに、ここにはワタクシ以外にも大勢の人がいます。
ヘタレのホルストさんに、この場でワタクシに告白するような度胸はないでしょう。
仕方ないですね。それでは、神意召喚を……。
そう思って、神意召喚を行おうとしたとき、ワタクシはあることを思いつきました。
「そうですね。昨日も使ったから、普通の方法では無理ですね」
「やはりそうか」
「ええ。ただ、特別な方法を使えばできると思います」
「そうなのか?どうすればいいんだ?」
「キスです」
「キス!?」
「そうです。キスです。ホルストさんがワタクシにキスをしてくれればできると思います」
こうして、ワタクシはどさくさに紛れてキスを要求したのでした。
★★★
キスしてほしい。
ヴィクトリアにそんなことを言われてしまった。
「ヴィクトリア?」
ヴィクトリアがジト目で俺のことを見ている。
その目からは、今更引く気はないという強い意志が感じられた。
まあ、俺もヴィクトリアのことは好きなわけで、キスすること自体には文句はないのだが、気になるのは周囲の視線だ。
特にエリカとリネットの動向が気になる。
俺はチラリと二人の顔を見る。
予想に反して、二人の顔は早くしろ、というような顔であった。
ただ、俺は見逃さない。
二人の顔、特にリネットの表情に強い羨望の感情が混じっていることに。
それを見て、俺は思う。
これは後で二人にアフターフォローをしておか開ければまずいな、と。
さて、エリカとリネットの方は問題なさそうだし、さっさと済ませてしまおう。
「わかった。ヴィクトリア、来い」
「はい」
俺に言われて、ヴィクトリアがテクテクと俺に寄ってくる。
そして、俺はヴィクトリアの肩を抱き寄せると。
チュッ。
と、唇にキスをする。
「ホルストさん」
キスをしてやると、「今度はヴィクトリアの方から抱き着いてきた。
それに対して、俺もヴィクトリアを抱きしめ返す。
しばらく、そうやってキスをしたまま抱擁していると。
「お、来たな」
俺の体が光り出し、
『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス』
そう、いつもの声が聞こえてきた。
俺は唇を離すと、静かにヴィクトリアの頭を撫でてやる。
「それでは行くぞ!」
「はい」
こうして、戦いの準備を終えた俺たちは遺跡へ向かうのだった。
★★★
「ふふふ、いよいよ4魔獣の一匹が目覚める時が来たな」
遺跡の祭壇で、神聖同盟の神官長が頭上に浮かぶ黒い球体を見ながら、そう一人ほくそ笑んでいた。
「その通りです。これで我らの宿願の一つが叶いますな」
「神聖同盟、最高!」
神官長の周囲では部下たちが、自分たちの悲願の成就を喜んでいた。
神官長は頭上の黒い球体を見つめる。
「うむ、順調に集まって来ているようだな」
黒い球体に遺跡からエネルギーが流れて行っているのが確認できる。
このままいけば、もう少しで魔獣は復活し、地脈は崩壊するはずだった。
「さあ、後は待つだけだな」
その時だった。
「『『地脈操作』』」
そんな声が遺跡の周囲に響いた。
そして、その声とともに地脈から黒い球体へのエネルギー供給が突然止まる。
「何事だ!」
急な出来事に神官長が慌てふためく。
「早く原因を調べるのだ!」
焦った神官長の指示で、部下たちが原因の調査と解決策を模索しようとした。
「無駄だ。おとなしくあの世へ行き、閻魔の裁きを受けることだな」
その時、作業中の神官長御一行様にそう声がかかった。
「何者だ!」
神官長が声の方へ振り向くと、そこには青いハーフプレイトメイルを着た剣士とその仲間たちが立っていた。
★★★
神聖同盟の連中が遺跡を通じて地脈のエネルギーを黒い球体に送り込んでいるのが確認できた。
「ホルストさん、あれ邪魔してください」
「邪魔って……どうするんだ?」
『『地脈操作』の魔法を使ってください。地脈の流れを断つ感じで使えばうまく行くと思います」
「わかった。やってみる。『地脈操作』」
ヴィクトリアの言うように魔法を使ってみた。
すると。
「お、うまく行ったようだな」
遺跡から球体へエネルギーが流れて行かなくなった。
これで、あの球体にこれ以上エネルギーが流れて行かなくなったわけだ。
「よし、行くぞ」
状況の変化を確認した俺たちは、神聖同盟の奴らの前に出てこう言い放ってやった。
「無駄だ。おとなしくあの世へ行き、閻魔の裁きを受けることだな」
★★★
「者ども、あ奴らを始末しろ!」
「はっ」
神官長の号令で、神聖同盟の連中が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「『小爆破』」
「『水刃』」
「『金剛槍』」
さすがにここにいる連中だけあって中々強力な魔法を使ってきた。
だが。
「『防御結界』」
すべてヴィクトリアの魔法で簡単に防ぐことができた。
ヴィクトリアが敵の攻撃を防いでいるうちに、他のメンバーが攻撃する。
「『天爆』」
「『超爆破』」
まず、俺とエリカが爆発魔法を放ち、敵の数を減らす。
「よし、敵の数は大分減ったな。行くぞ!リネット」
「おう」
「エリカと銀は引き続き支援攻撃を続けてくれ。ヴィクトリアはみんなを守れ」
「はい、旦那様」
「ラジャーです」
「お任せください。ホルスト様」
数を減らした後は、エリカたちに支援を任せて俺とリネットの二人で突撃する。
「「うおおおお」」
二人とも盾を前面に押し出して突撃する。
「『水刃』」
「『金剛槍』」
それでも、連中は俺たちを迎撃しようとする。しかし。
「その程度で俺たちを止められると思うなよ」
カラン、カラン。
それらの攻撃は盾で簡単に防いでしまう。
「地獄へ行け」
そして、連中に十分に近づいた俺たちは、次々に敵を葬り去って行った。
残るは神官長一人となった。
「さて、残るはお前一人だな」
俺は神官長に接近しようとした。
当然、神官長が攻撃してくるものだとばかり思っていたのだが。
「ぐふ」
神官長が血を吐きながらその場に倒れ伏した。
「なに?」
それを見た俺は急いで新官庁に近づくと。
「毒か!」
神官長の体が青色に染まっていた。
どうやら毒を飲んだらしかった。
「ヴィクトリア!」
俺は急いでヴィクトリアを呼んで解毒の魔法をかけようとしたが。
「ふははは。もう遅い」
慌てふためく俺たちを、神官長は挑発してきた。
「ははは。お前たちがいまさら何をしようともう遅い。この私の命を捧げ者にして4魔獣を呼び寄せた。さあ、魔獣の手で蹂躙されるがよい」
その言葉を最後に、神官長は息絶えた。
そして、神官長の死とともに、黒い球体から、ドン、ドンと、大きな足音が聞こえてきたのだった。
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