第148話~孤島の遺跡~

「この度は誠にありがとうございました」


 傷が治ったカリュドーンの猪が深々と頭を下げながら俺たちに礼を述べてくる。


 頭を下げたと言ったが、その様子はまるで”伏せ”をする犬のような感じだった。

 まあ、同じ四足獣だしこんなものだと思う。


「ところで、お前を襲っていた連中だけど、他に仲間がいたりするのか?」

「はい、それがしを襲ってきた以外の連中は湖の中心の孤島にある遺跡に行ったみたいです」

「そうか、それなら追いかけて叩き潰してやらないとな。しかし、不思議だな。ここは封印の扉で来られないようになっているはずなのに、連中はどうやって来たのだろうか」

「どうやら、地下水脈を通って来たみたいです」

「地下水脈?そんなものがあるのか」

「はい、ございます」

「でも、どうやってそんな所を通れたんだ」

「多分、あれを使ったものと思われます」

「あれ?」

「ええ、場所はわかっているのでご案内しますね」


 そこまで言うと、カリュドーンの猪は立ち上がってのしのしと歩き始めた。

 それに俺たちもついて行く。


「なんか、地面が揺れて歩きにくいね」


 ついて行く途中、リネットがそんなことを言う。

 確かにカリュドーンの猪が巨大すぎるせいで、歩くたびに地面が揺れ、歩きにくかった。


「仕方がないな。『重力操作』」


 俺は魔法で全員を空中に浮かせてやる。


「よし、これでいいだろう」

「「「「ありがとうございます」」」」


 女性陣もやはり歩きにくかったのだろう。俺の配慮に大喜びだ。


「さあ、行くぞ」


 俺たちは移動を再開する。


★★★


「これは何だ?」


 カリュドーンの猪に案内された先へ行くと、湖の岸に船?が接弦されているのが確認できた。


「これって、船なのか?帆とかないんだけど」

「ああ、これは潜水艇ですね」


 困惑している俺にヴィクトリアがそう説明してくれる。


「潜水艇?何だ、それは」

「水中に潜るための船ですね」

「水中を潜る?そんなことができるのか……それはすごいな」


 と、そこまで言ったところで俺は気が付いた。

 これは使える!と。


「ヴィクトリア、この潜水艇とやらを回収しておけ。何かに使えそうだしな。それにこれさえ回収しておけば、敵の退路も断てるだろうしな」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアが早速収納リングを取り出し、潜水艇を回収する。


「さて、これで問題は一つ解決したわけだ。後は、湖の中心にあるという孤島にどうやって行くかだな」

「それなら、それがしにお任せください」


 ここで、なんとカリュドーンの猪が名乗り出てきた。


「方法があるのか?」

「はい、大丈夫です。任せてください」


 カリュドーンの猪が自信ありげに言うので、俺たちは任せることにした。


★★★


 それから30分後。


「うわー、猪さんの毛の上って気持ちいいですね。銀、気に入りました」


 カリュドーンの猪の上で銀がはしゃいでいた。

 いや、銀だけではない。


「うーん、カリュドーンの猪の上がこんなに気持ちよかったなんて知りませんでした。最高です」

「うん、これは中々の座り心地ですね。とても良いと思います」

「とてもいいね。気に入ったよ」


 昼寝女王のヴィクトリアを始め、女性陣が口々に褒めていた。

 実は、俺も結構いいなと思っている。


 ところで、なんで俺たちがカリュドーンの猪の上に乗っているかというと。


「それがしが遺跡のある島まで泳ぎますゆえ、みなさんはそれがしの背に乗って移動してください」


 そうカリュドーンの猪が提案してきたからだ。


「え、猪って泳げたの?」


 俺は驚いた。猪が泳げるなんて思っていなかったからだ。

 それに対して、ヴィクトリアがこんなことを言う。


「何を言っているんですか、ホルストさん。猪ちゃんは泳ぐんですよ。ワタクシ、昔テレビで泳いで海を渡って島から島へ移動する猪の映像を見たことがあるので、間違いないです」


 テレビって何の話だよと思ったが、まあ猪が泳いで移動するということが本当らしいとわかったので、よしとしておく。


「それにしても、ここの地底湖って、『希望の遺跡』にあった地底湖に似ているな。もしかして、何か関係があったりする?」

「ええ、ありますよ」


 俺の質問にそう答えたのはネズ吉だ。


「あるのか?」

「はい。拙者がアリスタ様に聞いた話によりますと、希望の遺跡の地底湖はここの地底湖を模して造ったものらしいですよ」

「そうなんだ」


 だったら、ここにデジャブを覚えるのも納得だな。

 なにせ希望の遺跡はここのコピーだったわけだから。


「だったら、希望の遺跡の地底湖にも地下水脈とかあったりしたのかな?」

「いや、そこまでは作り込んでいないんじゃないですか。大体そんなものを設置したところで、どことつなげるんだって話になりますし」

「それもそうだな」


 そこまで会話したところで、俺はあることに気が付いて聞いてみることにする。


「そういえばさ。ここの地下水路って外とつながっているんだろ?そのまま、ほっといたらまた誰か、潜水艇とかいうのを作って侵入してくるんじゃないのか?」

「その点についてはご安心ください。この件が片付いたら、拙者とカリュドーンの猪で協力して地下水脈に結界を張って、外から入ってこらr内容にするつもりでございます」

「そんなlpとができるのか」

「はい、もちろんできます。まあ、アリスタ様に頼んで協力してもらうことになりますが。……実は初代のドワーフ王が『地底湖への洞窟』に封印を施した時にも我らは協力したのです。ですから問題はございません」

「そうか」


 そういうことなら、そっちは彼らに任せておけばいいと思う。

 さて、話はこれくらいにして、後は島に着くまでゆっくり休もうと思う。


★★★


 結局、目的地の島に着くのに丸1日かかった。

 結構な時間がかかったが、おかげで体力と魔力は十分に回復した。


「お、船があるな」


 島に着くと連中が使ったと思われる船を発見した。

 複数の小型のボートが岸に繋がれていたのだが、それを見て俺は違和感を覚えた。


「帆もオールもついてないな。一体どうやって、ここまで動かしたんだ?」


 連中がどうやって船を動かしたか俺には皆目見当がつかなかったが、疑問にヴィクトリアが答えてくれた。


「船尾に船外機が付いているじゃないですか。これを動かしてきたんだと思いますよ」

「せんがいき?」

「船のエンジンのことです。微量の魔力を感じますから、魔石を動力源にして動かしているみたいです。ほら、ここについているこれ。プロペラというんですけど、これを回転させて船を動かしているんですよ」


 ヴィクトリアが指さす方を見ると、確かに船外機とやらには羽の付いた奇妙なものがくっついていた。

 なるほど。これで船で動かしているのか。


 潜水艇といい、連中、すごい物を作れるんだな、と単純に感心した。


「まあ、いいや。それよりも、ヴィクトリア。これも役に立つかもしれないから接収だ」

「ラジャーです」


 ということで、ヴィクトリアが連中の船を回収する。


「さて、それでは先に進みますか。……と言いたいところだが」


 ここで一つ問題が起きた。


「カリュドーンの猪よ。お前はどうする?お前まで来たら、絶対連中に気がつかれると思うんだが」


 問題はカリュドーンの猪の巨大さだった。

 何せ歩くだけで地面が揺れるのだ。一緒に行っては連中に確実に気付かれてしまう。


 しかし、それも杞憂だったようだ。


「問題ありません。はあああ」


 そうカリュドーンの猪が気合を入れると、どんどん体が小さくなっていき、やがて普通サイズの猪になった。


「これならば、大丈夫かな」


 それを見た俺たちは、遺跡へと移動を開始するのであった。


★★★


「結構やばいことになっているな」


 遺跡まで来た俺たちは遺跡の様子をうかがって愕然とした。

 というのも、連中の儀式は大分進んでいるみたいで、遺跡の上空にはキングエイプと戦った時に見た黒い球体が出現していたからだ。


「もしかしかして、4魔獣が復活寸前なのかもしれない」

「となれば、旦那様。万が一の備えをしておくべきですね」

「ああ、そうだな」


 ということで、早速ヴィクトリアを手招きする。

 ヴィクトリアが俺の手招きに応じて、とことことやってくる。


「ホルストさん、何ですか?」

「ヴィクトリア、俺におとなしく抱かれろ」

「ほへ?」


 俺の言葉を聞いたヴィクトリアが、顔を真っ赤にした。


ーーーーーー


ちなみに、作者の知り合いも船の上から猪が泳いでいるのを見たことがあるそうです。


ググれば動画が出てくると思いますので、興味のある読者の皆様は見てみてください。

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