第147話~カリュドーンの猪、救出作戦~

 カリュドーンの猪が突然暴れ出し、俺たちに襲い掛かってきた。


 その目は黒い邪悪な意思で支配されていた。

 海の主やヤマタノオロチの時と全く一緒だった。


 どうやら、ちょっとだけ間に合わなかったみたいだ。


「カリュドーンの猪、おとなしくしてください」


 ヴィクトリアがそう呼び掛けても、もうその声はカリュドーンの猪の心には届かなかった。


「一旦、引くぞ!『重力操作』」


 俺はパーティー全員を連れて空へと舞い上がる。

 そして、一気にカリュドーンの猪と距離を取る。


「そろそろ、いいだろう」


 十分に離れたところで地面に降りる。

 そして、作戦会議を開始する。


「皆も見ての通り、カリュドーンの猪が魔石に支配されてしまった。ということで、どうすればいいか作戦を練るぞ。ということでネズ吉、カリュドーンの猪について知っていることを教えてくれ」

「はい、では」


 俺に頼まれたネズ吉が説明を開始する。


「カリュドーンの猪は、とにかく突進攻撃が得意ですね。自分に強化魔法をかけて全力で突っ込んできます。それと、一つ必殺技を持っています」

「必殺技?」

「はい、では」。『猪突猛進』という技です。全身の魔力を前面に押し出して突進する技です。まともにぶつければ、山の2つや3つまとめて吹き飛ばすくらい容易にできる技ですね」


 なるほど、とにかく力で押してくるタイプというわけか。

 単調だが、単調な攻撃というのは割と対処が難しい。


 俺は頭の中でいろいろ考え、結論を出す。


「よし、あの手で行くぞ。皆、聞いてくれ」


 そして、俺は決めた作戦をみんなに伝える。


★★★


「さあ、ホルストさん、来てください」

「ああ」


 ヴィクトリアに促された俺はヴィクトリアを抱きしめる。

 なぜかというと、『神意召喚』をかけてもらうためだ。


 だから、俺はヴィクトリアを抱きしめたのだが、抱くと同時に別の感情も沸き起こった。

 柔らかくて気持ちいい。

 相変わらずヴィクトリアを抱きしめるのは心地よかった。

 お互いに好意を抱いていると知ってから、その気持ちはさらに高まっていた。


 それは、ともかく。


 しばらうすると、俺の体がぽわっと光った。そして。


『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス』


 いつもの声が聞こえてくる。

 どうやら、うまくいったようだ。


「終わったぞ」


 俺はヴィクトリアから体を離す。

 体を離す時にヴィクトリアが名残惜しそうな顔をしているのが見えた。

 俺も名残惜しかったが、時間がないので仕方ない。


 というか、俺は奥さんとリネットの前で何をしているのだろうか。

 俺は気になって二人の顔をチラ見したが、二人とも仕方がないという顔をしていた。

 怒られなくて助かったと思った。


 というか、後で何か言われたりしないよね。ね、ね。


 まあ、それは今は考えないようにしよう……。

 さて、準備も整ったことだし、いよいよカリュドーンの猪との対決だ。


★★★


「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」


 俺は空中に浮かびながら、そうやって手をたたきながら、カリュドーンの猪を挑発してやる。


「ピキー」


 邪悪な意識に支配されていても全く感情がないわけではないらしい。

 カリュドーンの猪は、怒り狂って俺に突進してくる。


「おっと、当たるかよ」


 俺はその攻撃をさっとかわす。


「お前の攻撃なんか当たるかよ」


 そして、さらに挑発する。


「ピギ、ピギー」


 それを受けて、さらにカリュドーンの猪が突進してくる。


「当たるかよ。バーカ」


 また、俺がそれを避ける。


 しばらくの間、これを繰り返す。

 すると、突然カリュドーンの猪の体が赤い光に覆われた。


「なるほど。これが『猪突猛進』か」


 それがネズ吉の言っていた『猪突猛進』だと看破した俺は、すぐに行動を開始する。


「あんな攻撃、まともに相手していられるか」


 俺は一気ににカリュドーンの猪と距離を取る。


「ブオオオオ」


 逃げる俺をカリュドーンの猪が追いかけてくる。

 よし、うまく行きそうだ。

 俺は内心ほくそ笑む。


 そのまま、しばらく逃げ続けると。


「ぐほ?」


 急にカリュドーンの猪の動きが鈍くなる。

 そして。


「ピキー」


 と、足を取られて仰向けにひっくり返る。


「うまくワナにはまってくれたようだな」


 俺があらかじめ『天土』の魔法を使って用意していたぬかるみに足を取られて、カリュドーンの猪が見事にひっくり返ったのだった。

 ただ、このままではいずれぬかるみから抜け出されてしまう。


「『天土』」


 俺はさらに追撃の魔法を放つ。


 カリュドーンの猪がいたぬかるみにぽっかりと穴が空く。

 スポーン。と、仰向けになったまま、カリュドーンの猪がすっぽりとはまり込む。


「もう、これで自力での脱出は不可能だ。次はおとなしくしてもらおうか。『天雷』」


 穴にはまっても、なおも足をじたばたさせているカリュドーンの猪に対して、『天雷』の魔法を放つ。

 カリュドーンの猪をしびれさせて動けなくさせるためだ。


 本来なら、カリュドーンの猪を覆う体毛の力によって魔法を防がれてしまうはずなのだが、腹までは体毛に覆われていないので、そこをめがけて魔法を放てば行けると、踏んだのだった。


 20発ほど魔法を放ったところで。


「動かなくなったな」


 カリュドーンの猪の動きが止まった。

 近づいて確認してみると、はっきりと心臓の音が聞こえてきた。

 どうやら生きてはいるようだ。


「エリカ、魔石の場所を教えてくれ」

「はい、旦那様。……そこからもうちょっと左後ろ足の方です」

「ここか?」

「はい、そこです」

「よし」


 魔石の位置が確認できたので、俺は愛剣クリーガを大上段に構え、一気に振りおろす。

 ドサ。

 たちまち、傷口から大量の血が噴き出てくる。


「お、あったぞ」


 俺はその中から魔石を見つけると回収する。


「相変わらず、邪悪な魔石だな」


 まあ、浄化すればいいだけの話だし。それよりも。


「ヴィクトリア、後は頼む」

「ラジャーです」


 俺が魔石を回収して、カリュドーンの猪から飛びのいた後、ヴィクトリアが治癒魔法をかける。


「『特級治癒』」


 ヴィクトリアの魔法でカリュドーンの猪の傷がたちまち癒えて行く。


「『重力操作』、『天土』」


 その後は魔法でカリュドーンの猪を穴から出してやり、ついでに穴も埋める。


「これで、ひと段落着いたな」


 こうして、俺たちはカリュドーンの猪を救うことに成功したのだった。

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