第140話~クラフトマン宰相家~
クラフトマン宰相家の屋敷はでかかった。
エリカの実家よりも大きい。
これは生活空間が限られた地下世界ではすごいことだ。
さすがドワーフ王国一の貴族といったところであろう。
「すみません」
屋敷に着いた俺たちは早速屋敷の門番に声をかける。
「何でしょうか」
クラフトマン宰相家の門番は割と丁寧な客対応ができる人だった。
それを見て、俺はここが家臣の教育もできているちゃんとした家だとわかった。
「実は僕たち宰相閣下に呼ばれてきたホルストと申す者なんですが」
そう言いながら、俺はグローブさんからもらった宰相家の家紋入りのペンダントを門番に見せる。
すると、門番の態度がさらに丁寧になる。
「あ、ホルスト様ですね。お話はお伺いしております。すぐに係りの者を呼んでまいりますので、そそこの休憩所でお待ちください」
門側の休憩所に通され、休むように言われる。
「お茶をどうぞ」
「これはありがとうございます」
なんとお茶まで出して歓待してくれた。
すごい歓迎ぶりだと思った。
しばらくすると。
「お待たせいたしました」
迎えが来た。
執事のグローブさんだった。
「お久しぶりです。グローブさん」
「はい、お久しぶりでございます。それでは早速ではありますが、宰相様の所へ案内してもよろしいでしょうが」
「はい、お願いします」
俺たちは休憩所を出て、屋敷の中に入って行った。
★★★
うん、さすがだな。
クラフトマン宰相家の廊下を歩きながら、俺はそんなことを思った。
ドワーフ王国一の貴族というだけあって、調度品も立派だし、清掃も行き届いていたからだ。
床に敷き詰められた絨毯もふかふかで、油断すれば、足を取られて転びそうなくらいだ。
エリカの実家に負けないくらいの経済力がある家だと思った。
「こちらでございます」
グローブさんが俺たちを案内してくれたのは、屋敷の奥の方にある立派な扉の部屋だった。
「失礼いたします。ホルスト様たちをお連れしました」
コンコンとグローブさんが扉をたたくと、
「入りなさい」
と、中から声がかかった。
ガチャンと扉を開け、中に入る。
すると中にはスーザンと細身の中年の女性、頭に大分白いものが混じった恰幅のいいお年を召した男性がいた。
その中の男性が立ち上がると、俺たちに声をかけてくる。
「よく来てくれた。私がレオナルド・フォン・クラフトマンだ。孫のスーザンを助けtくれてありがとう」
そう言うとぺこりと頭を下げてくる。
「私は、セリーナ・フォン・クラフトマンと申します。娘を助けていただきましてありがとうございます」
宰相に続いて、中年の女性も頭を下げてくる。どうやらこちらはスーザンのお母さんのようだ。
二人に頭を下げられたので、俺たちもあわてて頭を下げ挨拶する。
「ホルスト・エレクトロンです。この度はお屋敷にお招きくださりありがとうございます」
「エリカ・エレクトロンです。よろしくお願いします」
「ヴィクトリアです。よろしくお願いします」
「銀です。よろしくお願いします」
「リネットです。よろしくお願いします」
皆が順にそう名乗っていったが、最後にリネットが名乗ったときに宰相とセリーナさんの肩がぴくっと震えるのを俺は見逃さなかった。
やはり、この二人もリネットに対して何か感じているのだと思う。
俺はもう一度宰相の顔を見る。
うん、似ている。
誰に似ているかって?
もちろんリネットのお父さんのフィーゴさんにだ。
顔もそうだし、何というか醸し出す雰囲気もそっくりだ。
ちなみに、今回リネットに名字を名乗らせなかったのは俺だ。
一応、リネットにも(他の全員にもだが)俺が管理人さんから聞いたクラフトマン宰相家の事情は話した。
「そんなことが……」
俺の話を聞いたリネットはとても驚いていた。
そして、今も驚いている。
多分、宰相とセリーナを見て何か感じ取ったからだと思う。
「とりあえず、座ってゆっくりと話そうか」
宰相がそう言ってくれたので、用意してくれていたソファーに全員が座る。
「お茶とお菓子をお持ちしました」
俺たちがソファーに座ると、すぐにグローブさんがお茶とお菓子を運んできてくれて、テーブルの上に並べてくれた。
「これはありがとうございます。いただきます」
折角なので出してもらったお茶やお菓子を食べるが、いまいち食が進まない。
皆、どこか緊張していた。
「うわー、お菓子おいしいですう」
いつもならお菓子と見ればそうやって喜んでたヴェルはずのヴィクトリアでさえあまり食べていない。
ある程度お菓子を食べたら雑談が始まる。
しかし、あまり会話が進まない。
「ホルスト殿はSランク冒険者の就任最短記録だとか」
「はい、その通りです」
「それは素晴らしい。……」
そんな風に話していてもこの場に漂う重い雰囲気が邪魔して会話が進んでいかないのだ。
そうやって、やり取りをしているうちにしびれを切らしたのか、向こうから切り込んできた。
「ところで、そちらのハーフドワーフのお嬢さん。少しお伺いしたいことがあるのですが構わないですかな?」
そう、宰相が突然口火を開いたのだった。
それを聞いて俺は来るべきものが来た、と思った。
「えーと、リネットさんでしたな。リネットさんの父上はドワーフですかな」
「ええ、そうですよ」
「それで、お父上はどんなお仕事をされているのですかな」
「えーと、鍛冶屋ですね。一応、ノースフォートレスの町の鍛冶屋組合の会長です」
「そうですか。なるほど、なるほど……」
宰相はリネットの返答を聞いてうんうんと頷いている。
まるで、何かを確かめるような感じだった。
そして、とうとう核心を突く質問をしてきた。
「リネットさん一つ聞いてもよろしいか」
「何でしょうか」
「もしかして、お父上の名前はフィーゴという名前ではありませんか?」
自分の父親の名前を聞いてリネットはやはりか、という顔をした。
そして、恐る恐る答えを返す。
「そうですが……父のことをご存じですか」
「うむ。グローブ、例のやつを持ってこい」
「は、畏まりました」
宰相に言われたグローブさんが一旦部屋から出るが、5分もたたないうちに戻ってきた。
グローブさんの腕には2枚の写真が抱えられていた。
「失礼いたします。これは昔フィーゴ様から結婚して娘ができたと言って送られてきたものなのですが」
グローブさんはそう言うと、その写真をテーブルの上に置いた。
「あ!」
その写真を見て、全員が目を丸くした。
そこには1組の夫婦が赤ん坊を抱いている写真と、赤ん坊だけの写真があった。
そして、その夫婦の顔に俺たちは見覚えがあった。
「お父さん、お母さん、それに赤ん坊のアタシ」
リネットがポツリとこぼす。
それを聞いた宰相とセリーナさんは、ものすごくうれしそうな顔になる。
「おお、やはり私の孫だったか。ああ、一生会うこともないと思っていたのに、こんなところで会えるとは思わなかった。ううううう」
「リネットさん、あなたがフィーゴお兄様の娘だったなんて……。叔母さん、会えてうれしいわ。うえーん」
感極まって泣き始めてしまった。
「おじい様とお母様、なんで泣いているのかしら」
一人取り残されたスーザンだけがポカンとしている。
それに対して、リネットが説明してやる。
「スーザンちゃん、それはね。アタシのお父さんがスーザンちゃんのおじいさんの息子で、アタシが孫だからだよ」
「ということは、リネットお姉さまは伯父様の娘?ならば、私のイトコ。キャー。本当にリネットお姉さまは私のイトコのお姉さまだったんですね」
やっと事態を理解したスーザンがリネットに飛びついて行った。
嬉しさのあまり、リネットに抱き着いて頬をすりすりしている。
それを見て俺は思う。
ああ、やっぱり収拾がつかなくなっちまったな、と。
仕方ない、少し落ち着くまで待つしかないか。
結局俺たちは事態が落ち着くまでしばらくの間待つことになるのであった。
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