第139話~ドワーフの伝承~
「ほう、これはクラフトマン宰相家の家紋ですね」
俺がもらったペンダントを見ながら、エリカの実家の別荘の管理人さんがそう言った。
俺たちは町の城門を離れた後、エリカの家の別荘に向かい、そこに滞在している。
そして、今こうやって屋敷の管理人さんから話を聞いているというわけだ。
俺以外はみんなのんびりしている。
「アタシは3のワンペアだ」
「ワタクシはツ-ペアですね」
「銀はスリーカードです。ということは銀の勝ちですね。このクッキーは銀の物ですね」
「あー、負けちゃいました」
「ざんねん」
ヴィクトリアとリネットと銀はお菓子をかけてポーカーをしていた。
とても楽しそうで何よりだ。
「ホルスター、お母さんが本を読んであげますからね」
「はーい、マーマ」
エリカはホルスターに絵本を読んでやっている。
喋れるようになってから、ホルスターは急激に話せる言葉が増えて行っており、子供ってこんな成長早いんだなって、俺も驚いている。
そして、エリカはホルスターにもっと言葉を覚えてもらおうと、こうして絵本を読んでやっているというわけだ。
「ホルスター、楽しい?」
「うん、たのしい」
今日のエリカはいつもよりホルスターに対して優しい気がする。
というのも、スーザンたちと旅をしていたので、エリカのお父さんには他人の前では警戒させるからあまり転移魔法を使うなと言われている、2,3日家に帰れず、ホルスターに会えなかったからだ。
なので、今日は実家からこっちへ連れてきて非常にかわいがっているというわけだ。
さて、話が脱線してしまった。元に戻そう。
「それで、そのクラフトマン宰相家ってどういう家なんだ」
「クラフトマン宰相家は王国に3つある宰相家の一つですね。しかもその中で一番歴史が古く、重用されている家です」
「そうなのか?」
「はい。宰相家は王国の貴族の中でも最高位の家柄であり、3家とも王家の血を引いた分家です。その中でもクラフトマン宰相家は初代国王様の次男様が興された家で、破格の扱いを受けておりますね」
なるほど、よくわかった。
とんでもなく偉い家とかかわりを持ったということがな。
「それで、俺たちが助けたスーザンていうのはどういう子なんだ」
「はい。スーザン様は現宰相様のただ一人のお孫様でございます」
「ふーん、孫なのか」
「はい。宰相様には男と女、2人のお子様がいらっしゃるそうなのですが、噂によりますと、お世継ぎであられた男のお子様の方が宰相様と大喧嘩されて家を出て行ったそうです」
「え、宰相の息子さん、家出ちゃったの?なんでそんな喧嘩したの?」
「さあ、もう何十年も前の話なので、私も詳しい話は分かりません。申し訳ありません」
管理人さんが頭を下げて謝ってきたので、俺は慌てて手を振って、別に構わないとジェスチャーする。
それにしても、宰相の息子って家出したのか。
うん。滅茶苦茶どこかで聞いた話だ。
リネットのお父さんも実家ともめて家出したって話だし。名字一緒だし。
リネットのお父さん、身分隠すために名字変えるとか絶対しないだろうし。
これはほぼ確実に……いや、まだだ。
リネットのお父さん、高貴な家の出身にしては態度とか振る舞いとかそういう感じでないし、リネットにだってそういう教育してないし、本当は宰相家とは関係ないはず。……多分。
まあ、それは置いとくとして、俺は管理人さんに質問を続ける。
「それで、スーザンはその宰相の娘さんのさらに娘さんということか」
「はい、その通りでございます」
管理人さんは俺の話を肯定した。
「何でも宰相様は自分の娘様に婿を取って家を継がすつもりだった、とか」
「だった?」
管理人さんの言い方に違和感を覚えた俺は聞き返した。
「実はその跡継ぎにしようとした婿殿が最近お亡くなりになったそうで、それで今度はお孫様に婿を取って家を継がそうとしているとか」
「ふーん、結構複雑な事情があるんだな」
「はい」
まあ、これでクラフトマン宰相家については大体わかった。
では、次のことについて聞くとするか。
「わかった。それじゃあ、次は頼んでおいたドワーフの伝承について話してくれ」
★★★
「ドワーフには一つの伝承があります」
「どんな伝承だ」
「はい、このドワーフ王国がある地下空洞のさらに地下に巨大な地底湖があって、そこに遺跡があるという伝承です」
地底湖?遺跡?
希望の遺跡でもそういうのがあったがここにもあるのか。
まあ、いい。行けというのなら行くだけの話だ。
俺は続きを聞く。
「地底湖に、遺跡か……そんなものが本当にあるのか」
「実は、このドワーフ王国はすごく水に恵まれた国なのですが、その水源はどこから来ているのかというと、どうもその地底湖かららしいのです」
「そうなの?」
「はい。まあ見た者はいないんですけどね」
「どうして?」
「実は、その地底湖へ通じるという洞窟があるのですが、そちらの方は立ち入り禁止になっておりまして」
「そうか、それは困ったな」
本当に困った。その遺跡が何なのか知らないが、これでは行けないではないか。
一応、方法がないか聞いてみる。
「その洞窟に入る方法って何かないのか」
「許可があれば入れるという話ですが」
「許可?誰に許可をもらえばいいんだ」
「クラフトマン宰相家ですね」
「え?クラフトマン宰相家?」
まさか俺たちが助けたスーザンの実家が関係があったなんて。
俺は運命のいたずらに驚くばかりだった。
★★★
「クラフトマン宰相家がその洞窟を管理しているのはわかった。それで、その地底湖にある遺跡ってのはどんなのなんだ」
「はい、それを説明するにはまずドワーフに伝わるおとぎ話を話さなければなりません」
「おとぎ話?」
「その通りです。お話しても構いませんか?」
「ああ、頼む」
管理さんに聞いた話によると、ドワーフにはこういうおとぎ話があるらしい。
昔、神々がこの地に邪悪な魔物を封印した。
邪悪な組織がその封印を解こうとした。
一人の人間の勇者が仲間とともに現れ、それを阻止した。
その勇者の仲間の一人がドワーフの戦士であり、彼こそがドワーフ王国の初代国王である。
以上がドワーフに伝わるおとぎ話だ。
「そして、その魔物が封印されているのがその遺跡であるというわけか」
「はい。そして、その遺跡を守っているのが神獣様というわけです」
「神獣?」
ここで神獣が出てきたか。
まあ、ヴィクトリアのばあちゃんのアリスタは各地の地脈の封印は神獣が守っていると言っていたから当然と言えば当然か。
「はい。神獣様でございます。神獣様がその湖に住んでいて遺跡を守っているとのことです」
「なるほど、神獣が守っているということはそこは聖域で、だからこそ一般人は立ち入り禁止というわけか」
「左様でございます」
大体の話は分かった。
今までの話を総合するに、神獣が守っているその遺跡こそが地脈の封印のかなめで間違いないと思う。
「となれば、なんとしても宰相家に頼み込んでそこへ入れるようにしてもらうようにするしかないか」
さて、どうすべきか。
今度、宰相家へ行く機会があるから、その時に何とかするしかないか。
でも、どうやって説得したらいいのかな。
俺はどうすべきか悩むのであった。
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