第133話~エリカのお父さんの当主就任式とお兄さんの結婚式~

 その日、ヒッグスタウンの町は朝から祝賀ムードに包まれていた。

 町のあちこちに花が飾られ、多くの食料や酒が積まれている。


「ほら、食料と酒の受け取りはこっちだ。順番に受け取りなさい。一人一回までだぞ。って、お前さっき並んでただろうが!」


 それらの食料や酒を役人が庶民に配っている。

 中には二重に受け取ろうという不届き者もいるらしく、そういうのは役人に追い返されていた。


 何で役人が庶民に食料や酒を配っているのかというと、ご祝儀である。

 というのも、今日はエリカのお父さんの当主就任式の日だ。

 だからそのお祝いということで、こうして町のみんなにお祝いの品を配っているというわけだ。


「お祝いの時に紅白饅頭を配るようなものですね」


 またヴィクトリアがわけのわからないことを言っていた。

 というか、紅白饅頭ってそもそもなんだ?おいしいのか?


 まあ、いい。

 ヴィクトリアが変なことを言うのはいつものことだし。


 カラーン、カラーン。

 その時、町の時計塔の鐘が鳴り響いた。

 さあ、就任式の始まりだ。


★★★


 就任式の朝。

 俺たちはエリカの実家で朝から準備にいそしんでいた。


 俺とエリカは魔法使い用のローブに身を包み、杖を手に持っている。

 これがヒッグス一族の者が儀式に参加する時の正装だからだ。


 なお、俺たちのローブと杖はドラゴン製の物で、この種の装束の中でも上等の物だ。おそらくヒッグス一族の中でもこのクラスの装備になると身に着けている者は少ないと思われる。


「このドレス意外ときついですね」

「だよね」

「銀も服がきついです」


 一方、ヴィクトリアたち3人はフォーマルな感じのドレスを着ている。

 フォーマルな衣装なのでタイトで余裕がなく、キツキツなようで、3人とも苦い顔をしている。


「あうあう」


 ホルスターも子供用に特別にあつらえたビシッとしたフォーマルな衣装を着ていた。

 これも着ていると結構きついようで、抱いているエリカの腕の中でイヤイヤしている。


 このようにして準備万端整えた俺たちは就任式に臨むことになる。


★★★


「トーマス・ヒッグス。そなたをヒッグスタウン及びその周辺地域の領主に任命する。これからも王家並び王国のために尽くすがよい」

「はは。このトーマス・ヒッグス、身命を賭して国王並び王国のために尽くす所存でございます」


 国王陛下の勅使からエリカのお父さんが領主の証である儀仗を受け取ると、そうやって型通りの挨拶をする。


 お父さんは心なしか緊張しているように見える。

 この度新調した、俺たちが送ったベヒモスで作ったローブ越しにもそれがうかがえる。


 ちなみにお父さんのローブ、それと今は持っていないがベヒモスの杖は、ヒッグスタウンの魔道具職人が作ったものだ。

 王国、いや世界一の腕を持つ人らしく、エリカとヴィクトリア用のベヒモスの杖とエリカ用のベヒモスのローブの制作もその人に頼んでおり、今は鋭意制作中であるが、しばらく時間がかかりそうだった。


 その様子を家族・親族を始め大勢の家臣、市民の代表が見守っている。


 ちなみに俺とエリカとホルスターは家族ということで、上座に近い席にいる。

 ヴィクトリアとリネット、銀は賓客ということで貴賓席にいる。


「それでは、これからも国王陛下に忠誠を尽くすがよい」

「はは」


 儀仗の受け渡しが終わると、勅使は退席する。

 これで、当主就任式のメインは終わりだ。

 後はお父さんが王都へ行ってお礼の挨拶をすれば当主の相続手続きは完了だ。


 さて、メインの儀式が終わったので儀式は次の段階に移る。


★★★


「領主様、万歳!」

「奥方様、万歳!」

「ユリウス様、万歳!」


 勅使からの儀仗の授与が終わった後は、町中のパレードだ。


 魔法騎士団の第一大隊の隊長がパレードの最前列で騎乗して誘導する。

 隊長の後には10騎ほどの騎士たちが続き、その後をお父さんたちの乗る馬車が走っている。

 馬車は屋根のないオープンな形式なものになっており、お父さんとお母さん、お兄さんの3人が乗って、群衆に手を振っている。


「ワーワー」


 3人が手を振ると、群衆が歓声を上げ、新領主の誕生をお祝いする。


「ばあ」


 ちなみに、ホルスターもこの馬車に乗っている。

 お母さんの膝の上に座って、一生懸命に手を振っている。


「町の人たちにもホルスターの顔をお披露目しないとな」


 そう言って、ちょっと強引にお父さんがホルスターを連れて行ってしまったのだ。

 別に俺にもエリカにも異存はなかったのだが、お父さんのこういう行動を見ると、エリカの言っていた通り、ホルスターを跡継ぎにと狙っているのだなと思った。

 まあ、俺の実家など別にどうでもいいし、ホルスターにとってもそうなった方がいいと思うのでそれで構わないが。


 お父さんたちの馬車の後には俺たちの馬車が続く。

 馬車には俺とエリカ、ヴィクトリアとリネット、銀が乗っている。


「英雄様~」


 群衆も俺のことを知っているのだろう。皆そうやって俺のことを称えてくれる。

 無論、俺も手を振って彼らに応える。


「ワーワー」


 それを受け、さらに歓声が大きくなる。

 このようにしてパレードは順調に進み、町をぐるっと一周するまでそれは続き、パレードの終了をもって当主就任式は終了するのだった。


★★★


 翌日。

 ヒッグスタウンの大聖堂にて。


「汝ユリウス・ヒッグスはヘレン・ボトムを妻とし、病める時も健やかな時も共に過ごすことを誓いますか」

「誓います」

「汝ヘレン・ボトムはユリウス・ヒッグスを夫とし、病める時も健やかな時も共に過ごすことを誓いますか」

「誓います」


 エリカのお兄さんの結婚式が行われていた。

 司教様の仕切りで、二人が主神クリント様に夫婦になることを誓う。


「それでは誓いの口づけを」


 そして、二人がキスをする。

 パチパチパチ。

 大聖堂中に拍手が鳴り響く。


 その後、二人が皆にたたえられながら退場して結婚式は終わった。


★★★


 結婚式が終わった後は親族の顔見世だ。

 これには俺とエリカ、ホルスターが参加した。


「僕がホルストです。よろしくお願いします」

「エリカです。よろしくお願いします。それと、こちらが息子のホルスターです。よろしくお願いします」


 そうやって新婦の親戚に挨拶をしていった。

 まあ、新婦の親戚と言ってもすでに顔を知っているのも多かったので今更という感じがしたが。


「エリカにホルスト、こちらが僕の奥さんのヘレンだよ」


 そうやっていると、エリカのお兄さんが奥さんを連れてきた。


「ヘレンと申します。よろしくお願いします」

「ホルストです。よろしくお願いします」

「エリカです。よろしくお願いします」


 お互いに名を名乗り挨拶をする。

 ヘレンさんは亜麻色の髪を持つ優しそうな人だった。

 エリカたちほどではないが、こう思っておかないとバレたらまずい、結構な美人である。


 彼女の実家のボトム家は俺の実家と同じようなヒッグス家の重臣で、だからこそお兄さんの奥さんに選ばれたのだ。


「あなたたちがユリウス様の妹のエリカさんと、噂のホルスト君ね」

「「はい」」

「エリカさんもすごい魔法使いだけど、ホルスト君はまさに異次元ね。私も白薔薇魔法団の所属であの戦いに参加していたけど、あの光の魔法はすごかったわ。こう、ドババッと、魔物たちをあっという間に焼き尽くしてしまって、とにかくとんでもなかったわ」

「いやあ、お義姉ねえさん、そんなに褒められたら、照れちゃいますよ」


 あまりにもヘレンさんが褒めてくるものだから、俺は照れくさくなって頭をかいてしまった。


「後、もし私に娘が生まれたらホルスター君と一緒にさせると聞いているから、その時はよろしくね」

「ああ、まあ。よろしくお願いします」

「ええ、ホルスター君たちと私たちの娘の間の孫なら、きっと強い魔術師になってくれると思うわ。今から楽しみだわ」

「ええ、そうですね」


 子供が生まれる前からこの人は何を言っているのだろうと俺は思ったが、よく考えたらこの人もヒッグス一族の人間だ。

 ヒッグス一族の人間は強い子孫を残したいという欲求が強いので、こんなものだとも思う。


 こうして、親族の顔見世も無事終わった。


★★★


 顔見世が終わった後は披露宴だ。

 披露宴にも、結婚式同様、家臣や親せきを始め大勢の人が参加している。


 ちなみに、ここで披露宴が開催されるのと時を同じくして、町では昨日の当主就任式の時と同じように町の人々に食料と酒・飲み物が配られていたりする。

 町の人たちも二日連続でごちそうが食えて大喜びだと思う。


 なお、喜んでいるのは何も町の人たちだけでない。


「銀ちゃん、このお肉おいしいですね」

「はい、ヴィクトリア様。銀も気に入りました」

「うん、確かにおいしいね。何の肉だろうね」

「なんでも、私が聞いた話ではアースドラゴンの肉らしいですよ」

「へえ、アースドラゴンか。それはおいしいはずだな。……って、アースドラゴン?それって、もしかして」

「多分、私たちが昔狩って売り払ったやつですね。どこかの商人が冷凍保存しているのを買ってきたみたいですよ」


 そうエリカの言う通り、俺たちは昔希望の遺跡というところでアースドラゴンを討伐し、それを売り払った経験がある。


「何ということだ」


 まさかあのアースドラゴンとこんな形で再会することになるとは!

 あのアースドラゴンは結構な強敵だった。

 それが今や肉として俺たちに食されている。

 俺は運命の皮肉を感じざるを得なかった。


 それはともかく、披露宴の方は順調に進んだ。

 新郎新婦の挨拶から両親の挨拶、キャンドルサービスと予定が次々と進んでいく。

 そして、最後に新郎新婦が一礼してから退場して、披露宴は終了した。


 さて、これでお兄さんの結婚式も終わった。

 これでようやく俺たちがヒッグスタウンへ来た目的も達成されたわけだ。


「さて、旦那様。これでヒッグスタウンへ来た目的は果たせました。後はアリスタ様の神命を片付けていくだけですね」

「ああ、そうだな。みんな、頑張っていくとするか」

「「「「はい」」」」」


 こうして、俺たちは古代神の復活を阻止する活動を再開するのだった。

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