第132話~久しぶりの冒険者稼業、後編~
「よし、それじゃあ各自偵察に出発せよ」
ベースキャンプを張った翌日、予定通り探索へ出発した。
捜索隊は騎士8名、黒虎魔法団から1名、白薔薇魔法団から1名の合計10名で構成され、これを7隊編成して捜索へ向かわせる。
「はい」
俺の指示で各隊が行動を開始する。
「それでは俺たちも行くぞ」
「「「「はい」」」」
もちろん、俺たちも一隊編成して捜索へ向かう。
こうして、魔物の残敵捜索が開始された。
★★★
「山の中って涼しいですね」
山の中を歩いていると、ヴィクトリアがそんなのんきなことを言い始めた。
「お前、近くに魔物がいるかもしれないのにのんびりしているな」
「だって、最近暑くて仕方ないんですもの。この世界にはエアコンが効いた涼しい部屋とかないですし、たまには涼しいところに居たいです」
涼しいところに居たいという気持ちはわかる。
俺も暑いのは嫌だからな。
それにエアコンってなんだ。
まあ、こいつが変なことを言うのはいつものことだから放っておくとするか。
「旦那様、敵ですよ」
そんなことを考えているうちにエリカが敵を見つけた。
早速接近してみる。
「ゴブリンウォーリア3体とオークが1体とゴブリンが6体か」
全部で魔物が10体。
正直大した相手ではない。
ということで。
「ここは計画通り、銀の練習相手になってもらうか。銀、大丈夫か?」
「大丈夫です。ホルスト様。銀はバッチリ準備できています」
「よし、それならオークを狙え」
「はい、畏まりました」
「銀がオークを始末した後は全員で攻撃だ。ヴィクトリアは炎の精霊を召喚してゴブリンを焼き払え。ゴブリンウォーリアは残りの3人で始末する。いいな?」
「「「はい」」」
「では、かかれ」
俺の指示で全員が配置につく。
「『狐火』」
配置に着くと、銀が最近覚えたばかりの妖術を使いオークに攻撃する。
ゴオオオ。
『火球』の魔法くらいの大きさの炎がオークに直撃する。
「ぎゃああ」
オークが炎に包まれ一瞬で火だるまになる。
「『精霊召喚 火の精霊』」
続いてヴィクトリアが炎の精霊を召喚し、ゴブリンを攻撃する。
「ぴーー」
「ぎょえ」
炎の精霊の攻撃で一瞬でゴブリンは蒸発する。
「リネット、エリカ」
「おう」
「はい」
最後に残りの3人がゴブリンウォーリアに仕掛ける。
ザン、ドス、ビュ。
3人の攻撃でゴブリンウォーリアたちもあっという間に殲滅される。
「とりあえず終わりか」
魔物の群れを仕留めた俺たちは一息つく。
その後しばらく周囲を探索した後、ベースキャンプに帰還するのだった。
★★★
「うん、なるほどな」
ベースキャンプに戻った俺は探索隊からの報告を受けた。
その報告をまとめると、全部で倒した魔物は50体ほど。
そこまでの成果をあげられなかった。
ただ、敵のモンスター軍団は集団で行動しているという報告が多い。
「これはどこかでまとまっている可能性が高いかな」
そう思った俺は次の手を実行することにする。
「銀、頼む」
「はい、ホルスト様。我が眷属たちよ。すぐに来なさい」
銀の命令ですぐに周囲の狐たちが集まってくる。
ざわざわ。
急にたくさんの狐たちが集まってきたので、ベースキャン中がざわついたが、
「この狐たちは味方だから落ち着くように」
と、伝達すると騒がなくなった。
さて、狐たちも集まったようなので、早速依頼する。
「やあ、このあたりの狐の長のダイズ。久しぶりだな。元気だったか」
「はい、皆様のおかげで平穏無事に過ごせております」
「また、頼みを聞いてくれないか?」
「はい、何なりとお命じください」
「それでは……」
俺はダイズたちに依頼を告げる。
俺の依頼を受けたダイズはすぐには以下の狐たちに命令する。
ヒュ。ダイズの命令を受けた狐たちがすぐに行動を開始する。
その成果はすぐに出た。
翌朝、ダイズから報告が入る。
「ここより北の山肌に敵部隊の拠点を発見しました」
「よし」
俺の予想通り、魔物たちの拠点があったようだ。
「よし、それでは作戦を立てて攻撃だ」
ということで、俺たちは魔物の拠点を攻略することになった。
★★★
その日の夜。
「よし、包囲は完了したな」
俺たちは敵拠点の包囲を完了した。
拠点の様子は、昼間、航空偵察で確認している。
その結果。
「敵の拠点の入り口は北と西に1か所ずつ。残りは断崖絶壁に囲まれて逃げ道なし、か」
敵の拠点の大体の構造は把握してる。
さて、配置も完了したことだし、作戦開始だ。
まずは俺が魔法で攻撃する。
「『天爆』」
俺は2か所の入り口に向けて威力を抑えた『天爆』の魔法を放つ。
ドガーン。ドゴーン。
俺の放った魔法は命中すると大爆発を起こし、入り口の城門を吹き飛ばす。
続いて。
「『炎嵐』」
エリカが拠点全体めがけて炎の嵐を起こす魔法を放つ。
ゴオオオオオ。
炎が拠点を覆い、拠点の各所から火の手が上がる。
「ひいいいい」
「ぎゃあああ」
すぐさま炎に包まれた拠点から魔物たちが逃げ出してくる。
「今だ!弓隊、魔法隊攻撃せよ!」
「は!」
さらに、弓隊、魔法使い隊が拠点から逃げ出そうとする魔物たちを攻撃する。
バタバタと、逃げ出そうとした魔物たちが次々に倒れていく。
「今だ!騎士隊、突撃せよ!」
「うおおおおお」
逃げてくる魔物がいなくなると、騎士隊が突撃する。
俺とリネットも行く。
本来なら総大将である俺が行くのは軍事的には正しくないことなのだろうが、万が一強敵が生き残っていた場合、若い騎士たちでは対応できない可能性を考慮しての措置だった。
ただ、予想に反して強敵は出てこなかった。
着の身着のままで逃げだしたような魔物たちがうろちょろしているだけだ。
ただ、油断はダメだ。
「お前ら、魔物と戦う時は三人一組で事にかかれ」
「は!」
魔物には3人がかりで当たってもらうことにする。
今の魔物の惨状なら一対一でも大丈夫だろうが、チームプレーの練習のためにそうしている。
「やあ」
「とお」
「はっ」
こうして、騎士団の掃討戦は順調に進んでいく。
30分後。
「もう終わりかな」
魔物の姿が拠点から消えた。
そろそろ撤収か。
俺がそう考えている時にそいつは現れた。
「うがああああ」
何と焼け焦げたがれきの山の下からオーガキングが現れたのだ。
「一応、ついてきて正解だったな」
若い騎士たちではオーガキングには歯が立たないだろう。
俺は自分の判断の正しさを自画自賛するのだった。
★★★
「ホルスト君、ここはアタシに任せてくれ」
俺がオーガキングと対峙しようとすると、リネットがそう名乗り出てきた。
「リネットならオーガキング位大丈夫だと思うが、油断は禁物だぞ」
「問題ない」
俺の言葉に頷いてみせると、リネットは斧を構えてオーガキングの前に立つ。
「ぐおおお」
それを見て、オーガキングがリネットに襲い掛かってくる。
普通の人間ならそれだけで立っていられないような恐怖に襲われるだろうが、リネットは落ち着いて行動する。
「『真空断』」
そして、オーガキングに対して静かに必殺技を放つ。
★★★
『真空断』
これはリネットの持つ『戦士の記憶』の中にあった技だ。
真空の刃を発生させて敵を切り裂く技だ。
『風刃』の魔法に似ているが、一撃の威力ははるかに大きかった。
「『真空断』」
リネットが必殺技を放つ。
ビュ、ビュビュビュ。
空気がすさまじい音を立て振動する。
次の瞬間。
「ぐお?」
オーガキングが短い音を立て真っ二つに切り裂かれる。
バタ。
切り裂かれたオーガキングの肉体は左右に分かれて地面に倒れ伏す。
「何だ、あれは」
「わー、すげえ」
その光景を見ていた騎士たちから歓声が上がる。
俺もリネットに声をかけてやる。
「やるじゃないか、リネット」
「いやあ、それほどでも」
俺に褒められたリネットは照れくさそうにに頭をかく。それはそれはステキな笑顔だった。
その笑顔は純粋で、俺にはとてもかわいらしく見えた。
★★★
こうして俺たちは依頼を完遂した。
その後ベースキャンプに戻った俺たちは一休みした後、ベースキャンプを引き払って帰還するのだった。
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