第134話~今後の方針~

 お兄さんの結婚式が終わった翌日。


「それでは、俺たちの今後の方針を決める会議を始める」


 俺たちの今後の方針を決めるための会議をした。


「今、俺たちは女神アリスタ様の依頼で、地脈の再封印を行おうとしているわけだが、俺たちは次にどこへ向かうべきだと思う?」

「次は南じゃないかな」


 俺の問いかけにそう答えたのはリネットだ。


「南ですか?」

「ああ、ヒッグスタウンはノースフォートレスから結構南の方にあるからね。だったら南の方から探すのが効率的ではないかな」

「なるほど、それは一理ありますね」


 確かに、リネットの言う通り南の方から片付けるのが時間的には効率がよさそうだ。


「しかし、そうなると困ったな」


 何がかというと、漠然と南と言われてもどこへ行けばいいかわからないのだ。

 一口に南と言われても広い。


 しかし、ヴィクトリアのばあちゃんのアリストがくれたヒントは、希望の遺跡を中心に東西南北に封印があるということだけだ。

 具体的にどことは言わなかった。


 さすがは、ヴィクトリアのばあちゃん。ヴィクトリア同様結構抜けているところがあると思った。


「南と言っても具体的にどこなのだろうか」


 俺がぼやくと、


「はい、は~い」


と、ヴィクトリアが手をあげる。


「ワタクシにいい考えがあります」

「ほう、どんな考えだ」

「まずはこれを見てください」


 ヴィクトリアはそう言うと、収納リングから地図を取り出し、希望の遺跡を中心にコンパスで円を描いた。


「見てください。この円の外周の東にあるのがフソウ皇国じゃないですか。封印というものはこうやって中心部から等距離にあるものなのです。それで、南の外周にあるのは何ですか」

「ここか!ドワーフ地下王国!」


 そこにはドワーフ地下王国というドワーフの王国があった。


「ドワーフ王国か」


 それを聞いてリネットの顔が渋くなる。


「なにか問題でも?」

「いや、なんというか。そこって、お父さんの故郷なんだよね」

「フィーゴさんの?」


 フィーゴ・クラフトマン。リネットのお父さんで生粋のドワーフだ。


「うん。まあ、アタシは行ったことはないけどね」

「そうなんですか」

「ああ、一度も行ったことないね。お母さんから聞いた話だと、お父さん、ほとんど家出みたいな感じで実家を出てきたらしくて、一応ドワーフ王国に家族はいるらしいんだけど、交流はないんだよね」


 どうやら複雑な家庭の事情があるようだ。

 俺は深く聞かないことにした。


「それじゃあ、もしかして行きたくない?」

「いや、どうせ顔も知らない人たちだからどうでもいいね。会っても何の感慨も沸かないだろうし。行くのに問題はないね」


 どうやらリネットの方にも問題はないようだ。


「エリカもそれでいいか?」

「はい、私もそれが良いと思います。ただ……」

「ただ?」

「そちらの方へ向かう前に、父に色々頼んだ方がいいと思います。ドワーフ王国にもヒッグス商会の支社とかありますし、頼めば施設とか情報網とか使わせてくれると思います」

「そうか。……うん、それがいいかな。それじゃあ、後で頼みに行くか」

「はい、それがよろしいかと」

「じゃあ、そうするとして、他に意見のある者は?」

「はい」


 俺が声の方を見ると、ヴィクトリアが手をあげていた。


「お、なんかあるのか」

「どうせ南に行くのなら、カイザー湖に行ってみたいです。昔ホルストさんとエリカさんが一緒にボーtに乗ったとかいう」

「お前なあ」


 俺は呆れた。


「お前、遊びに行くんじゃないんだぞ」

「だって、行きたいんですもの」


 俺の叱責を聞いてヴィクトリアがぶうたれる。

 そこへ、エリカとリネットが援護射撃に入る。


「まあ、旦那様、別にいではないですか」

「そうだよ。仕事の中にも息抜きは必要だよ」


 お前ら、最近本当に仲いいな。

 まあ、全員が行きたいというのなら、俺だけが反対というわけにもいかない。


「じゃあ、決まりだな。ドワーフ王国へ行くついでにカイザー湖にも寄る。それで、いいな?」

「「「はい」」」


 これで、次の目的地は決まりだ。

 こうして、俺たちはドワーフ王国に行くことになった。


★★★


 一方その頃。


「なに?ヒッグスタウンを落とせなかっただと?その上、送り込んだ魔物の軍団も全滅したと申すか?」


 某国、某建物。

 神聖同盟の策謀の根源地であるそこでは盟主が部下の報告を受け、その内容のひどさに激怒していた。


「折角、2年以上もかけて魔物たちを集め、軍勢を編成し、気づかれぬように部隊を移動させ、奇襲に近い形でヒッグスタウンを襲わせたというのに……何という大失態だ!」


 怒りを隠すこともなく、顔を真っ赤にして怒鳴る盟主を見て、部下が恐怖で震えている。

 しかし、それでも上司に報告はせねばならず、部下は震えながらも報告を続けるのであった。


「それで、戦闘の経過なのですが……」

「そうだ。それだ。どういう経緯で30万の軍勢が全滅することになったのだ。ヒッグス軍はそんなに手強かったのか?ヒッグス軍は数万程度の軍勢のはずだが、10倍もの軍勢を退けてしまうくらいの武力を有していたのか?」

「そ、それが……」


 部下が言いにくそうな顔になる。


「何だ?何か問題があるのか?」

「はあ、それが一人なのです」

「一人?何がだ」

「30万の魔物の軍勢は一人の人間によって滅ぼされたのです」

「はあ?」


 盟主は部下の言っていることの意味が分からなかった。


「それはどういう意味だ」

「そのままの意味です。たった一人の人間が放った一発の魔法によって30万の軍勢が滅びました」

「そんな馬鹿な!」


 部下の報告を聞いた盟主が愕然とした。

 そして、気が付く。


「そういえば、以前王国の北部砦で10万の魔物たちが壊滅したことがあったな。もしや」

「それと同じ人物の仕業だと思われます」

「それで、そいつについての情報は集まっているのか」

「それが……ホルストという名前らしいことはわかっているのですが、それ以上のことは」

「諜報部隊の連中は何をしているのだ!」

「それが、その者のことを調べようとした者たちが次々と行方不明になっておりまして。まるで、その者が何かに守られているようで……」

「守られている?まさか新しい神々の?」


 そこまで言うと、盟主は一度黙り考える。

 そして、しばらくするとまた話し始める。


「まあ、よい。それよりもドワーフの件はどうなっておる」

「は。そちらの方は順調です」

「そうか、ならばそちらを進めよ」

「は、畏まりました」


 その後しばしの打ち合わせをした後、部下は出て行った。

 部下が出て行ったあと、盟主は窓から外を見ながらつぶやく。


「新しい神々の使徒?まさかな」


 盟主の部屋から見える空は雲で覆われており、薄暗かった。

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