第131話~久しぶりの冒険者稼業、前編~

 久しぶりに冒険者としての仕事をすることになった。

 出発の前日から入念に準備をする。


「ポーション類はそろえたか?」

「バッチリです」

「武器や防具の整備はどうだ」

「問題なしだね」

「食料は?」

「旦那様、ちゃんと用意ができています」


 そうやって準備に余念はなかった。

 今回の依頼はヒッグスタウンの冒険者ギルドからのものだ。

 ただし、依頼主はエリカのお父さんだ。


「ホルスト君、実は魔物討伐を引き受けてもらいたいんだが……」


 そう頼まれたのだが、俺たちは一応冒険者なので、


「それならギルドを通してください」


そう言ってギルドを通して依頼してもらったのだ。


 魔物討伐の依頼と言っても、今回は特定の魔物が標的ではない。

 なぜなら、今回は魔物の掃討が仕事だからだ。

 というのも、前にヒッグスタウンに攻めてきた魔物の生き残りが山に潜伏しているようで、その討伐が目的なのだ。


 それと今回の仕事は共同作業だ。


「よろしくお願いします」


 俺たちが仕事の準備をしていると、その相手が挨拶にやってきた。

 騎士団。黒虎魔法団。白薔薇魔法団の代表者たちだ。


 一応説明しておくと、騎士団はそのまま騎士団だ。

 黒虎魔法団は男魔法使いだけの部隊だ。

 そして、白薔薇魔法団は女魔法使いだけの部隊だ。

 いずれもヒッグス家の中核を担う部隊で精鋭ぞろいだ。

 彼らのうち、若手を引き連れて魔物の討伐に向かうことになっている。


「こちらこそ、よろしく」


 俺は彼らの代表たちと握手を交わすと、明日の予定についての打ち合わせをした。


★★★


 カタカタ。

 翌日、ヒッグスタウン周辺の街道を10台の馬車が走っていた。

 俺の馬車を中心にして、前に4台、後ろに5台の馬車が走っている。


「目的地までもう少しだな」


 今行こうとしているのは、山の中にあるちょっと開けた土地だ。

 そこにベースキャンプを張って、魔物の討伐に向かう予定だ。


 俺は馬車の中を見る。

 俺、エリカ、ヴィクトリア、リネット、銀と全員揃っている。

 ホルスターはお留守番だ。

 家で、エリカのお母さんが面倒を見てくれている。

 ちなみに、パトリックは騎士団の子が御してくれている。

 なので、今全員で休憩中なのだ。


 それで、休憩中の俺たちが何をしているかというと。


「あ、ホルストさん、ババ引いちゃいましたね」

「ちくしょう、やられた」


 トランプのババ抜きだ。

 説明するまでもないが、ババ抜きはお互いにカードを引いていき、同じ数字が揃ったらカードを捨てることができ、最後までジョーカーを持っていたやつが負けというゲームだ。

 そして、今回最後まで残ったのが俺とヴィクトリアだ。


「さあ、ではワタクシが正解を引いて終わらせてあげます」


 俺の手元にあるカードは残り2枚。

 ヴィクトリアに正解のカードを引かれたら負けだ。


「えい」


 ヴィクトリアが俺のカードを引く。


「あ、ジョーカーです」

「よし、セーフ!」


 とりあえず負けを回避した。

 次は俺のターンだ。


「こなくそ!」

「あ!」

「よし!」


 俺の勝利だ。


「さて、それでは罰ゲームを受けてもらおうか」

「うう、仕方ないですね」


 ヴィクトリアが何とも言えない顔になる。負けて悔しいはずなのに、表情が変な気がした。

 今回の罰ゲームは『巻きずしの一気食い』だ。


 巻きずしはフソウ皇国でも食べたことがある料理で、最近エリカのレパートリーに加わった料理だ。

 普通は細長いのを作って、それを小さく切って食べるのだが、今回はその細長いのを一気食いしてもらう。


「さあ、食え」

「いただきます」


 ヴィクトリアが口に巻きずしを口に入れる。

 もぐ、もぐ。

 ヴィクトリアは順調に巻きずしを食べていく。


 その表情は心なしか恍惚の感情に染まっているように見えた。

 あれ?こいつ、実は喜んでいる?

 もしかして、罰ゲームになっていない?

 いや、これ一気に食うの結構つらいからそんなことはないと思うんだが……。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わったヴィクトリアは涼しい顔をしていた。

 それを見て、俺はやはりな、と思った。

 何か一言言ってやろうかなと思ったが、


「おーい、目的地に到着したぞ」


そう外から声が聞こえてきたのでやめた。

 どうやら目的地に着いたようだ。


★★★


「そっちの50人は5人一組でチームを組んで、ベースキャンプの周囲の探索と敵の排除だ。ただし、敵の数が多い場合は単独でやりあうな。すぐに周囲に連絡だ。残りの者たちはベースキャンプの設営だ。かかれ!」

「了解です」


 目的地に着くと、早速ベースキャンプの設営の開始だ。

 今回、部隊の指揮は俺に任せられているので、俺の指示で全員が動く。

 部隊は騎士団が70名。黒虎魔法団が15名。白薔薇魔法団が15名の総勢100名だ。

 それらがてきぱきと行動する。


 まず、周囲を索敵し、ベースキャンプ周辺の安全を確保する。

 その間にテントや炊事場を設置し、ベースキャンプの設備を設営する。


「よし、大体できたな。それじゃあ、とりあえず食事の準備をして食事だ。食事の後は各自休憩だ。その後夜から作戦会議だ。最後に歩哨は先に渡した当番表のとおりに行ってくれ。以上、各自準備にかかれ」

「はい」


 ベースキャンプの設営が終わると早速食事の準備だ。


「そっちのみなさんは材料を切ってください。それで、こちらの方々は火を起こして薪をくべてください」


 食事はエリカが中心となって準備される。

 今日の夕飯はパンと肉を炙ったのとスープだ。

 完全に野戦食だが、食べるとまあまあおいしかった。


 食事が終わった後は休憩して作戦会議だ。


「100名のうち30名はベースキャンプの守備に残す。残りの70名で捜索だ。10名一組で行動しろ。敵の方が多いと思ったら無理はするな。すぐにベースキャンプに戻れ!人数を増やして再度攻撃だ!」


 作戦会議の冒頭。

 俺が今回の作戦概要を説明する。

 全員が黙って俺の話を聞いている。


「班分けと担当範囲もすでに決めている。この紙の通りだ。各自受け取って確認しろ。エリカ、ヴィクトリア」

「「はい」」


 俺の指示でエリカとヴィクトリアが作戦計画書を配布していく。

 配布が完了すると、全員でそれを読む。

 皆、うんうん頷きながらそれを読む。


 全員が読み終わったころを見計らって、次の指示を出す。


「みんな、大体わかったか?なら、後は班ごとに分かれて細かい打ち合わせをしてくれ。それが終わったら、明日に備えて今日は休め。何か質問のある者はいるか?」

「はい、隊長殿……」


 そのあといくつか質問が出たので、俺はそれに付いて回答した。


「よし、ではこれにて作戦会議は終了だ。班ごとの打ち合わせが終わったらゆっくり休め」


 これで作戦会議は終わりだ。


「じゃあ、俺たちは休むか」

「「「「はい」」」」


 終了したので俺たちのパーティーも作戦会議場を離れテントに向かった。

 こうして、作戦の1日目は終わった。

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