第8章 ドワーフ地下王国

第130話~卒業後のひと時~

 上級学校を卒業してから数日後。


「さあ、かかって来い」

「はい」


 カン、カン。

 俺はかかってきた騎士と剣を数回交えると、


「甘い!」


そう叫びながら騎士の隙を突き、騎士を地面にたたき伏せてやる。


「参りました」


 倒された騎士はそう言いながら一礼すると、後ろに下がる。


「よし、次!」


 そして、俺は次の騎士の相手をする。

 今、俺はエリカの実家の訓練場で防衛軍の連中に剣術の訓練を施していた。

 上級学校に通っていたころは、早朝に1時間だけ新人たちに訓練していたのだが、最近では早朝2時間、夕方2時間訓練するようになった。


 しかも相手にするのは新人だけではない。


「ふむ、次の相手は中隊長か」


 なぜか幹部連中の相手も俺がするようになった。


 ガン、ガン。

 幹部連中はさすがに新人たちよりは強い。

 一撃の威力も高く、素早い。


 しかし、それでも俺の敵ではない。


「まだまだだな」


 新人たち同様、あっさり倒してやる。


「どうしたあ!そんなものかあ!」


 俺の横ではリネットが同様に騎士たちの相手をしてやっている。

 もちろん騎士たちがリネットに敵うはずもなく、コテンパンにのされていた。


「今日はこれにて終了」

「ありがとうございました」


 それから、しばらくして訓練が終了し、解散すると、俺は庭の方へ向かう。


「旦那様、リネットさん、お疲れ様です」

「ごはんできてますよ~」


 庭ではエリカとヴィクトリアの二人がご飯の支度をして出迎えてくれた。

 見ると、いくつかテーブルが並んでいて、その上に食器類が置かれている。

 最近になって、こうして庭先で庭に咲く花を観賞しながら食事をする機会が多くなった。


「庭で植物を見ながら食事をすると、気分がいいものですよ」


 そうヴィクトリアが言うので、一度試しにそうしてみたところ、皆が気に入ってしまったのだった。


「ホルスト君にリネットさん、訓練ご苦労だったね。いつも悪いね」


 朝食を食べようとテーブルに着いた俺たちにエリカのお父さんが声をかけてくれる。


「いえ、お義父さん。お世話になっているのだからこれくらい当然です」

「いや、そんなことないよ。王国武術大会優勝者と決勝戦出場者の二人にじかに教えてもらえるとあって、騎士団の連中は大喜びだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。特にホルスト君に教えてもらいたいという希望が多くてね。僕も対応に苦慮しているよ」

「本当、ホルストさんはあれだけすごい魔法を使えるのに、その上王国武術大会で優勝できるだけの

実力があるだなんて、素晴らしいわ」


 エリカのお父さんだけでなくお母さんもべた褒めだ。

 俺は褒められすぎて、照れくさくなって頭をかく。


「お父様、お母様、旦那様をいじるのはそれくらいにしてください。旦那様、困っているではないですか。さあ、それよりもお食事にしましょう。ホルスターもお腹が空いてぐずっていますし」

「ああ、そうだね。待たせて悪かったね。それでは食事にしようか」


 そう言うと、お父さんはポンポンと手をたたく。

 すると、それを合図に屋敷の執事やメイドさんたちが動き出し、テーブルの上に食事を並べていく。


「それでは、食べようか」

「いただきます」


 準備が終わると、皆が席に着き、一斉に食べ始める。

 今日の食事は、焼き立てのパンにサラダ、スクランブルエッグにウィンナーというごく普通の朝食だった。


「うん、うまいな」


 ここの朝食は結構おいしい。


 特にパンとウィンナーが俺は好きだ。

 パンは毎朝ここの料理長が焼いているもので、香りが香ばしくて食べているととてもおいしい。

 昔、実家にいた時に食わされていた固くてまずいパンとは大違いだ。

 本当、自分でもあんなものを平気で食っていたものだなと思う。

 あのパンの一件だけでも、俺は親父たちのことを許せないと思うのだった。


 おっと、話がそれてしまった。


 それと、ここのウィンナーも俺のお気に入りだ。

 ここのウィンナーは料理長の手作りらしく、スパイスがよく利いていて、とてもおいしい。

 エリカも小さい頃から食べているので、好みらしかった。


「このウィンナー辛くておいしいですね。お酒に合いそうです」

「まったくだ」

「銀も気に入りました」


 女性たちにもウィンナーは好評なようだ。


「おかわりください」


 ヴィクトリアなどよほど気にいったのか、さっきから何度もおかわりしている。


「はい、ホルスターちゃん。おばあちゃんが食べさせてあげますからね。はい、あーんして」

「あーうー」


 俺たちが食事を楽しんでいる横では、エリカのお母さんがホルスターに食事をさせていた。

 ホルスターもこの頃はお乳を飲まなくなったので、大分手をがかからなくなり、こうやってエリカのお母さんだけでも食事の世話ができるようになっている。

 エリカのお母さんも孫のお世話ができてうれしいようで、いつもくっついて世話をしている。


 こうして、俺たちの一日は楽しく始まるのだった。


★★★


 朝食が終わった後、全員で魔法の訓練をする。


「『火球』」「『防御結界』」「『天火』」「『鬼火』』


 そうやって、みんなで一生懸命に練習する。


「いただきます」


 魔法の訓練の後は昼食をとる。

 訓練の後なのでお腹が空いていたので、皆たくさん食べた。


 その後はみんなで昼寝をした。

 庭の日陰にビーチチェアを並べ、そこで横になる。

 今は夏で外は暑いが、ここなら風が吹いてきて涼しかった。


「気持ちいいです」


 昼寝女王のヴィクトリアが真っ先に横になったのを皮切りにみんなが横になる。

 もちろん、俺も横になる。


 確かにこれはいい!


 最近、騎士団の訓練の打ち合わせやエリカのお父さんの仕事の手伝いなどで忙しかったこともあり、結構疲れていた俺は気持ちよく眠ってしまった。

 しばらく後。


「お前たち、何しているんだ?」


 目が覚めると、ヴィクトリアとリネットが俺の顔をじっと覗き込んでいた。


「いや、そろそろホルストさん起きるころかなと思ってみていたんですよ」

「俺が起きたからどうだというんだ」

「いや、ヴィクトリアちゃんがお庭を散歩したいって言うんで、ホルスト君も誘おうと思って待っていたんだ」

「エリカたちは?」

「エリカちゃんたちはまだ寝ているよ」


 俺が周囲を見回すと、エリカと銀、ホルスターの3人はまだ寝ていた。

 特にエリカなど、ホルスターの世話で最近忙しかったからなのだろう。

 子供のような安らかな顔でよく眠っていた。


 まあ、いいか。


 一度起きた以上、もう一度寝るのもなんだし、夕方の訓練まで時間もある。

 ヴィクトリアたちとの散歩に付き合うのも悪くないだろう。


「それじゃあ、行くか」

「「はい」」


 こうして、俺たちは散歩に出かけた。


★★★


 これはどういうことなのだろうか。

 ヴィクトリアとリネットと散歩しながら俺は思った。


「なんで、お前ら、二人ともそれぞれ俺と腕を組んでいるんだ?」

「何でもくそも、ワタクシたち、ホルストさんの女という扱いですので。ならば、こうやって腕を組みながら歩くのが普通ではないですか?」

「その通りだよ。ホルスト君。普通、普通」


 そう言って二人は俺の問いかけに取り合わなかった。

 まあ、確かに二人とも俺とそういう関係だということにしているが、それにしても……と思う。


 女の子と腕を組むのって何と気持ちがいいのだろうか。


 まあ、この二人と腕を組むのは初めてではないが、いつ腕を組んでも気持ちいいと思う。

 何というか、女の子と腕を組んでいると、こう女の子の匂いというか存在感というか、そういう者が伝わってきて、たまらない気持ちになる。

 ああ、エリカのことが無ければ我慢できず、思わず手を出してしまいそうだった。


「あ、ホルストさん、バッタですよ」


 歩いていると、ヴィクトリアがバッタを見つけた。


「本当だ。バッタだね」

「ちょっと捕まえてみましょう」


 ヴィクトリアとリネットは俺から離れていくと、バッタに近づいていく。


「えい」

「やあ」


 バッタは2匹いたので一人1匹ずつ捕まえる。それで、何をするのかと見ていると。


「行きますよ。バッ太郎の攻撃です」

「何の。アタシのバッタ男も負けんぞ」


 何とバッタを戦わせ始めた。

 手に持ったままバッタを近づけると、バッタ同士が手をバタバタ動かして戦っているように見える。

 それを見て楽しんでいるのだ。


 子供っぽいことをするなと見ていたが、二人の表情は無邪気でかわいらしかった。


 たまにはこういうのもいいなと思った。


★★★


「旦那様、スイカ切っているので食べてくださいね」


 散歩を終えて元の場所へ戻ると、エリカがスイカを切ってくれていた。


「うわー、いただきます」


 スイカを見たヴィクトリアが早速かぶりつく。


「うん、おいしいです」


 スイカを食べたヴィクトリアは非常に満足そうだ。


「どれどれ」


 もちろん俺もいただく。


「冷えててうまいな」


 どうやら井戸で冷やしたらしく、スイカはとても冷えていておいしかった。


「さて、夕方の訓練も頑張るか」


 そして、スイカを食べ終えた俺は、夕方の訓練へ向かうのだった。

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