第127話~ヒッグスタウン上級学校文化祭~

パーン。パーン。


 午前10時。

 ヒッグスタウン上級学校の文化祭の開催を知らせる花火が打ち上げられる。

 それと同時の学校の正門が開かれ、門の外で待機していた一般客が待ってましたとばかりに、ドッと校内に入ってくる。


 ちなみにこの花火はヒッグス軍で使われている信号弾で、耐用年数が近くて廃棄処分になりかけていたのを俺がもらってきて、学校に提供したものだ。

 なおこのアイデアを出したのはヴィクトリアだ。


「お祭りの初めには反日を打ち上げると目立っていいですよ」


 そんなことを言い始めたので、いい考えだと思った俺は、エリカとともに校長や文化祭実行委員長に掛け合い、実現したのだった。


「わー、わー」


 花火が打ち上げられると、大してきれいでもなく目立って音が大きいだけの信号弾だったにもかかわらず、校内、校外から大きな歓声が上がってくるのが聞こえた。

 それを聞いて俺は軍、というかエリカのお父さんに頼んで花火をもらってきたかいがあったな、と思った。


★★★


 文化祭が始まると、校内は人であふれた。


 6月というのはちょっと中途半端な月で、お祭りとかそういうほかに目立つようなイベントのない時期である。

 それに種まきとか大規模な農作業も終わりかけの時期なので、意外と暇を持て余している人も多い。


 だから、素人の学生がやるような文化祭にも人が集まって来ているのだった。


「この靴下ください」

「私はこのネックレスください」


 もちろん、ボランティア部のチャリティー会場にも多くの人が集まってくれている。

 チャリティー会場にはボランティア部の生徒が作った商品の他に生徒たちに寄付してもらった家で不要になった物なんかも売られている。


 そして、それらが飛ぶように売れて行った。

 だから、猫の手も借りたいほど忙しかった。


 そこへ小さな応援団が来てくれた。


「お手伝いに来ましたよ」


 何と、『聖クリント孤児院』のシスターのマリアさんが、孤児の中でも年齢の高い子を引き連れて手伝いに来てくれたのだ。


「さあ、みんな。普段お世話になっているボランティア部の人たちに恩返ししないとね」


 マリアさんの掛け声で子供たちが手伝いに入ってくれる。

 とはいっても難しいことはさせられないので、商品を紙袋に詰めたり、チャリティーで忙しいボランティア部の子の代わりに、校内での募金活動にいそしんでもらうとかいうことをしてもらうことにする。


「ということで、旦那様とリネットさんに特別任務です。ここは人手が十分ですので何人か子供を立ちを連れて、募金活動に行ってください」

「わかった」

「心得た」


 こうして俺とリネットと何人かの子供たちが募金活動にいそしむことになった


★★★


「恵まれない人たちのために募金をお願いします」


 俺たちはボランティア活動の資金稼ぎのため、校内を回って募金活動をしていた。


「募金、ありがとうございます」


 募金をしてくれた主婦らしい女性にお礼を言う。


「いえ、それほどでも」


 主婦らしい人はにこりとそう笑いながら言うと去っていく。


「少ないですけど、どうぞ」

「貧しい人の役に立ててください」


 結構いろいろな人が寄付してくれる。

 ありがたいことだ。


 そうやって、募金活動をしているうちに一通り校内を一周してしまった。

 結構歩いて、募金箱もずっしりと重くなっていた。


「さて、結構歩いたことだし、一休みするか」


 上級学校は結構広い。

 体力のある俺とリネットはいいとしても、子供にはきつい作業だと思う。


「ちょっと待ってな」


 俺は子供たちを休憩させると、近くの生徒がやっているクレープ屋に行き、注文する。


「クレープと何か飲み物を30ほどくれ。種類は適当にそっちで決めてくれて構わないよ」

「はい、ありがとうございます」


 それからしばらく待って注文の品が出来上がると、料金を払って品物を受け取り、子供たちの所へ持っていく。


「一人一個ずつだぞ」


 そう言って、子供たちにクレープとジュースを渡してやる。


「こんなおいしいお菓子を食べるのは初めてです」


 どうやら子供たちはクレープを食べたことがないらしく、非常に喜んでくれた。


「今日この場に来ていない子供達にも食べさせてあげたい」


 という子もいた。


「それだったらそのうち、皆に食べさせてあげたいな。とりあえず、それはまた考えるとして、部室で働いてくれているこの分は買ってあるから、誰か持って行ってくれ」

「は~い」


 ということで、子供の一人に部室で働いている子用のお菓子を持って行ってもらい、その子が帰ってきてもうしばらく休憩した後、俺たちは再び募金活動を再開するのだった。


★★★


「これにて、ヒッグスタウン上級学校文化祭を終了します」


 夕方になるとそんなアナウンスが校内に流れて文化祭の一般公開が終了する。


「みんな、ご苦労様でした」


 同時にボランティア部の活動も終了し、皆を代表しライラが締めの挨拶をして終了する。


「これ、手伝ってくれたお礼です。帰ったらみんなで食べてくださいね」

「これは、ありがとうございます」


 最後にシスターマリアと孤児院の子供たちにお土産のお菓子を渡して帰らせた後は、ボランティア部の打ち上げである。


「みなさん、お疲れ様です。これで、今日の私たちボランティア部の活動も無事終了です、後はのんびりしましょう」


 ライラがそう挨拶した後は、皆が持ち寄ったお菓子を食べながらのお菓子パーティーである。


「うわー、おいしいです」

「このジャガイモ揚げたのおいしいですね」

「本当だ」


 特にお菓子の中ではポテチが人気のようだ。


「それはポテチというお菓子ですね。ジャガイモを薄く切って油で揚げたのに、塩をかけたお菓子ですね。ちなみに、それ作ってきたのはワタクシです」


 ヴィクトリアがポテチの説明をしながら、自分が作ったと自慢している。

 それを聞いて、


「ヴィクトリア先輩、今度私にも作り方を教えてください」

「私にも」


何と、ボランティア部の子たちがヴィクトリアの奴に教えを乞うていた。


「いいですよ。今度教えてあげます」

「ありがとうございます」


 それに対して、ヴィクトリアも自信ありげに了承していた。


 それを見て、俺は隔世の感を感じざるを得ない。

 あの何も料理のできなかったヴィクトリアが、いや、料理どころか何一つできなかったヴィクトリアが、こうして人に料理を教えられるようになったのだ、こいつも成長したのだなと、非常に感慨深かった。


 素晴らしい光景を見れたと思った。


「ホルスト君、今回の文化祭は大成功だったね」


 俺がそうやってヴィクトリアを見ていると、リネットが話しかけてきた。


「そうなんですか?」

「ああ、ライラちゃんの話によるとチャリティーの売り上げもすごかったし、募金箱もずっしりだったそうだ。これなら、今後のボランティア活動も順調に行えるだろうという話だ」

「へえ、それはすごいんですね」

「それに」

「それに?」

「今回の文化祭を見て、自分もボランティア部に入りたいと、入部希望者が何人か来ているらしいよ」

「それは朗報ですね」

「ああ、ボランティア部の未来は明かるいね」


 本当にその通りだ。

 この分ならボランティア部もちゃんとやっていけると思うし、それどころかより発展していくだろう。


 その後も、しばらくはボランティア部で打ち上げを続けたが、やがて、次の行事の時間が来たので、打ち上げは終了となり、みな次の会場へと移動した。


★★★


 文化祭の最後を締めくくる行事。

 それは上級学校の体育館で行われるダンスパーティーである。


「エリカさん、どうですか?似合っていますか?」

「似合ってますよ。ヴィクトリアさん」

「エリカちゃん、胸のブローチ、ちょっと位置がずれてないかな」

「大丈夫ですよ。ちゃんとしてますよ」

「エリカ先輩、この髪飾りおかしくないですか」

「問題ないですよ」


 ダンス会場へ行く途上、エリカにみんなが服がおかしくないか相談していた。

 みんな華やかなドレスを着て、髪をきれいに整えて盛装している。

 とても似合っていてかわいいと思う。

 ダンスパーティーには別にドレスコードなどなく、制服でも構わないのだが、大抵の子はきれいに着飾ってくる。

 かくいう俺も、エリカにタキシードを着せられていた。


「旦那様、お似合いですよ」


 そうエリカは言ってくれたが、普段気慣れない服なのでちょっと窮屈さを感じた。

 そうこうしているうちに会場に着いた。


★★★


「旦那様、私と踊ってくれませんか」


 ダンス会場で最初に俺にダンスを申し込んできたのはエリカだった。


「喜んで」

「では」


 二人で音楽に合わせてダンスを始める。

 いいとこのお嬢様だけあって、エリカは小さい頃からダンスを仕込まれている。

 だから華麗なステップで軽やかに踊ることができる。


 対して、俺はダンスなど習ったことはない。

 エリカの動きについていくだけで精一杯だ。


「旦那様、良いダンスでしたね」


 終わった後エリカがそう言ってくれたが、俺はなんだかなあと思った。


「ホルストさん、次はワタクシと踊ってください」


 次に誘ってきたのはヴィクトリアだ。


「それじゃあ、踊るか」

「はい」


 俺はヴィクトリアと踊り始めた。

 ヴィクトリアは普段トロくさい。

 だから、ダンスとかもあまりうまくないのかなと思っていたのだが。


「あれ、お前、意外にダンスうまいな」

「えへへ、お褒めいただきありがとうございます」


 意外にヴィクトリアはダンスがうまかった。

 そういえば、こいつ普段から機嫌がいい時はよく鼻歌なんか歌っているからな。

 結構音感とかいいのかも。

 ということで、ヴィクトリアとのダンスもそつなく終わった。


「ホルスト君、アタシとダンスをしてくれないか」


 最後に俺とダンスをしたのはリネットだった。

 ちなみに今日俺がダンスをしたのはエリカ、ヴィクトリア、リネットの3人だ。

 他にも俺のことをチラチラ見ている女の子もいたが、この3人の誰かが常に俺の側にいたので、近寄ってこなかった。


 リネットもダンスはうまかった。

 元々運動神経が良いからだと思う。

 エリカほどではないが、軽やかなステップで踊る。


「リネットもダンスうまいね」

「そ、そうかな?アタシなんか庶民の家の生まれだから、ダンスなんか初めてで。周りを見て見様見真似でやっているだけなんだが」

「それでこれだけ踊れるのなら、立派なものだよ。自信をもって大丈夫だ」

「そうか。ありがとう」


 そうこうしているうちに、音楽が止み、リネットとのダンスが終了する。


「さて、一休みするか」


 3人とのダンスを終えた俺は休憩のために一旦会場の外に出ることにした。


★★★


「きれいな星空だな」


 会場の外へ出ると満天の星空が見えた。


「どれ、座るか」


 会場の縁石に腰を下ろし、空を眺める。

 それを見ていると心が洗われるような気がする。

 なんとなく気分が良い。


「旦那様」

「ホルストさん」

「ホルスト君」


 するとエリカたちがやってきた。

 3人とも手に飲み物を持っている。


「6月とはいえ、まだ外はちょっと寒いですね。どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 エリカが温かい紅茶を渡してくれたので、俺もそれを飲むことにする。

 4人で寄り添いながら飲み物を飲むと、心まで温まっていく気がした。


「いつまでも皆でこうしていたいですね」


 エリカがポツリとそう漏らす。

 俺もその意見には全面的に賛成だ。

 本当にいつまでもこうしていたいと思う。


 俺はもう一度夜空を見る。

 夜空に輝く星の輝きは夜も更けてより強くなり、俺たちの未来に祝福を与えてくれているように見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る