第126話~絵画の中の悪魔~

 俺とヴィクトリアが空き教室に入る。


「すごく怪しい雰囲気がしますね」


 ヴィクトリアが身を震わせながらそんなことを言う。

 確かに部屋に入った途端、いや、入る少し前から嫌な予感がしていた。


「『神強化』」


 即座に『神強化』を発動し、『神眼』を起動させる。

 これで何か変化があっても見逃さないはずだった。

 ちなみに最近、『神強化』熟練度が+2に上がったので、神意召喚なしでもにも『神眼』を使えるようになった。


 準備ができたところで教室内の捜索を開始する。

 『魔力感知』も併用しながら、教室内をくまなく探す。


 すると。


「この悪魔の絵。すごく怪しいです」

「間違いないな。絵の前になんか商品が1個落ちているし」


 一枚の悪魔の絵の前で俺たちは立ち止まった。


「『絵画の中の悪魔』か」


 俺は絵の前でそう呟く。


「『絵画の中の悪魔』?何ですか?それは?」

「この学校に伝わる七不思議のひとつだな。なんでもこの悪魔は、絵画の中から出てきては生徒から物や、時には生徒自体を攫っていくそうだ」

「そうなんですね。怖い話ですね」

「それなんだけど、この話って本当にただの伝説だったんだ」

「というと?」


 ヴィクトリアが首をかしげて不思議そうな顔で俺を見てきたので説明してやる。


「実は、悪魔の絵ってこの学校にはなかったんだ。だから、ずっと伝説以上のものではなかったんだ」

「でも、ここにあるではないですか」

「それが不思議なんだよなあ。急にこんなところに悪魔の絵があるなんてね。ここは倉庫として使われているけど、それなりに人も出入りするはずだから、ここにこの絵がずっとあったら、誰か気付いているはずなんだ。ということは、この絵がここに置かれたのは最近ということになる。そうなると……」


 と、その時、俺の背筋に冷や汗が流れるのを感じた。

 同時に悪魔の絵を見ると、ものすごく怪しい雰囲気を放ってきていた。

 俺はヴィクトリアを抱きしめる。


「ホ、ホルストさん?」

「ヴィクトリア、俺から離れるな」

「は、はい。ラジャーです」


 そして、次の瞬間。


 黒い霧が俺たちを包み、俺たちの姿はその場から掻き消えた。


★★★


「ここは、一体どこでしょうか?」


 気が付くと、俺たちは不思議な空間にいた。

 そこはどこかの森のような場所だった。

 森のようなと言ったのはその辺に木がたくさん生えているからだが、その木が変わっていた。


「なんて言うか、絵にかいたような木だな」

「絵にかいたようなというか、これ誰かが描いた木ですね」

「どういう意味だ」

「ここ、多分絵の中の世界です」


 なるほどな。

 俺はそう思った。


 確かにいろいろと状況を考えれば、ここが絵画の中で合っている気がする。


「とりあえず、歩いてみるか」

「はい」


 ここに立っていてもしょうがないのでその辺を歩いてみることにする。すると。


「あれって、ホルストさんの妹さんじゃないですか?」


 ヴィクトリアが木に一人の少女が吊るされて気絶しているのを発見した。


「本当だ。あれはレイラだ」


 俺が目を凝らして少女の顔を見ると、確かにそれはレイラだった。


「しかも、妹さんの側に落ちているあれって、ワタクシたちが作った商品です」


 さらに、妹の側にはボランティア部の子たちが作った商品まで落ちていた。

 それを見て、俺はピンときた。


「え、もしかして盗んだのってレイラか?」

「でも、ホルストさん。それだと『絵画の悪魔』はどうなるんですか」

「それもそうだな。まあ、本人を起こして聞いてみた方が早いか」


 ということで、俺は妹を起こそうと妹に近づいた。


「!!!」


 すると、俺の『神眼』に何かが引っ掛かった。


「ヴィクトリア、伏せろ!」

「はい」


 俺はヴィクトリアを庇いながら、その何かに向き合う。


「キシャー」


 すると、その何かが奇声を発しながら襲い掛かってくる。


「はっ」


 俺はその襲い掛かってきた何かに拳で一撃を加えてやる。


「ぎゃ」


 俺の一撃を受けた何かは悲鳴をあげながら吹き飛び、みじめに地面に転がる。


「小悪魔。グレムリンか」


 俺は転げ回るそいつを見て正体を看破する。

 それはイタズラ好きの小悪魔、グレムリンだった。


★★★


「ホルストさん、どうぞ」

「ありがとう」


 敵の出現に気づいたヴィクトリアがすぐに俺のクリーガを収納リングから出して俺に渡してくれる。

 そして、自分も杖を出して手に取ると俺の背後に立ち、身構える。


「行くぞ!」

「はい!」


 俺たちはグレムリンに向かって行く。

 当然、向こうもこちらに襲い掛かってくるものだと思っていたら。


「ギャー」


 何と俺たちに背を向けて逃げ出しやがった。


 俺たちは突然の事態に驚いたが、よく考えたらこれが普通だ。

 グレムリンというのはそんなに強い悪魔ではない。

 例えば俺がいつか戦ったグレートデビルなどと比べたら、王様と乳飲み子くらいの格の違いがあるだろう。

 だから奴は俺に一撃をもらって実力の違いを悟り逃げ出したのだと思う。


 しかし、ここで奴を逃がすわけにはいかない!


「『天土』」


 すぐに魔法を使い、地面に落とし穴を掘る。


「ぐへ」


 さすが頭の弱そうな小悪魔。ものの見事に落とし穴にはまる。


「『聖光』」


 すかさずヴィクトリアが聖属性の魔法を放つ。

 悪魔系の魔物は聖属性の攻撃に弱い。


「ぎゃああああ」


 ヴィクトリアの攻撃を受け、グレムリンの体が薄れ半透明になる。

 これはヴィクトリアの攻撃を受け、グレムリンの存在が消えかかっているのだ。


 そこへ。


「とどめだ!」


 クリーガに聖属性をまとわせた俺が斬りかかる。


「ぐへ」


 俺の攻撃を受け、グレムリンは短い悲鳴を上げ、黒い霧となり雲散霧消する。


「終わったな」


 こうして俺たちは『絵画の中の悪魔』を退治することに成功したのだった。


★★★


「これが出口ですかね」

「だろうな」


 グレムリンを倒すと地面に転移魔法陣が現れた。

 多分、ここから出ろということだろうと思う。


「まあ、出ろというんなら出るとするか。ただ、その前に」


 俺は妹の所に行く。


「ふん」


 俺は剣を振ると、妹を拘束しているロープを切り、気絶している妹を担ぎ上げる。

 その横ではヴィクトリアが妹の側に落ちていたボランティア部の子たちが作った商品を回収する。


「これで、ここでやることは終わったな。さあ、出るぞ」

「はい」


 俺たちは魔法陣に入る。

 すると、一瞬俺たちの周囲が光に包まれ、気が付いたら元の部屋にいた。


「ホルストさん、絵を見てください」


 出てくるなりヴィクトリアがそんなことを言い始めたので、絵を見てみる。


「悪魔がいなくなっているな」


 件の絵から悪魔が消え、背景だけの絵になっていた。

 それを見て俺は確信するのだった。

 やはりあの悪魔が『絵画の中の悪魔』だったと。


★★★


「うーん、ここは?」


 私レイラ・エレクトロンは、気が付くとベッドの上で寝ていた。

 ベッド?なんで私はここに?確か、私は……?

 ぼんやりとそんなことを考えていると。


「おお、レイラ。気が付いたか」


 お父様の声がした。


「お父様?」


 私はお父様の方を見る。するとお父様の回りに他にも何人かいることに気が付いた。


「げっ」


 その中にはくそ兄貴もいた。

 私はものすごく嫌な予感がした。お父様と絶縁状態の兄貴がお父様と一緒にいるなんてただ事ではないと思った。


「よお、妹。ようやく気が付いたか。しかし、お前とこうやってまともに話すのは久しぶりだな。元気だったか?」


 私が意識を取り戻したことに気づくと、兄貴がニタニタとした底意地の悪そうな顔で話しかけてきた。


「ええ、お兄様。私は元気ですので、心配してもらわなくて大丈夫ですよ」

「そうか、それはよかった。そんなに元気なら問題はないな。それじゃあ、これについて説明してもらおうか」


 そう言って兄貴が見せてきたのは、見覚えのある紙袋だった。


「あっ」


 それを見て私は思わず短い悲鳴を上げた。それを見て兄貴がにやりと笑う。


「どうやら、見覚えがあるようだな。ところで、お前、どうして今自分がここにいるか知っているか?お前、間抜けにも『絵画の中の悪魔』に捕まって、絵の中に閉じ込められてもうちょっとで殺されるところだったんだぞ」

「え、『絵画の中の悪魔』?はっ」


 そうだ。あの時私は教室から出ようとして。背後から襲われて。意識を失って。


「ほう、どうやら思い出したみたいだな。お前は間抜けなことに悪魔に捕まって殺されかけ、この優しいお兄様に助けられたというわけだ。それで、悪魔に殺されかけていたお前の横にこの紙袋があったというわけだ。何か言いたいことはあるか」

「し、知らない。私はそんな物は知らない!そうだ!それは『絵画の中の悪魔』が盗んだのよ!そうに違いないわ!」

「とぼけても無駄だぞ。この紙袋を持って歩いているお前を目撃した生徒が何人もいるんだ。おとなしく罪を認めた方がいいと思うぞ」

「うわあああん」


 兄貴の追及に耐えきれず、とうとう私は泣き出してしまった。

 それを見て、お父様が仲裁に入ってきた。


「なあ、ホルスト。今日はもうこれぐらいでいいだろう。レイラも意識を取り戻したばかりで疲れているだろうし」

「ふん!まあ、いいだろう。今日はこのくらいで勘弁してやる。ただし、この落とし前はきっちりつけさせるからな!」


 それだけ言い残すと、兄貴は去って行った。


 兄貴がいなくなってホッとしたが、自分のこれからの将来を考えると、暗澹とした気持ちになるのだった。


★★★


 結局、ボランティア部の商品を盗んだのは妹の犯行だった。


「ごめんなさい。つい出来心で」


 などとほざいていたが、これだけ計画的な犯行計画を立てておいて、出来心もくそもないだろうと思った。


 その罰として、あいつは学校を退学となり、精神を鍛え直すためと称して山奥の修道院へ1年間修業の旅に出ることになった。

 そこは相当厳しい修道院らしく、妹のアホの根性も叩き直してくれるだろう。……多分。

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