第128話~卒業式~
「うわーん、ここわからないです」
「いかん!頭が爆発しそうだ」
「もう俺はダメだ。皆、後は頼んだ」
上級学校の図書室。
そこでは俺、ヴィクトリア、リネットの3人が、大量のプリントを目の前にしてまさに討ち死にしそうになっていた。
「みなさん、何をおっしゃっているのですか。さっさと勉強して試験に備えますよ」
死にかけの俺たちを見て、エリカがそう叱咤激励してくる。
そして、ティーカップにお茶を淹れると、俺たちの前に置いてくれる。
「さあ、それを飲んで頑張りますよ」
エリカにそう言われた俺たちは起き上がるとお茶を飲み、勉強を再開する。
今俺たちが何をしているかというと、ずばり、テスト勉強だ。
テスト。
それは学生にとって最大の試練だ。
特に、俺やヴィクトリアやリネットのような普段頭でなく体を動かすタイプの奴らには、だ。
だが、テストから逃げることはできない。
頑張って勉強して合格点を取るしかないのだ。
「仕方がない。頑張って勉強するか」
エリカに促されて俺はようやくプリントに向き合う。
「うん、こことかよくわからないな。エリカ、教えてくれないか」
「はい、ただいま」
「エリカさん。ワタクシもここ教えてください」
「アタシも」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。順番に教えますからね」
こんなダメな俺たちにも、エリカは優しく勉強を教えてくれた。
エリカは元々成績が良かった。
ずっと学年1位の成績で、俺と駆け落ちなんかしなかったら首席で卒業できていたはずだった。
だからエリカの説明は的を得たもので、非常にわかりやすかった。
ということで、俺たちのテスト勉強は順風満帆とまではいかないまでも割といいペースで進んでいった。
★★★
「ふうー、終わったあ」
「終わりましたね」
「終わったね」
ようやくテストが終わった。
最大の危機を乗り越えた俺、ヴィクトリア、リネットの3人は、学校から帰ると、疲れ切ってエリカの実家のソファーでぐったりと寝そべっていた。
「感触はどうですか」
ぐったりとしている俺たちを見かねてか、エリカが優しく声をかけてくれる。
「まあまあできたと思うよ。なんとか合格点は取れそうだよ」
「ワタクシも大丈夫だと思います」
「アタシも赤点は取らなくて済みそうだよ」
どうやら3人とも大丈夫そうだった。
「それはよろしゅうございます。これで補習とか追試なしで、4人そろって卒業できそうですね」
「ああ、そうだな」
俺は大きく頷く。
その通りだ。これで短いようで長かった3か月間も終わり、俺たちの学生生活も幕を閉じる。
これで元の冒険者生活に戻るわけだが、ちょっと寂しい気もする。
なぜなら、卒業というのはお別れの儀式でもあるからだ。
★★★
1学期の最後の終業式の日。
「ホルスト・エレクトロン前へ」
「はい」
校長に呼ばれた俺は、席を立ち、校長の前まで進み出る。
「ホルスト・エレクトロン。上級学校の全課程を修了したことをここに証する」
校長がそう卒業証書を読み上げると、俺は卒業証書を受け取り、自分の席に戻る。
続いてエリカ、ヴィクトリア、リネットが順に呼ばれ、順に卒業証書を受け取っていく。
とはいっても、細かい話かもしれないが、後で聞いた話によるとヴィクトリアとリネットがもらったのは留学終了証だったらしい。
まあ、二人とも留学名目で3か月いただけだったから仕方がないが。
「……それではこれにて卒業式を終了する」
最後に校長が長い話をした後、校長の話はくそつまらなかったのでここでは言及しない、校長がそう宣言して俺たちの卒業式は終了した。
★★★
「エリカ先輩たち、いなくなっちゃうんですね。寂しくなりますね」
ライラが涙を流しながら言う。
「本当、辛いです」
アメリアも辛そうな顔をしている。
「うう」
「ふえーん」
他のボランティア部の子たちも同じように泣いている。
「ワタクシ、皆と別れたくないです」
「アタシもずっと一緒にいたいよ」
ヴィクトリアとリネットも涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら辛そうにしている。
「大丈夫です。これで永遠の別れというわけではありません。いつでも会えますよ」
エリカだけが毅然とした言葉を発するが、やはり涙が止まらず、先ほどから何度もハンカチで涙を拭いている。
今、俺たちはボランティア部に来ている。
卒業式の後、後輩たちに顔を見せに来たのだ。
来るなりこんな風にみんな泣き出した。
それを見ていると、俺まで涙が出てきた。
決して泣かないと決めてきたのに。
しばらくそうやってみんなで泣いた後、誰からともなく部活動の思い出とか雑談を始めた。
「孤児院に行ったとき、子供たちに本を読むの楽しかったですね」
「また、読んであげたいですね」
「ワタクシはあれをやって、もし自分に子供が生まれたらこんな風に本を読んであげるんだって思いました」
「それ、いいね。アタシも自分の子供にはやってあげたい」
「あ、私もやりたいです」
「私も」
「でも、その前に旦那様を見つけないとね」
「本当だね」
「あははは」
さっきまでの悲しい雰囲気はどこへやら。
みんなで笑いながら談笑し始めた。
表面上は楽しそうに見える。
だが、心の中では本当に笑ってないと思う。寂しさを紛らわすために無理していると思う。
しかし、これでいいのだ。
別れに涙は不要なのだ。楽しく笑いいながら分かれるべきなのだ。
少なくとも俺はそう思う。
「さて、そろそろお暇しましょうか」
ひとしきり話した後、エリカがそう切り出す。
「それでは、ライラさん、また明日ね」
「はい、エリカ先輩」
エリカが明日ね、と言ったのは明日後輩たちとのスペシャルなイベントを用意しているからだ。
「それじゃあ、また時間があったら来ますね」
「それでは、またです」
「またね」
「それじゃあね」
「先輩たち、またお時間があったらお越しくださいね」
最後にそう挨拶を交わした後、俺たちは部室を後にした。
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