第124話~シスターのお願い~

「シスターマリア。お久しぶりです。ボランティア部の部長のライラです。子供たちに本の読み聞かせに来ました」

「これはライラさん。よく来てくれました。では早速中に」

「いえ、シスターマリア。それよりも先に畑仕事を終わらせましょう]

「そんな、折角読み聞かせに来てくれた皆さんを外で働かすわけには」

「大丈夫です。私たち花壇の清掃とかもやるので、こういうのには慣れていますし、それに今日は男手もいますし。ホルスト先輩」

「おう」


 俺はライラに言われて前へ出た。


「ホルスト・エレクトロンです。今日はよろしくお願いします」

「ホルスト先輩はこう見えても、王国武術大会の優勝者で体力には自信があります。この程度の畑仕事、難なくやってくれます」

「ホルスト……様?どこかでお聞きした名前ですね。まさかこの町を救った英雄様では?」

「英雄かどうかはともかく、町を救ったのは確かですね」

「まあ、そのようなすごい方が手伝ってくれるとか。感激です」

「いやあ、それほどでも」

「旦那様」


 俺がシスターに褒められてデレデレしていると、エリカたちが割り込んできた。

 気のせいか、ちょっと目が吊り上がって怒っている気がする。


「お戯れはその辺にしてさっさと仕事しますよ。と、その前に自己紹介しておきますね。私はエリカ・エレクトロン。ホルストの妻です。よろしくお願いします」

「ワタクシはヴィクトリアです。ホルストさんのパーティーメンバーです。よろしくお願いします」

「アタシはリネット・クラフトマンだ。同じくホルスト君のパーティーメンバーだ。よろしく」


 その後もボランティア部の1年生が自己紹介し、自己紹介は終わる。

 エリカたち3人が妙に俺との関係をアピールしてたのが気になるが、これで自己紹介は終わりだ。

 後は全員で花を摘むのを手伝い、その後孤児院の中に入るのだった。


★★★


「さあ、お菓子を配りますよ」


 孤児院の食堂に子供たちを集めてお菓子を配る。

 子供たちを食堂に集めたのは、ここくらいしか全員を集められる場所がないからだ。


「ありがとうございます」

「わーい、お菓子だ」


 食堂に集まった子供たちはお菓子を受け取ると、いくつかのグループに分かれていく。

 そして、それぞれのグループにボランティア部の子たちが一人ずつ付く。


「さあ、それじゃあ本を読んであげますね」


 グループ分けが終わると、ボランティア部の子たちが、子供たちに本の読み聞かせを始める。


「昔々、あるところに……」

「こうして王様の命令を受けた勇者様は竜王を討伐に向かうのでした」


 そうやって、皆が子供たちに読み聞かせる中。


「旦那様はこっちですよ」


 そう言われて俺が向かったのは、孤児院の外だった。

 外に連れ出された俺は、「はい」と、エリカからトンカチとのこぎりと釘と数枚の板を渡される。


「エリカ、これは?」

「シスター様に聞いたのですが、あそこの屋根が壊れて雨漏りがしてお困りのようです。それだったらうちの旦那様に直させますよと言ったところ、『ぜひ、お願いします』とのことだったので、旦那様は私たちが読み聞かせをしている間に屋根の修理をしてくださいね」


 何で俺だけ?

 そう思ったが、エリカに逆らえるものではない。


「いいですね?」


 そう念を押してくるエリカに対して、俺は、


「はい」


と、了承するしかなく、渋々道具類を受け取ると、屋根の修理を始めるのだった。


★★★


「ふう、結構暑いな」


 俺は屋根を修理しながらそんなことを考えていた。

 もう4月。

 外にはまだ冬の寒さが残っているとはいえ、太陽の光が当たる箇所は結構暑い。

 特に屋根の上などもろに光の当たる場所なので、俺の額や脇からは汗が滲み出ていた。


 もちろん鍛え抜かれた俺の体はそんな暑さに負けることはない。

 汗を流しながらも、着実に屋根の修理を進めていく。


 そうやって頑張って作業していると、最初は嫌々やっていた屋根の修理が楽しくなってきた。

 銀の社を作ったときもそうだったが、大工作業をしていると、何というか、創作の楽しさというのだろうか。

 そういうのを感じてしまったからだ。


 俺ってこういうDI_Yとか割と向いているのかもしれない。

 年取って冒険者を引退したら一日中家で何か作って暮らそうかな。

 そんなことを考えたりもする。


「ホルスト君、ご飯だよ」


 そうやって屋根の修理をしていると、リネットが昼食を持ってきてくれた。


「子供たちと一緒に作ったんだよ」


 どうやら本の読み聞かせが終わった後、持ってきていた食材を使って皆で作ったらしかった。


「はい、どうぞ」


 リネットが昼食の入ったバスケットを渡してくれる。


「お、うまそうだな」


 中を開けるとサンドイッチが入っていた。

 パンにチーズやハムや野菜をはさんだオーソドックスなサンドイッチだが、一つだけ見たことがないのが入っていた。


「リネット、このサンドイッチは?」

「チキンカツサンドとかいうらしいよ。鶏肉にパン粉をつけて揚げたものを使ったサンドイッチだよ。ちょっと甘辛いソースがとてもおいしかったよ。子供たちも口々においしいって言っていたね」


 そんなにおいしいのか。

 半信半疑ながらも、俺もチキンカツサンドを口に入れる。


「!!……これはうまいな」


 リネットの言う通り、チキンカツサンドは美味だった。

 俺はチキンカツサンドを一気に食い終わる。


「うまかった!」


 1個しかないチキンカツサンドを食べた俺は満足した。


「気に入ってもらえたようでよかったよ」


 俺がうれしそうなのを見てリネットがニコッと笑う。


「ええ、気に入りました。ところで、これ、見たことがない料理ですけど誰が考えたんですか?」

「ヴィクトリアちゃんだね。昨日買い出しに出た時に、折角だからチキンカツサンド作って子供達に食べさせてあげましょうとか言い始めたんだ。で、今日ぶっつけ本番で作ったんだ」


 ふーん、ヴィクトリアか。

 まあ、あいつは、いつかの焼きそばパンもそうだが、どこで覚えたのかおいしい料理を知っているからな。

 今回も食欲の女王の面目躍如といったところだと思う。


「それじゃあ、アタシはそろそろ戻って本の読み聞かせを再開するから」


 最後にそう言うと、リネットは帰っていた。

 残された俺はゆっくりとサンドイッチを食べ、少しのんびりした後、屋根の修理を再開するのだった。


★★★


「ふう、やっと終わった」


 昼食後、2時間ほどで屋根の修理が完了した。


「うん、自分でもほれぼれするような出来栄えだな」


 俺は自分の成果を見て、自画自賛する。

 俺の修理した屋根はまさに完ぺきだった。


「見たところきれいになっているし、隙間もちゃんと詰めたし、これなら雨漏りの心配もいらないな」


 これだけの出来だ。早速みんなに見せなければ。

 俺はすっかり自分に酔ってしまい、早速みんなに俺の成果を見てもらうべく皆の所へ向かうのだった。


★★★


「まあ、素晴らしいです。ホルスト様、どうもありがとうございます」


 俺の修理した屋根を見たマリアさんがそう褒めてくれた。


「ホルストさん、やりますねえ」

「ホルスト君、すごいじゃないか」

「旦那様、ステキです」

「ホルスト先輩、すごい」


 エリカをはじめ、ボランティア部の子たちも口々に褒めてくれた。


「ホルスト様をはじめ、ボランティア部の皆様には本当に感謝しかありません。大したことはできませんが、うちで栽培しているハーブがありますので、それでハーブティーでも淹れましょう」

「ありがとうございます」


 ということで、俺たちは孤児院特産のハーブティーをごちそうになることになった。


★★★


「このハーブティーはとても良い香りがしますね」


 エリカがマリアさんが淹れてくれたハーブティーを絶賛している。

 エリカの言う通りここのハーブティーはおいしかった。


「うん、おいしいです」

「最高だな」

「おいしいですね」


 他のみんなも満足そうだ。

 その後しばらくは、ハーブティーや今日の読み聞かせ会を題材にしてみんなで談笑していたが、ふと俺は気がついた。


 皆と談笑しながらも、マリアさんが俺のことをチラチラ見ていることに。

 それに気が付いた俺は何だろうと思ったが、マリアさんはシスターでそういう気持ちを抱いてはいけないとわかっていても、女性にこんな風に見られてちょっとドキッとした。


 やがて、談笑の話題が途切れた時、マリアさんがこんなことを言ってきた。


「ところで、ホルスト様。一つお願いしたいことがあるのですが」


 お願いって何だろう。

 そんなことを思いながら、


「何でしょうか」


と、俺は聞き返す。すると、マリアさんは意外なことを頼んできた。


「ホルスト様は武術大会で優勝するほどの腕の持ち主とか?その腕を見込んでお頼みしたいのですが、うちの子供たちに剣の稽古をしてやってくれませんか」


★★★


 孤児院の子供たちに剣の稽古をつけてほしい。

 そんなことをマリアさんに頼まれた。


「どういうことでしょうか」

「実はですね。ほら、この前この町が魔物に襲われたように、近頃魔物に襲われることが多いでしょう?それで武術の心得があれば、将来商売人になって旅をしたり、またはほかの町へ旅立ったりするときに、魔物に襲われたりしても、勝てるとは言わないまでも、逃げることができるかもしれません。そう思いまして、ホルストさんに頼めないかと」

「えーと」

「旦那様、構わないではありませんか」


 マリアさんの話を聞いて、俺がどうしようかなと考えていると、エリカが割り込んできた。


「シスターマリア。子供に剣術を習わせたいとおっしゃるのなら。ボランティア部の活動の一環として、協力しますよ。ただし、私どもにもやることがありますので、毎日というわけにはいきませんよ。稽古をつけるのは3日に1回。場所は上級学校の裏庭。そこまで出向いてきてください」

「上級学校ですか?」

「ここでは稽古をするには狭いですので。その点上級学校なら十分スペースがありますので」

「わかりました。お伺いするようにします」

「それと、私たちはずっと学校にいるわけではありません。いるのは夏ごろまでですよ。だから、教えられるのは基礎的なことだけになると思いますが、それで構いませんか?」

「はい、それで十分です。お願いします」


 マリアさんが首を縦に振って了承する。

 それを見て、エリカも頷く。


「ということで、旦那様とリネットさん。お願いしますね」

「え、アタシも?」

「そうですよ。あなたも人に稽古をつけるの、うまいでしょう?旦那様に協力してあげてください」

「わかった。そうする」


 これで話はまとまった。




「では、マリアさん。明日から子供たちを上級学校に来させるようにしてください」


「わかりました。よろしくお願いします」




 こうして俺とリネットは子供たちに剣の稽古をすることになった。


 そして、その後、もう一度子供たちに本の読み聞かせをした後、今日の活動は終了ということになり、俺たちは帰宅するのだった。

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