第123話~聖クリント孤児院~

「こっちです」


 放課後、俺たちはライラに案内されてボランティア部の部室に行った。


「失礼します」


 俺たちが案内されて中に入ると、すでに他の部員たちは集まっているようで何やら作業していた。


「ライちゃーん、その人たちが新しく入る部員の人?」


 すると、中の一人が元気そうな声で話しかけてきた。癖のある茶髪をショートカットにした快活そうな子だった。


「そうだよ。アーちゃん。この人たちが言ってた人だよ」

「では、ご紹介に預かりましたので、自己紹介と行きましょうか」


 とりあえず顔見せのために、エリカが音頭を取って自己紹介することにする。


「私はエリカ・エレクトロンと申します。3か月という短い間ですがよろしくお願いしますね」

「俺はホルスト・エレクトロンだ。よろしく」

「ワタクシはヴィクトリアです。よろしくお願いします」

「アタシはリネット・クラフトマンだ。よろしく」


 俺たちが自己紹介を終えると、ショートカットの子が驚いた顔になる。


「3か月?それに、エリカ……いや、伝説のエリカ様?もしかして英雄様御一行様?」

「私たちに英雄と呼ばれる資格があるかわかりませんが、この町を救ったのは事実ですね」

「うわー、すごーい。ライちゃん、すごい人に来てもらえたね」


 ショートカットの子はその後もはしゃいでいたが、やがて、我に返ると自己紹介してきた。


「申し遅れました。私はアメリア・ハンクと申します。よろしくお願いします」


 アメリアが慌てて自己紹介し、残りの子たちも続く。


「モニカ・オルコットです。よろしくお願いします」

「カミラ・コノリーです。よろしくお願いします」

「ハンナ・ヨークです。よろしくお願いします」


 これで自己紹介は終わった。

 初対面なのでいきなり和気あいあいというわけにもいかないが、それでもどちらからともなく会話が始まる。


「今、何をしていたんだい?」

「今度、近くの孤児院の子供たちにお菓子を作って持っていく計画があるので、そのお菓子を入れる紙袋を作っていました」

「この近くの孤児院というと、『聖クリント孤児院』ですか?あそこは、確か老シスター様がやっていたと思いますが、お元気ですか?」

「そのシスター様は去年亡くなりました。代わりに今は若いシスター様がやっておられます」

「そうですか。……それは前のシスター様のお墓参りに行かねばなりませんね」


 エリカがちょっと沈痛した面持ちになる。どうやらそのシスター様とは知り合いだったらしいので、亡くなったと聞いて落ち込んだようだ。


「ところで、みなさん、さっきからエリカさんのことを『伝説のエリカ様』と言っていますが、どういう意味ですか?」


 と、ここでヴィクトリアが雰囲気を読まない質問をぶち込まして来た。

 お前は少し空気を読めよと思ったが、よく考えたら悪くないのかもしれない。

 初対面の時に湿っぽい雰囲気とか、その後の関係に影響が出そうだ。

 だから、ヴィクトリアはそうならないように配慮して発言したのだと思う。……多分。


 ただ、効果はてきめんで、エリカも含めて周囲がフフフと笑い、雰囲気が良くなる。


「仕方のない子ですね」


 エリカがチラッとヴィクトリアを見るが別に怒ったようでもなかった。


「それでは、私がボランティア部について説明します」


 そう志願してきたのはライラだった。


「お願いします」


 ヴィクトリアがそう言うと、ライラはコクリと頷き話し始める。


★★★


「このボランティア部を作ったのはエリカ先輩なんです」

「「ほほう」」


 それを聞いてヴィクトリアとリネットが驚いた顔になる。

 身を乗り出し、ライラの話を聞く体制になる。


 ちなみに、俺はそのことは知っていたので特に驚くことはなく、話を黙って聞くだけだ。


「エリカ様はすごいんです。一人で部員を集めてボランティア部を作ったかと思うと、学校から部費を分捕ってきたり、募金を募ったりして、活動資金を集めて、あっという間にあちこちでボランティア活動を始めて……とにかく電光石火の活躍だったそうです。今度行く聖クリント孤児院なんかもエリカ先輩が初めて行くようになったんですよ」

「へえ、そうなんですね。エリカさん、意外とやり手なんですね」

「そんなことはありません」


 ヴィクトリアに褒められて、エリカが照れくさそうにはにかむ。


「世の中のためになることをしなければと頑張っていたら、たまたまうまくいっただけです。私の力など知れたものです」

「謙遜する必要はないです。私たちボランティア部はエリカ先輩が先んじて色々とレールを引いてくれたからこそ、その上を進むだけで活動できているのですから」


 ライラのその発言を聞いてボランティア部の全員が頷く。


 まあ、確かにエリカのしたことはエリカが言うほど簡単なことではない。

 ゼロから何かを始める。

 常人には中々できないことだ。


 例えば、ある商売を始めてそれで大もうけした人がいて、それを見て俺だって同じことができたのにと吹聴する人がいるが、そういう人は口だけで何もできないものだ。


 だから、ボランティア部を立ち上げ軌道に乗せたエリカは単純にすごいと思う。

 エリカのお父さんも仕事ができるから、エリカもその血をしっかり受け継いでいるのだと思う。

 こんな人が俺の嫁だなんて……うれしく思う反面、何かあったときに逆襲された事を考えると……怒らせないように気を付けようと思う。


 うん。夫婦は仲良く円満に生活するのが基本だからな。

 これ、大事。本当。


「さて、与太話はこれくらいにして、そろそろ部活動を始めましょうか」


 そして、エリカの発言で部活動が再開される。


★★★


「結構難しいな」


 ボランティア部の部室で俺は悪戦苦闘していた。

 俺は今、今度行く孤児院で子供たちにあげるお菓子を入れるための小さな紙袋を作っている。

 エリカに作り方を教わり、紙を切ったり貼ったりしながら、小さな紙袋を作成していくのだ。


 これが中々難しい。

 俺はこういう細かい作業は正直苦手だ。


 なんというか、こういう手先を動かした作業をするというのは、滅茶苦茶性に合わないのだ。これなら、まだ外で1万回剣の素振りをしろと言われる方が気が楽である。

 そうは言ってもエリカが見ているのでさぼるわけにもいかない。


 ひたすら作る。


 俺たちの行く孤児院は結構大きいらしく、70人くらいいるらしい。

 それに今回の分だけでなく、次回の分もある程度作っておくつもりらしいのでかなりの数を作っている。


 ふと気になって、俺はヴィクトリアとリネットを見る。

 あいつらはどんな顔をして作っているのかなと思ったからだ。


「これ、結構楽しいですね。慣れるまでは手間ですが、慣れると縫物よりも簡単ですね」

「だな。縫物をするのよりは楽だし、意外と楽しいよね」


 何か二人とも喜んで作っていた。

 それを見て、俺も頑張らねばと思って、さらに頑張るのであった。


★★★


 次の学校の休みの日。

 俺たちは『聖クリント孤児院』にやってきた。


 皆手には大きな紙袋を抱えている。

 紙袋の中には昨日作ったクッキーを入れた紙袋や、子供たちに読み聞かせるための本が入っている。


「こんにちは。ヒッグスタウン上級学校ボランティア部です」


 皆を代表してライラが挨拶する。

 すぐに扉が開き、小さな女の子が顔を出す。


「こんにちは。ライラお姉ちゃん」

「どうも、こんにちは。シスター様は?」

「シスター様なら、裏庭で明日お店に出すお花を摘んでいるよ」

「あら、そう。なら、お手伝いしましょうかね。案内してくれる?」

「いいよお」


 女の子が俺たちを案内してくれる。

 玄関を出て、建物を回り込んで裏庭へ向かう。


 途中、孤児院の建物を見る。

 結構ボロボロだな。

 孤児院の建物は正直ぼろかった。壁には所々ひびが入っており、耐用年数がとっくに過ぎているような気がした。

 立て直そうとしたり修理しようとしても予算がないのだと思う。


 女の子の話によるとシスターは売るためのお花を摘んでいるという。

 それで生活費の足しにしているのだと思う。

 とても建物をどうこうできるお金があるとは思えなかった。


 これはどうにかすべきだと思った。

 何をかって?もちろん、魔物どもの跳梁跋扈をだ。


 この小さな孤児院だけで、70名もの孤児がいるという。

 これだけ孤児が多いのは、魔物によって町や村が滅ぼされ、親のない子供が増えているのが大きな原因だ。


 確証はないが、これは神聖同盟とかいう連中の仕業だと思っている。

 何せ邪悪な魔石を使うような連中だ。魔物を増やして人間社会を混乱させ、それに乗じて事を成そうと画策している可能性は高いと、考えている。

  俺たちにすべての孤児を助ける力はないが、魔物がこれ以上増えないようにして、孤児を増やさないようにすることはできると思う。

 だから、そのために頑張っていこうと思う。


 そうこうしているうちに裏庭に着いた。

 するとシスター服を着たシスターと、それを手伝っている子供たちが花を摘んでいた。


「シスター、お客さんだよ」

「あら、あら。お客様?なら、ご挨拶しないと」


 女の子が声をかけると、シスターが振り返ってこちらを向く。


「どうも、こんにちは。私、聖クリント孤児院を任されておりますシスターマリアと申します」


 そう言って自己紹介するシスターの笑顔はとても愛らしかった。

 ここのシスターさんは青い髪に青い瞳の、清楚な感じの優しそうな人だった。

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