第122話~ボランティア部~
学校へ通うようになってから数日が経った。
数日も学校に通っていると、すっかりこの生活にも体が慣れてしまった。
だから、多少心に余裕を持ってのんびりと行動できるようになってきている。
「いい天気だなあ」
そんなのんびりとした日々の中、俺はそんなことを呟きながら、弁当のウィンナーを口に運んでいた。
俺たちは今中庭の噴水の所に座って昼食を食べている。
ここは学校の中では昼食を食べる場所として人気の場所だ。
結構大きめの噴水の回りには、俺たち以外にも何組かのグループが昼食を食べていた。
俺はそれらを見ながら、引き続き食事を続ける。
すると。
「ホルストさんのお弁当のから揚げ。おいしそうですね」
ヴィクトリアがジッと俺の弁当箱を覗き見てくる。
ちなみにヴィクトリアの弁当箱はすでに空だ。
俺はさっとヴィクトリアの視線から弁当箱を外す。
「言っておくけど、唐揚げはやらないからな」
「そんなけちくさいこと言わないで、くださいよ」
「いやだよ。俺だって唐揚げ楽しみにしてたんだし。大体、お前、自分のはどうしたんだよ」
「もう食べちゃいましたけど?」
「だったらそれで満足しとけ」
「えー、もっと食べたいです。だから、ください」
「いやだよ」
「ください」
「いやだよ」
しばらくはそんな風に言いあいが続いたが、やがてヴィクトリアがこんな提案をしてきた。
「それじゃあ、ワタクシとじゃんけんで勝負して、ワタクシが勝ったらください」
「じゃんけんって……お前、もう賭けるものないだろうが」
俺はヴィクトリアの空の弁当箱を見ながらそう言う。
すると、ヴィクトリアがとんでもないことを言い始めた。
「大丈夫です。ワタクシは『ワタクシの一番大切ななもの』を賭けますので」
それを聞いて俺は絶句し、しばらく言葉が出なかったが、やがて。
「一番大切なものって、お前何賭けるつもりだよ!」
「それは、ホルストさんが勝ってからのお楽しみですよ」
そのヴィクトリアの答えにエリカとリネットが慌てて止めに入る。
「ちょっと、ヴィクトリアさん。何を言っているか、わかっているのですか!」
「そうだよ、ヴィクトリアちゃん。自分をもっと大事にしないと」
それに対して、ヴィクトリアはくすくすと笑い、こう返答する。
「大丈夫です。お二人が思っているようなものを賭けていませんから」
そして、俺の方を見ると、こう宣言する。
「ということで、ホルストさん。じゃんけん勝負です」
★★★
じゃんけん。
グーチョキ、パーの3種類の手からどれか1つを出し、その組み合わせで勝敗を競う競技である。
主に子供の遊びとして行われるが、時には大人でもちょっとしたものを賭けて行われることもある。
ということで、俺の唐揚げとヴィクトリアの『一番大切なもの』とやらを賭けたじゃんけん勝負が始まった。
正直言うと、今俺はドキドキしている。
ヴィクトリアの言う『一番大切なもの』が何なのか無性に知りたい。
本人の口ぶりから、イヤらしいことではないと思うが、ちょっとだけ期待してしまう。
奥さんの目の前で考えることかと思うが、本人が否定しているわけだし、エリカも呆れた顔で見ているが特にそれ以上言ってこないので、大丈夫だと思う。
さて、そろそろ勝負の時間だ。
俺とヴィクトリア。互いに距離を取り、手をくねくねさせながら相手の出方を窺う。
そして。
「「最初はグー、ジャンケン、ポン」」
掛け声とともに出した手は、二人ともパーだった。
「ち、引き分けか」
「ならば」
「「あいこで、しょ」」
くそ、両方ともチョキか。また引き分けか。
「「あいこで、しょ」」
「「あいこで、しょ」」
その後も引き分けが続いた後。
「あら、残念。ワタクシの勝ちですね」
「くそ、負けてしまった」
5戦目でヴィクトリアが勝利した。
というか、残念てなんだ?実は負けた方がよかったのか?
まあ、いい。
負けた以上は俺も男だ。
弁当箱を黙って差し出す。
「へへ、いただきます」
ヴィクトリアは嬉しそうにフォークを持って俺の弁当箱に突っ込んできた。
そして残っていた俺の唐揚げ2個を、なんと2個とも食いやがった。
「おい、ちょっと待て!。2個とも食うなんて聞いてないぞ」
「当然です。唐揚げ1個じゃあ『ワタクシの大切なもの』と釣り合いませんもの」
「だから、その大切なものって何なんだよ!」
「……内緒です」
その後いくら聞いても、ヴィクトリアは大切なものが何だったか教えてくれず、俺はずっともやもやすることになったのであった。
★★★
弁当を食い終わった後は、エリカが淹れてくれたお茶を飲んだ。
ヴィクトリアに唐揚げを取られたせいで、ちょっと満腹感が薄いが、食後のお茶で満足することにする。
すると。
「すみません」
一人の女の子が声をかけてきた。黒髪の眼鏡をかけた子で、肩くらいまでの髪を左右で三つ編みにした真面目そうな子だった。
「すみません。ボランティア活動とか、興味ないですか?」
続けてその子はそう言った。
「ボランティア活動?あまり興味はないけど……」
「そうですか……」
俺があまり興味のなさそうな顔をすると、その子は立ち去ろうとした。
「お待ちなさい!」
それをエリカが引き留めた。
「あなた、もしかしてボランティア部の子ですか」
「そうですけど、ボランティア部をご存じですか?」
「知っていますよ。私も2年ほど前に在籍していましたから」
「え?2年前?」
「はい。2年前です。その後フェードアウトして、学校自体来なくなりましたから。それで、今復学して、短期間だけ、再度学校へ通っているわけです」
「復学?もしかして、あなた方は英雄様のパーティーですか?」
「英雄様とかおこがましいのでそう言われるのは好きではありませんが、町は救いましたよ」
「それじゃあ、あなたがあの伝説のエリカ先輩ですか」
「伝説とか、何のことか知りませんが、私はエリカ・エレクトロンであってますよ」
「わー、伝説のエリカ先輩に会えるとか感激です」
女の子はエリカに会えて妙に感激していた。
そして、はしゃいでいるうちに何かに気が付いたのか、慌ててはしゃぐのをやめ、姿勢を正してこちらへ向く。
「申し遅れました。私ライラ・ルクセンと申します。2年生でボランティア部の部長をしています」
少女はライラと名乗った。
★★★
「それで、ライラさん。あなたはもしかして、部活の勧誘をしていたのですか?」
「そうです」
「それで勧誘の成果はどうですか」
「3人です。なんとか1年生の子3人が入ってくれました。2年生が私ともう一人いるので、全部で5人です」
「そうですか。少ないですね。私がいた時は20人くらいいたのですが。そういえば3年生はいないのですか」
「はい、いないです。だから2年生の私が部長をやっています」
「それで、5人でボランティア活動とかちゃんとできているのですか」
「できています。できていますけど、昔ほどは大規模にはできません。学校の清掃とか、孤児院にお菓子配りに行くとか。そういうのをやっています」
「そうですか」
エリカは話を聞いて、うんうん頷く。
「それで、あなたはもうちょっと困っている人を助けたいと思って、勧誘して人数を増やそうとしているわけですか」
「はい、その通りです」
「わかりました。そういうことなら、かわいい後輩のためです。私たちも協力してあげましょう」
「本当ですか。ありがとうございます」
え?エリカ。今、私たちとか言わなかった?
そう思っていると。
「旦那様たちもいいですね?」
え?やっぱり俺たちも巻き添えになるの?
だが、俺たちがエリカに逆らえるわけがなく。
「「「はい」」」
そう元気よく返事するのみだった。
こうして、俺たちはボランティア部に入ることになった。
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