第121話~登校初日~
何か知らないが、上級学校に復学することになった。
俺とエリカは卒業間近だったということで3か月通えば卒業、ヴィクトリアとリネットは3か月の短期留学生という名目で通うことになった。
「ラララ~、神様にゃ学校も~、試験もないけれど~ワタクシは~、学校へ行きます~」
鏡の前で真新しい制服を着ながら、ヴィクトリアが楽しく鼻歌を歌っている。
ヴィクトリアは学校へ行った経験がないらしいので、単純に学校へ行けるのがうれしいのだと思う。
対して。
「うう、この制服のスカート、ちょっと短いんじゃあ」
リネットは滅茶苦茶気負っていた。
リネットは初級学校に通っていたはずだが、そこには制服はなかったらしい。
だから、制服というものを着るのは初めてらしく、とても緊張していた。
「お二人ともお似合いですよ」
制服を着終わった二人を見にエリカが来た。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
エリカに褒められて二人は照れくさそうに笑った。
実際、上級学校の制服は二人によく似合っていた。
上級学校の制服は黒色のフォーマルなデザインだが、その黒色が二人の茶色と赤という髪色によく映えていた。
「さて、準備もできたことだし、そろそろ行くか」
準備ができた俺たちは上級学校へ向けて出発した。
★★★
「皆様、行ってらっしゃいませ」
「みんな、気を付けて行ってくるのよ」
「ばあ」
「「「「行ってきます」」」」
上級学校へ向かう俺たちをみんなが見送ってくれる。
さすがにホルスターを学校へは連れていけないので、エリカの家でお留守番だ。
俺たちのいない間は、銀とエリカのお母さんの二人で面倒を見てくれるそうだ。
「さあ、出発です~」
ヴィクトリアの張り切った声とともに俺たちは出発する。
今回俺たちは馬車通学だ。
とはいっても馬車を引くのはパトリックではない。
パトリックはヒッグス家の牧場で今のところ静養中だ。
普段酷使しがちだし、今回の旅でも頑張ってくれたから、たまにはゆっくり休ませてやりたいなと思って、そうしたのだった。
ということで、エリカのお父さんが用意してくれた馬車で通学することになった。
しかし、馬車通学って快適で速いなと思う。
それにみんなと楽しく話しながら通学できるのもよい。
昔はボッチで重い荷物を担ぎながら通学していたからな。
それと比べると雲泥の差だ。
そうこうしているうちに学校に着いた。
★★★
「さて、それでは行きますか」
学校に着いた俺たちは教室へ向かった。
なお、俺たち4人は同じクラスで全員『魔法使いコース』に放り込まれる。
それを聞いて、俺はあれ?と思った。
元々このコースにいたエリカや魔法が使えるヴィクトリアはいいとして、俺がいたのは『防衛軍の幹部用瀬コース』だし、リネットは魔法が使えない。
なのに魔法使いって……。
そう思ってエリカのお父さんに聞いてみると。
「ホルスト君は魔法が使えるようになったんだから、魔法使いコースで問題ないし、リネットさんは一流の戦士だけど、魔法の知識に疎いところがある。だから、この際魔法使いコースで魔法を学んだ方が、魔法を使ってくる相手に対応できるようになると思うよ」
そういう話だったので、全員魔法使いコースと相成ったわけである。
「それでは、みなさん。それぞれ自己紹介してくださいね」
授業は恒例の自己紹介から始まった。
「私は……」
クラスの前の席から順番に自己紹介していく。
次々に皆が自己紹介していき、俺たちの番になる。
「俺はホルスト・エレクトロン、短い間だがよろしく頼む」
「私はエリカ・エレクトロンです。しばらくの間、よろしくお願いします」
「ワタクシはヴィクトリアです。短期留学生です。よろしくお願いします」
「アタシはリネット・クラフトマンです。ふつつかものですが、よろしく」
それぞれ簡単に挨拶する。
その後も挨拶は続き、こんな奴の番になった。
「レイラ・エレクトロンです。1年間よろしくお願いします」
俺の妹だ。
教室に入ったときは全然気が付かなかったが、こいつもいたのかと思った。
自己紹介する時に妹のことをちらっと見たが、妹の髪形は顎くらいのショートボブになっていた。
多分、かつらだと思う。
髪質がバサバサした感じで自然な感じには見えなかったし、第一数日前ベリーショートだった髪が、そんな急に伸びるわけがないからだ。
「う」
俺の視線に気が付いたのか、妹が恥ずかしそうに顔を赤らめ、手で頭を押さえながら着席する。
それを見て、俺は自分の予想が当たっていることを確信した。
あのかつらをみんなの前ではぎ取ってやったら、あいつはどう反応するか。見ものだな。
そんなことを考えたりもしたが、いくら憎いとはいえそこまでするのはかわいそうに思え、実行はしなかった。
そうこうしているうちに、自己紹介も終わり、授業も終わり、休み時間になった。
★★★
「ホルスト様。あの魔物の軍団を滅ぼした光の魔法。ホルスト様が使ったって本当ですか?」
「そうだよ」
「うわー、すごいです。今度私にも教えてください」
「ホルスト様、王国武術大会で優勝したって本当ですか」
「本当だよ」
「ホルスト様って、あれだけの魔法が使えるのに、剣技もすごいんですね。ステキです」
休み時間になると、クラスメイトの、それも女の子たちがこぞって俺の側に寄ってきた。
そして、次々に俺に質問してくる。
こんなのは人生初めての経験だ。
大体、今までならクラスメイトの女とか、俺を落ちこぼれの半端者と、蔑んだ目で見るようなやつばかりだったからな。
だからうれしくて、つい油断してまんざらでもなさそうな顔で笑ってしまったんだ。
すると。
「はい、はい。そこまでですよ」
エリカがヴィクトリアとリネットを引き連れてやってきたんだ。
3人とも顔こそ笑顔だが、目が座っている。
これはやばい。
俺はそう思ったね。
「あなたたち、奥さんの前で旦那様に堂々とそういうことをするのはどうかと思いますよ。出直してきなさい!」
「エリカ様、申し訳ありませんでした」
エリカに睨まれた女の子たちは、雲の子を散らすようにその場を離れて行った。
あー、もったいない。
それを見て俺はそんなことを思ったりもしたが、よく考えると俺もそれどころではない。
「旦那様」
「ホルストさん」
「ホルスト君」
3人の矛先が今度はこちらに向いた。
まずい。これは本当にまずい。
俺は何とか逃げようとしたが、もちろんそんなことを3人が許すはずもなく。
「旦那様。私たちを差し置いて、他の女の子たちと楽しそうにお話しするとはどういうつもりですか」
「エリカさんの言う通りです。説明を求めます」
「できなければ、懲罰だな」
3人がぐいぐいと俺を責め立ててくる。
「それは……その」
「「「それは、何ですか?」」」
それに対して俺は碌に返事もできず、しどろもどろになるばかりで、結局、休み時間中、3人に責められることになったのであった。
★★★
くそ兄貴が!
私レイラ・エレクトロンは休み時間にみんなからちやほやされる兄貴の姿を見てそう思った。
ちょっと前まではみんな「レイラ様」と呼んでくれていたのに、今では「レイラさん」としか呼んでくれなくなった。
みんなの私を見る目も冷たくなった。
私が過去にくそ兄貴に酷いことをして仲が悪いと知られてしまったからだ。
悔しい!本当に悔しい!
今の兄貴の立場がちょっと前まで自分のものだったと思うと、本当に腹が立つ。
絶対に復讐してやる!
とはいっても、兄貴はもちろんほかの連中も強い。下手に手を出せば返り討ちにされてしまう。
さてどうしようか。
そう思いながら見ていると、一人格好の獲物を見つけた。
茶色の髪のアホそうな顔をしたやつだ。
こいつならいけるかも!
そう思った私は、こいつをターゲットにして兄に復讐することにしたのだった。
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