閑話休題16~ヒッグス家での日々~
「銀ちゃん、ここは天国ですね」
「はい、ヴィクトリア様」
日課の基礎体力作りと魔法の訓練を終えたワタクシたちは、エリカさんの実家のリビングでお菓子を食べています。
「好きなだけ食べなさい」
そうエリカさんのお母さんが言ってくれるので、いつも屋敷のメイドさんたちがお菓子をたくさん作って持ってきてくれます。
だから、目の前のテーブルの上は、お菓子の山、山、山です。
「ああ、幸せですう」
「銀もですう」
銀ちゃんと二人で、目の前のお菓子にかぶりつきます。
「おいしいですう」
メイドさんの作ってくれたお菓子はケーキもクッキーも何もかもおいしいです。
ワタクシたちがそうやって楽しくお菓子を食べていると。
「おい、あんまり食べ過ぎるなよ。体に悪いぞ」
ホルストさんが注意してきました。
「大丈夫です。ワタクシも銀ちゃんもちゃんと運動していますから」
ワタクシがそう反論すると。
「別にそういう意味じゃないんだがな」
そう言いながら、呆れた顔でホルストさんは去っていきました。
やった、言い負かせた。
その時のワタクシはそう喜びましたが、数日後。
「ヴィクトリア様、銀は歯が痛いです」
「ワタクシもです」
二人仲良く虫歯になってしまいました。
どうやら、甘いもののを食べ過ぎたようです。
「二人とも、歯が治るまでお菓子禁止です!」
「「はい」」
ワタクシたちはエリカさんに怒られて、しばらくの間お菓子禁止にされてしまいました。
お菓子禁止は辛いですが仕方ないです。
以来、ワタクシたちはお菓子を食べてません。
本当辛いです。
ああ、早く虫歯治らないかなあ。
★★★
「エリカちゃんの実家は大きいな。しかも何というか、格調高い家だし」
アタシ、リネット・クラフトマンは、エリカちゃんの家の広い廊下を歩きながらそんな感想を漏らす。
「アタシの家も大きさはそれなりだけど、ほとんどが仕事場や倉庫だからな」
アタシは自分の実家と比較して、違い過ぎることに驚く。
こんなすごい家に生まれたからエリカちゃんんはああいうステキな女の子になれたのではないか。
対して、ガサツな男くさい家で育ったアタシはどうだ。
最近はエリカちゃんに教えてもらったおかげで、できるようになったが、以前は料理も家事もまともにできなかった。
今、考えると本当に情けない状態だったわけだ。
「これで、ホルスト君の奥さんになりたいと思っていたのだから、自分でも呆れるしかないね」
本当に自分は身の程知らずだった。
しかし、それも今は昔。
「今はちゃんと料理も家事もできるようになってきたし、他にも女の子らしいこともできるようになった。これなら、ホルスト君の奥さんになっても大丈夫……かな?」
大丈夫だとは思うが、それは実際になって見ないとわからなかった。
「もっと、ホルスト君にふさわしい女の子になって、好かれるように努力しなければ」
アタシは広い廊下を歩きながら、そう誓うのだった。
★★★
「お母様、そろそろホルスターを放してくれませんか。ご飯の時間ですので」
私、エリカ・エレクトロンは、息子のホルスターのご飯の時間になったので、お母様にホルスターを放すように言った。
「あら、もうそんな時間?残念だわ。それじゃあ、ホルスター君。おばあちゃんたちとご飯を食べましょうか」
私の発言を受け、お母様は名残惜しそうにホルスターを放す。
最近、お母様はホルスターにべったりだ。
朝から晩までずっと一緒にいる。
時にはお父様も一緒になって相手したりもします。
「ほーら、ホルスター。おじいちゃんが抱っこしてやるぞ」
普段、特に部下の前などでは、まじめな顔を崩さないお父様が、ホルスターの前では笑顔を絶やさなかった。
私や兄の前でもずっと真面目な父親だったのに、孫の前だとこれだ。まあ、それだけかわいいと思ってくれているのだろうから、別に構わないのだが。
それはともかく、ホルスターにご飯をあげなければ。
「ホルスター、行きますよ」
私はホルスターを抱き上げようと手を伸ばした。すると。
「ばあ」
ひょこっと、何の前触れもなくホルスターが自分から立ち上がった。
「ホルスター?」
突然のことに私は驚いた。
立ち上がったホルスターは、たどたどしい足取りながらもよちよちと歩くと、私の足にしがみついてきた。
「まあ、ホルスターちゃん、歩けるようになったのね」
それを見てお母様が大喜びしている。
誕生から1年近くが経って、ホルスターも壁か何かにつかまれば立てるようになっていたのだが、自力で立ったのはこれが初めてだ。
こんな急に立てるようになるとは思っていなかったので、私は少し戸惑ったが、それでも床に座り込むとホルスターの頭を撫でてやった。
「ホルスター、すごい!」
ギュッと我が子を抱きしめてやる。
それからは大変だった。
「早く、トーマス様やホルストさんに知らせなくちゃ」
お母様が大はしゃぎでみんなに知らせに行き、大騒ぎになったからだ。
「ホルスター、とうとう立てたのか」
「ホルスター、やったな」
「「「ホルスターちゃん、すごい」」」
みんなそう言って、ホルスターが歩くのを褒めてくれた。
それを見て私は思う。
本当、幸せだな、と。
★★★
最近俺はエリカの実家の訓練場で、ヒッグス家の騎士団の連中に稽古をつけてやっている。
「ホルスト君。君、王国武術大会で優勝したんだろ?だったら、うちの騎士団の新人たちに稽古をつけてくれないか?」
エリカのお父さんにそう頼まれたからだ。
ということで、騎士団の新人たちに稽古をつけてやっている。
新人といっても俺と対して年は変わらない。
騎士団に入れるくらいだからそれなりの実力もある。だが。
「どうした?もう終わりか?」
数々の強敵を葬ってきた俺の敵ではない。
「ぐはあ」
「ぎゃ」
そうやって、毎日俺に叩きのめされて、鍛えられる日々が続いている。
そうやって、今日も稽古をつけてやっていると。
「ホルストさん。大変よ」
エリカのお母さんが駆け込んできた。
「どうかしましたか」
「それがね。ホルスターちゃんがね。さっき一人で立ったの」
「何!本当ですか?」
俺は急いでホルスターたちの所へ向かった。
「ホルスター!」
「旦那様!」
俺が部屋に入ると、すでにみんな集まっていて、口々にホルスターを褒めていた。
「ホルスター!」
もちろん、俺もその輪に加わり、ホルスターのことを褒める。
しばらくはそのまま褒め続けたが、やがて。
「それじゃあ、俺は訓練場へ戻ります」
「僕も仕事へ戻るよ」
俺とエリカのお父さんは仕事に戻ることになった。
俺とお父さんは二人で話しながら歩いた。
そして、玄関まで来た時、あるものが目に入る。
「お義父さん、あれって地竜の頭ですよね」
それは玄関に飾ってある地竜の頭のはく製だった。
よく領主や王族の家には権威を示すためそういう物が飾ってあることがあるのだ。
これを見て俺は、あの厄介な物を押し付けるいい好機だと思った。
「そうだけど。どうしたの?」
「実は俺、あの地竜よりももっとヒッグス家の屋敷に飾るにふさわしいものを持っているんですよ」
「ほほう。何だい?」
お父さんが、俄然興味を示してきた。
これはいける!俺はそう思った。
「実は、俺レジェンドドラゴンの頭のはく製を持っているんです。ホルスターも立てるようになったことだし、、その記念ということで、この際、あれをここに飾るようにしたらどうですか?」
「うん、いいね」
話は決まった。
こうして俺は不良債権だったレジェンドドラゴンの頭の処分に成功したのだった。
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