第116話~ヒッグスタウン包囲戦5、決戦VSジャイアント~

「敵と戦う前に、まず俺の仲間たちを呼びよせますね。とりあえず、城壁の内側のそこのスペース借りてもいいですか?」

「別にいいけど、どうするつもりだい?」

「まあ見ていてください」


 俺は胸のペンダントを手に取ると、ヴィクトリアたちに呼びかける。


「おい、ヴィクトリア、聞こえるか?」

「ホルストさんですか?聞こえてますよ」

「そっちはどうだ。無事か?」

「問題ないです。現在、指示通り待機中です。そちらこそ大丈夫ですか?」

「こっちも問題ない。それよりも、俺たちは今ヒッグスタウンの城壁の上にいる。すぐに転移門を開くから、こっちへ来い」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアとの交信が終わると、俺はすぐさま『空間操作』の魔法で転移門を作る。

 すると、城壁の内側の広場に転移門が出現し、ヴィクトリアやヴィクトリアたちの護衛を頼んでいた狐たちが、転移門から現れた。


「ちょっと、行ってきます」


 俺は城壁から離れ馬車へと向かう。


「ホルストさん」

「ホルスト君」


 するとヴィクトリアとリネットが出迎えてくれた。


「あれ?ホルスターと銀は?」

「銀ちゃんとホルスター君なら、馬車の中でお昼寝中だよ」


「そうですか。二人もエリカのお父さんたちに会わせたかったのに。まあ、仕方ない。とりあえず、お前たちを紹介するからな。いいな?」

「「はい」」


 早速二人を城壁の上に連れて行き挨拶させる。


「えーと、この人がエリカのお父さんのトーマスさん、お母さんのレベッカさん、お兄さんのユリウスさんだ。それで、こっちがヴィクトリアでこっちがリネットだ」

「「「よろしくおねがいします」」」

「「こ、ちらこそよろしくお願いします」」


 俺の紹介で5人が挨拶を交わす。挨拶が終わると、ユリウスが興味津々で俺に聞いてきた。


「それで、ホルスト。今君が使ったのって、もしかして、転移魔法?」

「そうですけど」

「ホルストはすごい魔法を使えるんだね。尊敬するよ」


 珍しい魔法が見られてうれしかったのだろう。ユリウスはニコニコしながらそう言った。

 それを見てユリウスらしいと思った。


 ユリウスは昔から魔法の研究に熱心だった。

 だから、こんなにも食いついてきたのだと思う。


 さて、それはともかく。


「さっさと敵を片付けるか」


 俺は愛剣クリーガを抜き、戦闘準備する。


★★★


「『精霊召喚 土の精霊 水の精霊』」


 まず、ヴィクトリアが土と水の精霊を呼び出し命令する。


「土の精霊は城壁の前で敵の足止めを。水の精霊は城壁の上を回って味方の回復を。それぞれ行ってください」

「「……」」


 ヴィクトリアの命令を受けた精霊たちは無言でそれぞれの持ち場へ向かう。


「それじゃあ、お義父さん。俺とエリカとリネットの3人で敵のボスは始末しますので、雑魚の方はお願いします」

「うむ。任せなさい。オットー」

「はっ」

「そういうことで、総攻撃の準備だ。最低限の守備部隊以外の全部隊で攻撃だ。10分で準備させろ」

「は、畏まりました」


 エリカのお父さんの命令を受けた親父は飛ぶようにその場を離れると、部隊の編成のため司令部へと走って行った。


「それと、お義父さん。俺の馬車の所にいる狐なんですが、200匹くらいいると思いますが、あれは味方です。うちの馬車の護衛をしてくれています。ご飯でもあげて歓待してくれませんか?肉料理とか喜ぶと思うんですが」


 本当なら稲荷ずしを出したいが、俺たちには時間はないし、ここの部隊に稲荷ずしなんかないだろうから、肉料理を頼んでおいた。


「わかった。すぐに手配しよう」

「後、あの馬車にはホルスターとうちで預かった女の子が乗っています。今はお昼寝の最中ですが、俺としては誰も大人が側にいないのは心配なので、誰か護衛に付けてくれませんか?」

「なに!あの馬車にホルスターが……わかった。エンリケ!」

「は!」


 エリカのお父さんに呼ばれて、若い騎士が一歩前へ歩み出る。


「お前は一隊を引き連れて馬車の護衛をせよ。ついでに補給隊へ行って、狐たちへ歓待の料理を出すように伝えよ」

「は、畏まりました」


 エリカのお父さんの命令を受けた騎士も、俺の親父同様、脱兎のごとくその場を離れ、自分の持ち場へと向かっていった。


「それでは、後は軍の準備ができましたら攻撃を仕掛けます」

「うん、頼んだよ」


 とりあえずのところ、これで攻撃の打ち合わせは終了した。


★★★


 しばらくすると軍の準備が整った。


「よし、全軍突撃して敵を掃討せよ」


 エリカのお父さんの命令で城壁の城門が開かれ、部隊が次々に城門の外へ出撃していき、残った魔物の部隊へ攻撃を仕掛けていく。

 部隊の兵士の顔つきは心なしか余裕があるように見える。

 多分、勝利が目の前に見えているからだと思う。


「よし、エリカ、リネット。俺たちも行くぞ」

「はい、旦那様」

「心得た」

「後、ヴィクトリアは残ってちゃんとここを守護してくれよ」

「ラジャーです」


 3人に指示を出し終えた俺は、魔法でエリカとリネットを連れ、城壁から離れる。

 そして、敵のボスである巨人、ジャイアントの所へ向かう。


「お、やっているな」


 俺が近づくと、ジャイアントは生き残った部隊へ指示を出していた。

 多分、生き残った部隊から指揮官をかき集めてきたのだと思われる。


 とはいっても、いるのはゴブリンナイトとかゴブリンメイジとかオーガメイジとか、他よりは頭の出来がましと思われる雑魚ばかりだ。


「エリカ、やれ!」

「はい、『暴風』」


 エリカが大威力の魔法を放つと、大量の真空の刃と雷が発生し、ジャイアントたちに襲い掛かる。


「ぐぎゃあ」

「ぴぎー」


 エリカの魔法でジャイアントの幕僚団が一瞬で消滅する。

 まあ、雑魚ばかりだったからな。当然だ。


「ぐおおおお」


 俺たちに部下を始末されたジャイアントが怒っている。

 それで、巨大な斧を振り回しながらこちらへ向かってくる。

 兜のせいで表情は見えないが、きっと鬼のような形相であろうと思われる。


 まあ、奴がどう思おうと関係ない。

 敵対する以上は戦って倒すだけだ。


「『神強化』」


 強化魔法をかけ突撃する。


「うりゃりゃりゃりゃりゃあああ」


 まず俺が連続攻撃を仕掛ける。

 ジャイアントの奴はガタイに似合わず割と素早い動きの持ち主で、俺の攻撃の8割ほどを斧できように受けていく。

 それでも2割の攻撃はヒットしているわけだが、奴の堅い鎧、多分アダマンタイトだと思われる、に阻まれて思うようにダメージを出せないでいる。


 さらに。


 ブオオオオオ。

 奴は口から冷機ブレスを吐いて攻撃してきた。


「ジャイアントはジャイアントでもフロストジャイアントだったか」


 予想外の攻撃に俺は慌てたが、すぐに、


「『天火』」


魔法を使い相殺する。


 冷機ブレスと炎がぶつかり、ボワッと巨大な水蒸気が発生する。


「今だ!」


 その隙をついてリネットが攻撃を仕掛ける。

 『忍び足』を使い、気配を完全に消しフロストジャイアントに接近する。


 ドス。

 そして、隙だらけのフロストジャイアントのアキレス腱に一撃加えてやる。


「ぐおおお」


 急所をやられたフロストジャイアントが片膝を屈する。


「『金剛槍』」


 そこへエリカが魔法を叩き込む。

 片膝を地面についていたフロストジャイアントはその衝撃に耐えきれず、今度はあおむけに地面に倒れ込む。


「とどめだ」


 完全に無防備になったフロストジャイアントに俺はとどめを刺しに行く。

 鎧の隙間から、首めがけてクリーガを差し込んでやる。


 ピュー。

 たちまちフロストジャイアントの首から大量の鮮血が噴き出る。


 その後しばらくの間、フロストジャイアントは体をばたばたさせもがき苦しんでいたが。


「くたばったな」


 やがて、動かなくなったので近づいて確認すると息絶えていた。

 見ると、周囲の雑魚共もヒッグス軍の活躍によりせん滅されつつあった。


「ようやく終わりだな。それじゃあ、帰るか」

「「はい」」


 こうして魔物のボスを片付けた俺たちはヒッグスタウンへと帰還した。


★★★


「まさか、あの希望の光が無能兄貴の仕業だったなんて」


 魔物の掃討戦が終わった後でそのことを知った私は愕然とした。


 魔物の掃討戦自体は簡単だった。

 魔物たちに士気などほとんど残っていなかったので、こちらが押せば簡単に引いていったからだ。

 それはまるで草食獣を狩る肉食獣の狩りの様だった。


 そして、掃討戦から帰還した私は兄貴のことを知ったのだった。


 終わった。

 私は兄貴のことを聞いてそう思った。

 兄貴があれだけの活躍をみんなの前で見せた以上、完全に家督の話は兄貴へ行ってしまった。

 絶対に私には回ってこなくなった。


「あの希望の光をやったの、お兄様なんですか。ぜひ紹介してください」


 クラスメイトにそんなことを言われるのも歯がゆかった。

 一応、


「兄にはすでに奥さんがいますので」


と、言っておいたが、その程度であきらめる同級生たちではなかった。


「側室でも、何なら子種をもらうだけでも構いませんので、是非」


 とか、私が引くようなことを言うのもいた。


 そんなにあの兄貴の子が欲しいかと思った。

 まあ、多少気持ちはわからなくもない。

 あれだけの力を持った兄貴の子なら高確率で優秀な子供が生まれるはずだからだ。


 私たちヒッグス一族の者たちは小さい頃から優秀な子孫を残すよう言われ続けて育つ。

 彼女たちのような考えは決して異質ではないのだ。


 それにしても。

 私は思う。

 本当に私はこれからどうなるのだろう。


 悲観的な自分の未来しか想像できず、私はどうすべきか悩むのであった。

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