今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第115話~ヒッグスタウン包囲戦4、希望の光~
第115話~ヒッグスタウン包囲戦4、希望の光~
「『重力操作』」
エリカとともに空に浮かびながら、俺は魔法を唱える。
それと同時に空が真っ暗になる。
「お、うまくいきそうだな」
今俺が何をしているのかというと、要は空中の太陽の光を『重力操作』の重力レンズ効果を使って1点に集めようとしているのだ。
ほら、日差しの良い日にレンズで紙なんかに太陽の光を集中させると燃え出すだろう?
あれを今大規模にやろうとしているのだ。
そのために日々、『重力操作』でカンテラに火をつけるなりして練習してきたわけだ。
その成果が今ようやく実を結ぶわけである。
なお、エリカを連れてきたのは、これだけの魔物を燃やし尽くせるほどの太陽の光を集めるのには、いくら俺でも魔力が心もとないからだ。だから。
「旦那様、魔力供給は順調ですか」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
エリカには横に付いて、聖石で魔力を補給してもらっている。
さて、そろそろ太陽の光も集まったようだし、頃合いかな?
「それでは。光よ。魔物どもを焼き尽くせ!」
俺は集めた光を一斉に解き放った。
★★★
「光が魔物たちを焼き尽くしていきますわ」
私、レイラ・エレクトロンは、突如空から降り注いだ光が魔物たちを焼き尽くしていく様を、恍惚とした表情で眺めていた。
それは、それは素晴らしい光景だった。
あれだけ敵意むき出しで私たちに襲い掛かってきていた魔物たちが、光に触れただけで燃え尽きていく。
この光景を素晴らしいと言わずして何を素晴らしいと言うべきだろうか。
「まるで、希望の光です」
同級生の誰かがそんなことを言うのが聞こえてくる。
それを皮切りに、周囲の人間が、
「希望の光、!希望の光!希望の光!」
と、一斉に唱和し始める。
やがて、それはワタシたちのような学徒動員兵のみならず全軍へと広がっていき、
「希望の光、!希望の光!希望の光!」
最後は、全軍が大合唱を始める。
「希望の光、!希望の光!希望の光!」
もちろん、私もその中の一人だ。
皆に合わせて一生懸命合唱している。
やがて。
光が降り注ぐのが止むと、元の青空に戻り、魔物の軍勢の9割以上が消滅していた。
★★★
「これは何ということだ」
トーマスは目の前で起こった信じられない光景に武者震いが止まらなかった。
何せ先ほどまで雲霞のごとく大量にうごめいていた魔物たちが、あっという間にその数を10分の1以下にまで減らしてしまったのだから。
とても信じられる話ではなかった。
トーマスは側にいるオットーとユリウスの方を向き聞いてみる。
「今のは何だったんだろうね」
それに対してオットーは首を横に振った。
「私にはさっぱり何が起こったのかわかりません」
対して、ユリウスはこんなことを述べた。
「僕にもはっきりとしたことはわかりませんが、あれが答えではないでしょうか」
そう言いながら、ユリウスが指さした先。
そこには一組の男女がこちらへと空を飛んで近づいてくるのが見えた。
★★★
「ふう、大体終わったかな」
『重力操作』の魔法で魔物の集団を焼き払った俺は、そんなセリフを吐きながら一息つく。
何せ、これだけ広範囲の敵を大量に始末した後だ。
さすがの俺も、聖石の補助があったとはいえ、かなりの魔力を消耗してしまっている。
結構疲れた。
それでもやることはまだ残っている。
「それじゃあ、エリカ、行くぞ」
「はい、旦那様」
事前の打ち合わせ通り、魔物の部隊を壊滅に追い込んだ俺たちはヒッグスタウンに向かっていく。
「ほう、まだ結構残っているな」
途中、まだ魔物の部隊が結構残っていることに気が付く。
今はばらばらの状態だが、再結集されてまた攻めてこられても面倒なので、今のうちに撃破しておくことにする。
「『魔法合成』。『天火』と『天爆』の合成魔法、『天壊』」
強力な合成魔法を連続で放ち、残った敵部隊、特に城壁から離れているところにいる連中を掃討していく。
ドカン、ドカン。
俺の魔法を受けて敵部隊が消し飛んでいくのが確認できる。
城壁近くの敵を狙わなかったのは、最初の『重力操作』の時もそうだが、味方の巻き添えを防ぐためだ。
俺の魔法の巻き添えで味方が死んだら悪いからな。
だから、城壁近くの部隊は攻撃対象から外した。
そうやって、残敵を掃討しながら進むうちにヒッグスタウンの城壁へたどり着いた。
★★★
「お父様、お兄様」
城壁に近づくと、エリカのお父さんとお兄さんがこっちへ向かって手を振っているのが確認できた。
俺がエリカと一緒にお父さんたちの前に着地すると、エリカは二人の所へ駆け寄って行った。
「お父様、お兄様、お久しぶりです」
「エリカ、よく帰ってきてくれたね」
「やあ、エリカ、久しぶりだね」
親子、兄妹が感動の再会を果たす。
お互いに涙を流しながら、抱き合って再会を喜び合う。
それを見て俺もほっこりした気持ちになり、胸にグッとくる。
なんか横では俺の親父がその光景を羨ましそうに見ながら、俺のことをチラ見してきているのが確認できるが、こっちは無視だ。
親父。俺は俺がされた仕打ちを忘れてないからな。
それよりも今の俺にはすることがある。
俺はエリカのお父さんの前に立つと、
「お義父(とう)さん、申し訳ありませんでした」
いきなりエリカのお父さんに土下座した。
「大事なお嬢さんを、お義父さんに何の断りもなく、人さらいのような真似をして連れて行ってしまい、お父さんはじめ家族の皆様にご心配させるようなことをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
俺は額を地面にこすりつけながら、ひたすら平身低頭に謝る。
当然だ。
事情はあったとはいえ、ご両親に黙ってエリカを連れ出してしまったのだから。
ここは謝罪の一手しかなかった。
「いいのですよ。ホルストさん」
俺がそうやってひたすら謝っていると、司令部のある建物からエリカのお母さんであるレベッカさんが出てきた。
「あなたは、ちゃんとエリカを連れて帰ってきてくれましたし、エリカのことをとても大事にしてくれているようだし、私たちにもこうやってちゃんと謝ってくれました。それでちゃんと私たちへ筋を通してくれたと私は考えております。それよりも」
レベッカさんはそこで俺の頭をやさしくなでながら、優しく言うのだった。
「うちの父がホルストさんに酷いことをしていたのに、止めてあげられなくて、ごめんなさいね」
「そんな。お義父さんやお義母かあさんに落ち度などありません。それよりも、俺のしたことを許していただけるのでしょうか」
「ええ、許しますよ。この話はこれでおしまいです。トーマス様もそれでよろしいですね?」
「ああ、僕も構わないよ。ホルスト君、エリカを勝手に連れ出したことをもう気にする必要はないよ」
「ご両親にそう言ってもらえると嬉しいです。これからもエリカのことは大事にしますので、何卒お願いします」
俺はもう一度深々と土下座した。
「それよりもだ」
突然、エリカのお父さんが話題を変える。
「魔物たちをこんな風に壊滅させたのは君かね?」
「ええ、そうですよ」
俺はこともなげに答える。
「太陽の光を集めて、相手を焼き尽くす魔法がありまして。それでやったんですよ。ちょっとやって見せましょうか?」
そう言うと、俺は『重力操作』の魔法を使い、城壁の上の地面をほんの少しだけ焦がしてみせた。
「ほう。これはすごいな」
突然真っ黒になった地面を見て、エリカのお父さんがそんな感想を漏らす。
「と、これを大規模にやって敵をせん滅したというわけです」
「うむ、素晴らしいね。さすがエリカの婿だけなことはある」
エリカの婿。
エリカのお父さんにそう言ってもらえたことで、本当に俺はご両親に許してもらえたと実感した。
「褒めていただきありがとうございます。それよりも、お義父さん」
「何だい?」
「まだ、敵が残っています。先にそっちを片付けてからゆっくり話しましょう」
そう言いながら戦場を見ると、まだ敵軍が大分残っているのが確認できた。
それに。
「あいつ、まだ生きていたのか」
この軍勢のボスであるジャイアントが生き残っていた。
自慢の黒い鎧をガチャガチャ揺らしながら、こちらに向かってくるのがよく見える。
真っ先に奴のいる本陣を焼き払ってやったはずなのに、しぶとい奴だ。
「よし、もうひと踏ん張りだ」
俺はパンパンと自分の顔をたたき、次の戦いに備えるため、気合を入れ直した。
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