第114話~ヒッグスタウン包囲戦3、救世主登場~

「第5、第13、第21中隊壊滅、至急増援を求めています」


「正門を突破しようとしてきた敵オーク部隊を撃破。逃げる敵部隊に対して黒虎魔法団の部隊が魔法攻撃を仕掛けています」

「東城壁の一部が崩壊。現在工兵隊が土魔法を使用して応急修理作業中」


 先ほどから、ここヒッグスタウン軍の司令部には次々と戦況報告が入ってきていた。

 戦況は今のところ五分五分といったところだが、だんだんとこちらの方が押されつつあるように見える。


 何せヒッグス軍の戦力は3万。強力な魔法を使う魔法使いも多く抱えていて、普通の人間の軍なら10万の軍に匹敵すると言われるが、相手の魔物は30万もいる。

 苦戦は免れなかった。


 それに、今日は朝からヒッグスタウンに対する魔物たちの攻撃がものすごかった。

 多分、昨日までの様子見が終わって、本気で攻めてきているのだと思われた。


「うむ」


 そんな芳しくない状況を見てトーマスは嘆息する。


「さて、これからどう動くべきかな」


 これから先の展開を考えて試行錯誤する。

 しかし、中々いい考えは浮かばない。

 当たり前だ。

 こちらの戦力は限られている。


 援軍が来るのにもしばらくかかる。

 取れる手段はあまり多くなかった。


「とりあえず、味方の援軍が来るまでは持たせないとな」


 幸い城内の生産職専門の魔法使いを総動員して、持久戦用に物資を全力で生産している。

 1か月や2か月は持ちそうなくらいの物資はすぐに調達できそうだった。


「後は完全に引いてしまって、積極的には打って出ず、攻撃を受けた時だけ防御と反撃を返していれば援軍が来るくらいまでは持つかな」

「当主代理様、一大事です」


 トーマスがそんな風に今後の算段を考えていると、部下の一人が大慌てで駆け込んできた。


「どうした。落ち着くのだ。何があったのだ」

「そ、それが。外をご覧ください」


 部下の言葉を受けトーマスは慌てて外へ飛び出した。

 そして、空を見上げて戦慄する。


「何だ、これは」


 なぜなら、先ほどまで雲一つないほどの快晴だった空が闇に包まれていたからである。


「一体、これから何が起こるというのだ」


 トーマスにはその闇夜を震えながら見ることしかできなかった。


★★★


「もう嫌だ」


 私、レイラ・エレクトロンはそう泣き言を吐いた。

 だって、もう本当に嫌なのだ。

 朝から魔物たちが次から次へと襲い掛かってくるのだ。

 倒しても倒しても次々に湧いて出てきて、まるで乾いた砂漠に水を注ぎこむように無駄なことしている気分になってしまうのだ。


「『火球』」

「ぐは」


 今も一匹オークを焼き殺した。


「ぐおおお」


 しかしにそれにめげることなく、すぐに戦意旺盛な次のオークが城壁を登ってくる。


「『火球』」


 そのオークに対しても私は魔法を放つ。


「ぐほ」


 そのオークも火だるまになり、城壁の下へ一直線に落下していく。


「ぐがあああ」


 だが、また次のオークが城壁を登ってこようとする。

 本当、きりがない。


「一番隊、下がって二番隊と交代せよ」


 私がそんな風にオークと死闘を繰り広げていると、ようやく交代の指示が出た。


「後は、お願いね」


 私は二番隊の子とハイタッチを交わしながらそう言うと、奥へ引っ込む。


「1番隊は至急食事をし、マジックポーションを飲んで次の戦いに備えること」


 奥へ引っ込むなり、そう指揮官から指示が飛んできたので私はすぐに食事をとる。

 今日の食事はパンと干し肉を炙ったのと、温かいスープだった。


「このスープ、おいしい」


 特に温かいスープは、寒い外での戦闘で冷え切った体と、果ての見えない激戦でうすら寒くなってしまった心に温もりを与えてくれて、とてもおいしかった。


「食事の終わった者はマジックポーションを飲んで、速やかに休みなさい」


 食事が終わると、マジックポーションを飲みすぐに横になって仮眠する。

 次の出番に備えて少しでも体力を回復しておくためだ。


 しかし、そう簡単に寝られるものではなかった。

 休憩が終わるとまた戦わなければならない。

 そう考えると、あの凄惨な戦いを思い出して気が重くなるからだ。


 昨日もクラスメイトの男の子が戦死した。

 矢で脳天を貫かれて即死だった。


 次の戦闘では自分もそうなるのではないか。

 そう考えると、やるせない気持ちになり、眠れなかった。


 私がそのように余計な妄想をしながら横になっていると。


「空が、空が」


 部屋の外から誰かがそう叫ぶのが聞こえてきた。


「なに?」


 寝ていた子たちが一斉に起き上がり、外に出て空を見上げる。

 もちろん、私も見る。


「空が真っ黒に?」


 見ると先ほどまで晴れ渡っていた空が闇に包まれていた。


「まさか、魔物が」


 そうも思ったが、戦場を見ると、その魔物たちもあんぐりと口をあけながら空を見上げるばかりで、突然の事態に驚いているようだった。


 魔物でないとするのならば、誰がこのような事態を引き起こしたのだろうか。

 もしかして、悪魔の仕業なのでは?

 そんなことを考えると私は震えが止まらなくなる。

 そして、こう願うのだ。


 ああ、神様、助けてください。


★★★


「よし、正午になったな」


 作戦開始の予定時刻が来た。

 なぜこの時間を作戦の開始時間に選んだのか。

 それはこの時刻こそが1日の中で太陽が一番光り輝く時間だからである。


「それじゃあ、ヴィクトリア。作戦通り俺に『神意召喚』を使ってくれ」

「ラジャーです」


 俺が頼むと、ヴィクトリアが俺に近づいてくる。

 前の時に「神意召喚には腕を組むといいです」とか言って腕を組んできたので、今回もそうするのかと思っていると。


 パッ。

 と腕を広げながら、ヴィクトリアは俺の前に立った。

 これって、もしかして。


「ヴィクトリア、それって……もしかして、抱きしめろってことか?」

「そうですけど。何か?」

「何かじゃないだろう。何で抱きしめる必要があるんだ。前は腕組んだだけじゃないか」

「それはこちらの方がうまく『神意召喚』が発動することが、最近判明したからです」


 最近て。お前、近頃神意召喚使ってないだろうが。

 というか、前も同じようなこと言ってなかったっけ。一体どうなってんだ。

 そうは思ったが、今回もヴィクトリアの主張に反論する根拠がないので、従うしかない。


 一応エリカがどう反応するかなと思って彼女を見たが、さっさとしろ、という顔をしていた。


 ええい、ままよ。

 俺は思い切ってヴィクトリアを抱きしめる。


 ヴィクトリアの体は、なんというか、すごく柔らかくて、そして抱いていて気持ちよかった。

 思わず、ずっとこのまま抱いていたいと思ったほどだ。

 そうやってヴィクトリアを抱きしめていると、やがて俺の体が光り出し、体内に力が湧いてくるのを感じる。


 そして、脳内にあの声が響き渡る。


 『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス」


 これで、俺の体に神意召喚の力が宿ったわけだ。


「ヴィクトリア。神意召喚が来たから抱き合うのは終わりだ」

「ええ、もう少しだけ」

「ダメだ。この間にも犠牲になっている人がいるんだ。代わりに後で頭を撫でてやるから」

「……仕方ないですね」


 俺の説得でようやくヴィクトリアが離れると、早速作戦開始だ。


「エリカ、行くぞ」

「はい、旦那様」


 俺はエリカを連れて上空に上がる。

 そして、戦場全体が見渡せる高さまで来ると、魔法を唱える。


「行くぞ!『重力操作』」


 俺が魔法を唱えると周囲が夜のように真っ暗になる。

 それを見て戦場中が大騒ぎになるのが見て取れる。

 その様子を見て、俺は内心ほくそ笑む。


 さて、諸君、お楽しみはこれからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る