第113話~ヒッグスタウン包囲戦2、作戦会議~

 ヒッグスタウンから少し離れたところにある丘。

 ここはヒッグスタウン周辺を観察するには最適の場所だった。


「お、たくさんいるな」


 ここからヒッグスタウンの方を観察すると、いるわ、いるわ、ヒッグスタウンの正面には魔物の大群が集結していて、いまにも総攻撃をかけそうな雰囲気だった。


「さて、これから俺たちはあいつらをせん滅するわけだが、何か問題はあるか」

「異議なしです」

「さっさと滅ぼして、お父様たちをお助けしましょう」

「人を襲う魔物を倒すことに躊躇はないな」

「銀もホルスターちゃんのおじい様たちを助けてあげたいです」


 どうやら全員俺の方針に賛成の様だった。


「ということで、俺たちは魔物の群れをせん滅する。まずはそのための作戦会議だな。だがその前に」


 作戦を考える前にまず情報を仕入れるべきだと思った。

 相手は雑魚といえ数だけは数十万いる。これを効率よくせん滅するためにはある程度の情報を集めておく必要があった。


「とりあえず情報収集からだな。例の方法でやってみようと思うが、今回は銀、頼めるかな?」

「はい、畏まりました。ホルスト様。銀にすべてお任せください」


 俺の頼みを銀は快く引き受けてくれた。

 俺の言う例の方法とは、白狐の眷属である狐に手伝ってもらうあれのことである。


 別に俺が狐たちを呼んで頼んでもいいのだが、銀に頼むのは、今回、偵察も危険な仕事になるので、白狐の娘である銀の口から頼んだ方がここの狐たちも快く引き受けてくれると考えたからだ。

 ちょっとズルいかなと思ったが、俺たちも必死だ。利用できるものは利用しようと思う。


「我が眷属たちよ。白狐の娘たる銀が命じます。すぐに我が前に集合しなさい」


 銀がそう命令すると、すぐにそこらかしこから狐たちが集まってきた。


★★★


 30分後。

 俺たちの前には総勢200匹ほどの狐たちが勢ぞろいしていた。


 その中から長らしい狐が1匹前へ進み出て挨拶をしてくる。


「白狐のお嬢様たる銀様におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます。手前はここの狐たちの長であるダイズでございます。以後、お見知りおきを」

「よく来てくれました。ダイズ殿。それであなたたちをここへ呼んだ目的なのですが、それはワタシがお仕えする女神ヴィクトリア様の旦那様であるホルスト様に説明していただきます。ホルスト様、お願いします」


 旦那様?俺が?ヴィクトリアの?

 銀の紹介の仕方に俺は一瞬絶句した。


 慌てて訂正しようかと思ったが、一応世間的には俺とヴィクトリアやリネットは男女の仲ということにしている。

 だからここで変に否定するのはまずいと思いやめた。


 銀にはそうではないと説明しているはずなのだが、世間的にはそうなっているので銀も面倒くさいのでそう説明したのかなと思う。

 第一、今は敵が大勢目の前にいる状況だ。

 そんなことを気にしている場合ではなかった。


 銀に紹介された俺は、狐たちの前にたち、話を始める。


「ダイズをはじめ、狐たちよ。よく集まってくれた。俺が紹介に預かったホルストだ。よろしく頼む」


 俺はここで一度頭を下げる。

 すると狐たちもそれに合わせて一斉に頭を下げてきた。

 本当に狐って礼儀正しいなと思う。


「それで、ダイズよ。お前たちに頼みたいことなんだが……危険な仕事だが、大丈夫かな?」

「は、何なりとご命令ください」

「そうか。じゃあ、言うぞ。お前たちも知っていると思うが、今このあたりに魔物の大群が集結している。俺たちはあいつらをせん滅するつもりだ。で、そのための情報が欲しい。手伝ってくれないか?」


 俺の問いかけに長はコクリと頷く。


「それはむしろわれらも望むことです。われらもあいつらのせいで多大な迷惑をこうむっています。餌場を荒らされたり、仲間が捕まって食べられたりもしております。是非、我々にも協力させてください」

「わかった。そういうことならお願いする。それでは……」


 こうして狐たちの協力を得た俺たちは、その後情報収集の打ち合わせをして、情報を集めることにする。


★★★


「うわー、すごい数の魔物ですね」


 魔物の軍勢を上空から一望したヴィクトリアがそんな感想を漏らす。

 俺とエリカ、ヴィクトリア、リネットは今高空からの偵察に来ている。

 眼下には魔物の大群がアリの群れのように群がっているのが見える。


 魔物の軍勢はヒッグスタウンの町の正門の前に布陣している。

 数の力で正門を突破して都市を攻略するつもりなのだろうと思われる。


「それじゃあ、とりあえず敵の数を数えるところからだな。右半分は俺が数えるので、左はリネットさんがお願いします。エリカは俺、ヴィクトリアはリネットを補佐してくれ」

「心得た」

「畏まりました」

「ラジャーです」


 俺たちはまず敵の数を把握することから始める。

 こういう軍勢と戦う場合の基本だからな。

 数が分からないとどうしてもおかしい対応をしてしまいがちになるからな。

 これは大事な作業だ。


「まず、こうやって……」


 数を数えるにあたって、まず俺は指で四角形を作る。

 そして、その四角形の中に何匹の魔物がいるかを数える。


「ざっと500くらいかな?」


 四角形の中にどのくらいの敵がいるかを数えると、次は索敵範囲にその四角形がどのくらい入るかを数える。


「300くらいか。ということは……」


 俺は頭の中で暗算する。

 大群の数を数える時はこのように範囲を区切って数を数え、その数に一定範囲の数をかけて全体を出すというのが、よく使われるやり方だ。

 ちなみに俺はこのやり方を上級学校で習っていたりする。


「500匹かける300でざっと15万か。リネット、そっちは?」

「こっちも15万くらいだ」

「ということは、合計で30万くらいか。意外に少ないな。てっきり50万くらいいるのかと思ったのに」


 30万を少ないと言ってしまえるなんて。

 自分でもちょっと慢心しているかなと思ったが、今更数が多いだけの魔物などそこまで怖いとも思えなかった。


「さて、数の把握が終わったら、次は部隊配置だな」


 敵の数の把握が終わったので、今度はエリカたちを連れて敵部隊の上空を周回して敵の部隊配置を確認する。


「割とオーソドックスな配置だね」


 上空を周回しながら作っているメモを見てリネットがそんなことを言う。

 確かに敵の配置はオーソドックスだった。

 前の方にゴブリンやらオークやらの前衛向きの魔物を置き、後方にゴブリンアーチャーやゴブリンメイジなどの後衛職の魔物を配置している。


「本当にオーソドックスですね」

「まあ『大軍に兵法なし』とかいう格言もあるしね。それに、ゴブリンとかオークとか頭のよくない魔物が多いから、そんなに複雑な作戦は無理じゃないかな」

「さすがですね、リネットさん。中々鋭い指摘だと思いますよ」

「本当です。ワタクシならそんなこと思いつきません」

「そ、そうかな」


 エリカとヴィクトリアに褒められたリネットは照れ臭そうに頭をかく。


「さて、航空偵察はこれくらいにして、一旦馬車へ帰るぞ」


 偵察を終えた俺たちは一旦馬車へ帰った。


★★★


 俺たちが馬車に帰ってしばらくすると、偵察に出ていた狐たちが帰ってきた。


「ご苦労さん、疲れただろう。まずは休んでくれ」


 俺たちはてんこ盛りの稲荷ずしやら、肉料理を狐たちの前に置き、まずは狐たちの労をねぎらった。


「これは、どうもありがとうございます」


 狐の長のダイズはそうお礼を言うと、一族総出で食い物をがっつくのであった。


「ごちそうさまでした」


 狐たちが食事を終える。食事はかなりの量用意していたのだが、食事が終わるとすっきりとなくなっていた。


 後で聞いた話によると、どうやら魔物たちのせいで狐たちは最近満足に食事ができていなかったらしく、お腹がペコペコだったらしい。

 それを聞いた俺は、後で追加の食い物を狐たちに提供することになったのであった。


 それはともかく。


「それで、敵の本体は見つかったか?」

「はい、もちろんでございます。軍勢の中心くらいに黒い立派な鎧を着た騎士風の魔物がいましたので、そいつがこの軍団のボスだと思われます」

「ほう、そんな奴がいたのか」

「はい。座っていたので正確な高さはわかりませんでしたが、優に10メートルを超えるくらい背は高かったです。多分、巨人族ではないかと」

「巨人族か」


 巨人族。

 いわゆるジャイアントと呼ばれる種族だ。

 外見は背の高い人間といった感じだが、死ぬほど人間を憎んでいて人間を見ると襲い掛かってくる連中だ。

 ちょっと頭は弱いが、力は強く武芸にも秀でていることで有名だ。

 こういう力押しで攻めてくる魔物の軍勢のボスにはふさわしい魔物だ。


「よし、そういうことなら、まずはそこから狙うか」


 敵本体の情報を得た俺たちはまずはそこから狙うことにする。

 そして、その後詳しい打ち合わせをし、明日の昼に作戦を決行することにする。


「よし、それまではじっくり休憩して、力を温存しておくこと」

「「「「はい」」」」


 作戦会議を終えた俺たちは、その日、早めに休憩を取るのだった。

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