今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第117話~ヒッグスタウン包囲戦6、故郷に錦を飾る~
第117話~ヒッグスタウン包囲戦6、故郷に錦を飾る~
「うわー、大きなお屋敷ですね」
エリカの実家を見て、ヴィクトリアがそんな感嘆の声をあげる。
戦いが終わった後、俺たちはエリカの実家に行くことになった。
「ホルスト君も、今更実家には帰りづらいだろうから、うちに来るといい」
エリカのお父さんがそう言ってくれたからだ。
俺の親父が何か言いたそうに俺のことを見ていたが、あっちは無視でいいと思う。
エリカのお父さんの言葉を受け、俺たちはパトリックを駆り、エリカの実家に向かう。
と、言い忘れていたが、エリカの実家に行く前に狐たちと別れの挨拶を済ませておいた。
「世話になったな」
「いえ、こちらこそ目障りな魔物たちを倒していただきありがとうございます」
「これ、少ないけどみんなで食べてくれ」
「ありがとうございます」
最後はそう言って、大量の稲荷ずしをお土産に渡しておいた。
なお、狐がヒッグスタウンを救うのに協力してくれた話が広がり、ヒッグスタウンの近くに白狐を祭る社が作られ、たくさんの人がお参りに訪れるようになり、ヒッグスタウン周辺で狐が禁漁になったのは、しばらく後の話である。
さて。
エリカの家に着いた俺たちは、パトリックを屋敷の前に停めると、荷物を持って下車した。
「後は頼みます」
「畏まりました」
エリカの実家の使用人にパトリックのことを頼むと、俺たちは屋敷の中へ入る。
「すごく華やかな玄関だね」
エリカの実家の玄関を見たリネットがそんな風に感想を漏らす。
まあ、エリカの実家はこの町のご領主様で、魔道具の生産とかでも大儲けしているからな。
玄関の造りは非常に凝っているし、天井にでかいシャンデリア置いていてめちゃくちゃ目立つし、床の絨毯だって最上級のだしと、金持ち感満載だからな。
「皆様、当主代理様のご命令で、湯あみのご用意をしておりますので、是非旅の垢をお落としください」
俺たちが玄関に入ると、屋敷の若いメイドさんがお風呂の案内をしてくれた。
どうやら、エリカのお父さんが屋敷に連絡して準備してくれていたようだ。
「さすが、お父様です。準備がいいですね」
「うわー、ありがとうございます」
「うん、今日は汗かいたから風呂はいいな」
「銀もお風呂入りたいです」
風呂に入れると聞いて女性陣は大喜びだ。
ちなみに、エリカの実家の風呂は広い。
エリカのじいちゃんの前の当主、つまりエリカのばあちゃんのお父さんが大の風呂好きだったので
屋敷の中にでかい浴場を造ったからだ。もちろん、男女別々に。
俺も小さい頃に入ったことがあるが、小さい俺が一人で入るのはもったいないと思えるくらいに広かったのを覚えている。
「「「「それでは、行ってきます」」」」
女性陣はみんな一緒に入るつもりのようで、ホルスターを連れて女風呂へ向かって行った。
「ホルスト様もどうぞ」
「ああ、ありがとうございます」
女性陣が風呂へ行った後、俺も男風呂に行く。
★★★
「ひゃっほい。久しぶりの風呂だぜ」
かけ湯をして体の埃を落とした俺は、喜び勇んで風呂へ入った。
「やっぱ、風呂に入ると生き返るなあ」
湯船につかった俺は背筋をうんと伸ばす。
背中の筋肉がほぐれて、疲れが抜けていく感じがする。
そうやって風呂を堪能していると、こんなことを思う。
どうせなら、エリカと入りたかったな。
最近あまりエリカと風呂に入れていない。エリカと風呂に入るのは楽しいのに。
まあ、旅に出ていたからしょうがないが。
ただ、こんなでかい風呂だから、男友達でもいいから誰かと一緒だったらよかったのに。と、思った。
すると。
「失礼いたします」
誰かが風呂に入ってきた。
誰かと思って顔を見ると、さっき俺を案内してくれたメイドさんだった。
ただ、さっきと違うのは、着ているのがメイド服でなく、半そでの薄いシャツと膝までの短パンだったことだ。
なんだろうと思って彼女に聞いてみた。
「何の用だい?」
「はい、当主代理様のご命令で、ホルスト様のお背中を流しににまいりました」
「えっ」
返ってきたのはとんでもない答えだった。
エリカの実家のメイドさんが、三助をするなんて聞いてないぞ。
あ、三助というのはお風呂屋でお客さんの背中を洗ってくれる従業員のことね。
当然、若い女の子にそんなことをされても困るので拒否する。
「いや、体くらい自分で洗えるから」
「そうは参りません。もし、ホルスト様の背中を洗えなかったら、私は仕事をやり損ねたメイドとして、ご主人様に顔向けできません。そうなると、もう自害するしか……」
「え、自害?」
俺の背中を洗えなかったくらいで大げさな。
俺はそう思ったが、俺の背中を洗えなかったせいで本当に犠牲者が出ても困るので受け入れることにした。
「どこか、かゆいところはございませんか」
「大丈夫です」
若い女の子に体を洗われるのはとても刺激的で、何度も暴走しそうになったが何とかこらえた。
「失礼します」
俺の背中を洗い終わり出ていく時のメイドさんの声に、どこか”残念”という感情がこもっていたのは、何だったのだろうか。
ちなみに、このことを後でエリカに話すと、「まあ、お父様ったら」とエリカは非常に怒っていた。
そして、次の日から風呂にメイドは来なくなった。
★★★
俺たちが風呂から出た後は、ホルスターとエリカの両親、お兄さん、ばあちゃんとの対面が行われた。
俺の両親やエリカのじいちゃんも会いたがったみたいだが、エリカのお母さんが、
「あなたたちは、禊みそぎが済まない限りは会わせませんよ」
と、言って排除した。
「「これが、孫!」」
エリカの両親がホルスターを抱けて滅茶苦茶喜んでいる。
「本当にかわいらしくて、頭のよさそうな顔立ちだこと」
「ふむ。エリカの言うように、この子からは赤子とは思えないくらいの素晴らしい魔力を感じるね。確かに、この子なら、将来ヒッグス一族を背負って立つくらいの立派な魔術師になれるだろう」
二人ともホルスターのことをべた褒めであった。
お兄さんも、
「この子はエリカに顔が似ているから、いい男になるだろうね」
そう褒めてくれるし、おばあさんも、
「本当に、良い子だこと」
と、非常に喜んでいた。
そんな家族を、エリカは、私の子をもっと褒めて、というような顔で、ふふんと見ていた。
エリカのその気持ちはよくわかる。
なぜなら、俺も息子のことをもっと褒めてほしいからだ。
もっとも、俺たちがそんなことを思うまでもなく、それからもエリカの家族はホルスターのことを褒めっぱなしで、しかも次の予定の時間が来るまで、決してホルスターのことを放そうとしなかった。
★★★
「当主代理様。そろそろお時間でございます」
「むっ、もうそんな時間か」
屋敷の執事さんが次の予定を知らせに来たら、エリカのお父さんは非常にがっかりした表情をした。
しかし、そこは有能領主。
すぐに仕事用の顔になると、
「すぐに出発するぞ」
と、命令を下す。
すぐにエリカの家族や俺たちはお父さんが用意した馬車に乗り、目的地に向かう。
「みなさん、頑張ってきてください」
なお、銀は屋敷に残ってホルスターの面倒を見ていてくれるそうだ。
銀はホルスターのオシメ替えもできるし、ホルスターをあやすのも得意だ。
ホルスターのご飯は銀が言うように作れと、お母さんが屋敷のメイドさんたちに言ってくれているので、銀にホルスターを任せておいて大丈夫だと思う。
そうやって、馬車に乗り込んだ俺たちが出向いたのは、ヒッグスタウンの町の闘技場だった。
ここで何が行われるかというと、戦勝祝賀会だ。
何せ30万もの魔物の大軍に町が襲われ、町がパニックになりかけたのだ。
だから、ここは為政者として早急に祝勝会を開催して、民心を掌握しておく必要があった。
しかし、戦いが終わってその日のうちに祝勝会をするとか。
エリカのお父さんは本当に仕事が早い。
「諸君、よくやってくれた」
祝勝会はお父さんの挨拶から始まる。
祝勝会が始まるころにはすっかり日も暮れていたが、それでも多くの騎士や兵士、魔法使い、市民が会場に集まっていた。
「この戦いでは尊い犠牲も出たが、彼らの活躍のおかげで何とか町を魔物の手から守り抜くことができた」
挨拶はまず戦死者の活躍を褒め、死者に対して哀悼の意を示すところから始まり、
「……の部隊は……」
と、戦功のあった部隊を次々と褒め、最後に、
「それから、こちらが今回魔物の軍勢の9割を滅ぼすという大戦果を挙げた、我が娘婿であるホルスト・エレクトロンとその仲間たちである」
そうやって、俺たちのことを紹介した。
紹介された俺は、お父さんの指示通り、一歩前へ歩み出て、大きく手を振る。
「ワー、ワー」
俺が手を振ったのを受け、場内が歓声に包まれる。
「英雄様~」
中には俺の活躍を知っているのか、俺のことをそう呼ぶ市民の人もいた。
「みんな、ありがとう」
俺がそう叫ぶと、場内は一層沸き立ち、それは祝勝会が終わるまで続くのだった。
★★★
祝勝会が終わった後は宴会だ。
エリカのお父さんが戦闘で使う予定だった分の食料や酒を、兵士たちのみならず一般市民にも大放出したので、町中至る所で宴会騒ぎが起きていた。
きっと皆ここの数日の戦闘で大分ストレスがたまっていたのだと思う。
それは大盛りあがりだったらしい。
「よし、飲むぞ」
俺も今日ばかりは心行くまで飲んだ。
祝勝会場でも料理や酒がふるまわれたのでそこで飲んだ。
「旦那様、勝利の美酒はおいしいですね」
「きゃははは、ホルストさん、かおがへんですう~」
「もう、飲めない」
エリカたちも楽しそうに飲んでいるようで何よりだ。
こうして魔物たちとの激戦は幕を閉じ、ヒッグスタウンに平和が訪れたのであった。
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